始めてみますシリーズの2弾。1弾目の「クルマ+α」は主に私の金欠で滞っておりますが(苦笑)、今回やるのはある意味「元手がかからない」シリーズです。
やる内容は自動車の技術的説明です。技術を英語で「Technology(テクノロジー)」、説明を「Explain(エクスプレイン)」というので、略して「プレ・テク」と名付けます。
ちなみにもう一つ意味として、「プレオープンイベント」の「プレ(pre-)」の意味も込めていますので、興味を持ったら詳しく調べて頂く…ための前口上と思って頂ければ幸いです。
(かくいう私だって、基本的には右から左に書き写す…状況で、勉強途中でこれを書くという大バカ者です…から、質問には答えられないかもしれません。予めご了承ください。)
今回紹介するのは、石油精製メーカーの論文でエンジンオイル寿命に関する研究についてです。
「なぜエンジンオイル交換は必要なのか?」
「エンジンオイルの交換時期はいつがいいのか?」
「エンジンオイルを交換して××kmでうるさくなるのは何故か?」
…この辺について、今回は紹介したいと思います。
まずはエンジンオイルがなぜ劣化するのか?について説明します。
エンジン内部では、燃料と酸素を燃焼して熱エネルギーを作り、そのエネルギーを取り出して動力としています。問題は燃焼というキーワードで、化学では燃焼のことは酸化の一種としてとらえることができます。
つまりエンジンオイルが劣化する理由は、
エンジンの機能上必要な燃焼(=酸化)によって劣化するのです。
もちろん他の理由でもオイルは劣化が促進されるのですが、
他のオイル類(たとえばオートマチックトランスミッションオイル・通称ATF)とは環境が違うことがポイントになります。
もちろん、エンジンオイルの酸化を防ぐためにベースオイル(基油)を改良することや、エンジンオイル内に味付けを行う(添加剤を混入)させることでオイルの酸化に対する寿命を延ばす試みがなされています。

上記グラフは、エンジンオイルの基油を変更した場合の酸化防止剤がいつまで効果を保つものか実験したグラフになります。グループ1からグループ3まで、いずれも石油精製による基油を用いています。(つまり、合成油ではないってことです。)
グループ1から順に新しい生成方法に代わっているのですが、グループ3では酸化剤残存率が数%になるまでの時間が長くなっていることに注目してください。
なぜこうなっているのか?
それは基油の中に混入されている不純物の成分と温度による粘度変化の少なさが理由になります。グループ1よりグループ2、3の方が不純物の量は少なく、グループ2よりグループ3の方が温度による粘度変化が少ないのです。
合成油ならどうなるのか?
合成油はグループ4、グループ5で規定されており、主に温度による粘度変化がより少なくなっています。(が、合成方法により千差万別です。)
合成油が高性能である理由は、高温でも粘度が低くなり過ぎない、油膜を保ち続けることが理由になります。

上記のグラフは、エンジンオイル内部の添加剤の時間変化と、生成された有害物質の推移について示したものになります。このうち「連鎖停止剤」が酸化防止の添加剤と読み替えてください。硝酸エステルは燃焼生成物として、つまり酸化することによって生成される有害物質として読み替えてください。連結停止剤が効果を失った頃(エンジン運転時間 400h、走行距離1.5万kmあたり)から急速に生成が増えています。不溶分とは、つまりスラッジとして考えてください。このグラフより、不溶分の生成はおよそエンジン運転時間500hから始まり、急速に増加していることを注目してください。
以上の内容をまとめると、エンジンオイルの劣化メカニズムは下記グラフのように表すことができます。

酸化防止剤が有効に作用する段階はおよそ1.5万kmまでの距離で、この間はエンジンオイル内の有害物質もほとんど発生しない期間となります。1.5万kmから3.0万kmまでの間は、酸化防止剤の期間が切れ有害物質が発生しますが、エンジンオイルの内部で溶かし切ってスラッジが発生しないようにする清浄分散剤が機能します。清浄分散剤の機能が切れる3.0万km以後は、有害物質同士が結合することによりスラッジが発生する…というメカニズムになっています。
日本の自動車メーカーがエンジンオイルの推奨交換時期として1.5万kmと記しているのは、
主に酸化防止剤の期限が切れる頃で設定されていることになります。
…ではシビアコンディションは何故設定されるのか?

