日産 フェアレディZ

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2025年式フェアレディZバージョンST感想文:日産の意地の結晶 - フェアレディZ

レンタカー

2025年式フェアレディZバージョンST感想文:日産の意地の結晶

おすすめ度: 4

満足している点
1.ファンを大切にした商品企画
2.ムード満点の計器板
3.500万円台スタートの価格設定
4.ピリッと辛口な3.0V6ターボ
5.舵が一発で決まる快感
6.暴力的なパワーを操る満足感
7.眺めるだけで幸せなカタログ
8.何故か生命の息吹を感じる

継続は力なり、ではないがフェアレディZの歴史が深みを増すことは日産全体にとっても重要。

元会長逮捕騒動や11年ぶりの最終赤字など、危機的な経営状況の中で生まれたフェアレディZは
必ずしも最新鋭の洗練されたスポーツカーではない。
ちょっとガサツだけど、力強くてよく曲がるという古典的なスポーティネスはフェアレディZらしい。
苦しさをもZらしさに昇華した意地らしさ。写真集のようなカタログはクルマ好きの心を打つ傑作。
不満な点
1.Tバールーフがあっても良い
2.2速に入る時のシフトショック(9AT)
3.フットレストとクラッチの前後位置の差異大(6MT)
4.変速する度に切れてしまうレーダークルコン(6MT)
5.高速道路での直進性
6.カーナビ操作のめんどくささ
7.A/Cの左右温度調整がない
8.アダプティブハイビームが未設定

ポジ意見に対してネガ意見の多く、比較的具体的な不満である。特にクラッチは自分の車にするならもう少し奥に行くように調整したい。また、特に直進性のレベルはもう一段引き上げたい。モデルライフを考えるとTバールーフのようなソフトなバリエーション展開があっても良い。
総評
RZ34は決して最新鋭のスポーツカーではない。 旧いP/Fゆえ、どこか時代を感じさせる装備や走り。一方で、歴代Zへのオマージュと豪快なFRスポーツという本質が見事に噛み合っている。予算不足の産物だったとしても、それをヘリテージという価値に昇華し、れっきとしたフェアレディZとして成立させてしまった。その姿はまるで、逆風の中でもZを絶やさなかった日産の意地そのものだった。

●プアマンズポルシェという歴史



北米日産社長だったミスターKこと片山豊氏はポルシェ911の性能を半額で提供できれば売れる、と考えた。1970年当時のポルシェ911は空冷水平対向6気筒2.2Lで125ps~180psを発揮、対して対米仕様のダットサン240Zは直列6気筒2.4Lで150psを発揮し、3速AT(ニッサンマチック)や扱いやすい実用型のE/G、豊富なアクセサリーによってたちまち消費者のハートを掴んだ。高性能で洗練されていても、どこか繊細で扱いが難しい欧州産本格スポーツカーの世界を安価かつイージーな世界観で再現して見せたダットサン240Zの作戦勝ちだった。

以後、フェアレディZは北米市場における圧倒的な支持を背景に世代を重ねてきた。日本でも最高速度180km/h規制の判断にフェアレディZがあった(諸説あり)だとか、国内280ps規制に初めて達した乗用車になるなど日本を代表するスポーツカーとしての役割も果たしてきた。

ポルシェ911は世界を代表するスポーツカーの代名詞となり、RRを堅持しながら現代まで切れ目無く続いているなかで、2000年、排ガス規制強化によりフェアレディZは生産を中止した経験がある。
バブル崩壊後の業績不振で日産自体が傾く中で次世代モデルの開発が難しかったことは想像に難くない。しかし2002年には楽器ケースの中の清掃員・・・いや、カルロス・ゴーン社長がVQ35DEを積んだZカーを僅か3万ドル以下という価格で復活させた。

2008年にはキープコンセプトでZ34型にフルモデルチェンジを行う。ホイールベースを縮めて運動性を改善した上でVQ37VHRを積み、世界初のシンクロレブコントロールが装備されたことも話題になった。しかし、世界同時不況というご時世だったのでマスコミによる「こんな不景気な時代にスポーツカー?」とお決まりのフレーズを目にしたことを今でも覚えている。当時の日産自動車はEVシフトを謳い、世界初の量産電気自動車リーフを発売するも、海外のBEVとの競争に敗れ、いつしか自動運転のリーディングカンパニーを目指す、としながらも圧倒的優位性も無い厳しい状況下にあった。

フェアレディZは社内の権力闘争などのゴタゴタの中で放置されたままだった。ところが2020年5月の日産自動車の2020-2023年度事業構造改革発表記者会見のエンディングに放映した動画の中に次期Zのシルエットが流され、次期の存在が明確に宣言された。同年9月にはプロトタイプが公開され、二度目の復活を遂げる新しいZに対してファン達の賛否両論が飛び交った。

●日産の意地が形になったRZ34型

若干の空白期間を経た2022年、ワールドプレミアになったのが現行型と言われるRZ34型である。Z35を名乗らないことでフルモデルチェンジではなく、マイナーチェンジであるとして認証にかかる経費の節約を行うという懐事情を多分に意識したモデルチェンジを行っている。

開発コンセプトは「Zファンのための歴代最高のZ 一目で心惹かれいつまでも愛し続けられる」という。日産が本当に守るべきファンの存在を大きく意識したコンセプトとなった。



先代までのモダンなデザインからヘリテージを意識したクラシカルなプロポーションに変革を遂げた。世界中の自動車メーカーで往年の名車を現代風にアレンジしたような「リクリエーションカー」が発売されてきた。フェアレディZがこの手の「リクリエーションカー」としてお色直しができるのは愛された歴史があるからこそである。経営状況が好ましくない中でもフェアレディZを新しくすることは対外的なアピールになる。内外装はZらしさを感じさせる要素が織り込まれフェアレディZを愛する人を喜ばせるアイテムばかりである。

