

■ 「日本なかりせば」
マハティール氏が1992年10月、香港で開催された、「欧州・東アジア経済フォーラム」での演説だ。
「日本の存在しない、世界を想像してみたらいい。もし、『日本なかりせば』、欧州と米国が世界の工業国を支配していたい違いない」
「欧米が、「基準」と「価格」を決め、欧米だけにしか製造できない製品を買うため、世界中の国はその価格を、押しつけられていただろう」
「貧しい南側諸国が輸出する、原材料価格は、買い手が北側のヨーロッパ諸国だけなので、最低水準に固定。その結果、市場での南側諸国の、立場は弱まる」
「多国籍企業が、安い労働力を求め、南側の国々に投資したのは、日本と競争せざるを得なかったからだ。日本との競争がなければ、南側・開発途上国への、投資や経済発展は無かった」
「日本と、日本の『成功体験』が無ければ、東アジア諸国は模範に、すべきものが無かっただろう。欧州が、開発・完成させた産業分野では、自分たちは太刀打ちできないと、信じ続けていただろう」
「もし、『日本なかりせば』、世界は、全く違う様相を呈していたに違いない。富める北側は、淀み無く富み、貧しい南側は、淀み無く貧しくなっていただろう」
「北側の欧州が、世界を永遠に支配し、マレーシアのような国は、ゴムを育て、スズを掘り、それを富める工業国の顧客の、言い値で売り続けていたに違いない」
冒頭のこの演説から、白人(white manとマハティール氏は記述)の、政府関係者が憤慨して、プンプン顔を赤らげ、退席していったという。
マハティール氏は、アジア通貨危機でも、IMF(国際通貨基金)からの支援申し出を断り、通貨取引を規制した。
欧米諸国やメディアは、「自由市場を冒涜する、無知な指導者」と批判。しかし、のちに、世銀やIMFはマハティール氏の、「固定相場制導入」を評価した。
その後に起こった、ロシア経済危機では、米国の投機家が損失を出すと、米国政府が巨額資金で救済する事態となった。
これを見て、西側諸国は通貨取引安定化のため、監督強化を図った。マハティール氏に、“追随”したわけだ。
民主選挙で選ばれながら、欧米諸国やメディアからは、「独裁者」と叩かれ続けた。しかし、独自の政策でマレーシアを東南アジアの、「ハリマオ(マレー語で『虎』)」に育てたマハティール氏を、「鉄の女」マーガレット・サッチャー元英国首相は、「アジアの歴史を最も、代表する宰相」に挙げた。
首相に返り咲いた、マハティール氏は中国に続き、今回の西側への外遊で再び、大国に「耳の痛い訓示」を浴びせるだろう。
「マハティールなかりせば」
国際社会でのアジアのプレゼンスは、今よりはるかに弱いものに、なっていたのではないだろうか。
(取材・文 末永 恵)

末永 恵 2018/09/21 06:00 (一部抜粋)
Posted at 2018/09/21 14:24:21 | |
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