都心を走っていると、2日に一回くらいはこのマイバッハを見かけます。

それもこの62と呼ばれるロングボディだけで、標準仕様の57に至ってはまず見掛ける事はありません。
そのマイバッハも新しいSクラスが登場するのとほぼ入れ替わりで生産が終了する事が決定したようです。そもそもメルセデスがロールスロイスやベントレーのカテゴリーに真っ向勝負を挑んだ感もありましたが、このマイバッハは過去に一度だけ乗る機会がありました。
今は閉鎖されてしまったようですが、六本木にマイバッハセンターと呼ばれるショールームがありました。そこではマイバッハとメルセデスSLRの顧客を対象に一日一組限定でオプションやボディーカラーをシュミレートするとても贅沢な空間でありました。当時こちらのパーソナルセールスリエゾンという肩書きをお持ちのO氏のご好意で何とマイバッハの試乗&本カタログを頂く機会に恵まれたのでした。
もちろん素晴しい車だった事は確かなのですが、私的には自分の人生の中では恐らく縁の無い車だろうなという感想を持ちました。それは最果ての地に旅に出た先で宿泊した旅館に「もうここに来る事はないんだろうな…」という感慨に近いものだったと思うのです。
実際にドライバーズシートに収まると、先代のS600をベースに作られた事が一目で分かるインパネが広がり、各部の材質には最高の材料が選ばれていました。走って見れば速いのは当然ですが、これだけ長いホイールベースを持ちながらも鬼のような剛性のボディでした。

後席に至っては、日本の障子を思わせるサンルーフと後席のパーテーションのセットで(このパーテーションがスイッチひとつでスモークになる)400万円を超える金額だったと思いますが、現代に蘇ったグローサーメルセデスそのものという印象を持ちました。
が、快適である事はこの上ないものの、この車の無表情ぶりはドライバーとしてこれだけの対価を支払って乗りたいという情熱が沸かない車でありました。ただ単に後席に乗って移動するアイテムとしては今でも地上最高のアイテムだと思いますが、やはりこの価格の車にとってはメカの優秀さ以上に必要な何かがあるように思いました。V12ツインターボの動力性能も、乗る者のドライビングプレジャーの為ではなく、有事に暴漢から逃げ切れる為の余力と考えると納得出来るほどに無表情に凄まじいスピードに達します。
対するファントムやミュルザンヌは、このマイバッハに比べればどこか抜けたユルい部分を持っています。しかしその抜けたファントムの牙城をマイバッハを持ってしても崩せなかったところを見る限り、4000万円を超える車に一番必要なものは機能としての優秀性ではない事が証明された結果が出たように思います。今後は次期Sクラスの最上級モデルの「プルマン」にバトンタッチされるそうですが、地上最高の移動空間となるのでしょう。
で、この一件以来、自分にとっての必要なセダン像はハードとしての性能以上に、もっと叙情的な部分である事に気付きました。ドイツサルーンが極めて優秀であるところは誰しも認めるものですが、幸い私は暴漢に追われるような日常を送っていない為に過度な動力性能も必要としておらず、今のX350ジャガーが最適な事を更に再認識する結果となったのでした。正直なところ、今現在適正価格でこれと同様なユルさを持ったサルーンが見当たらず、今後も登場する事は無いと思われる以上、ファーストサルーンはまだまだ当分、下手をすれば半永久的にこのXJに乗り続ける事になると思います。
最終的に日本に輸入されたマイバッハは140台弱だったと聞きます。後期にはこのランドレットモデルも相当なお値段でラインナップされていましたが、これは日本に居るのでしょうか…

Posted at 2012/10/17 18:18:41 | |
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