
大みそかに食べる鍋焼きうどん
そっとごはんを入れたらおじやうどん
「電話番号教えて」
「あ、もう5時半か...」
決まって夕方の5時半になると彼はここへやってきて、決まった席に座り参考書とノートを広げ時々ケータイを開いてはメールを打つような素振りを見せた。
......
ここは出実市立図書館。高校を卒業したわたしは県外の大学で司書資格を取って、地元の出実市にもどってこの図書館に就職した。
わたしが生まれ育ったこの出実市は人口4万人ほどの小さな町で、取り立てて何か言うこともパッとは思いつかないくらいの普通の町。本当に普通。いわゆる地方の田舎で、車が無いと生きていけなくて、近所のスーパーで買い物してるとだいたい知り合いに会ったり、あの子とあの子が付き合ってるなんて噂はすぐに広がったりで、とにかく狭い。
この図書館で働きはじめて8か月。名前こそまだ知らない人が多いけれど、ここに訪れる人はだいたいが同じ顔ぶれだから嫌でも顔は覚えてしまう。
例えば、
新聞を読みに来るのが日課の白髪のおじいさん。
書棚の前でパラパラと立ち読みしてすぐに帰るスーツを着た若い男の人。
『2003年最新版!これがエクセル関数マスターへの近道だ!』を毎週熱心に読んで勉強する眼鏡をかけたおにいさん。
本を読むフリして椅子に座ってうたた寝する髪の毛をパープルに染めたおばあさん。
日々の家事の疲れが顔に出ながらも子どもに絵本を読み聞かせるおかあさん。
「これほんとに全部ちゃんと読んでる?」と疑わざるを得ないほどに三日に1回という激速ペースで10冊ずつ借りていく中学生らしき女の子。
そして、決まって夕方の5時半になるとやってきて決まった席で参考書とノートを広げながらケータイばかり気にしてケータイを開いたり折りたたんだりを繰り返す男子高校生。
......
2003年11月25日火曜日午後6時45分。人気もなく静まり返る閉館間際の図書館。とぼとぼと残務処理をこなしていたわたしに向かって、夕方5時半のケータイ好き男子高校生の彼がカウンター越しに話しかけてきた。
『ねえおねえさん、ここって充電できる?』
「え?...充電...ですか?」
『そ、充電』
「充電は...ダメです」
『えー?!ケータイ残り1メモでかなヤバなんだって!』
「1メモリでも0メモリでも関係ありません」
『え~なんでなんで~別にいいじゃーん』
「...図書館のルールなので」
『ほらほら誰も見てないし、ね?』
「私物ケータイの充電なんてもってのほかです」
『10分!...いや、5分でかまわんのだ!」
「5分でも1秒でもダメなものはダメ」
『そこをなんとかおねえさま!』
「...」
『おねえさんってさ~きれいな肌してんね』
「...」
『指も細くてシュッとしててさ』
「...」
『理想の女の人って感じだわー』
「おだてても無駄」
『...ちぇ』
「家に帰って充電すればいいでしょう」
『...家...ね』
ルールールルールールルーファー
キーンコーンカーンコーン
「さ、閉館の時間よ」
『...いま何時?』
「もうすぐ7時」
『...そっか』
「あなた家近いの?」
『おねえさんのケータイ赤外線いける?』
「え?赤道直下?...ん?ここは日本よ?」
『あは、何それイミフじゃん』
「え?クリスマスイブ?...ん?まだ11月よ?」
『おねえさんってもしか不思議系?』
「え?...鹿?!鹿がいるの?!どこ!どこよ?!」
『...ブレないねおねえさん』
「...ちょっと鹿なんていないよ?悪い冗談ね」
『...あっははは!』
「こら、年上をからかわないの」
『勝手に暴走してんじゃんマジウケる」
「ほら笑ってないで早く帰りなさい」
『ごめ...あっはは...おなかいた...はははっ』
「もう...あなた...名前は?」
『シロミだけど名前もだけどさそれよりさ』
「なに?」
『...おねえさん、メアド交換しよ?』
......