P/FはZ33から変わっていないとは言えZ34でホイールベース短縮を行ったことでスポーティな諸元を得ている。RZ34ではオーバーハングを伸ばしてロングノーズでクラシカルなプロポーションとなった。オーナーハング縮小こそ運動性能を向上させるための正しい方向でありながら、リクリエーションカーとして求められるのはS30を感じられるような佇まいなのである。実際に並べてしまうとカウルが高いとか背が高いとか当時と全く同じではないが、「あのフェアレディZの現代版」という感じは実現出来たのではないか。

メカニズム的には先代のキャリーオーバーである事は事実だ。その中でも大きく変わったのはE/Gである。先代のV6 3.7L自然吸気から、V6 3Lターボに置き換わった。これは2016年に開発されたダウンサイジングE/Gであり、405psという高出力を誇る。



元ブランドアンバサダー田村氏は「GT-Rがモビルスーツなら、フェアレディZはダンスパートナー。操作を間違えるとそれを反応で返す。それこそが操る愉しさを残している。」と語っている。制御デバイスを切ってしまえば、簡単に後輪が滑ってスピンしてしまう。アクセル加減やステアリング操作も難しいが、それをダンスの難しさに例えている。

田村氏曰く、タイヤ一輪で受けられるトラクションは150ps相当だと表現している。GT-Rなら4WDなので600psまで受け止められるが、フェアレディZはFRなので本来は300psまでだ。そこに405psを与えることでドライバーに良い緊張感をもたらすという。本格スポーツカーが持つゾクゾクするような「ヤバさ」を大切にしている点がRZ34の特徴なのである。

フェアレディZは2022年1月、東京オートサロンに展示され、4月に価格公表され6月に発売予定だったのだが延期となる。8月1日に発売開始されるも、実は7月31日に受注停止となっており、発売した瞬間に発注できない車になった。これは予約が予想を超える5000~6000台分も受注した為とされる。それだけ日本国内でフェアレディZを心待ちにしていたファン層が居た証拠であり、BEVシフトが叫ばれる中で「最後の内燃機関スポーツカーになるかも」という危機感が購買行動に繋がった可能性もある。

この後、全グレードで受注が再開されて正常化したのは2025年6月。おかげで2026年の今、街でフェアレディZを見かけても4年前の車とは思えない新鮮さがある。(厭み)

それにしても日産という会社はヘリテージ商法をやらせたら日本国内指折りの上手さである。ブランド力をしっかりマネジメントする組織なり仕組みが備わっているのではないだろうか。今のところ、グローバルの販売も右肩上がりである。

フェアレディZは日産を取り巻く環境が厳しい中でよくぞ市販化できた!という意味では素晴らしい歴史に残る1台になった。しかし、出自からして北米を主眼に置いたクルマ作りであり、日本の道路では大きさと重さを感じる。本音ではGR86サイズのシルビア級のモデルが日本には必要だが今の日産にそれを望むのも酷な話だ。

蛇足だが、来年以降に発売されるスカイラインも、間違いなくヘリテージ商法で来るだろう。さらに北米でのJDMブームの波にうまく乗れば同クラスのレクサスISに対しても一矢報いるチャンスがあるかも知れない。フェアレディZに続いてファンを納得させる意志をスカイラインに繋げて欲しい。



一度ヘリテージデザインをやったRZ34の次はどういったフェアレディZを作るのか。恐らくRZ34も10年は売られる長寿モデルになるだろうから、そこはしっかり育てていただくとして、その次に私の世代が「これぞフェアレディZ」と受け入れられるようなスポーツカーを残してくれるのかということも興味深い。

総評は★4。ポルシェ911に劣る部分はあるが、911の1/3の価格で売られていることを考えればそれは許されて然るべきだろう。
デザイン
4
●エクステリアデザイン

フェアレディZはヘリテージを最大限活用したいわゆる「リクリエーションカー」である。北米市場のスポーティカーは往年の大ヒット作のエッセンスを引用したモデルが増えていた。例えばZ33は北米で年間約2.3万台を販売していたが、Z34では約8500台まで落ち込んだ。一方で北米ブランドのスポーツ/スペシャルティ系はリクリエーションカー的な売り方で支持を集め、販売台数を維持していた。

せっかく北米にファンが多いZカーなのだから往年のモデルを思わせるデザインを纏うことでZカーの事を思い出してもらうべきだ、という想いが日産にはあっただろう。北米(日本も)スポーツカーの購入年齢は50代~60代が多いと言われているが、この年代は自動車が憧れとして存在した最後の世代であり、可処分所得も子離れによって余裕がある世代でもある。ここを狙うのは当然としてしっかりフェアレディZらしい意匠を持たせることは、ブランドの永続性を示し日産の価値を向上させる効果も期待できる。

当時ブランドアンバサダーを務めていた田村氏が2025年のトークイベントでファンに語った内容に拠ればオーナーへのインタビューの結果、6割はS30を、2割がZ32のデザインが好きなので、この2台を大切にしたデザインを試みたという。



Frオーバーハングを伸ばしてプロポーションを整えてS30のイメージに近づけた。ロングノーズショートデッキに見せ、フードのバルジ形状やヘッドライトのイメージを再現した。ヘッドライトはオリジナルの丸ではないが、デイライトは240ZGのGノーズに設定のあったアクリルカバー付きヘッドライトの反射をモチーフにした点灯パターンを採用した。



サイドは、長いノーズとカーブを描くルーフラインがストンと切り落とされるフェアレディZらしいサイドシルエットを表現、ドアからRrフェンダーに向けてシルバーのモールが設定されている。これを刀と呼んでいるが、オリジナルのS30にはない表現であり、取って付けた感が無いわけでは無いが、メイン市場の海外ではサムライが持つ刀を連想させて楽しんでもらえればいいのでは無いか。見慣れれば特に許せないというレベルでもない。



リアはZ32をモチーフに点灯時に浮いたようなグラフィックのRrコンビランプが特徴的だ。またスポーツ系グレードにクラシカルな小型Rrスポイラーを設定しているが、標準系グレードではエンブレムを斜めに貼るというファンが大喜びしそうな処理をしている。ピアノブラックでバンパーが塗り分けてあるが、これはRrを分厚く見せないという意味でも巧みな処理だ。

