
鉄と鋼と鋳鉄。
>この違いを知っていると価値が上がる。
ネットを徘徊するとスチールとクロモリが全く別の様に表記されている事に違和感。生まれは一緒なんだけど育ちが違うイメージである。使い方次第では同じになってしまいますし、特性を理解して使用すると全く違う性能となる訳である。
スチールとは鋼であり、鋼とは鉄を主成分とした合金である。日常の生活の中で何気なく鉄と呼んでいる物質の殆どは正確には鋼であり何かしら別の成分を含む合金と云う事が殆どである。
『スチール=鉄』と思っている方が大多数かと思いますが、先に記載しましたがスチールとは鋼の事を示し、鉄とは区別しております。しかし、『それは鉄ではなく正しくは鋼だ。』っと云っても目に見えない事象を素人に云ったところで変人扱いされるのは必須なので、限りなく不純物が無いFeのみの物質は識別の為に純鉄と呼んでおります。限りなく純度の高い金を純金と呼ぶのと一緒の感覚である。
よって、日常生活で鉄と呼んでいる殆どの物質を正確に表現するとスチールは鋼であり、鉄と炭素の合金の事になる。では、クロモリはどんな物質かと云うと、焼入性を向上させる為に鉄と炭素の合金に添加物を入れた物がクロモリである。
五大元素のみの合金は普通鋼と呼ばれ、普通鋼の中に特殊元素を入れて特殊な性質を示す鋼を特殊鋼と云います。しかし、JISでは熱処理で分けている様な気がして仕方ない。五大元素のみの炭素鋼や工具鋼を特殊鋼に分類しているんですよね。学術と規格に相違があるから初歩的な部分で戸惑う人が多いと思うのだが、人それぞれで呼びたい様に好き勝手にやっているのが鉄鋼の世界である。
以前から自転車のフレームや自動車のロールケージの記事を徘徊すると、どちらが良いのか論点が『スチールは重く、クロモリは軽い。』となっている事が多い。私の考えでは重要な事は鋼管径や肉厚ではなく、見た目では判別できない機械的性質を考慮しているかであり、その点が鋼管の世界はどうなっているかが気になっている。
更に調べるとロールケージはと或るレギュレーションで最低引張強さが350N/mm2となっているので、通常、スチールと呼ばれている機械構造用炭素鋼鋼管の場合はSTKM13○-SCを採用いるメーカーが多い。○部分にはアルファベットのA~Cが入り、その意味は機械的性質の分類である。JISを調べるとAは引張強さが370N/mm2以上でBは440N/mm2以上、Cは510N/mm2以上であるので、STKM13以上を使えばレギュレーションはクリアーすると云う事になる。(※STKM12Aは340N/mm2以上なので、レギュレーションをクリアーするには390N/mm2以上のSTKM12Bを使う必要があり。)
通称、クロモリと呼ばれている機械構造用合金鋼鋼管の場合はネットを調べてみるとロールケージの材料としてはSCM430TKが多いみたいだ。こちらの材料はJISには機械的性質が書かれていないがそれは当然の事である。なぜなら、熱処理をする事が前提の材料なので鉄鋼メーカーから購入した材料をそのままユーザーが使う事は考えておらず、求める機械的性質にユーザーが熱処理でチューニングする事が前提だからである。
※以下、ロールケージを示す機械構造用炭素鋼鋼管の事をスチールと記載し、機械構造用合金鋼鋼管の事をクロモリと記載します。その方が馴染み深いと思いますから…。
そこで疑問なのが、ロールケージが機械的性質を考慮されて作られているかである。クロモリの方が強度があり鋼管を肉薄に出来るから軽いとされているが、どれだけネットを調べてもロールケージの機械的性質の関して記載されている文章に辿り着かないので、本当にスチールとクロモリで同じ機械的性質で作られているのかと云う事に興味が沸いてきた訳である。
自分は鋼管の扱いが無いので、鉄鋼としてしか考える事が出来ませんが、通常、鉄鋼メーカーから圧延されてきた材料は経験値的に引張強度は500N/mm2程度かと思います。この時点ではスチールであろうがクロモリであろうが差は殆どありません。クロモリの方が強いと云われる方もいるかとは思いますが、スチールとクロモリで差が出るのは熱処理であり、しかも、機械的性質ではなく焼入れ性に大きな差が発生するのである。
スチールもクロモリも硬さが同じになるように熱処理した場合は、引張強さ等の機械的性質に大きな違いは発生しません。大きな違いは焼入性です。焼入性は機械的性質ではなくどれだけ深く焼きが入るかを示します。クロモリは添加物をわざわざ入れた理由は大きな物を深くまで焼きを入れる為です。なので、以前から云う様に熱処理しなければクロモリを使う必要は無く、同等の炭素含有量の炭素鋼で十分なのです。