翌朝、彼からメールが届いた。
わたしは子どもの頃から人付き合いがあまり得意ではなく、友人と呼べる人はいない。基本ひとりでの行動だし、ケータイは持っているけど電話はかかってこないし、ましてやメールなんてものは縁遠い存在で、わたしの人生においては不要だと思ってた。
彼からのメール。
言い方が適当か分からないけど、正直ときめいた。
わたしは、慣れない手つきで文章を打ってみた。
「...あれっ?!」
メールって...メールってなんて難しいんだ。
左手の親指にどれだけ心をこめても、テンキーで打った文字にはわたしの気持ちがまったく乗ってこない。『おはよう』のあいさつの言葉でさえ無機的で味気なく、朝から全然楽しくない感じに映ってしまう。
「そんなつもりじゃないのに」
メールアドレスを交換しただけなのに、誰とも分からない男子高校生に返信するだけなのに、このときめきを届けたいとなぜか強く願っている。誰か教えてほしい、このときめきを彼に届ける方法を。
「...そういえば」
わたしはハッとして、彼から届いたメールを見返した。彼のメールは文章の終わりにいろいろな記号を並べたり、音符記号が並べてある。これが最初に見たときからなんとなく感じていたいい意味での違和感の正体だった。
音符記号があるだけで楽しい気分が伝わってくるし、なにより相手からの好意を感じられる。それによくよく見ていると、並べられた記号が笑っている人の顔に見えてきた。
「これならわたしも...」
...と意気込んだものの、顔の作り方が分からなかった。『わ』のキーを数回押すと記号が出てくるけど、これだけじゃ到底顔にはたどり着けなさそう。でもあきらめずにやんややんやと頑張っていたら、奇跡的にわたしの親指が正解に導いてくれた。
「...あった」
画面右下に『メニュー』というのがあって、それを展開するとわざわざ自分で打つ必要もなくいろいろな種類の『顔文字』が選択できるようになるという神のような仕様だった。笑っている顔、泣いている顔、困っている顔、変な顔。いろいろあって楽しいし、これならわたしのこのときめきを表現できる気がして早速挑戦してみた。
「あっ!やば?!...あっぶな...」
このときめきを届けたい想いを乗せた左手の親指が暴走して、あやうくこの幼稚でイタい文章を送信してしまうところだった。
たぶんわたしの方が4歳は年上だし、昨日初めて話しただけだし、メールアドレスを交換しただけだし、ただの...友達...だし...。
「変なわたし...」
結局、わたしの持てる語彙力の引き出しを片っ端から開けてケータイに向かうことそれから約1時間。メール経験値が極貧なわたしにとってはそれはそれは酷なことだったけど、文字を入力しては削除してを繰り返しながらどうにか返信の文章をひねり出した。
わたしのメール免疫の無さを差し引いても、この一文に捧げた時間というのはあまりに長くそして、あまりにも尊い気がした。それでも彼からのメールに対するわたしの想いが、メールという文明的な手段で無事に届けることが出来たわけだし、わたしってやればできるんじゃないかとも思えてホッとした。送った文面が少しそっけないかなと悩んだりもしたけど、昨日の今日だから鹿がまだ付近をうろついている可能性をどうしても捨てきれなくて。ごめん。
......
