君の笑顔が見たくてあげた
シロツメクサの花かんむり
「さりげなく違和感マナーオブパスタ」
私は今、手記を書いている。
若かりし新卒で入った会社を立派に定年まで勤め上げた今、気が付いてみれば、パートに出る妻を朝8時に見送った後は近所のスーパーまで散歩し、家に帰れば金魚を眺めて過ごす毎日。そんな何も起きない日も多い中、何かあった時は忘れないように手記に書き留めておくわけだ。手記を書くことが、これからの豊かな人生の起点になることを期待して。
そういえば、この手記を書き始めてから一年以上が経つな。書いてばかりでは面白くないから、これまでの手記を少し振り返るとするか。と言っても、普段と変わった出来事なんて月に一度あるかないかだからページ数にするとさほどでもない。だいたい14ページくらいか。
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今日は記念すべき日だ。これといって趣味の無い私は、定年で仕事から離れてからというもの時間とお金を持て余していた。だが今日からは違う。今がまさにそうだ。この日記...いや、手記と呼んだほうが大人っぽい響きだな。そう、私は手記を書くことを始める。何も起きない毎日だが、手記に残そうと思うと普段気にも留めないことでも、なぜか光って見える。こんなに素晴らしいことをなぜもっと早く始めなかったのか。あぁ素晴らしい。私の人生は、ここからが始まりかも知れない。大げさに言えば、第二の人生の始まりだ。
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手記を書き始めたことを思い切って妻に伝えた。「へぇ」という返事を妻はくれた。これまで妻の顔色をうかがってばかりいた私だったが、これからはもっと自由に生きようと思う。そう思えるようになったのもこの手記のおかげだ。昨日も書いたが、なんて素晴らしいんだ手記というのは。
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手記を書くと決めてからはやひと月が過ぎた。想像以上に何も起きなさすぎる毎日に、私は驚きを隠せないでいる。ちなみに今日も何も起きてはいないが、手記を書きたい衝動が強すぎて我慢できずにペンを手にとってしまった。当然だが、書くことは何も無い。
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今日も何も起きてはいないが、私はノートに向かっている。今日の天気は晴れだった。それ以外、書くことは何も無い。
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庭のチューリップがきれいだった。
...ただ、それだけ。
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これまでの手記が壮絶な無駄に感じるくらいに、今日は思わぬ事が起きた。何かが起きれば手記に書き留めるという、基本であり本来の流れを忘れてしまっていたくらいだ。ペンが踊るようにノートの上を走りだす。スラスラと書くとはこのことを言うのだろう、1ページだけでは足りないような気がしてきたが、とりあえず書き進めてみることにしよう。
今日のお昼時、妻が、ぎょうざを焦がした。
妻はフライパンを犯罪者呼ばわりしていたようだが、とにかく部屋中が焦げ臭くなった。しかしだ、妻よありがとう。ぎょうざを焦がしてくれてありがとう。今の私は心の底から感謝できる。今こうして手記を書けているのは、今日に限っては紛れもなく妻のおかげだ。やはり素晴らしい、手記というのは素晴らしい。妻よ、これからも焦がしてくれて構わない。
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あの手記の喜びから二日が経った。私の今の気分は、興奮冷めやらぬといった感じだ。何も起きない日常を良しとする考えを私は否定しない。だが、手記という術があるのならば、何が起きても怖くはない。そう思う。
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あの喜びをもう一度。...喜びが欲しい。今日も何も起きなかった。そして、何も起きなかったことをこうして書いてしまっている。なんという無駄か。
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最近分かったことがある。事というのは探しても見つからないものだということ。自然に事が起きるのをただひたすらに待つしかないのだ。手記を書き始めてから半年。手記というのは実に奥が深い。
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何も起きない日が続く。私が勝手に決めた手記ルールからは反するが、何も起きないということを書いている。そうでもしないと一向にノートが埋まりそうにない。いかんな。ノートを埋めることが目的のようになってしまっていて、このように無駄を繰り返してしまっている。これからの人生を豊かにするために始めた手記だったが、無駄を繰り返してしまっている自分が嫌になりそうだ。これを本末転倒と言う。