ボディカラーは歴代に設定のあった黄色(イカズチイエロー)がイメージカラーだったが、他にもマルーンやセイランブルー、マイナーチェンジで432オレンジやスカイラインで採用のあったワンガンブルー、ミッドナイトパープルなど日産らしい色も選べる。(残念ながらイカズチイエローは生産性の問題なのかカタログ落ちしてしまった)

●インテリアデザイン



インテリアは最新技術とオーセンティックの融合がテーマだ。歴代Zが長年採用し続けた3連補助メーターは当然のように採用されている。まずスポーツカーとして気持ちよくドラポジが取れ、運転操作を邪魔しないことは当然求められるが、2022年にデビューする新型車としては全面液晶メーターが装備されるのは当然として、あとは巨大ディスプレイオーディオが張り出してくるような無粋な真似はしない。



補助メーターは左から電圧計、ターボ回転計、ブースト計である。この中でターボ回転計は珍しい計器である。これはVR30DDTT型のハイパワーとレスポンスの良さを両立するための日産の秘策が関係している。一般的にターボチャージャーは大径の方がハイパワーが得られるが、回転慣性ゆえターボラグが増えてしまい、レスポンスに劣る。
そこで小径タービンを最大限まで働かせるため、超高速で回るターボの回転数を、非接触・高精度で測れる渦電流式センサーを取り付けて高精度に回転数を把握しようと試みた。(日産技報No.78)測定精度向上によりターボのMAX回転数を8%増やすことができたという。動きとしてはブースト計に近い動きをする。少々遠くて見にくいが、強く加速させると21万rpm付近まで針が動いているのを確認した。ちなみに取扱説明書に拠れば24万rpm以上回ると制御異常が疑われる。

スポーツカーにとってメーター表示の豊富さは、実際にそれを見ながら運転するというよりも「車の状態を少しでも可視化して対話に役立てたい」というクルマ好きの心理を汲んだものである。(空冷時代のポルシェ911の油温計のようにオーバーヒート兆候を察知するために重要なものもあるが)

この3連メーターを一等地に置いたことで、ディスプレイは90年代的な位置に追いやられたが、少し上に傾けることで視線移動を減らすと共にミリ単位でグレアを防ぐように配置を調整した事もあり試乗中に視認性に不満は一度も出なかった。



新設計されたステアリングの奥にも液晶ディスプレイがある。新たに全面液晶メータが採用され、ナビ画面を映したり各種情報を映すことができるが、フェアレディZには専用のスポーツモード表示が与えられた。GT500レーシングドライバーの松田氏がメーターグラフィックデザイン開発に寄与した。



具体的にはタコメーターは中央一等地のアナログ表示、レッドゾーンを12時の位置に設定、その上にシフトアップインジケーターを配し、緑→黄→赤とタイミングを示すこと。回転計の右には速度、左にはギア段を表示することでメーターの上半分だけ見ていれば前方への視線をほとんど切らずに車両状態を把握できる。さらに横に水温油温を隣に配置して欲しい。ターボなのでブースト計も必要、というリクエストが反映された。この表示はフェアレディZ専用であり、コストはデザイン費用とプログラム費用だけで済むので賢く差別化が図れるやり方だ。



これら液晶ディスプレイはRZ34型が現代の車であることを示しているが、面白いのは手引きPKBや電球のマップランプなどちょっと古典的な、(業界的には)時代遅れのアイテムも当たり前のように採用されている。それどころかシートそのものやニーパッド、ドアトリム付けの空調吹出し口やインサイドハンドルは先代からのキャリーオーバーであることがわかる。加飾を変えて先代と同じに見えないように努力はしているが、正直辛いところだ。

RZ34のコストのかけどころはI/P下部の表皮とステッチであるが、いくつか選べる内装色に応じて加飾のカラーコーディネートも変えている。表皮は底付感も無く悪くない。質感という意味ではインサイドハンドルの流用は良いとしてメッキなど表面処理を変えるなどできればよかった。頑張っているけれど、質感の面でコストを無尽蔵にかけられる本格高級スポーツカーに劣るのは仕方ない。500万円台でスタートで売らねばならないフェアレディZが少々安っぽいのも当然と言えば当然なのである。限られた開発予算の中で、フェアレディZらしさを守るべき部分と現代性を与える部分を見極めたインテリアであり、個人的には同情的な意味も込めて許容レベルにあると評価した。

エクステリア★4、インテリア★3.5。平均3.75≒★4
走行性能
4
●スポーツカー指数の確認

試乗前に、スポーツカー指数の確認をした。スポーツカー指数は公的な呼称ではないが、カタログ諸元からスポーツカーらしさをある程度定量的に推定できるという値である。

パワーウェイトレシオの様に一般的なものもあるが、ここでは全長・ホイールベース、トレッドを使って比較する。

横軸は、機動性があるかどうかを見る「ホイールベーストレッド比」で1.65以下がスポーツカー領域。縦軸は旋回時の慣性が大きいか小さいかを見る「ホイールベース全長比」で56.5%以上がスポーツカー領域。

この指標は福野礼一郎氏が原作を務めた「クルマンガ」で当時流行したオープンスポーツカーの素性を暴くために用いた計算手法を引用した。



赤い●がフェアレディZである。オーバーハングが短くトレッドが広いのでスポーツカー領域に収まる素性の良さを見せる。

面白いのは911は意外とスポーツカー領域から外れているのである。911の場合RRのためRrオーバーハングが長いため、理想とされる範囲から逸脱した。

走りのパワフルさを見るパワーウェイトレシオは3.93kg/PSという小さい値を持つ。日本仕様は北米仕様より5ps高く、同じ3リッター6気筒ターボの911カレラTをわずかに凌ぐのは負けたくなかったのだろう。日産の隠された意地を垣間見た。



こうしてみると、私のRAV4が非力ながら操縦性に関して優れた素質を持っていることが明確になった。

RAV4はさておき、フェアレディZは先代から流用されたP/Fながら、素質に恵まれていることが分かった。そこに新しいターボE/Gが組み合わせられることで刺激的な速さを手に入れた。試乗ではこの素質の良さが感じられるかを確認したい。

