突然ですが、今日はインリフトってどういう条件で発生するんだっけ?ということが気になったので計算することにしました。
FF車に乗っている人は後輪のインリフトに悩んでいる人もいるかと思います。
それなりに改造されたレース用車輛でもインリフトしてるので、
個人的には放っておけばいい気もしますが放っておけない人もいると思います。
一方、僕の乗っているS2000をはじめ、FR車で後輪のインリフトに悩んでいるという話は聞きません。
そこで、今日は過去の調査、計算結果を用いて(僕の)S2000の後輪がインリフトする条件を考えてみたいと思います。
ここで、まず始めにインリフトした状態の力のつり合いを考えます。
こういう物理現象を考えるときは、とにかく絵を書きます。
図1:タイヤがインリフトする状態

実際はアームを回転させる力とかありますが、今回はインリフトする条件を考えることが目的なので、簡素化してこの図に書いていない力はないことします。
この図1でF1~F5は以下を示します。
F1:バネ反力(kgf)
F2:バネ下重量とダンパーのガス圧による反力(kgf)
F3:タイヤ接地荷重(kgf)
F4:ダンパー最大伸び時のダンパロッド引張力(kgf)
F5:スタビライザー反力(kgf)
次に図1の3つの状態の説明です。
左の絵は平地に静止した状態で置いてあり車重もタイヤも地面が支えています。
地面がないとタイヤが落ちてしまうので、地面は大事です。
このときの力のつり合いはF3=F1+F2となります。
中央の絵はインリフトした状態です。
このとき、ダンパーは最大に伸びていません。
地面がなくて、ダンパーも最大に伸びていないとタイヤを上に持ち上げてくれる人がいない気もします。
かつて、AE85カローラレビン ライムにはリアスタビライザーがついていませんでしたが、僕のS2000はスポーツカーなのでリアスタビライザーがついていて、インリフトするときは反対側のダンパーは縮んでいるので、スタビライザーがタイヤを上に持ち上げてくれます。
このときの力のつり合いはF5=F1+F2となります。
右の絵はインリフトした状態で、かつダンパーは最大に伸びています。
中央と同様にスタビライザーは効いているので、スタビライザーもタイヤを上向きに持ち上げていますが、ダンパーロッドもタイヤを上向きに持ち上げています。
このときの力のつり合いはF4+F5=F2となります。
仮に僕のS2000がインリフトすることがあったとしたら、それは中央の状態なのか?それとも右の状態なのか?、まずはここを知る必要があります。
整備をするときに片側だけジャッキアップすると、バネを遊ばせるような車高調セットをしていたとしても少しバネが縮んだ状態でタイヤが持ち上がるときがあるので、感覚的には走行時のインリフトは中央の状態だと思っています。
本来は現物の状態を確認した後で計算すべきですが、あいにく修理中で確認できないので、今回は計算だけ行いました。
計算するにあたり、何をどう計算するとわかりやすくて、かつより正しい結果が得られるのだろうと考えた結果、サスペンションのストロークとタイヤの接地荷重を計算するのがわかりやすそうだったので計算しました。
計算は僕のS2000を想定し、以下の条件で計算しました。
1、車輛重量(ドライバー、ガソリン込み):1340kgf
2、後輪片側バネ下重量:35kgf
3、ダンパーガス圧による反力:20kgf
4、後輪片側バネ上下重量:300kgf (1340/4-35)
5、リアサスペンション諸元:過去に調べた値→
こちら
リアスタビライザーは130用とし、かつメインスプリングはバネレートを16kgf/mmとしました。
6、ダンパー伸び側ストローク最大のときメインスプリング縮み量が0とする。
(プリロード0でバネの遊びもなし)
7、反対側のタイヤは逆方向に同じだけ動く。
計算結果:ホイールストロークとタイヤ接地荷重
このグラフは車輛が静止、接地した状態のホイールストローク(車体に対するタイヤの上下変位)を0mmとしてダンパー伸び側がマイナス、縮み側をプラスとして、ホイールストロークに対するバネ反力、スタビライザー反力、タイヤ接地荷重をホイール端位置の値で表しています。
タイヤのインリフトという状態は図1のF3(タイヤ接地荷重)が0になったときに発生するので、グラフの赤線を見ることでホイールストロークに対してどこでインリフトが発生するのかがわかります。
今回のS2000の計算結果では、ホイールストロークが-27mmのとき(接地状態から27mm伸びたとき)にタイヤ接地荷重が0kgfになりました。
このときのメインスプリング反力は約70kgfなので、まだダンパーは最大まで伸びていません。