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昨日はお酒を飲み過ぎたせいか、ネガティブな手記を書いてしまった。大いに反省だ。しかし愚痴をこぼしたことで、少しだけだが人生の本質に迫れたような気がする。今日はもう遅いからこのことを書くのはまたいつかの機会にしよう。寝るのも手記のためには良いことかも知れない。
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今日は記念すべき日だ。手記を書き始めて丸一年が経つ。ほとんど真っ白なノートを見ても分かるように、この一年本当に何も起きなかった。何もだ。それでも今こうしているように、私のこの一年は手記と共にあった。誰も気づいてはいないが、手記が私の人生を華やかに彩ってくれていた。ありがとう。そしてこれからもよろしく、手記。
今日の夕飯は肉無しカレーライスだった。
肉がなんだい。野菜上等。
妻が作るカレーライスは絶品だ。
こんなことしか書けなくてすまん、手記よ。
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リビングのソファに座ってコーヒーを飲んでいた昼下がり、部屋に漂う香ばし過ぎるカレーの匂いに私の鼻は敏感に即座に反応した。後ろを振り返ると、妻が照れくさそうに苦笑いをしている。私は笑みがこぼれるのを必死に我慢し、さも心配そうな顔を装いながら内心こう思った。
『やりよったな!妻よ!久しぶりにきた!半年ぶりにきた!頭の中はもうすでに手記の1ページが焦げカレーテキストで満載だ!この時を待ってた!期待を裏切らないところがさすがだ妻よ!こんなことなら朝からテンション爆上げしておけばよかった!ははあー!!今日の夕飯の心配より手記を書ける楽しみが勝っててすごい!待っててくれよ手記!今日は何も起きない日じゃなかった!書いてるのが焦げた話ばかりかも知れないが私は気にしない!手記の喜びは書くことにある!という訳で最後に言わせてくれ!妻よ、ありがとう!』
夕飯は久しぶりに妻と外食へ。
フォークとスプーンを上手に使って、
海老トマトクリームパスタを食べる妻。
妻が食べる姿を眺めては、
スプーンを持つ手が止まる私。
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あの手記の喜びに酔いしれた夜から一か月が経とうとしている。もちろん今日も何も起きてはいない。それでも今日は、どうしても書きたいことがある。
毎日、何も起きていないと思っていた。
しかし、違った。
特別な事ではなく、
“おはよう”、“おかえり”の言葉とか、
一緒にご飯を食べる時間とか。
いつもとなりには妻がいて、
私の人生はそれだけで豊かになっていた。
焦がし気味なところはあるけれど、
妻よ、愛している。
あ、ロンパメです。
同窓会に行った時にこの手記の話を大手出版社のマーケティング部に勤める親友につい話しちゃったら小賢しいその友人が『手記が定年後の人生を豊かにする』っていう謳い文句で『手記に最適!B5サイズリングノート』を各地の文房具屋でターゲットである高年齢層に売りまくった結果センシティブワード盛り盛りで誰得不毛すぎる手記が大量に誕生しちゃってその手記という手記が軒並みパンドラの箱行きで決定していそうでしたが、先日は誰もいない街に行ってきました。
この場所は問屋町で、この日はお休みだったようです。
厳密に言うと誰かがいたのかも知れませんが、わたしには見えませんでした。なので、クル活スポットとしてはすっごくいい場所でした。で、まずはそんなクル活民憧れの愛車がとにかく映える誰もいない街感をしろデミちゃんと一緒にご覧いただきましょう。
それってこんな感じかも!
(ほほぅ確かに)
映えて上等どんなもんだい。
(いや誰も憧れない言い回しだな)
証拠はあがっている。
(そろそろ観念するか)
エビデンスがとにかくすごい。
(ん?エビデンス?何それおいしいの?)
さて、そんな街でしろデミちゃんは、誰もいないのをいいことに暴れまわっていました。あ、「暴れまわる」と言うと語弊がありそうなので言い直します。しろデミちゃんはキレッキレッにかわいくまわっていました。(謎行動)
こんな風にね!
(どんな風よ)
かわいさがキレッキレッ!
(かわいさだけは分かる)
証拠はあがっている。
(ん?)
だってかわいいんだもーん!!
(なんとぉー!!)
“100点満点中3点の時もある
でも愛おしさはいつだって100点満点”
不変の真理が今目の前に。
やっぱりしろデミちゃんはかわいいです。
ロンパメバーグ
Posted at 2024/06/09 11:32:05 | |
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