●AT試乗編

♪ヨコハマ、たそがれ、売られた本社~

出張の前に少し時間ができたので日産本社にあるグローバル本社ギャラリーを訪れた。「いま、フェアレディZの試乗枠が空いてますが試乗なさいませんか」と社員の方が私に声をかけてくれた。

♪(QRコード)読み込み 免許証 誓いのサイン~



しばし待つとワンガンブルーのVersionSTが目の前に現われた。独特の縦フラップ式ドアハンドルを操作してドアを開けた。そして明るいブルーとブラックの2トーンに塗り分けられたコックピットに乗り込んだ。PKB配置はLHD優先に感じられ、日本人としてはそこが引っかかるが、北米で愛されたZゆえに目をつぶることにする。



シートポジションを決めていくが、パワーシートのスイッチがセンターコンソールがある車両内側に付いている。一般的な右側面はワークスペースが狭く、シートを外側まで張り出させることで乗降性にも寄与しているだろう。このスイッチはZ34と同じでありシートそのものが相当旧い骨格を使い続けていると推測する。だからと言ってドラポジに不満はない。新型RZ34型はテレスコピック機構が追加されている。これは先代には無かった装備であり設定は喜ばしい。有り難くテレスコの25mmの調整幅を使ってドラポジはしっかり決まった。

ブレーキを踏みながらセンターコンソールのスタートスイッチを押してVR30DDTTを始動させる。テレスコでステアリングを後に引いたからと言ってステアリング振動が気になるようなこともない。そもそも6気筒ゆえ、滑らかにアイドリングしていた。

シフトはノートやエクストレイルなどと同じ電気式になっている。ATシフトレバーのように側面のボタンを押しながら手前にスライドさせるとDに入る。この時のフィーリングは少々摩擦感が気になったので高級感を求めたい。

ブレーキを離してクリープで発進。フェアレディZを運転したのはZ34デビュー時(2008年)以来だから、18年ぶりである。「歩道への段差でリップを擦りやすいのでゆっくり通過して下さい」とのこと。徐行で通過すれば問題は無い。

アクセルをジワッと添えて加速すると、1速→2速の変速で背中から押されるようなショックを感じた。バック駐車で車止めに当たってしまったくらいの加速度だったのでびっくりしたが、このあと交差点左折後の徐行から加速に移る際に再びショックを感じたのでこれは仕様なのかも知れない。9M-ATxと呼ばれる9速ATは先代の7速と比べてワイドレンジ+クロスレシオ化を同時に達成しているが、1-2間のステップ比(ハイ/ロー)が1.66。先代(7M-ATx)の1.54より大きい。9速まで段数が増えた分、100km/h走行時のE/G回転数は1470rpmくらいまで落ちた。

横浜市内をフェアレディZで流す。市街地をゆっくり走っていると自慢の405psのE/G音は低めの太いサウンドが聞こえるが、こもり音と言うよりサウンドの領域で決して邪魔にならない。一方でロードノイズは聞こえてくるが高い操縦性を保つための堅めのブッシュや高速域まで安全を担保するタイヤによるものでスポーツカーである以上はある程度避けられないものである。それよりも、市街地の速度域でもフェアレディZの運転が楽しいことが発見だった。決して神経質ではないのに意思を尊重して正確に向きを変えてくれる。右折レーンへの操舵でも気持ちよさが感じられるのは、さすが一般人のためのスポーツカーである。乗り心地は堅めなのは当然だがFr:255/40R19 Rr:285/35R19という太さのタイヤ(BSポテンザS007)を考えれば納得できるレベルだった。

赤レンガ倉庫を超え、信号のない流れの良いトンネルを走らせてくれた。一度、低いギアのままアクセルを深く踏み込んで3000rpm以上を楽しんだが、その時になってやっと獰猛なVR30DDTTの実力を瞬間的に垣間見たのだった。

VR30DDTTを名乗るE/Gは直噴のツインターボ。2016年にVQ37VHR型を置き換えるためのダウンサイジングターボとして産まれ、日本では2019年のスカイライン400Rに搭載されて初お目見えしている。

新開発ながら、いわき工場での設備投資を抑えるためにボアはVQ型と同値にしてあるが主要部品はほぼ新設計である。直噴化によってターボでありながら圧縮比10.3を実現し、一回の燃焼で最大3回の燃料噴射を可能としている。これにより排ガス性能を向上させている。また可変電動バルブタイミングを採用し、低負荷時のミラーサイクル運転を行って燃費を向上させている。



ツインターボ効果で最高出力405PS/6400rpm、最大トルク475Nm/1600-5600rpmという途方も無いパワーを発揮する。高回転域はほんの少ししか試していないが、2000rpmで事足りる市街地走行よりも、回してナンボだということがよく分かった。ドッカンターボと言うこともなくリニアに高回転まで伸びていく。

♪ブイロク~ サンゼン~ 二つのタァボォ~

左折時に横断歩道で停止するとフェアレディZは以外と注目されるようで横浜市内の観光客がこちらを見ている。穏やかに彼らの通過を待ちながら、フェアレディZは明らかに街中を走る車ではないと悟った。先日試乗したポルシェ911のPDKの切れ味の良さを思い出し、せめてあのシフトショックさえ改善されればなぁと思った。

そこ以外は確かにスムースだ。力を抜いてお洒落に走れるのだが、本当は高めの車速を維持したまま低いギアに落としてハイウェイのジャンクションで横Gに浸るような瞬間がたまらないのではないか。



その事に気付いてしまったのはもう試乗コースの終盤。すぐそこに出発地点の本社ギャラリー駐車場が見えていた。

♪試乗ぉ時間が 終わって 終わって しまった
 ♪試乗ぉ時間が 終わって 終わって しまったぁ~
  ♪もう おしまいね~ (終)
乗り心地
4
●MT試乗編

AT試乗以後、フェアレディZのMTに乗ってみたいという気持ちが燻り続けたまま夏を迎えた。ある日、私はフェアレディZのMT車を県内のレンタカー会社が保有していると知った。



