2013年02月09日
またまた文句タレコーナーです。
昨今、気になる表現に”タイヤを潰す”という表現があります。
お手元のレブスピード3月号58ページをご覧ください。
「タイヤを潰して路面に強く押し付けることでグリップが上がる」
と書いてあります。
タイヤのグリップ力F(N)は以前も書いたように、垂直荷重をN(N)、タイヤの摩擦係数をμとすれば
F=μ×N (N)
ですから、確かにタイヤを路面に強く押し付けるとグリップ力は増加します。
がしかし、騙されてはいけません。
誰が下に押し付けているのでしょうか?
ドライバーでしょうか?
ドライバーが頑張ると押し付け力が上がったり下がったりするのでしょうか?
違います。(若干寄与しているけど)
昔イギリスにいたアイザック・ニュートン氏によれば地球とクルマが万有引力によって引っ張られているからだそうです。
地面がないとそのまま地球の中心めがけて落っこちてしまいますが、地面があるので引力の反作用としてタイヤの接地面に荷重がかかるというメカニズムです。
ウソかホントかはわかりませんが、ニュートン氏のこの理論は世界中で正しいとされているので、ここでは正しいことにします。
このときの引力はクルマの質量に比例します。
例えば質量が1350kgのクルマであれば、1350×9.806=13238Nの力が万有引力によって下向きに発生しています。
タイヤは地面からその反対方向の荷重を受けます。これがタイヤにかかる垂直荷重Nです。
つまり、タイヤを路面に押し付ける力は地球上ではほぼ一定なのです。
加減速により荷重移動はしても、4輪の合計に変化はありません。
ドライバーにできることは加減速と旋回によって、4輪の荷重配分を変えることだけです。
一方、タイヤの特性として面圧が高くなると摩擦係数μが小さくなるという特性があります。
荷重移動の結果、タイヤの荷重が増加するとタイヤは潰れますが、荷重の増加率に比べると面積の増加率は遥かに低いので、必ず面圧は上がります。
逆に荷重移動の結果、荷重が減少した側は面圧が下がります。
例えばブレーキング中では、
前輪⇒荷重増加⇒面圧増加⇒摩擦係数減少 ・・・ このときの減少率をa%とします。
後輪⇒荷重減少⇒面圧減少⇒摩擦係数増加 ・・・ このときの増加率をb%とします。
a=bであれば、4輪合計のグリップ力に変化はありません。
しかし実際はa>bなので4輪合計のグリップ力は減少します。
最初に戻って、「タイヤを潰して路面に強く押し付けることでグリップが上がる」について考えると
前輪では正しい
4輪合計では間違い
ということになります。
だからタイヤは荷重移動で潰しちゃいけないんです。
だからレーシングカーは低重心にして荷重移動しないようにするんです。
重心を低くして、ホイールベースを伸ばして、トレッドを広げる。これらは全てタイヤを余計に潰さないようにするための施策です。(それだけが理由ではないと思うけど)
クルマを速く走らせるためには、高い前後加速度、横加速度で走らざるを得ません。
なので、本当は荷重を移動をさせたくないんだけど、止む無く、断腸の想いで荷重移動させてるわけです。その結果、止む無くタイヤが潰れてしまっているのです。
タイヤが潰れている具合を見るといかにも”がんばってグリップしてます”って感じに見えますが、実際には4輪合計のグリップ力は低下しているので見た目に騙されないようにしましょう。
ただし、ジムカーナやタイトターンの多いミニコースでは4輪合計のグリップ力が大きいことよりも向きの変わりやすさの方がタイムアップに繋がるので必ずしも前後荷重移動量は小さい方がいいということはありません。
最後にもうひとつ
同じ58ページに書いてある文章
「コーナー進入で「フロント荷重を掛ける」ことが重要視されるのは、それによってタイヤが路面に押し付けられてグリップが上がるから。するとブレーキングに掛ける時間も短くできる。」
4輪合計のグリップ力が低下してるのに、どうしてブレーキングに掛ける時間が短くなるのかさっぱりわかりません。
それにこの文章を読む限りでは、”フロントに荷重をかけること”と”ブレーキングの強さ”は別の事象であるように表現されています。
でも実際には、ブレーキの強さ(減速の加速度)に比例した荷重移動が発生するので別事象ではありません。
レブスピードの編集者はもう一度物理の教科書を読んで理解した方がいいように思いました。
自動車の運転理論は物理現象の説明なのであって、人の感覚とかイメージで説明してはいけないんです。
こういう雑誌を読むときは注意して読んでください!
