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2023年12月17日

鍵巻き時代の一等品 ファブルブラント商会 商館時計 明治32年頃

またまた時計ネタです。
気分も大分リフレッシュできてきたので、そろそろ溜めている扇風機にも手を付け始めようかと思います。
好きな事でもあまり連続すると飽きてきますので…

さて、今回の個体はこちら。









手持ちとしては2個目、自前修理としては初となる鍵巻き式の時計です。
ファブルブラント商会の盾獅子印。
同社はグレード別にマークを分けていたのですが、その中でも一等品を示すものだそう。

時代考証は商館概要ともリンクしますが、盾獅子印の商標登録が明治32年4月28日(第12370号)なので、素直に明治32年頃としました。
というのも、鍵巻きは掛け時計の機械と共に最も古い巻き上げ・時刻合わせ機構でして、その後ダボ押し・剣引き剣回し→龍頭引きと変わって行きます。

そして商館時計に多いダボ押し式が大体1900年を中心に前後10年、20年間ほどしか見られなかった(ポケット・ウォッチ物語より)との事なので、ダボ押し式の初め頃にはオーバラップする形で出回っていたのだと思います。

当時は今より情報の流れがずっと穏やかだった時代。
欧州の時計産業界が各国・各地域で分業独立状態だった事もあって、新技術の伝達に数十年がかりというのも珍しくなかったそうです。
これもポケット・ウォッチ物語の受け売りですが、イギリスがバージ脱進機・鎖引きの古い機構を使い続けていた間に、フランスではシリンダー脱進機が普及していた…とか。

そのため、ダボ押しが主流と思える時代に鍵巻きの新品が売られていてもおかしくはないかと。
証拠と言えるかどうかはわかりませんが、機構自体は古い鍵巻きながら、脱進機はシリンダーより新しいアンクル式です。
新旧織り交ざった感じでしょうか。


そしてファブルブラント商会についてですが…
ファブルブラント氏は親日家で時計業界以外にも様々な功績を残されたとの事。付け焼刃で色々語るのは避けた方が良さそうに思います。
というかレストア記事の前置きにはとても書ききれないし。

とりあえず…ファブルブラント商会(C&J.Favre-Brandt)は、1864年(元治元年)に横浜で創業した商館です。
慶応の大火(豚屋火事とも)で一度焼失しますが、移転再開して関東大震災まで営業していたそうです。
C&Jとある通り、経営は兄のチャールス ファブルブラントと弟のジェームス ファブルブラントの兄弟でした。
時計の他にも機械や宝石、武器も扱っており、戊辰戦争にて薩摩藩の武器をほぼ一括して納めたりもしたそうです。

日本で活躍されたのは主にジェームス氏の方。
日本人と結婚されており、お墓は横浜外国人墓地にあります。
関東大震災のひと月ほど前に病気で亡くなられたとの事で、この点はレッツ商会のフリードリヒ レッツ氏と似ていますね。

時計の方面から見てみると、日本人時計師のスイス留学斡旋や指南書の出版などに尽力されたとの事。
商館時計のブランドとしても多くの個体が残っている他、日本語で商館名が彫られていながら、所謂商館時計の様式ではない時計(つまり現地仕様のもの)もあるようです(他の商館にもある例ですが…)。
鎖国が終わり一気に海外の技術・文化を取り入れて行った時代でしたから、貢献の度合いもさぞ大きかったでしょう。
何か雑だなぁ…


それでは再生へ。
勉強になると共に苦労しました。



いつもの通りダイヤルの分離から。
少々カビていますが奇麗なようです。
機械は表側や香箱まで全面ペルラージュ仕上げで、既に香箱が完全に見えています。



シリアル確認。ナンバーズマッチです。
今回のダイヤル裏には修理歴ではなく、シリアルが書き込まれていました。
アメ車だとエンジン・シャーシフレーム・ボデーの3つですが、こちらはムーブメント・ダイヤル・ケースの3つ。



表側から外せるのはとりあえず日の裏車系だけでしたので、早速裏側です。
ダボ押しに係る機構がありませんのでシンプル。
しかし鍵巻きは初挑戦。基本は同じフルブリッジですが…どうでしょうか。