当日、ブリリアントホワイトパール2トーンのVersionSTが私を待っていた。狭い場所で気を遣う張り出し量の大きなドアを開けて乗り込んだ。スタートスイッチを押すと全面液晶メーターのアニメと共にVR30DDTTが始動した。クラッチは想像より手前で繋がるので、シートを後ろに引いてクラッチを操作しやすくしてみたが、フットレストが遠くなってしまったのは残念だ。愛知機械製6速MTは一般的なRが右下にあるパターンで、Rにはノブを押し込んで操作する。エンストを恐れて慎重に発進させたが、電スロ付きとでも微妙なアクセル操作にある程度答えてくれる。

一旦走り出せば市街地は安楽で何速に入れても走れる。信号ダッシュでも本格的に過給が始まる前に既に周囲を置き去りにできるような加速を見せる。交通量の多い片側1車線のバイパスを走らせ、インテリジェントクルーズコントロールを使ったが前方の渋滞でシフトダウンするとクルコンが解除されるのには困惑した。変速の度にクルコンを再セットしなければならないのは不便だ。

渋滞後、ワインディング路へ連れ出した。果樹園を抜けて山間部を縫うように走るこのコースは交通量も極めて少なく、センターラインが引いてある。



フェアレディZは全幅1845mmだがホイールベースの短さ(2550mm)も相まって意外に持て余さずに走ることができる。4000を超えるとVR30DDTTが豹変する。後輪から漲る駆動力、操作に少々腕力を要するが剛性感のあるシフトを操作して2・3速を使っていい汗をかく。トンネルでは反響する太い排気音を楽しみ、コーナー立ち上がりでは6000+αまで回して次のコーナーまで走る。

フェアレディZはコーナーで舵角を決めると後から修正する頻度が少ない。私の技量だとコーナリング中に慎重に切ったつもりでも「切りすぎたな」とか「足りなかったな」ということがあるのだが、クイックかつ正確なステアリングゆえに一発で舵が決まる。ゆえにハイペースで走らせても慌ただしさが減り、次の動作に早く移れるので安全性が高い。車幅の割にサイズを感じなかったのは操縦性の高さが寄与しているものと推測した。

特筆したいのは真円形状のステアリングの気持ちよさだ。乗降性に配慮したDシェイプも存在するがフェアレディZはコーナーで深くステアリングを切り込んでもリムの位置が変わらないので操作の正確性が上がる。



コーナー立ち上がりで少し早めにアクセルを強めに開けると有り余るトルクで背中が押され、路面が荒れているとポンポン跳ねるので修正舵を入れたりしていると、ねじ伏せているような感覚があってエクササイズ的な楽しさがある。これぞダンスパートナーなのだろう。

Z34時代に世界初の機構として採用されたシンクロレブコントロールを試した。これはMT車の変速時に回転合わせを自動で行ったり、クラッチを切った際のショックを軽減するためにスロットルを制御する機構だ。甘えるな!という硬派な意見もあるだろうが普段からMTに乗る自分にとってもこれは便利だった。例えば、助手席にゲストを乗せている時には有効だと思う。勿論、今回は敢えてシンクロレブを使わずに楽しむ事にした。運転操作のフィードバックをドライバーが受け取るという運転の楽しみを最大限に享受するためだ。

勢いよくコーナーに挑んだ。VersionSTのブレーキは大径強化仕様が装着され、申し分ない精度で減速度を調整できる。タイトな複合コーナーも思い通りのラインを描いて駆け抜ける快感を楽しんだ。引っかかり感も無く自然な操舵感が得られ、EPSも随分と進歩したものである。高い車速でもノーズはインを向きコーナリングパワーは強大だ。また、コーナー途中の段差でも乗り心地がいい。扁平タイヤを履き、旋回中にストロークした状態だったのにである。



ゾクゾクするほど気持ちよく加速し、不満無く減速し、立ち上がりをワクワクして待ちながら力強く旋回できる。シートはサイドサポートが厚く、ステアリングは小径で真円形状なので運転操作を阻害せずサポートしてくれるお陰だ。確かにフットレストとクラッチの段差は大きく気になるものの、概ね上々だ。

確かに軽快感不足というか、力ずくで曲がっているような重さも感じるが、結局はこのシビれる加速性能とクセになりそうな旋回性能に免じて許してしまう。先日試乗した911は車重が約100kg軽いこともあり、軽快感に差があった事は付け加えておきたい。

名残惜しいが、近くのICに向かい高速道路に上がった。制限速度120km/hの高速道路でもフェアレディZは余裕綽々で約2600rpmで走っている。100km/hだと約2200rpmとなるが、この領域なら高速道路の登坂・追い越し加速まで6速だけで事足りる。ターボラグもほぼ感じないのはターボを小径化してレスポンスを上げた効果だろう。バイパス道路で不便だったクルコンの設定はトルクが豊かな特性に頼った結果だったのだと気づいた。



NVに関してはスポーツカーとしては充分だ。開発の中でもNVを意識したというがウーハーを使って逆位相の音を出し、E/G音のサウンドを強調させるような演出も相まって、こもり感が気にならない。デバイスで対応しきれない路面入力こもり音も感じず、ボディ剛性が高く、ルーフやバックドアなどの共振周波数が高いことを暗示している。また、タイヤには吸音スポンジが設定され、スポーツカーの中ではロードノイズのレベルは良好だ。

フェアレディZは初代以来、普段の生活にも使えるGTカー的な性格が与えられており、高速道路での振る舞いに注目していたが、もう一歩高いレベルで高速道路を流せるような直進安定性を求めたくなった。というのも高速道路の路面が粗いので、うねりのせいでステアリングが取られたり、横風で意外と流されるような感覚があったからだ。キチンと腋を締めてステアリングを握っていれば別にどうって事は無いのだから私が求めすぎているのかも知れないが、ワンダリングに有利な18吋の挙動はどうなのか非常に気になってしまった。



