フェラーリというクルマは、人の心を揺さぶる。
そのスタイル、音、操縦性、そして哲学とステイタスで。
感動、憧憬などだけではなく、嫌悪というネガティブな感情を抱く人もいる。
ただ、何も感じないという人は、まずいない。
桜も散って初夏に近づいたある日、職場の後輩が暗い瞳で「辞めたい」と言い出した。
まあ、それなりに厳しい職場ではあるので、辞めたいという者は毎年出てくる。
今回も、かなり沈鬱な表情で語り始めた。いわく、「自分はこの職場に向いていない」「部署を変わるだけでは嫌だ」「他に追いかけたい夢ができた」「一緒に夢を追いかけてくれという友人もいる」。
私には、ただ現在の状況から逃げ出したいだけのように感じられた。御家族は転職についてどう思っているのかと尋ねたところ、「好きな仕事をやりたいなら、それでも良いと言ってくれている」との返事。
この日、私は、「君が辞めたいというなら、俺は、他の者がするように無理に引き止めたりはしない。ただ、この転職は、君にとってあまり良い話ではないと思うな」と述べるにとどめた。「まあ、今度の休み、美味い飯でも食いに行こうか?」と付け加えて。
休日、正午前。職場の駐車場で待ち合わせた。
「メシの前に、ちょっと行きたいところがあるから付き合えよ。ドライブもいいだろ?」とアシ車で出発。車中でも後輩の口は、相変わらず重い。
しばらく走ってガレージの前で停めた。怪訝そうな顔をしている後輩に、「いいか、みんなには内緒だぞ?」と前振りをしておいて、おもむろにシャッターを上げる。
差し込む光に照らされたクルマの姿を見て、うつむき加減だった後輩の眼が見開く。
「こ、これってフェラーリですか?!」「そうだよ。F355というモデルのな。」「す、凄い!もしかして、先輩のクルマですか?!」「そうさ、だからみんなには内緒だからな、いいな。こんなのに乗っているなんてバレたら、俺の誠実そうなイメージが崩れるだろ(笑)?」
F355でドライブをしている最中、後輩はずっと「凄い」を繰り返していた。クルマから降りて、食事をしている最中も、自分がいかに感動したかを話し続けた。
完全に、瞳に光が戻っていた。
月曜日。後輩は、「辞めるのヤメました!まだまだ頑張ります!」と言いに来た。
ウソのような、本当の話である(笑)。
・・・フェラーリというクルマは・・・人の心を・・・揺さぶる。
Posted at 2011/10/23 02:15:32 | |
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