傷ついた“最強王者”ＧＳＰ、苦境で見せた勝負強さ＝ＵＦＣ１２９ 
左目負傷も巧みな試合運びで圧巻の完封劇

　自らが保持するＵＦＣ世界ウェルター級王座６度目の防衛戦、４Ｒと５Ｒのインターバル中に、王者ジョルジュ・サンピエール（通称ＧＳＰ）はトレーナーであるグレッグ・ジャクソンにこう訴えた。

■きん差の判定勝ちも磐石の試合運び

　結論からいえば、彼は“最強の挑戦者”を相手に３－０の判定勝ちを収めた。

　ただし、ＧＳＰの判定勝ちといえば、常にフルマーク、自らは１Ｒもポイントを落とすことはなかった。しかし、この日はジャッジ２名が４８－４７をつけるというきん差の裁定結果に終わった。

　確かに２Ｒに受けた右ストレートが原因で、ＧＳＰは左目を腫らし、鼻もカット。ほとんど傷がなかった挑戦者とは対照的に、痛々しい表情で勝利者インタビューを受けている。
　とはいえ、ジャッジ２名の判断に加えて左目の負傷もあって、彼が相当追い込まれたように感じられるかもしれないが、実際のところ一度として挑戦者がペースを握ることのない、完封劇であった。何よりもシールズは、得意のテークダウンを一度として成功できず、勝利への絶対条件とされた寝技に持ち込むことができなかった。

　オクタゴン・ジェネラルシップでいえば、目の負傷をおして、常にＧＳＰが試合を支配していたのだ。世界王者が持つ勝利の方程式、その第一段階といえるスピードに乗った左ジャブが、何度もシールズの顔面を捉える。
　返す刀で左インローを蹴り込み、挑戦者の前足を殺し、テークダウンが可能となる距離に近づかせなかった。加えて、最近ではあまり見せないミドルを多用したことで、シールズは体が起き、テークダウンに入る前傾姿勢にすら入ることはできないまま戦うことを強いられていた。

■アクシデントにも屈しなかったＧＳＰ

　以上のように、ＧＳＰは万全の組み立てを見せていたにも関わらず、２Ｒに思いもしない右ストレートを顔面に受け、ラウンドを落す要因を作った。彼が毎度見せる、パーフェクトウィンの裏には、オーソドックスな相手と戦った際に、右へ回りながら、左ジャブを当て、相手が前に出てきた時に右ストレートを合わせるというスタイルが存在する。

　ところが、シールズ戦でのＧＳＰは右のオーバーフックを多用。そのため、ＧＳＰは左へ動き、挑戦者のインサイドに移動していた。
　結果、シールズは左を打ち返すのでなく、右ストレートを放ち、幾度となく王者の顔面を捉えることに成功した。反面、遠い距離からの左足を前にして右ストレートを放つことで、ダブルレッグの距離を失っていた。

　目の傷はアクシデント。ＧＳＰは母国の５万５０００人のファンを前にして、勝負をはやったわけでもなんでもなく、シールズ版勝利の方程式、そのベクトルを解き、相手の動きを掌握して戦っていたことになる。