その日の夕方5時半。
(バーコードリーダーの音)
ピッ
ピッ
ピッ
ピッピッ、ピッ、ピッピッ
ピピッ!ピッピッ、ピッピッ
ピッピ、ピッピ、ピッピ
「あっ...」
バーコードリーダーを持って本に貼られたバーコードシールを読み取っていた手が止まった。いつもの夕方5時半、いつもの光景、いつものケータイ好き男子高校生...なんだけど。これまではこの図書館に訪れる大勢の中のひとりに過ぎなかったのに、今はわたしの知っている人。その彼とメールという形でつながっていると思うとなんだか急に照れてきた。
気づけばわたしは、いつもの席に座る彼を見つめていた。
今まで意識してなかったから気づかなかったけど、あの制服は出実高校の制服。身長は170cmくらいで細身。そして、直観的に3年生だと思った。彼の雰囲気、たたずまい、ケータイを扱う手、柔らかそうな髪、真面目な瞳、あたたかそうな唇、そして耳ざわりのいい声。また...声が聴きたい。
『...ちゃん』
『...ちゃん?ねえちょっと』
『...ちゃん?聞こえてるかい?おーい』
「......えっ!あっはい!すみません!」
『大丈夫?時間だからあたしゃ帰るよ?』
「あ、ですね、満津田さんお疲れ様です!」
『なに、なんかあった?』
「あ、いえ、その...あの子いつもいるなって」
『ああ、あの子かい』
「知ってるんですか?満津田さん」
『噂で聞いただけだよ』
「噂...どんな?」
『親戚の家を転々としてるらしいんだわ』
「転々?突撃隣の晩ごはんってことですか?」
『ん?突撃?あんた何言ってんだい?』
「あ、側転しながら親戚回りってことか」
『...ブレないねあんた』
「ありがとうございます」
『いや別に褒めてな...まあとにかく』
「とにかく?」
『家にいられない事情があるってことだよ』
「...それで充電...そうだったんですね...」
......
あれから約一週間、彼からのメールは毎朝届いていた。内容こそいつも変わらず『おねえさん、おはよー』だけど、わたしのこのときめきを進展させるには十分すぎるほどのメッセージだった。メールの送信はいつも彼から。だから明日の朝は、わたしが先にメールを送って驚かせようと思った。
12月1日月曜日午前5時。メールの文章を考えるのに時間がかかるだろうし、なにより彼に先を越されてはなるまいと思って朝早く起きた。
エアコンの温かい風が部屋を舞い始めた頃、沸かしたお湯でドリップコーヒーを。こんなに気持ちのいい朝は初めてかも知れない。部屋が暖かいからでもなく、コーヒーがおいしいからでもなく、今のわたしの心がそう思わせている。
だって今わたしは...恋をしている。
もうとっくに自分では気づいていたんだと思う。でも気づかないふりをしてた。理性と言うと大げさで、照れ隠しと言うと幼稚かも知れない。彼は年下だし...というか高校生だし、年齢も見た目も彼とは釣り合わないから。告白だとか付き合うだとかなんて絶対ありえないだろうから。
だけど、独りよがりだとしても、彼に伝わらないとしても、密かに想い続けたい。想うだけでわたしは輝けると思うから。
ケータイを片手にそんなことをぼんやりと考えていたら、いつの間にか文章が出来上がっていた。
親指が勝手に動いたとはいえなかなか悪くない文面でござるなとわたしは感心してコーヒーを口にし
「あっつ...やけどし...きゃあああああっ!」
「そ...そうしん...したの...?!」
朝の5時半。朝の5時半だ。そう、朝の5時半にわたしは彼にメールを送ったのだ。それだけじゃない、『びっくりしたかな?』などという朝の5時半から送られたら間違いなく誰でもびっくりするようなふざけた文章のメールをわたしは朝の5時半に彼に送ってしまったのだ。
「う...これは終わった...かも知れない」
早すぎる朝に起きた、早すぎる恋の終わりの予感。メールひとつで一喜一憂してもしょうがないのは分かっていたけど、これをひっくり返せるような自信をわたしは持ち合わせていない。図書館は休館日だから彼に会って謝ることも出来ないし、謝罪メールを今即座に送ってしまってはそれこそ本当に『朝5時半の女』になってしまう。
「...今までありがとう、そしてごめん」
わたしは最後の言葉を想像の中の彼に伝えて、ケータイを手に、イスに座ったままうなだれた。
......
ピピピピッ ピピピピッ
ケータイが鳴った音でわたしは目を覚ました。ショックのあまりイスに座ったまま寝てしまっていたらしい。時間は...午前6時45分。ケータイを開いて、開ききらない目でケータイの画面を見た。
「返信来た...彼から...」
いつもならワクワクとして開くメール画面も、今は開くのが怖い。迷惑をかけたのは分かってる。だって朝の5時半にメールなんておかしいもんね...。『重い』って思われてもおかしくないよね。怖い...彼からのメールがこんなだったらどうしよう...。
- 想像の中のメール -
「む...無理...これはたえられん」
想像しただけで胸が締め付けられるような気分になった。でも、ネガティブな思考に支配されながらも、左手の親指は震えながらもメール画面を開こうとしている。...そう、浮かれていたわたしが悪いの。彼はちっとも悪くない。...うん、遅かれ早かれこうなる運命だったと思って、すべてを受け入れよう。そう開き直ったわたしは、目を細めながらメール画面を開いた。
「...う...うっ...うぅっ...」
わたしは、泣いていた。
......
