昨年度で入社30周年となったので、会社から旅行で使えるポイントがもらえました。せっかくなので行きたいと思っていた場所を、9月の三連休1つ目にいくつか巡ってみようと考えました。
テーマは4つ。ダークツーリズム、宇宙、城跡、そしてキャンプです。
本ブログはダークツーリズムに触れます。
ダークツーリズムとは、被災地や戦跡など、人の死や暴力などのあった現場を訪問するものです。最初に訪れたのは茨城県の霞ヶ浦近くに建つ「
予科練平和記念館」。

予科練とは海軍の飛行機乗りになるための学校です。ここは昭和の初め頃に建設され、多くの若者が入隊しました。入試倍率は驚きの70倍以上!
志望理由は、当初は「安定した生活のため」でしたが、次第に「お国のため」になったのだそうです。
入隊時はご近所総出で盛大な壮行会が開かれました。桜に錨の金の7つボタンは皆の憧れで、後の大量採用に繋がっていきます。
勉強は英語理科漢文などに加え陸戦、砲術、短艇、銃剣術も。月曜日の1時間目の精神講話から始まり、数学理科は今の大学並みの内容だったそうです。
飛行適性判断は人相手相でも行われていたというのは驚きでした。なんでも山本五十六の方針だとか。いかにも非科学的な日本らしいですね(苦笑)
勉学が終わった後の就寝はハンモック。実物が展示されていたので触ってみましたが、かなりゴワゴワ。決して寝心地は良くなかったでしょう。
昭和18年後半から入隊が飛躍的に増えましたが、物資不足で訓練もできず飛行機もないため、多くの人は訓練中に終戦を迎えました。
展示室はいくつもの部屋に別れており、最初の方は予科練と戦争の歴史的経過を示しています。
小さな部屋でのビデオ上映では、正面の壁だけでなく天井にもモニターがあり、空襲の様を映し出す際は天井モニターに米軍機が映り、それらから爆弾が落とされ正面のモニターで次々と爆発する様子が映されます。立体的なディスプレイは本当に空襲の現場に居るような印象を受けました。
後半は特攻中心に切り替わり、訓練生の悲壮な決意や家族の思いが綴られた手紙などが展示されます。その中の1つ。
「十二郎は子として親を思う点で人に負けぬと考えるが、しかしそれ以上に国を思っている」
親の思い、子の思いを考えると胸が張り裂けそうです。
予科練卒業生には最初の特攻隊編成者・大西瀧治郎も含まれます。先輩が後輩に死ねと命じる。まさに狂気の沙汰…。
展示を見終わったロビーの片隅に戦艦大和の模型が展示されていましたが、特攻の悲惨さの後では巨大な主砲を持つ戦艦は「勇ましい」「かっこいい」などのイメージを持つので、あまり適切では無い気がします。
建物の外には人間魚雷回天も展示されています。

予科練は飛行機乗りでは?と思いましたが、戦争後半の飛行機不足の頃は飛行機以外の特攻兵器の訓練も行ったのだそうです。
予科練は全国各地に作られました。
三沢、土浦、霞ヶ浦、横須賀、小松、清水、三重、奈良、高野山、滋賀、宝塚、西宮、倉敷、美保、浦戸、松山、宇和島、岩国、福岡、小富士、鹿児島
(整備予科練・洲崎、藤沢、岡崎、人吉、串良、垂水、鹿屋)
皆さんのお住まいの近くにもあったでしょうか。そこには悲惨な歴史が残されているでしょうね。
館内の展示は大変貴重なものばかりで、数も相当な規模でした。
説明も分かりやすく、展示方針も明確で、ディスプレイも工夫が凝らしてあり、学芸員の方々の努力が垣間見える気がしました。
ただ唯一残念だったのは、館内展示物の撮影が一切不可とされていたこと。
不可であるのは、個人情報の保護という観点と、フラッシュの光による展示物の劣化対策の二つではないかと思われます。
太平洋戦争や大東亜戦争と呼ばれるものが終わってから既に80年近くが経過し、当時を知る人々はどんどん少なくなって、いずれ居なくなってしまうでしょう。本来なら実際の現場を体験した人たちから話を聞く方が心への響き方が違いますが、それが出来ないならば、予科練平和記念館などのような施設を通して伝えていくしかありません。
ただ残念ながらここまで来られる人は限られています。
ならばSNSなどを通じての発信を行うことでボーダーレスに伝えていくことが出来るのではないかと。予科練生の遺品や手紙などの実物を見ることが出来なくても、その画像を見るだけでも伝わるものがあるはずです。
個人情報の漏洩や展示物の劣化は避けるべきなので、そうしたことへの配慮を行う前提で展示物の撮影及びSNSでの発信を認めてもらうことが出来れば、より多くの人たちに戦争の悲惨さや戦争指導者たちの愚かさなどが伝わり、より多くの人たちに同じ過ちを繰り返さないという意識を持ってもらえるのではないでしょうか。
むしろそうすることが亡くなっていった方々に私たちができることではないでしょうか。
ロシアのウクライナ侵攻を含め、世界では争いごとが絶えません。それらの現場では報道されない悲惨な事実が多く起こっていることでしょう。そういう今だからこそ、こうした施設はより重要になってきているのではないかと思います。
Posted at 2022/10/01 21:31:25 | |
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