半日もの間、ほぼ飲まず食わずで走り回った。ただ、楽しかったのだ。返却する直前には「今まで私は分かり易いスポーツカーを避けてきたが、スポーツカーってやっぱり良いなぁ」とすっかりフェアレディZが気に入ってしまった。それは子供の頃からブリキのS130やZ31のトミカ、Z32のCHARG(チャージー)で遊んできた刷込み効果によるものもあるかも知れない。

日産はフェアレディZを作り続けてきたが、それ自体の販売益以上に日産に良い影響を与えることは
ブランドヘリテージに関する研究結果からも説明ができる。RZ34は厳しい経営状況の中で、往年の名車をイメージするデザインを採用し、古典的で豪快なFRスポーツを作り上げた。ややもすると古くさい、と言われがちな内容であるがフェアレディZに限ってはそれが1969年から続く物語を想起させ、ネガ要素をポジに変換できる。

「こういう車がガレージに収まっているカーライフって幸せなんだろうなぁ」と夕焼けの中を走りながら考えた。決して安い買い物ではないが、(ローンなら)買えなくもないか・・・。無事にトラブルもなくレンタカーを返却した。



乗ってきたRAV4で走り始めて驚いた。「あれぇ、出足が軽い。背ぇ高いのによう曲がる。高速道路で真っ直ぐ走るからラク・・・」とフルタイム四駆の可愛いヤツの個性が明確だ。結局、私にはこっちの方が性に合っているのだ。

危うくフェアレディZの魔力に取り込まれるところだった。
積載性
3
ポルシェ911のレビューを書いた時の、911の最大のセールスポイントは実用性であると書いた。それではかつてポルシェ911をターゲットにしていたフェアレディZはどうなのだろうか。



結論を言えば、スポーツカーとして問題のない標準的な容量である。オフィシャルサイトに拠ればVDA法による測定値は241L。一般的なBセグモデルより少し劣るレベルである。この感覚でいえば9.5吋ゴルフバッグを2個積めるので夫婦でゴルフをプレーするシーンでも何とかこなせる。また旅行用スーツケースも小型のものであれば2つ搭載できるため乗車定員分の大抵の荷物は大型バックドアから放り込めるという利便性がある。これはポルシェ911に対してはアドバンテージになるだろう。だが911も負けてはいない。911にはVDA法で125Lと容量は小さいものの、400mm以上の深さを持つフランクがある。ここにフェアレディZより大きなスーツケースが積める点で優位性がある。実はフェアレディZの荷室は床が浅く240mmしかない。バックドアが傾斜しているため分厚い(四角い)ものを積むのが苦手なのである。バックドアガラスの面積が大きいため、背の高い荷物を無理に押し込んだ状態で閉めるとガラスに干渉するリスクもある。ただ、スーツケースではなくボストンバッグにするなど工夫をすればフェアレディZでも十分ロングツーリングを伴う旅行ができる。

収納もアイデアの塊と称賛するほどではないが、ラゲージ以外にも後席後ろに手荷物を置くスペースもあり、プライバシーが気になるものを収納するコンソールボックスも備わる。北米で必須アイテムとなる大型カップホルダーも備わる。普段は1名分だが、コンソールリッドを後方にスライドさせると助手席用も現れる。



またグローブボックスを占拠する車検証と説明書に関しては運転席後方にリッド付き収納ボックスを設けているので、グローブボックスも有効に使えるのはありがたい工夫である。スマートフォンはA/C操作ダイヤルの下にスペースが設けられており現代のニーズに対応している。これなら日常を暮らす上では大きな不満は出ないだろう。



居住性も、北米を主戦場と考えているだけのことはあり、2名で乗る限り不満が出るレベルではない。ドラポジもテレスコ新採用の恩恵で違和感なく決まる。MT車には試乗記で記載した通りフットレストとクラッチの関係性に課題があるのだが、それ以外に課題はほぼない。シートも座面角度が前後で調整でき、体格に応じてサイサポートが得られる。リクライニングは可能だが、Rrタワーバーと干渉して角度に制約がある。一度、PAでリクライニングさせてみたがまぁ仮眠くらいは取れる。例えばデッキ面と繋がってフラットにできればそこで大の字になれるくらいだと個人的には嬉しいのでタワーバーが脱着できるなどの何か方法があれば良いのだが、スポーツカーの生命線である運動性に関わる変更はすべきではないだろうから、私は受け入れたい。
燃費
3
スポーツカーに燃費なんて、と思う人が多いとは思うが今の時代にそれは避けて通ることはできない課題である。

例えば日本国内の企業平均燃費は2030年度までに25.4km/Lの達成が求められている。2016年度は19.2km/Lだったので年々厳しくなる数値であるが、それが達成できなければ国からの正式な勧告から、企業名の公表や罰金までのペナルティが科せられてしまう。そうなれば「あの会社は燃費が悪い車を売って儲けている」というイメージが付いてしまい企業価値を損ねる。

実際の燃費目標値は車重によって細かく規定されるなどの緩和措置があるもののいずれにせよ「スポーツカーだから気にしない」とか「リッター10も走れば十分」という時代ではないのである。

国土交通省が令和二年に発表した2030年度燃費基準に拠れば、車重1600kgで23.0km/Lが目標値となっている。

そのうえでフェアレディZのWLTC燃費を確認すると、MT車が9.5km/L、AT車が10.2km/LとフェアレディZだけでは目標達成できていない。

フェアレディZとしても、直噴ターボによる高圧縮比(10.3)の実現による熱効率向上や、電気式可変バルブタイミングを活用した定常運転時の吸気遅閉じミラーサイクル運転、EPS採用などの努力を行ったうえでの数値である。



今回の試乗では、半日かけて315.6km走行して42L給油したので7.5km/Lという結果になった。ただし(名ばかりの)満タンで借りて(きっちり)満タンで返すレンタカーという性格上、満タン法で燃費を測定すると悪い値が出がちなのであくまでも参考値扱いとする。