龍頭巻きの場合の角穴車に相当するであろう部分。
ガイドの金具は外れましたが、これ以上は外れない模様です。



ブリッジを外していくと一気にスッキリ。

脱進機はアンクル式ですが、そのアンクルが長い。
カウンターウェイトはほぼ円に近いC字型で、ガンギ車の真に貫通する形となっています。
上手く言えませんが…凝っていて面白い。
そしてクラブトゥース式のようです。



組んだ状態でも見える位置ですが、地板にはFAVRE BRANDT LOCLEの文字。
LOCLEはスイスの地名、ル・ロックルの事でしょう。



で、香箱さん。
同様のムーブメントの整備動画を見てみましたところ、この部分は外せない構造の場合があるそうです。
これもきっとそうなんだろうなぁと思い、このまま進めます。



開けました。
何だか錆っぽい。





ゼンマイを取り出すと薄く錆びが付いていました。
そして2枚目の通り、切れたであろう箇所を継いであります。
多分プロの仕事なのでしょう。



洗浄後になりますが全バラの図。
地板の石が入る部分は別パーツになっていました。
予想通り、香箱やゼンマイの錆は超音波だけでは落ちませんでした。
手洗いしましょう。



まず香箱。錆は筆で洗って落ちました。
ゼンマイは錆び落としを使いましたが…後の事はこれのせいではないはず…

なお、生の鉄でも屋内で湿気に曝さずにおくと、意外と錆は出ないのです。
湿気と空気(酸素)がやはり重要で、赤錆が出た状態でも乾燥を保ってケースやカバーに包まれていれば、然程進行しません(使える状態や強度を保つかは別として)。

なのでゼンマイの場合、湿気という点では時計ケースと香箱で二重に包まれていますので、普通に使っていれば問題ないでしょう。
密封でないにしても、空気の出入りもかなり限られるはずです。
香箱内は少量ながらグリスを入れます。なので油分も少しはあって、防錆になるでしょう。

そして組み立てて動作確認をしたところ…切れました。
テンプの振りが弱かったので、点検のために巻きを開放した際に切れたようです。
そもそも一世紀が経っているモノですし、錆でもダメージが来ていたのでしょうか。

切れやすいと分かったところで、修理法を中心に調べてみました。
するとやはり勉強になる点が色々と出てきまして、先に書いた継ぎ目についても、古くからある繋ぎ方だった事が分かりました。



試しに切れ目を入れて引っ掛けて繋いでみましたが、案の定切れました。
その度に分解組み立てが(一部とはいえ)出ますので、少々うんざりしてきます。
まぁ素人が手探りでやってるんだから仕方ない。

しかし更に泥沼化。



一気に3か所切れました。もうやだこの子…
しかも継いだ所以外の3か所という。

と、ここで一度落ち着いてみる事にしました。
そもそもゼンマイが切れずとも、あれこれと組んでバラしてを繰り返したため、色々と狂いが出ているでしょう。
そして大いなる過ちだったのが、紙を敷いた上に素手で作業をしていた事。
呆れられそうですが、あまり疑問に思わずにやっていたのです。
これが素人、無知というもの…

気付いた切っ掛けは、交換を前提にゼンマイの諸々(サイズの割り出し方や修正方法など)を調べていた時。
上記の事とは別に新たに調べ直しました。
英語でしたのでアメリカかイギリスでしょうか、引退された時計師さんの動画を見つけました。
それが作業の基礎から教えてくれる内容でして、「ダメな事ばかりしていたじゃん」となったわけです。

で、ゼンマイのサイズを知るには香箱の内寸が必要。
どうせ素手で触れた&焦って組んだ事実がありますから、反省の意も込めてもう一度分解し、全パーツを洗い直しました。
そして落ち着いて組み直したところ…テンプの振りが良くなった。

ゼンマイは更に継ぎ直したため、短くなって条件は悪くなった筈。
なのにこうも変わるものかと驚きました。
時計というモノの精密さについて、全く意識が足りなかったと反省できました。

なお、一応はまともに動くようになった(っぽい)ものの、あれだけ破断が続くと現状のゼンマイはもう限界と見えます。
というかパーツの出る状況なら迷いなく交換しています。
この年代でも、アメリカの時計ならしっかりシリアルから製造年やモデルを割り出せますので、特定が容易でパーツ自体もある程度揃うらしいです。
ニコイチもしやすい。
一方スイス製は小さな工房製の機械が多く、今では実質ワンオフ状態。そうは行きません…

