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118. 欲望の資本主義 ルールが変わる時 2点
毎週のように通っていた書店がコロナで閉まっていたが、昨日久々に再開していたのでぶらついて目に止まった。「資本主義や市場経済という経済の大きな仕組みに対して批判や懐疑の厳しい目が注がれている」から、その不安や疑問に対するヒントを提供するための企画であるという。
1. 問題意識
確かに、下記のような状況を考えると「新しい枠組み」に思いを馳せることは自然なことだろう。
・アメリカのように格差が極大化してしまう問題
・データ収集のように1私企業が主権国家をも超える力を持ち始める問題
・マイナス金利のように資金需要が減退し長期停滞に陥る問題
2. よくあるご意見
しかし、この本が意図した、そのような新しい枠組みへの「ヒント」を提供できているかは怪しい。
ジョセフ・スティグリッツは企業ではなく政府が適切な財政出動で総需要を拡大せよというが、マーケットの叡智を上回るような聡明で徳の高い政治家はいない。そもそも需要はなくなったのではない、変化したのだ※1。トーマス・セドラチェクは、先進国は十分に豊かでありもう成長は(不要とは言わないが)重要ではないというが、ほっといたって日本は低成長だ。
3. 資本主義の権化が提示するプランCの必要性
唯一そのヒントらしきものを与えているのはスコット・スタンフォードのインタビューだ。ゴールドマンサックスを退社しベンチャーキャピタルのCEOを務めるこの人物は、現在の資本主義の価値観を体現したような存在だが、彼も資本主義や社会主義に代わるプランCが必要だという。
それはテクノロジーの進歩が人類という種に与える影響だ。「ポイントはAIです。次の"種"です。AIが目覚めたらどうなるのでしょう?人類の祖先が誕生した時、他の生物は、ことの重大性に気づいていなかったはずです。」。労働力の大体で失業率が30%や40%になってしまう社会がくるかも知れない。だから、プランCが必要なのだ。
前者2人の、大衆にとって耳障りのいい、ポピュリズムの匂いがする意見に対して、スタンフォードの問いかけの方がよほど確信を付いていて、自らは全く責任を負う必要のない大衆に対しても真摯だと思う。
4. メモ
※1 総需要が足りない、という割りに、際限なく増殖する欲望(特に承認欲求)は問題視している。つまり欲望がなくなったのではなく、その対象が物質的なものから、体験やサービスといったところ移っているだけだろう。
・絶対的な豊かさは問題ではない。村上龍は「この国には何でもあります、しかし希望だけがない」と言ったが、重要なのは「明日は今日よりもいい日」という希望だ。変化の量であるデルタが重要だ。
・「欲望の資本主義」というタイトルだが、著者にも迷いがある。ディレクターはスティグリッツのインタビューで「desire or greed is one of the driving force of capitalism.」と問い、はぐらかされている。Greed is goodという、ゴードンゲッコーの演説を思い出す。
・「欲しいものが、欲しいわ」。バブル絶頂の日本で糸井重里が産んだこのキャッチコピーは、際限のない欲望か、足るを知る賢者の言葉か。
・たびたび資本主義の暴走のようなことに言及されるが、市場は自らの間違いを「バブルの崩壊」という形で是正することができる。そのことが重要だ。人間はできない。
Posted at 2020/05/24 15:57:15 | |
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