翌日。図書館の敷地内にある樹木にクリスマスイルミネーションが飾られて、噴水のそばにはツリーも置かれた。地元団体の『わっしょいわっしょい地域盛り上げ隊』のみなさんが、毎年この時期になるとクリスマスの飾りつけをしてくれているらしい。夕暮れ時、青と白のか細くまばゆい光が窓ガラス越しに本を照らしていく。チラチラと揺れるその光はわたしのこのときめきと同じで、まるでワルツを踊る妖精のようだった。分かりやすく言うと、サンバを踊るイケイケレディのようだった。もっと分かりやすく言うと、カチューシャアレンジに合わせてタオルを全力で振り回して踊るロッテ神応援団のようだった。
夕方の5時半。約束通り彼はやってきて、いつもの決まった席に座って参考書とノートを広げた。
ピッ...
ピッ...
ピッ...
ピッ...
バーコードリーダーでバーコードを読み取る音が館内に静かに響く。冬の夕方5時半は外も暗いし帰る人も多い。満津田さんが帰宅した後、しばらくしてわたしはパソコンに向かって残務処理をし始めた。
......
『おねえさん』
「...!」
『あれ?おねえさん?』
彼の声はもちろん聞こえてたけど、わたしは恥ずかしさのあまり一瞬固まってしまって彼の方を向けなかった。
『え?聞こえてる?』
「...はい聞こえてますよ」
『なんだ聞こえてんじゃんか』
「ケータイ...充電したいの?」
『充電?いや今日は...んーだいじょぶかな』
「内緒にするから...ここでしたら?充電」
『いやだから今日は大丈夫だってば」
「無理しないで、いろいろ大変なんでしょ?」
『え?大変?なにが?』
「だって...晩ごはんが隣に突撃してるって...」
『ん?晩ごはん?...は?』
「だって...親戚が側転回りしてるって...」
『は?そくてん?何それ?』
「だって...家にいられない事情があるって...」
『は?何おねえさんまた不思議系?』
くっ...満津田さんめ適当なことを言いおって!
満津田さんはうそをついていた。
「ごめん、やっぱり何でもない」
『それよりおねえさんさ』
「はい何でしょう」
『25日クリスマスの日なんだけどさ』
「え?くす玉?式典でもやるの?」
『...やっぱりおねえさんブレないね』
「そ...そう?...ありがとう」
『照れるとこじゃないんだけど、じゃなくて』
「えっ!...そんな急に言われても...」
『いやまだ何も言ってない』
「あっ、ごめん、ちょっと妄想がはかどって」
『25日の夜、空いてる?』
「えっ...」
『夜、どう?空いてる?』
「...仕事のあとなら空いてる」
『......』
「あれ?」
『...よっしゃー!!!』
「わぁ!びっくりした!急におっきな声!」
『ごめんごめん!じゃあ夜にここで約束!』
高校を卒業してから、わたしのクリスマスはいつもひとりだった。でも、ひとりが切ないとか悲しいなんて思ったことは無くて。コンビニで買ったケーキを食べてそれで満足出来てた気がするし...イルミネーションが飾られた街路樹なんて見向きもしなかったし...でも...街路樹の下を誰かと手をつないで歩きたかったな...。
約束...か。思い返せばばこの4年間、誰かと約束したなんてこと無かったな。
『わたしは誰にも求められないし、誰も求めない』
誰に命令されたわけでもないけど、そんな風に自分で自分を決めつけて生きてきてしまった。なんでだろう...自分に自信が無かったからなのかも知れないし、そう考えてる方が楽だったからなのかも知れない。
図書館を出ていく彼の背中を目で追いながら、わたしはつぶやいた。
「シロミくん、わたし...変わりたい」
......