予想通り、20時間程動かした後に静かに巻き上げたところ三度切れました。
サイズ(巾・強度・長さ)を計算すると19セイコー用がほぼぴったりのようですので、鉄道時計のジャンクあたりから移植しましょうか。
或いは他の商館時計ジャンクから。大体近いサイズのはず…

そしてここでふと思いつく。
ゼンマイの補修や修正の際は焼き鈍しを行いますが、それは飽くまで加工する部分に限っての事とされています。
加工部を折れにくくするためですが、性能が変わったり、性質が不連続になって切れやすいポイントを作ったりしてしまうからでしょう。
しかしここまで脆くなった場合、とりあえず生かすのを考えますれば…全体を炙ってしまえば良いのでは…?
どうせ交換が前提なら、疑問の答えを実験で確かめてみましょう。

という事でやってみましたところ、外観の変化としてはフリー状態での径が広がりました。
熱した瞬間にスッと広がる感じ。
元々黒系の仕上りではなく白かったのですが、焼き色がついてブルースチールの一歩前くらいに。
あまりやりすぎてもと思い、程々にしておきました。
しかしこの「形が変わった」という変化を以て、何となく内部が再生されたように思います。
バネとしては柔らかくなっても、切れにくくもなった気がします。
果たして無事動かせるだけの性能は出るのでしょうか。

…一応何とかなったようです。
テンプの動きは幾分か弱くなり、熱する直前の動作確認ほどの勢いは無くなりました。

巻き回数は最初8回で2回目以降は4回ほど。動作時間も半日強となりました。
ゼンマイ加工が原因で間違いないでしょう。
何度も折れて短くなっていますし、熱した影響で反発も弱まっているはず。
引っ掛けて継いだので巾方向にずれやすいですから、解ける途中で抵抗が増すのかも。
或いはテンプを回す程の力が残らないのか。

とはいえ、力のある内は平置き・縦向きでも良い感じに動いています。
緩急針を2目盛り遅れ側にして、日差1分以内。
輪列に問題ない事の証左と言えるでしょうか。
でもこれだとゼンマイ替えたら結構進むかも。



そんなタイミングでジャンク集が来ました。
部品取り機の寄せ集め状態で買ってきましたが、良さ気なゼンマイが入っていました。

写真はエンドの引っ掛け部分が別形状だったので、香箱に合わせて削りを入れたところ。
この時計のオリジナルは、よくある香箱の一部が内側へ出っ張っているタイプではなく、ゼンマイ後端に突起をつけてあるタイプでした。
なので香箱には角穴があるだけ。
こうして差し込まれる部分を作る必要がありました。



長さは測っていませんが、香箱サイズがほぼ一緒だったので問題なさそう。
巾と厚みは元とほぼ同じ。
こちらの香箱へ移植してみたところがこの写真です。
ゼンマイの占有具合も良い感じ。

そして結果は非常に良好。10回目(実動10日)までは行っていませんが、今の所は巻き上げ中にも切れていません。
テンプの振りは勢いが戻り、巻き回数8回程度(鍵巻きなのでこの位です)、24時間以上の連続動作を確認できました。
やはり進み傾向になりましたので、また持ち歩いて調整としましょう。







さてさて…勉強になる回り道がありましたが、ひとまず完成へ漕ぎ着けました。
外観は無銘のシンプルなローマ数字ダイヤルに、ブルースチールのブレゲ針が決まってます。
ジェントルな佇まい、とはこんな感じかしら。

ボウに鍔が無く、更に鍵巻き故に玉ねぎ龍頭が無いのもスマートに見える要因でしょう。
この2点はどちらも商館時計らしい要素ですが、違ういうのもまた良いものかと。
背面のななこ模様も摩耗なく綺麗な状態。
大事にされてきたであろう事が窺えます。



鍵穴のあるガラス風防が特徴的な裏蓋内部。
その分だけ埃は入りやすいですから、今後の取り扱いにも注意しないと。
思えば、機械(特に2~4番車の表面)がかなり綺麗だったのに、ゼンマイだけ錆びていたのはこれが原因かな。
動かすには鍵で巻き上げますので、手から伝った僅かな水滴が入り込んだのかもしれません。
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Posted at 2023/12/17 22:21:27

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