激しいパンチの交換の中、八重樫は確実にポイントを重ねていった。本来の、フットワークを使いながらカウンターを狙う戦い方に頼った試合ではない。歓喜のあまりリングに倒れ込んだ新王者は、「すごく苦しかったが、気持ちは切れなかった」。打ち合いを制した喜びは格別だった。
　足を使えたのは4回まで。荒っぽいポンサワンのワンツーを浴び始め、5、6回には動きが止まる。ここで、7回からは接近戦に切り替えた。
　乱戦なら相手に一日の長があるはず。だが、切れのあるパンチを繰り出したのは八重樫の方だった。8回、カウンターを受けダウン寸前の危ない場面をしのぐと、あとは再三のラッシュで10回のTKOにつなげた。
　4年前、わずかデビュー7戦目でイーグル京和の世界王座に挑み、顎を骨折した末に惨敗。アマチュア仕込みの技術だけで世界は取れないことを思い知った。以来、屈辱を忘れずパンチ力を磨き、「あの時の経験は、無駄でなかった」とやっと言える。ボクシングは、負けて知ることがいかに多いか。
　「きょうは勝っただけでよかったけど、もっと危ないシーンをなくさなければ」と反省も忘れない。王者にふさわしいボクシングを完成させるのは、これからだと思っている。