12月25日木曜日午後6時45分。いつものように残務処理を終えたわたしは、いつものように閉館の準備を進めていた。チラチラと揺れるイルミネーションの光が、新しいわたしにとっての初めてのクリスマスを祝福してくれているように見えた。
もうすぐ閉館の時間。そして約束の時間。世の中の男女は毎年来るクリスマスをこんな気持ちで過ごしているのかな。楽しみな気持ちと緊張とが入り交じってそわそわと落ち着かない。深呼吸をして、今朝の彼からのメールを読み返してみた。
「...シロミくん」
それから、わたしが彼に返信したメールも読み返してみた。
「これは...やってしまった...かも...」
情報過多もさることながら、『恋は盲目』というありふれた言葉ではフォロー出来ないほどの『誰が見てもシンプルにうざいメール』が誕生していた。...せっかく『朝5時半の女』は回避出来たのに。きっと約束の日が近づくにつれて、自分でも知らないうちにテンションが変な風に盛り上がってしまっていたんだと思う。
「え...わたしの独りよがりなの?」
わたしは急に不安になってきた。メールひとつで一喜一憂してもしょうがないと何度言い聞かせても、彼がいなくなってしまうんじゃないか、結局いつものクリスマスになってしまうんじゃないかという不安に心が支配されてしまう。
「だめ、信じて...自分を...彼を...」
恋を認めた自分、変わりたいと願った自分。それをわたしが信じなくてどうするの。それに、変なメールを送っておいてこんなこと言うのもおかしいけど、彼はメールひとつで一喜一憂するようなひとじゃない。約束を破るようなひとじゃない。絶対に彼は来てくれるはず。そう、信じるの。
ルールールルールールルーファー
キーンコーンカーンコーン
わたしは戸締りをして、通用口から外へ出て正面玄関へと向かった。
......
やっぱり外は寒い。コートのボタンを閉め、長めのマフラーを首に巻いて、イルミネーションの小さな明かりを頼りにとぼとぼと歩いた。クリスマスとはいえ、こんな田舎の図書館のさほど豪華でもないイルミネーションをこんなに寒い夜にわざわざ見に来る人はいないみたいで、辺りは静まり返っている。
恋って...
こんなにも苦しいものなんだ...
彼のことを考えると、
好きの気持ちがあふれてきて
そのたび胸が強く締め付けられる
今わたし、すごく幸せなの
だって、誰かに求められる喜びを知ったから
誰かを求める自分に気付けたから
でもこのまま彼に会ってしまうと、
今が終わってしまいそうな気がする
今が過去になってしまうのが...つらい
正面玄関までのたったの50メートルのあいだに、何度も立ち尽くしそして、震える胸を何度も手で抑えつけていた。
「だめね...」
そう、過去になることを恐れちゃだめ。今を過去に出来るから人は変われるんだ。わたしは自分にそう言い聞かせ、正面玄関に向かってまた歩き出した。
「あっ...」
正面玄関近くのベンチに座っている彼を見つけたその瞬間、安堵と嬉しさと期待と緊張が一気に全身を駆け巡る。もう立っていられないほどの感情のままわたしは立ち止った。彼はまだわたしに気付いていないのか、ケータイの画面を見つめている。手が届かないくらいの彼との距離だけど、わたしと彼はクリスマスに会う約束をして、こうして今ここにいる。そう思うだけでわたしは泣きそうになった。
「あの...ごめん」
イルミネーションの光がわたしと彼の距離を埋めるように注がれ、彼が顔を上げ、目が合ったそのとき、わたしは新しいわたしへと変わった。
「約束...その...鹿は無事に...」
緊張のあまり、頭の中で言葉選びがうまく出来ないまま勝手に口から言葉が出てきてしまう。新しいわたしへと変わっても、この押し寄せる感情のコントロールはまだ出来そうにない。このまま彼との会話が始まってしまってはますます変な言葉が飛び出てしまいそうだったから、わたしは一方的に彼に話しかけることにした。
「...寒いね...きっとイルミの祝福が...」
「あ、ごめん...なんでもござる」
