一月二十日日曜日。何も予定が無かったので、嫁さんに
「亀岡に行ってみようか?」
「え?なんで亀岡?」
「以前から気になっていたドゥリムトンっていうイングランドの田舎を再現した村があったろ?」
「そう言えばそんな話あったわね。何も予定も無いし、行ってみようか。」
「ついでに亀岡トライアルランドに寄って、森さんにもご挨拶して行かないか?」
「ミルキーウェイの時に『一度遊びにおいで』って誘っていただいたものね。行きましょ。」
丁度Rover75にスタッドレスを履かせたし、家族で行ってみる事にした。
ドゥリムトンは京都府境を超えてすぐのところだった。
かわいいイングランド風のお家がある。娘もこっそりチェックの帽子とマフラーだ。
天気は良かったが風が強かった。レストランの前でやっていたフリマの人のテントが隣の池まで飛ばされて、皆で拾ったり押さえたり大変。その中で、娘は可愛いカチューシャを作ってもらっていた。
カフェレストラン「ポントオーク」にてランチ。折角だから皆でキッシュやミートパイを取った。私はイギリス料理で一番好きなフィッシュアンドチップスをいただく。
ポテトフライが多くって、私でも満足。紅茶もおいしくいただけて、ゆったりとした時間が過ごせて嬉しかった。横にあるアンティークのお店も見せていただいたが、雑貨が中心で嫁さんの好きな家具等はなかった。
今度は亀岡トライアルランドに。
お電話すると、「来客中だけど、別にかまへんで。」とのこと。遠慮なくお伺いすることにした。トライアルランドの入り口を入ると森さんが工場の方から顔を出されて
「丁度勝部さんが来てはるんや。2年前に壊れたアストンが治ったんで、持ってきはったところで良かった。」
え、エンジンブローしたあの戦前型アストンが?!それも今日出来上がっていま乗ってこられたのだと言う。あまりの奇遇に嫁さんが
「なんだか不思議な人の縁を感じるわ。」
と言う。本当にそうだ。
森さんの自宅はトライアルランドから谷を降りた所にある。ツーバイフォーのキット住宅を輸入して大工さんと一緒に建てたというDIYのお家だ。横のガレージは亀岡トライアルランドの
HPのトップに出てくるガレージそのもので、このアストンと森さんのフラミニア・スポルト・ザガートが収まっている。
このアストンは二年前のイベントでエンジンブローしたのだが、つてで新しいエンジンを入手して組み上がったところらしい。クランクケースに弱い部分があり、そこが壊れてしまうのだが、ちゃんと対策部品がイギリスに存在する(!!)らしい。
私が直接見た戦前車はこれとブガッティT35だけなので何とも言えないのだが、でも美しい事はわかる。
芸術的機械加工部品によるエンジンルーム。ちゃんとこれってSUキャブだったりするんだろう。勝部さんが、
「今組み上がった所だったんで、ダメ出ししながら大阪の工場からぼちぼち走って来たんや。」
「たしかにエンジンの前のここはオイル漏れてそうですね。エンジンフードが汚れてますもんね。」
「うん、冷却水も少しここらへんは気をつけへんとな。」
このクルマはシャシーだけだったのを、あるマニアがこつこつ全部木製のフレームから作り出して直したのだが、8年かけて90%出来たところで手が止まってしまい、残りを勝部さんと森さんが引き受けたとのこと。確かにコクピットも木組みの部分が多い。
「スリーホイーラーよりはクルマらしいですね。」と森さんに言うと、
「ブレーキがこれの方が良く効くからなあ。スリーホイーラーはバイクのブレーキやから、止まろうとフルブレーキしても30mは走ってしまうんや。」
「え、怖いじゃないですか。今度からスリーホイーラーの前を走るのは止めときます(爆)」
「しかし、ミルキーウェイ、大阪から走って行かんで良かったわ。」
「だからフェリーにして下さいって言って正解だったでしょう?」
「でも、ゴールから道の駅ふたみに置いてあるトランポまででも遠かったで。」
「すみません、やっぱり遠かったですか。私あの時は適当に、「50キロくらい」なんて言いましたけど、後で見たら80キロあったんですよね。ごめんなさい。」
その後、お家に上がり込んで色々見せていただく。
スタンド、小物、椅子、すべて森さんの手作りだ。溶接もされる(自宅ガレージの上のランチアマークもすべて森さんの手作業の溶接の作品)ので、色んなものを作っておられる。義父もDIYの人でかなり色々作る人だが、すごい。嫁さんが
「え、こんなのまで作ってしまうんですか?!」と絶句している。
奥様もフランクな方なので、嫁さんも楽しいらしい。
大人の話に飽きた娘が
「外にある滑り台で遊びたい!」と言い出したので、遊ばせに行く。森さんが
「トライアルの友達が、廃棄になった公園のすべり台を『要るか?』と持って来たんで、二つつなげて長くしたんや」
「でも、いくら斜面にあるって言っても、あれ10m近くありますよ!」
何でも作ってしまう人だ。
勝部さんはいつもここに古いアストンを置いているらしい。JRと京阪で枚方の自宅まで帰られているとのことだったが、折角なので淀屋橋まで75でお送りさせていただいた。
「それにしても、アストン復活して良かったですね。もう何か出られるんですか?」
「うん、ラフェスタ(プリマヴェーラ)はもう仮エントリーしてるんや。」
「流石。で、秋のミルキーはどうされるんですか?」
「流石にスリーホイーラーは疲れたな。今度はアストンかな。」
「古い方、それとも新しい方(DB5)ですか?」
「まだわからんな。ナビによるかもな(笑)」
帰宅してから嫁さんに
「どう?kotaro さんと僕のお師匠さんは凄かったでしょ?絶対真似なんかできっこないのは判ってるけど、でも憧れてしまうんだ。」と言うと、
「今まであんな人たち見た事無いから、ほんとにびっくりして、でも凄いし、ほんとに素敵だなって思ったの。自分の手の届く範囲で、自分でこつこつ直して..本当にヨーロッパの田舎みたい。」
「そうだね。又良かったら遊びに行こうよ。」
「ええ。」
不思議な縁の取り結ぶ、亀岡行きだった。