
友が去る日が決まった。
志を同じくし、同じ職場に集った同期。
その中の一人。
我々は、勤務地を転々とする。
しかし、そいつとは、何度か同じ場所で勤務した。
何ヶ所もある勤務地で数度同じ場所で勤務するなど、どちらかと言うと珍しい部類に入る。
そいつとは、仕事の処理のセンスも似ていて、妙に気が合った。
以前、そいつと同じプロジェクトチームに入った。
仕事は、プロジェクトとは関係のない通常業務もこなしながらであった。
そいつと、外回りの通常業務を8時間くらい一緒にやって、事務所に戻る時のことである。
「あ、あれやった?」と、そいつが聞くので、「ああ、やった」と私は答えた。
業務処理には、間違いがないように、「あれ・これ・それ」などの代名詞を使うことは、禁忌。
だから、そいつは、それが気になったのだけど、「あれ」の名称が思い出せない。
二人とも疲れていた。しかし、これからプロジェクトの仕事をしなければならない。
「あれだよ、あれ。んーっと」と、そいつが言う。
私は、「あれだろ?やったよ」と、言って、お互い笑いあった。
そして、「あれ」は、間違いなく、同じ、「あれ」であったのである。
そんな友と、現在、同じ敷地の職場で働いている。
しかし、そいつが来年には定年を迎える。
定年前には、できるだけ自宅近くの職場に転勤となるのが習わし。
そいつが定年のために、この地を去る日が決まったのだ。
残るのは、私。
もう、阿吽の呼吸で仕事を共にすることは、永遠にない。
そんなことに思いを馳せながら、私はひとり事務所の屋上から夕景を見ていた。
陽は既に、山の向こうに隠れ、その先の海に沈まんとしている時刻。
秋の高い空にある雲を山の向こうに沈みかけた陽が照らしている。
見事な夕焼け。
そうしていると、遠い向こうから、たくさんのツバメたちが飛んで来た。
そして、私の頭上を飛び、彼方へと去っていく。
私たちには、100名弱の同期がいた。
でも、今では、私を含めて片手で数えられるほどの人間しか残っていない。
我々の時代は終わりを告げようとしている。
山の向こうで海に沈もうとしている太陽が、我々だ。
ツバメたちも同じく。
同期は、ここに留まらず、飛び去って行った。
「なあ、俺たちは、この世の中を少しでも良くすることが出来たかな…」
ツバメたちに語りかけながら、私は、この不思議な光景を見ていた。
象徴的な光景。
人生において、時にそのような光景を見ることが、本当にあるのだ。
そして、『さらば、友よ…』
Posted at 2021/10/02 22:09:45 | |
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