「ってちが...違くて...ござ...じゃなくてその...」
「やく...約束がありがとう、いつから?」
「きょ...今日が25日か~こここれがクリスマスか~」
「あっ...あ~わたしの朝のメールは無視して」
「ほ...ほら見て見てあそこにもベンチがあるの」
「えと...真っ暗だから何でも出来る...かな?」
「う...ごめん、変だねわたし一方的に」
一方的に話し続けた結果、変な言葉の応酬を彼に浴びせることになってわたしは脆くも陥落した。新しいわたしへと変わったと思ったのは気のせいだったのかも知れない、と、うなだれながら反省した。自分で無駄に作り上げてしまった今この状況の強烈なプレッシャーに押し負けそう。いや、もう負けてる気がする。わたしの想定した台本では『彼に声をかけてお互いの目が合ったらメリークリスマスと言ってふたりはハグをする』だったのにこの流れは想定外すぎて、ここから軌道修正出来る気がしない。
すると、唖然とした顔でしばらくわたしの話を聞いてくれていた彼が、自爆して勝手にうなだれるわたしの頭を軽く手でポンポンしながら話しかけてくれた。
『おねえさん、お疲れさま』
「え...」
『とりあえずここ、座って?』
キュン...
や、やさしい...。ベンチに座って右を向くと、彼とまた目が合った。彼の顔はちょっとだけ照れているように見えた。
『お腹すいたでしょ?』
「...うん」
『これ、肉まんはんぶんあげる』
「え?いいの?」
『ちょっと冷めちゃったけど』
「ううん、ありがとう」
クリスマス肉まんを手渡されるとき、彼の右手とわたしの左手が触れ、彼の手が冷えていることに気付いた。
「え、手冷たくなってる!」
わたしは思わず彼の左手を両手で握りしめてしまって、ハッとして、パッと手を離した。
「あっ...ごめん、つい...」
『...ううん、ありがと』
「ずっと待っててくれたんだ」
『さっき来たとこだよ、はい肉まん』
「うそ、ほら肉まんも冷たいもん」
『え?そう?』
「クリスマス肉まんはうそつかないもん」
『何それイミフ』
「ねえイミフってどういう意味?」
『え?おねえさんのことだけど』
「ん?ちょっと意味不明なんだけど」
『まあそういうこと』
「...あ!謎のベールに包まれた人ってことか」
『ポジティブ解釈すぎでしょそれは』
「もしやフライングぎみの美女ってこと?」
『はは、来たねいつもの不思議系』
「じゃあ童話かな?イミフの迷い猫、的な」
『...そういうブレないとこが好き』
「え?なんて?」
『えっ?!ううん...何でもない!』
ガタッ
「どうしたの急に立ち上がって?」
『ええっと...えっとほら、ちょっと歩こう?』
クリスマス肉まんは本当に冷たかった。でもクリスマス限定冷やし肉まんは、今まで食べた肉まんの中で一番おいしかった。
ちょっと早足で歩きだした彼の背中を追いかけて、彼と横並びになって、樹木に飾られたイルミネーションの光の道をふたりでゆっくりと歩いた。
『充電とか...うそだったんだ』
「...うん」
『えっと...』
「...」
『ずっと見てたっていうか』
「...うん」
『おねえさんのこと...』
「...うん」
『好きです』
「...」
そこから会話は途切れ、ゆっくりと歩きながら、ふと彼の左手とわたしの右手が触れ、静かに、お互いの心の距離を探りながら、わたしたちは手をつないだ。無言のまま、真っすぐ前を見たまま歩くわたしたち。シャリシャリと枯れ葉を踏む音だけが響いていた。
噴水のそばのツリーまで来たとき、わたしへのクリスマスプレゼントだと言って、彼は持っていたトートバッグから薄いピンクカラーのイヤーマフラーを出し、わたしの耳につけてくれた。今日どうしても伝えたかったし渡したかったと彼は言い、わたしに向かって軽くお辞儀をして、じゃあ、と手を振り帰る仕草を見せた。嫌...待って...いなくならないで...言葉にならない感情が生まれるのと同時に、わたしは彼の胸に抱きついていた。
そして、キスをした。
わたしは、泣いていた。
......