Posted at 2013/02/09 19:03:19 | |
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クルマ | 日記
2013年02月09日
最近仕事が忙しく、毎日偏頭痛がします。
さて、今日は荷重移動はどうでもいいの第2回目です。(前回と内容が重複します)
物理や工学の世界では、まず計算をするための準備として単純化という作業をします。
例えばクルマの走行性能を考えるときは、クルマは質量m(kg)の点だったり、慣性モーメントI(kgm2)のかたまりだったりします。
なんでそんなことをするのか?
それは、いろいろ考慮していると事象を理解しずらくなるとともに、計算が複雑になりすぎて計算できなくなってしまうからです。
頭のいい大学教授でも誰でも同じことをしています。
ではサーキット走行をするクルマについて考えるときはどうでしょうか?
クルマを質量m(kg)の点として考えていますでしょうか?
僕は質量m(kg)の点だと思ってます。
なので、僕の作ったサーキットシミュレーションではS2000は1350kgの物体になっていて、これにエンジンパワー(速度毎の加速力)とタイヤのグリップ(前後左右の最大摩擦力)を与えています。
当たり前ですが、点なので前輪とか後輪の概念はありません。
あるのは質量と加速力と前後左右の最大摩擦力だけです。
まずはこのような物体がどのようにしたらサーキットを最速で走行できるかを考えるわけです。
これだけでも相当難しい問題です。
荷重移動なんて概念を持ち出したら難しすぎていつになっても答えはでてきません。
なので、荷重移動はあとから考慮します。
まずは荷重移動のないクルマだったらどういうラインをどういう加減速で走行すれば最速タイムを記録することができるのか?
この問題を解けない人が、さらに荷重移動を考慮してサーキット走行の問題を解くなんて無理です。
足し算がわからない人が連立方程式解こうとしてるくらい無理があります。
話は変わりますが、レーシングカーは重心を低くすることを追求しています。
これはF1に限らずラリーカーでも同じです。
ラリーカーは最低地上高の制約があるので重心を気にしていないように見えるだけで、実際はひたすら重心を下げることを追求しています。
重心は低ければ低いほどいい(正しくはタイヤの接地面と近ければ近いほどいい)
これがレーシングカーの基本です。
重心を低くすると起きること。
それは、”荷重移動量が減少する”です。
つまりレーシングカーデザイナーは荷重移動なんてして欲しくないんです。
荷重移動があると、タイヤ4本が発生できる合計グリップ力が下がります。
だから荷重移動はしない方がいいんです。
なので、タイヤのグリップ力を高くするためには荷重移動をしないように走らなければなりません。
しかし、荷重移動は加減速、旋回によって必ず生じます。
ハミルトンだろうがベッテルだろうがアロンソだろうが誰が運転しても重心に加速度が加わっている間は荷重移動が生じています。
荷重移動という言葉が使われるのは、世の中のクルマが荷重移動ができていないと曲がりづらい(向きが変わりずらい)という特性を持っているからで、荷重移動がないと曲がりずらいクルマになればなるほど荷重移動を意識しながら走らないと速く走れないのは事実です。
したがって荷重移動がどうでもいいわけではありません。
しかし、クルマを点と考えてサーキットを最速で走れるような走行ライン、加減速を与えてあげれば多くのクルマは十分な荷重移動ができているので問題なく曲がってくれるはずです。
むしろ曲がりすぎてスピンしそうになることの方が多いはずです。(まれに曲がらないダメクルマもあります)
本日のまとめ
走行中の荷重移動を意識することは重要。
しかし、サーキットを最速で走る方法を考えるときには荷重移動を考慮しない方がより簡単に答えを得ることができる。
荷重移動はその答えが実現可能かどうかを判断するときに考慮するだけで十分。
Posted at 2013/02/09 13:36:07 | |
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サーキット走行理論 | 日記