あらすじ
恋には不器用だが、オフロードバイクのライディングテクニックは一流。そんな男勝りな輪道成海が織りなす、バイクアクションストーリー。そして苦難を乗り越え、彼女の導き出した答えとは…。
Def bustaシリーズ第二弾。今後この物語を彩るキャラクター達の集いです。新たな登場人物や、輪道成海の活躍をお楽しみ下さい。
●輪道 成海
(りんどう なるみ)(19歳・女)
イメージキャラ ・ 武田 梨奈。
性格は負けん気が強く元気でじゃじゃ馬。
ライムグリーン3眼ライトのkawasaki KX500改(公道&Baja仕様)を駆る。
●下村 貴
(しもむら たかし)(24歳・男)
イメージキャラ ・ 坂口 憲二。
“TEAM SANTANA” のリーダー及び “Garage SANTANA” の代表。
フルカスタムでスカチューンが施されたKawasaki Z1000MkⅡ改を駆る。
●上場見 顎
(うわばみ がく)(25歳・男)
ヘビ顔の男。残忍な性格。麻薬ジャンキー。デリヘル店を経営者している。
KTM450EXC SUPER MOTO仕様を駆る。
●岩野 剛
(いわの つよし)(27歳・男)
イメージキャラ・クッキングパパ。 Garage SANTANA で働くスゴ腕メカニック。
黄色のDR-Z400改450SMヨシムラ仕様を駆る。
●輪道 源三
(りんどう げんぞう)(65歳・男)
イメージキャラ・アルプスの少女ハイジのアルムおんじ。
元は国際的な2輪ラリースト。10年前に事故死した息子夫婦の子供達である、
孫の成海と七菜香を引き取った。 「ペンション輪道」を経営。
●輪道 七菜香
(りんどう ななか)(17歳・女)
イメージキャラ・白石麻衣。 高校生、成海の妹。
性格はおっとりしていて料理が上手。ペンションではシェフを務めている。
1 プロローグ
曇天の空、今にも雨が降り出しそうな蒸し暑さのなか、輪道成海は旧道・白金峠の中腹に位置する、大きな白樺の木の前に佇んでいた。
成海はミドルヘアーのウルフカットで、美しい顔立ちだが風に揺れる髪の毛の下から、まだ新しい生傷と痣が見え隠れする。彼女の出で立ちはMXウェアーにオフブーツ、肩から背中にかけ、毛皮のついたM65フィールドジャケットに身を包んでいる。そしてその傍らには、愛車のKawasaki KX500改が佇み、彼女がバイク乗りであることを物語っている。
哀愁にみちた愁いの表情で、大きな白樺の木を見つめる成海。それは、愛する下村と初めて出会った思い出の場所だったのだ。成海はその彼を思い出していた。
色黒で顎髭を蓄え、野生に満ちた鋭い表情の下村だが、自分を見つめてくれるその瞳は、とても温かく穏やかだった。細く引き締まった筋肉質な身体は、しなやかでかつ力強く、男の色気を醸し出している。そんな彼に見つめられ、成海は身も心も蕩けてしまいそうな快感に疼いた。
優しく微笑む成海。しかし次の瞬間、その甘い思い出の映像に砂嵐のようなノイズが走り、凶悪な蛇顔の上場見が現われる。上場見は長い舌をベロリと垂らし、下卑た笑いで成海を見下す。
またその映像にノイズが走り、場面が変わった。今度は自分の腕の中で、血まみれの下村が震える左手を成海の頬に当て、そのまま力なく崩れてしまった。泣き叫ぶ成海。
大きな白樺の木を見つめる成海の頬に、大粒の涙が流れる。そして自分の肩を抱きしめるようにして膝から崩れた。
「下村さん…」
成海の口から小さく言葉が漏れた。
「絶対に仇を取るから…アイツだけは絶対に許さない !! 」
今度ははっきりと聞き取れる声を発し、成海の美しい表情が、鬼の形相へと変化していった。
その出逢いは1年前のことだった。
北海道十勝岳の西麓。町道・白金温泉15線。通称白金峠。その深緑の峠道には、整備されたターマック(舗装路)の新道と、地元の人間も滅多に通らない、グラベル(未舗装路)の旧道がある。
その旧道を豪快な2輪ドリフトで駆け抜ける2台のバイクがいた。
先頭は毛皮のついた革ジャンを着た男で、フルカスタムのKawasaki Z1000MkⅡ改を駆っている。左ヘアピンコーナーへ、左足を前に突き出しフルカウンターで飛び込む。後方は成海Kawasaki KX500改。同じく左足を前に突き出しドリフトしている。
前方の男を睨む成海。そのまま右ヘアピンコーナーへ飛び込む。男はコーナーリング中に2回アクセルを煽り、絶妙なトラクションコントロールで車体を安定させる。レスポンスよく歯切れのある乾いた排気音のMkⅡは、タイヤがダートを蹴飛ばす音と共に、スマートにコーナーを抜け、フロントを軽く持ち上げながら立ち上がってゆく。