よって、もしどちらも熱処理をせずにロールケージが作られているのであれば機械的性質は同等と云う事になり、肉薄にしているクロモリの方が当然ですが強度が低いと云う事になります。
JISを確認すると機械構造用合金鋼鋼管には注文者は焼きなまし以外の適切な熱処理を指定しても良いと、そして、機械構造用炭素鋼鋼管には必要な場合には管に適切な熱処理を施しても良いと記載されている。要するに寸法や公差等の規格は決められているが機械的性質は基本的にはユーザーが決める事と云うのがJISスタンスであるし、用途に合わせて機械的性質を合わせるのがエンジニアのお仕事なのである。
では、STKM13を焼入焼戻している可能性を考えてみる。JISで化学成分の規格を確認すると炭素量が0.25%以下であった。先ず、私個人的には0.30%以下の炭素量を焼入焼戻する事はできない事は無いが邪道だと考えている。それの説明は二元状態図を用いてしなくてはならないので省略するが、普通は焼入焼戻をやらない。そして、『以下』と云う規格が曲者である。コレは炭素量が0.20%でも0.12%でも、そんな事は在り得ないが極端な事を云えば0%でも良いと云う事である。炭素量が一定の水準が保証されない材料に焼入焼戻をしたところで、いつも同じ機械的性質を得る事はできません。機械的性質は炭素量によって殆ど決まるからである。よって、普通のエンジニアであればSTKM13には焼入焼戻は施さない事になる。
そうなると、世間一般でスチールとクロモリを比較するとクロモリの方が強度があり肉薄に出来るので軽量化可能と云う方程式は成り立たない訳である。もしかしたら、クロモリに熱処理を施して強度を上げているのかもしれないが、どのメーカーのHPを見てもCrとMnを添加すると強度が1.5倍になるとか云う記載しか見当たらないので、もしかして機械構造用合金鋼鋼管の事を勘違いしているのではと思ってます。何度も記載しますがクロモリの強度は熱処理と云う味付け次第なのである。
ロールケージは乗員保護の安全性向上以外に、補強部品として車体剛性向上の意味合いもある訳なので、もしかしたらプロ世界では常識なのかもしれないがセッティングの一部として機械的性質を変えても良いのではと思う。一辺倒に強度が上がりましたと云っても、車の走るステージやパワー、運転手の力量が違う訳であり、しなやかに曲がる車が欲しいから少し柔らかめのロールケージを装着するとか、力でねじ伏せるから物凄く硬いロールケージが欲しいとかそう云う視点で考えるのも、きっと面白いですよね。
自分がエンジニアとしてロールケージを考えた場合、材料はどの様な選択をするかを考えてみる。但し、鋼管の扱いは無いので鋼管での考え方としては常識外のかもしれません。材料は炭素量が0.30%前後で規格幅が明記されているSTKM15をチョイス。機械構造用合金鋼管をチョイスしなかった理由は肉厚が2mm以下なので合金鋼を選択しなくても焼きは十分に入るのかと思ったからである。更に合金鋼よりも炭素鋼の方がコストが安くなる。炭素量を更に多く含んだSTKM16かSTKM17でも硬さをSTKM15以上に出来るし同等にもできると云う視点では良いのだが、硬さや引張強さが同じでも炭素量が違うと疲労強度、耐衝撃が違ってくるので為、自動車の補強部品と云う特性上、振動や衝撃が加わる事を考慮して炭素量は低めに抑えたい。また、溶接の事も考えると溶接で焼きが入る事を防ぐ為に炭素量は0.30%以下に抑えたいと云う狙いでSTKM15と云う考えに至った次第である。
ここまで熱弁して、自分の車にロールケージを装着するかと云われるとする事は無いでしょう。では、何故に記載してみたのかと云うとエンジニアとして自分の範疇の以外の事を考えるのも面白いからである。
それにしても、市販のロールケージが気になってきたぞ。調べたいからロールケージの鋼管を10mm角で誰か切出させてくれないかな(笑)。残念ながら私の周りにはロールケージを装着している人が居ないんですよね。
そして最後となりますが、この内容は私の机上の空論で考えたので間違いがあるかもしれません事をご了承下さい。机上の空論なので上記内容を実際に何かしらに使用して不具合が生じても私は一切責任を負えません。飽くまで一個人の妄想的ブログのネタとしてお付き合い下さい。
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車考察 | 日記
Posted at
2016/06/10 23:38:49