翌日、嬉しさのあまりイヤーマフラーをつけて仕事をしていたら、満津田さんに怒られた。
......
2007年12月25日火曜日。あの日から4年。わたしは今もこの図書館で働いている。彼は県外の大学に行くと言って、離れてしまった。メールは5か月ほど続いていたけど、突然途絶え、わたしが何度メールを送っても返信は無い。あの日のクリスマスプレゼントのお返しにと買っておいた甘いお菓子も、とっくに賞味期限が切れた。
...どれだけ泣いただろう。涙が枯れるほど泣いた。恋が終わってしまったこと。好きと伝えられなかったこと。しばらく自暴自棄になった頃もあった。でもあの時、わたしは確かに恋をしていた。その事実だけが、自分を救ってくれていた。
......
午後6時45分。いつものように残務処理を終えたわたしは、いつものように閉館の準備を進めていた。飾られたイルミネーションの光も、ひとりのクリスマスもいつも通り。
もうすぐ閉館の時間。もう終わった恋だと分かっていても、クリスマスの日だけは彼からのメールを読み返してしまう。そして、ひとり涙ぐむ。
『あれ?もしか仕事サボってる感じ?』
えっ...?
『ねえおねえさん』
この...声...。
『ここって充電できる?』
顔を上げられない。
『おねえさんてば』
わたしはうつむきながら答えた。
「あ...え...充電......ですか」
『そ、充電』
「充電は...ダメ...うぅ...うっ...」
...う...うっ...うぇっ...ぐすっ...うう...
「うぅ...シロミくん...」
『ごめん、泣かせてごめん』
「シロミくん...うぅ...わたし...歳とっちゃった」
『...ずっときれいになった』
「う...うっ...ぐすっ...うう...」
『ケータイ無くしちゃって...その、ごめん』
「...うぅ...ぐすっ...うっ...」
『また、メアド教えてくれる?』
「...嫌」
『えっ?』
「ぐすっ...メールだけじゃ嫌」
『...うん』
「...うぅ...その...わたし...好き...なの」
『...うん』
「...だから...声を聴かせて」
『...うん』
「ぐすっ...電話番号教えて」
......
これは未来からの祝福のメッセージ
恋を予感させるメールが結んだのは
一目ぼれを信じるひとりの男の子と
求められて浮かれるひとりの女の子
互いに求め合える喜びを知った時
それは本当の恋になる
肉まんなんてきっかけにすぎない
そんな恋するクリスマス肉まん物語
あ、ロンパメです。
とある小説家が2003年に発表した初恋ピュアラブ物語だったけどタイトルが『恋する肉まん』っていう世にもおぞましいタイトルだったから当然売れるはずもなくて初版が余りに余っちゃって出版社ビルの地下2階の蛍光灯がチカチカと点滅している暗い闇倉庫にそっとしまわれて触れてはいけない我が出版社の黒歴史のひとつとしてある意味大事に封印されていたのに23年後の2026年に出版社の移転に伴うビル取り壊しの際にとある編集者と編集者が「いやおまえさ闇倉庫とか黒歴史とか噂に決まってんじゃんそんなの本気で信じてんの?んなのあるわけねーし逆にそんなんあったらウチの会社ヤバいっしょ?...ん?わーったよわーったよ俺がこの目で見てきておまえに証拠つきつけてやるよそのかわり無かったら週末焼肉おごりだかんな」って感じで無駄な駆け引きをして闇倉庫に足を踏み入れちゃってその上こともあろうに興味本位で絶対に開けてはならないパンドラボックスを開けちゃったから大量の『恋する肉まん』を発見しちゃったんだけどその編集者の発想は鋭角25度って感じの新次元で「え?これタイトル変えたらワンチャンいけるくない?」って感じでこの23年前の物語のタイトルを『電話番号教えて』に変えてSNSで拡散した結果この物語を目にしちゃった現在進行形で恋人募集中のほぼ全員が「やっばわたし恋の遠回りしてたわ正解は図書館でケータイいじりだったってSNSで拡散しよ!あ、もちろん肉まん持参で」ってなって全国各地の図書館に恋人募集中のピュアな男女が肉まん持参で集結しちゃったから図書館常連組から「なんか最近肉まんくさいんですけど?!」っていうクレームが毎日のように図書館に届くようになっちゃって困り果てた図書館館長がやむを得ず『危険!肉まん持ち込み禁止!』っていう貼り紙を入口に貼り出したけど法律の抜け穴をつくかのように今度はピザまんを持参する恋人募集中のピュアな男女たちが続出しちゃって全国各地の図書館がピザ屋と化すフェーズに入っていそうでしたが、先日は清らかな泉に行ってきました。
「清らかな泉」と聞くと、おそらくほぼ全員が「金の斧、銀の斧、エメラルドの斧」を思い出すと思うし「女神様!日頃頑張ってるわたしにお恵みを!」って強く願うと思うんです。そう、女神様は清らかな泉に絶対いるんです。わたしはそう信じています。信じる者は救われるってことです。
だからいつだってわたしは呼ぶ!