更に男の後ろ姿を睨みつける成海。
「どうしてあんなバイクでダートを速く走れるワケ !? マジでカミ(神)っんだけど !! 」
全く不可解な現実に、成海は困惑していた。
次の左ヘアピンコーナー。2人とも同時に左足を前に突き出し、派手に車体を流しながらコーナーリングするが、成海のKX500が少し遅れだした。
Z1000MkⅡの4ストロークの排気音と、KX500の2ストロークの排気音とが、峠道に木霊する。
そして次の右ヘアピンコーナー。もはや旧車のオンロードバイクが、ダートで走れるようなスピードではない。成海にとって理解不能なスピードで、男がコーナーに飛び込んで行く。
男は、先程と同じようにアクセルを煽りシフトダウンし、リヤを滑らせながらスライドコントロールをする。そして若干フロントをアップさせて、コーナーを立ち上がる。
見事だった。それは溜息が漏れる程に。しかし感心している暇はない。成海も負けずに、オーバースピードでコーナーに突っ込む。しかし、もはや自分の許容スピードを超えている。心臓が口から飛び出て来そうな恐怖と緊張で、全身から汗が噴き出る。
「ひよる(日和)なアタシ !! 」
いまにも硬直しそうな身体。だがそれでも成海は、必死でKX500を操り、リヤを滑らせスライドコントロールし、アクセルを煽りながら車体を安定させようとした。が、立ち上がりでリヤタイヤが余計に滑ってしまい、アンダーステアを誘発させてしまう。
その時点で成海は、その男に引き離された。走り去ろうとする男の後ろ姿を見つめる成海。
「ダメ… リカバリーライン出来ない… 一体何者なのアイツ !? 」
ここで完全に気持ちが折れてしまった。自然に右手がアクセルを戻してしまう。KX500が軽い排気音を漏らしながらスローダウンした。
「ん ? なに !? 」
また不可解な事が起きた。成海のスローダウンと同時に、前方の男も速度を落とし、右手で 『スピードを落とせ』 というハンドサインを送ってくる。
「なに ? なんなの ? 」
頭を軽く傾げる成海。そして2台とも、大きな白樺の木の近くにバイクを停車させた。エンジンの熱が陽炎のように揺らめく。
その揺らめく熱気の中、男はヘルメットを脱ぎながら、成海より先に話しかけてきた。
「お前さん速ぇ~なぁ~」
低音でよく響く澄んだ男の声は、成海の身体に心地良く響いてきた。
「えっ? あの…」
成海には初めての感覚だった。力強くも優しい響き。
顎ひげを蓄え無骨な感じの男が、まるで子供のように無邪気な笑顔を見せる。
クセのあるミディアムヘア・ウルフカットの成海が顔を真っ赤に染め、胸をときめかせた瞬間だった。
『やだナニこの人 ♡ マジで渋系池様(渋めのイケメン)なんだけど♡ 』 心のなかで、何度も男の笑顔が反芻される。しかしそんな心とは裏腹に、このような経験は初めてである成海は、ついつれない態度をとってしまった。
「なんなの ? ナンパならお断りだけど ! 」
赤い顔のままでそっぽをむく成海。
『いや~~ん!そうじゃない!ちがうよぉ~~~!!』成海は思わず心の中で、力いっぱいに叫んだ。
「はは違う違う。ムキんなってお前さんから逃げてたらよぉ、リヤタイヤがイカレちまったんだ」
親指で後ろを指さす男。そこでふと後方に視線を移すと、確かに男のバイクはリヤタイヤがパンクしていた。
「ワリィんだけど、携帯貸してくんねえかな?仲間に連絡取りてぇんだよ」
少し困った表情の男は、やはり子供のように無邪気に見える。
そして成海は、顔を赤く染めたままの状態で冷静を装い、ヒップバックを探った。
「ケータイも持ってないの?もう~しょうがないなあ」
その様に言いつつ、心の中では 『 いや~~ん、だから違うんだってぇ~(泣) なんでこんな態度取っちゃうのぉ~~~ 』 繰り返し叫んでいた。
成海は、細かく震える指先で携帯電話を手渡す。そこで男と手が触れ合い “ピクッ” と反応してしまう。
完全にノックアウトされてしまった。 その優しい眼差しに身悶えしそうになる。
「ありがとう。俺、下村ってんだ。よろしくな」
あまりにもその笑顔が眩しかった。
成海M 『 キュン死。それはアタシの遅咲きの初恋だった… 』
そして現在の成海。
過去とはうって変わり、笑顔が消えた寂しい表情となり、過去の回想から戻って来た。
N 『少年のように屈託のない笑顔の彼。これが、道内のモータースポーツに関わる全てのバイク乗り達の頂点に立つ、TEAM SANTANAのリーダーDef busta(デフバスタ)下村との出逢い…。 そうこれが全ての始まり。これから訪れる悲劇。アタシの孤独な闘いの始まりだった』