メインスプリングの反力が70kgf、ダンパーガス反力が20kgfもあって、さらにタイヤが地面から浮くためにはバネ下重量35kgfも持ち上げなければならないので、誰かが125kgfの荷重を持ち上げなくてはなりませんが、前述のとおりスタビライザーが持ち上げているため、以前調査したS2000の130型用リアスタビライザーのホイール端バネレートからホイールストロークに対するスタビ反力を計算します。
スタビライザーのホイール端バネレートは約4.6kgf/mm(左右が逆位相時)だったので、ホイールストロークが27mmあると4.6×27=124(kgf) となりスタビライザーが上に持ち上げているということが確認できました。
ここまでの計算で僕の
S2000の後輪がインリフトするときは図1の中央の状態でダンパーは最大まで伸びていない状態ということがわかりました。
次に、インリフト対応として僕の嫌いなヘルパースプリングを追加した状態の計算をしてみます。
ヘルパースプリングの仕様を調べてみると、いろいろ種類があるものの、おおよそバネレートは2kgf/mm、密着ストロークは50mm前後、密着荷重は100kgf前後という仕様であることがわかりました。
そこで今回は以下のヘルパースプリング仕様で計算しました。
バネレート:2kgf/mm
密着ストローク:50mm
密着荷重:100kgf(ホイール端では70kgf)
計算結果:ホイールストロークとタイヤ接地荷重(ヘルパースプリングあり)
今回の計算では偶然にインリフトするホイールストロークでのヘルパースプリング反力とヘルパースプリング密着荷重が同じ値になりました。
つまり、今回のS2000の場合、ヘルパースプリングを入れてもインリフトするまではヘルパースプリングは密着していて、あっても無くても何も変わらないということになります。
インリフトした後もヘルパースプリング反力+ダンパガス反力+バネ下荷重よりもスタビライザー反力の方が大きいので、タイヤは下に落ちてくることはありません。
ヘルパースプリング付けたらたくさん伸びてインリフトしなくなると思って期待しても実際は何も変わらないってことです。
今回の計算条件ではたまたまインリフト時のヘルパースプリング反力が密着荷重と同じになっただけではあるものの、インリフトするFF車輛を見ていると30~50mmくらい浮いていて、インリフトするまでの伸び側ストロークが10mmや20mm伸びたところで解決するとは思えません。
ヘルパースプリングの文句はこのくらいにして、車輛に働く横Gとインリフトの関係について考えることにします。
はじめに過去に僕のS2000で実測したダンパーストロークをホイールストロークに換算した結果を確認します。
図2:S2000 日光サーキット走行データ
さきほどの計算結果から、後輪がインリフトするホイールストロークは27mmということがわかりましたが、実測結果から走行時の伸び側のホイールストロークは19mm程度しかなく、インリフトに対しては余裕があることがわかります。
次にサスストロークの計算式から横Gに対するホイールストロークの計算式を求めます。
サスストロークの計算式
L=L1× (1 + ay・ky + ax・kx) + L0 ・・・式1
ay:前後G、ax:左右G、ky:前後G係数、kx:左右G係数、L0:0Gバネ遊び量、L1:1G縮み量(遊び分を除く)、L:サスストローク
実測結果から伸び側のサスストロークが最大になるときは横Gが最大で、そのときは前後Gが0となっているため式1のay=0、かつバネ遊び量L0を0、レバー比をγとして式1をホイールストロークLwに書き直すと
Lw=L1・γ・(1+ax・kx) ・・・式2
式2から静止接地時からの変化量⊿Lwを求めると
⊿Lw=L1・γ・ax・kx ・・・式3
L1、kxを今回の計算結果に合うようにするとL1=25.17(mm)、kx=0.366となるので、これを式3に代入します。
また、式3に凹凸による伸び分+3mmも計算して結果をグラフ化します。
このグラフを見ると、横G+凹凸分のホイールストロークが後輪がインリフトをするホイールストローク27mmを超えるために必要な横Gが1.82gであることがわかります。
したがって、今日のお題であるS2000の後輪がインリフトする条件は、
横Gが1.82gを超えたときということがわかりました。
一方、この計算とは別に車輛重心とトレッドで決まる内側のタイヤ荷重が0になる条件があるわけですが、重心高を0.45m、トレッドを1.5mで計算すると1.66gになるので、実際は1.66gを超えた時点でインリフトに関係なくタイヤ接地荷重は0になるため、僕のS2000の場合はインリフトについては気にしなくていいということも今回わかりました。