燃費計は9.8km/Lとずいぶん楽観的な値を示しており、23.5%ほどサバを読むハッピーメーターという事になる。e燃費によるヒストグラムでは8km/Lが最頻値、平均値は9.32km/Lであり、カタログ値に対する達成率は98.2%となる。WLTC燃費値と実燃費の乖離は比較的小さいと言えそうだ。e燃費は複数の投稿者による継続的な燃費報告を基にしており、今回の試乗の結果よりは信頼できると考える。

燃料タンクは公称62Lなので警告ランプが点灯しそうな55L使用で見積もれば55L×9.32km/Lで航続距離が512.6kmという事になり計算上は航続距離500kmをわずかに超える。



決して称賛に値する結果ではないが、私が普段乗っているRAV4の燃費と同等であることと、あの脳味噌がズレそうな加速性能を考えれば個人的に十分納得感はある。

よって評価するなら★3である。燃費だけ見れば★2だが、性能との引き換えとして考えれば妥当な数字である。
価格
4
●アフォーダブルな価格が至上命題

初代が911の半額で、Z33は3万ドル以下、という目標が与えられたようにフェアレディZにはお買い得な価格設定が自らに課せられてきた。

そうなると、スポーツカーゆえにデザインと走りにはお金を使わざるを得ない。そこで内外装のCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)にしわ寄せがいくなど何らかの節約が求められることは想像に難くないし、実際には内装デザインに先代流用品が用いられたり、車体骨格共用によって意匠に対する制約が出ていると思われる部分が残るなど、かなり厳しい予算管理が行われていたのではないか。

装備品も厳選されている。例えばシートベンチレーションがない、Rrワイパーがない、アダプティブハイビームが無いなど古典的というキャラクターに助けられているが冷静に見れば気になる点もある。

下記は2025年式フェアレディZの価格表である。



2022年式発売当時の価格は524.2万円~646.3万円であったので物価高や日産そのものの状況に応じて値上げ傾向にあるが、そのこと自体は日産以外でも同様である。

一方で、先代モデル最終型と比較すると価格は537.8万円~699.9万円であるから、2022年式発売当時の価格は13.6万円~53.6万円値下げされているのである。先代Z34は3.7Lゆえ自動車税が年額66,500円だったが、新型は50,000円であるから、5年保有で82500円節税になる効果もある。ほぼ先代のキャリーオーバー(設備費や金型費が減価償却済)であることを考慮しても、価格的な面で先代よりも安価な設定だ。

次に同時期の競合社と比較する。最も近しい価格帯の国産ブランドのスポーツカーはトヨタGRスープラ(499.5万円~731.3万円)であるが、最上級以外は直列4気筒2Lターボである。直列6気筒3Lターボを積みフェアレディZと競合する最上級RZグレードは731.3万円であり、2025年には出力向上と同時に800万円に改定され、終売した。

性能的ベンチマーク車のポルシェ718ケイマン(768万円~1878万円)も最廉価は水平対向4気筒2Lターボであるので、水平対向6気筒4L仕様は1152万円と非常に高額である。ゆえにフェアレディZはクラス内で比較的廉価、性能的ベンチマーク車の半額以下であると明確に言える。

安価なスポーツカーであり続けようとする姿勢もまた、初代から続くフェアレディZの意地なのだろう。

●お薦めはバージョンST、いっそのこと標準仕様を選んでほしい

フェアレディZのバリエーションは長らくオリジナルの標準仕様、内装が本革になるバージョンT、走行性能をレベルアップしたバージョンS、そして全部乗せのバージョンSTという4種類で選びやすい。

例えばフェアレディZを洒落たパーソナルクーペとして使いたい場合はAT専用のバージョンTを選べばいいし、少しでも安く買いたいが、スポーツカーらしく走りにはこだわりたいという場合にはMT専用のバージョンSがある。



走りも内装クオリティも選びたい!リセールを考慮したり、せっかく買うんだからという多くの人が抱く欲望から抜け出せなくなったらバージョンSTを買えばどちらも妥協せずに済む。



一方で標準仕様はただのアイキャッチに過ぎないのかというとそうでもない。16.6万円のBOSEサウンドシステムと抱き合わせのアクティブサウンドコントロール・アクティブノイズコントロールは選んでおいた方が吉だが、蒸れにくいファブリックシートやRrスポレスのスッキリしたリアビューに初代にインスパイアされた斜めエンブレムが楽しめる。18インチホイールが少々寂しい意匠なのだが、スポーツ系とは異なり前後同サイズなのでローテーションが楽しめる。さらにこのタイヤはスポーツ系より幅が細いので、理屈では轍でステアリングを取られる現象が控えめになるはずだ。

乱暴な見積もりだが本革上級内装が29.6万円、前後異サイズ19吋ホイールやブレーキ強化などスポーツ装備は68.3万円である。

つまり、カタログ装備ベースだと標準(549.8万円)+本革上級内装(29.6万円)+スポーツ装備(68.3万円)+BOSE(16.6万円)の合計664.3万円になるはずだ。ところが、標準仕様とバージョンSTの価格差はBOSE抜きでも本来は114.5万円のはずなのに実際は109.6万円なのである。

つまるところ差額4.9万円は最上級を選んだ顧客に対する「ありがとう代」である。なのでせっかくだからバージョンSTを選ぶ方の背中も押しているので決してボッタクリグレードではない。

ただ、先に述べた通り、約110万円安い標準仕様を選ぶというのも大ありだ。その110万円を使って毎年連休にロングツーリングに出かけても良し、自分がこだわるシートやタイヤ・ホイールなどに投資して自分らしく乗るのも楽しいカーライフの楽しみ方の一つだからだ。

更にボディカラーも豊富である。正直私は、自分ならという色を一つに絞れないでいる。ワンガンブルーはいいなー、でも432オレンジもZらしいなぁ。でもせっかく特別塗装色にするんだったらミッドナイトパープルも日産らしいな。うーん、でもバーガンティ渋くない?っていうか標準色(=安い)なの!・・・という思考循環が続いている。