カムヒア!女神様!
(ダム過ぎて草)
前回のブログからずいぶんと時間が経ってしまいました。おひさしぶりです。約一年ぶりにブログを投稿します。
この一年、春から夏になり、夏が過ぎて秋へ、秋を忘れた頃に冬が、冬がそっと終わりそして春へと舞い戻る。思い返せばそんな一年でしたね。
そして今、梅雨の候。
わたくしごとではありますが、
このたび、しろデミちゃんは、
かわいくなっちゃいました!
こんな風にね!

(やっばこれダムかわじゃん!)
冬までの短い期間ですが、またこのスタイルに戻ることができました。以前のキュートツインファイブホイールもスタイリッシュでよかったんですけどね。でも、しろデミちゃん的にはやっぱりキュートカシスヘイズファイブホイール(謎表現)の方が似合ってると思うんです。
わたしたち相性いいと思わない?

(相性?別にふつうじゃない?)
絶対すっごくいいんだって~。

(えーそうかなー?)
だからハローインしようぜ!
(唐突で草)
というわけで、こちらをご覧ください。
XYZ JAPAN
Suspension kit SS-Type
車高調整式サスペンションキットの蹴脚も装着から3年が経ち、いろいろ思うところもあって新調しました。XYZ車高調です。とにかく見た目へのこだわりが強いしろデミちゃんなので、トータル的にすっごく満足しています。
パーツレビューの方では XYZ JAPAN SSType の体感についても言及しています。
☆不透明感パねぇパーツレビューはこちら
さらにこちらもご覧ください。
YOKOHAMA
ADVAN dB V553 185/65R15
タイヤも購入から3年が経ち、いろいろ思うところもあって新調しました。このタイヤが持つ素晴らしいパフォーマンスはあなたを虜にするはずです。しかしわたしは鈍感なので、そのパフォーマンスのすべてを感じきれていません。まあとにかくタイヤはYOKOHAMAってことです。とにかくADVANってことです。
パーツレビューの方では YOKOHAMA ADVAN dB V553 の性能についても言及しています。
☆KOHAMA LOVE なパーツレビューはこちら
さて、パーツが3年経ったということは、わたしも3つ歳を重ねたということです。この事実にだけはめげてしまいそうですが、人生楽しいことばかりじゃないし、辛いことばかりでもない、一喜一憂してもしょうがないよ!やりたいことやって前に進むのだ!
それってこんな感じかも!

( Yes! Keep smiling! )
どこまででもいけるんじゃない!

( Anything is possible! )
やってみるさ!
( Let's love love fire! )
“手が届きそうで届かないから
声が届くその時間だけが今はいとおしい”
ちょっともー5分遅刻だよー?
え?寝坊したって?
うそ絶対忘れてたでしょー
だって顔に書いてあるもーん
かがみ見てみなよほら
...あは、なーんてうそだよー!
書いてあるわけないじゃーん
あははは
え?許してって?
だったら土下座しなさいよ!
うっふっふ。
やっぱりしろデミちゃんはかわいいです。
ロンパメバーグ