最初に「エンジンオイルが劣化する理由は燃焼(=酸化)が理由」と書きましたが、何の処理も施されていない鍋やヤカンで、空焚きをすると焦げ付きを起こす…ことを想像してください。
酸化する現象は温度によって、より酸化速度が速くなるのです。

また、エンジンオイルの面白いポイントは
「想定温度より低くても劣化は促進する」ことです。これはエンジンオイル内に燃え残りの燃料などが混入することなどが原因として挙げられています。
一般に、油温80℃がエンジンオイルの基準温度として考えられており、これより低くても高くてもオイルの劣化は進む…と考えてください。
オイルを早いスパンで交換する人の意見として、一部で言われている
「数千km走行すると、エンジン音がうるさくなってくるから交換する」
という意見についても、興味深いグラフがあるのでご紹介します。

このグラフの「粘度」にご注目ください。
エンジンオイルを交換して、およそ100時間までの間でオイルの粘度が落ちていることです。
“エンジン音がうるさくなってくる、旧式の車には硬い(粘度の高い)オイルを入れてください”という人がいますが、その前提条件を信じるとするならば、エンジン音がうるさくなると感じた人のセンサーは非常に正確だ、と私は考えます。本当に粘度が下がっているのです。
しかし、エンジン運転時間(走行距離)から考えると、スラッジの生成にいたるまでの約1/6、スラッジの前哨体である有害物質の生成が開始されるまでの約1/3のスパンでオイルが交換されることになります。
「音が静かになるから有効だ」と考えるか、あるいは
「オイルの機能はまだ残っているのに交換するのは無駄だ」と考えるか、はお読みいただいた皆様の判断に任せます。
この論文では、燃焼によるオイルの劣化を理論化することを目的としています。以上の内容は、研究結果に至るまでの「前哨戦」であります。研究結果では
エンジンの排気量
オイルパンの容量
エンジン回転数
などによってオイルの劣化速度が変化することが述べられています。
以上の内容をまとめると、ポイントは5つ。
1. エンジンオイルは燃焼することで劣化する。
2. エンジンオイルの劣化はオイルの温度によっても劣化速度が変わる。
3. 国内の自動車メーカーが推奨するオイル交換スパンは、スラッジの前哨体が生成される前に交換することを考えて設定されている。
4. エンジンオイルは、使用過程で粘度がいったん下がるためにうるさく感じる場合がある。
5. エンジンオイルの劣化はエンジンのスペックと運転状況で表すことができる。
…となります。
ここからは私の思うところです。
エンジンの油量を確認するためのレベルゲージで、量と共に色を確認して劣化度合いを判断する…と考えている人もいると思います。(私もそうでした。)
しかし、エンジンオイル内の添加剤を色で判断することができるのだろうか?と今の私は考えます。
それと共に、ドイツの一部メーカーではレベルゲージを廃し、コンピューターでエンジンオイルの交換サイクルを表示する車もあります。これはつまり、エンジンオイル油温やエンジン稼働時間、エンジン回転数をそれぞれモニタリングして表示していることになります。
つまり、レベルゲージよりもコンピューターの方がより正確にエンジンオイルの状態を管理していることになる…と私は考えます。(ある意味では当たり前だ!とお叱りを受けそうな話ではありますが。)
エンジンオイルの一般的な話を少し打ち壊すような話題でしたが、ご興味を持った方はより詳しく調べて頂きたいと思います。
そして
「いつぞやのブログで見たあの話、本当だったんだ…」とか…
「あのブログに書いてあることなんて嘘っぱちじゃねぇか!」とか…
皆様それぞれが調べたこと、学んだことから考えを持っていただけると幸いです。
参考文献)
五十嵐仁一(1999. 5)「エンジン油の長寿命化に対する理論的取り組み」『日石三菱レビュー』第41巻第2号、pp.54-64