●売れすぎてしまい発売直後に受注停止

フェアレディZは発売直後から高い人気を博し、総評でも書いたとおり発売と同時に受注停止となる憂き目を見た。

日本国内での販売台数については、公開されている自販連データを集計した情報によると、

2022年7月~2024年6月累計:約2800台(生産・登録ベース)
2022年7月~2025年1月累計:約5979台 → 6ヶ月で約3200台生産
2022年7月~2026年6月累計: 12826台 → 1年半で約7000台生産

…とされており、2025年以降の受注正常化でようやく日本でも登録されるようになってきた。

2008年発売のZ34型の月販目標台数は500台。2022年発売のRZ34型の目標台数が公表されていないため、Z34の数値で代用するとしても

2022年後半平均:約81台/月
2023年平均:約86台/月
2024年平均:約345台/月
2025年平均:約519台/月

と、先代の目標台数ペースに乗ってきたのは発売後3年経ってからという不思議な状況になっている。



先ほどから引用している2025年のトークショーの中で田村氏は「円安が重なると日本国内に出荷するのが難しい」と発言している。「生産能力が限られている中では、日本向けより輸出向けを優先した方が収益が大きくなる」というロジックがメーカーの人間の口から出ていたが、私も他社の受注停止問題で薄々感づいていたものの、大変驚いた。

価格評価は★4 絶対値は500万円オーバーと高価であるが、横並び比較するとリーズナブルな設定だ。庶民でも貯金して切り詰めれば何とか買える価格で売るという努力が感じられる。全体の水準を考えると競合が減り、輸入ブランドが値上げしている中で少しずつ値上げしていることは消費者としては辛いが経営再建中という中で事情は理解はできる。

一方でフェアレディZに関して「内装が古臭いから、自分なら買わない!」と評する意見もある。確かに2026年に新車で売られる500万円以上のスポーツカーとして古さを感じないわけでもないが、フェアレディZの場合はその古臭さが価格競争力や過去への郷愁にも繋がり、他の性能も含めて良い影響を与えている。旧車ブームという中にあってクラシカルな魅力を感じつつも現代の水準に達した安全性や環境性能を持つ車というのは実はそう多くないのである。
故障経験
●ページをめくる喜び。フェアレディZカタログに残された思想

トヨタやマツダが紙カタログを廃止している現状の中で日産は紙カタログを残している。車の購入に必要な情報はネットや動画サイトで入手するケースが増えている中で、商談においても客に対してタブレットで説明をするようになりつつある中でフェアレディZのカタログは未だに立派な装丁の「本カタログ」なのである。



紙カタログは情報端末が無くても手に取って自分の手でページをめくる楽しみがある。写真もスクロールして初めて全貌がつかめるわけでもなく、ユーザーの端末環境にも左右されない良さがある。

何を隠そう、小学生時代からカタログをコツコツ集めてきたコレクター崩れの私は、フェアレディZのカタログに大いに感銘を受けた。端的に言えば美しいのである。

聞くところによると、RZ34のデビュー以来、同じカメラマンによる写真が使用されており写真集のような統一感があるところが良い。



メインロケ地は横浜市内。実はAT車で試乗したコースの近くが背景に移っていたりするのだ。横浜に本社がある日産らしい。夜のイルミネーションが映り込む鮮やかなクオーターパネル、或いは夜の高速道路、或いは夜景の中でたたずむ姿、ウエット路面で豪快なテールスライドを決める姿などクルマ好きが好みそうなシチュエーションが厳選されて並べられている。

その中でも私は夜明けの高速道路を走っているカットが好きだ。早起きして交通量の少ない高速道路を走るワクワクが思い出されるからである。

本心ではメカニズム解説などにもっと分量を割いて欲しいと思っているのだが、このカタログは多くは語らない。ほとんどのページに写真が使われて、ありがちなCGで作られた合成画像でないので、解説が少なくても見ごたえが全く違う。

「絶対失ってはならないものがある
 そのために逆風に立ち向かう
 もっと先へと抗い続ける
 乗り越えてきたものだけに未来は訪れる
  Fairlady Z」

このようなコピーがたまに入っているが、どれも納得感のあるものばかりで、コピーライターの熱量を感じる。

ページをめくるたびに写真に引き寄せられていき、短いながらも技術解説を読み、最後にグレード一覧と装備表を見てアレコレ思案する。

最後のページはフェアレディZに触れる少年の嬉しそうなカットで締めくくるのが面白い。「夢はいつまでも生き続ける」というコピーによって、この写真にかつての自分たちの姿を投影するのである。

実はフェアレディZのカタログがハードカバーなのには意味がある。『2002年、「奇跡の名車」フェアレディZはこうして復活した』を著した湯川氏(Z34開発責任者)によればフェアレディZのカタログは立派なハードカバーにしてくれ、そしてできるだけカタログが欲しいという子供にも配ってほしい。何回でも読み返して大事に保存してもらえるようにハードカバーにするのだ、というような趣旨が語られていた。

スポーツカーは、走る喜びだけのために存在しているのではなく、ブランドイメージ向上のためにも存在している。その意味でもスポーツカーに興味を持つ子供を大切にしたいという湯川氏の想いがRZ34型になってもなお引き継がれている。



車種は違えど、好きな車のカタログを擦り切れるまで読み返して大人になった私にはそれがよく理解できる。フェアレディZのカタログは数ある自動車カタログの中でも強いメッセージ性が感じられ、単なる商談ツールの域を超えたアイテムになっている。このカタログは次代のクルマ好き達への日産自動車からの贈り物でもあるのだ。

今回の試乗でRZ34は決して100点満点の完全無欠のスポーツカーでは「ない」と思った。だが、世界中のファンがこのクルマを愛し、日産が苦境の中でもフェアレディZを絶やさなかったこと。その継続の積み重ねが、このクルマを単なるスポーツカー以上の存在、日産のブランドを高めてきたのだ。

私が感じた生命の息吹とは、困難な時もフェアレディZを生かし続けてきたファンの想いであり、そして彼らの期待に応えることが日産の意地だったのだろう。このカタログからもファンと作り手である日産の強いつながりが伝わってきた。

紙カタログで育った私はこのメッセージ性のあるカタログに実車よりも高い評価をつけても構わないと思った。5★だ。

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