これ、レクサスですか?セルシオの末裔ですか?
昨日はRAV4で「買い替え候補」も兼ねながらの試乗記を書きながら、今日はまったく関係ない車種を取り上げます。
それは写真のレクサス・LS500です。試乗させて頂いたのはガソリンエンジンのLS500のExecutiveグレード、駆動方式は4WDとなります。
…なぜこれ?買う気もないのに?
確かに買えません。(お給金を頂いて生活している身ですし。)
しかし、初代セルシオの「精度のために工作機械を買い替えた」という情熱、そして2代目セルシオは私の中で一種の「ターニングポイント」でもあったので、セルシオという車種に殊更な思い入れがあります。
そんなセルシオの末裔で現在の「旗艦車種」ともあろうLS、気にならないはずがありません。
というわけで、今回試乗するに使った仕組みは東京ミッドタウン日比谷内にある「LEXUS MEETS...」の「TOUCH AND DRIVE」というプログラムです。
このショールームはディーラーではないので「購入検討するための」試乗以外も受け付けており、また60分以上は横に乗る人もなく好きに乗ってきて構わない…という仕組みです。
(予約時刻は90分ありますが、その中で受け付け、クルマの準備も含むので実質試乗可能時間は60~75分程度になります。)
そこで用意されていたLSがLS500の今回乗った車両とLS500hがあり、今回はLS500を選び乗ってきた…という次第です。

早速、車両を借り受け運転席に座り込みます。
シートポジションそれ自体は合わせられる幅が広く、私のように「狭苦しく」乗るポジションでもすぐに調整ができます。
シフトレバーがガソリン車であっても、プリウス他ハイブリッド流の「レバーが戻る」仕組みになっている点は若干の失望を覚えます。

エンジンは3.5LのV6ツインターボのV35A-FTS型、最大出力は310kW(422ps)を6000回転で、最大トルクは600Nm(61.2kgm)を1600~4800回転で発生するものになります。
写真には納めましたが…カバーだらけで何が何だかさっぱりわかりません。
(ゆっくり眺めている時間もなかったので、これ以上の考察もありません。)
アイドリングストップを使って走っている分には、静かでパワートレインの存在を忘れそうなエンジンと騒音・振動対策を施してあります。
しかしアイドリングストップをOFFにすると、わずかな振動が車内に入ってきます。またエンジンをかけたまま窓を開けると結構なノイズがあります。
つまりこのクルマの「静かさ」は徹底的な吸音・遮音・制振によってなされているということです。
よって、ラジオもつけず窓を閉め切って運転していると、耳が詰まったような静けさを感じます。これが先代センチュリーだと「自然な静かさ」と言いますか、耳が詰まる感じはしなかったので、設計思想がそもそも違うことに気づきます。

ハンドリングとサスペンションの印象です。
はっきり言って「これLSと言っちゃダメでしょ」と思うくらい良くなかったです。
ステアリングには車が動き出すとビリビリと小さな振動が伝わってきます。
その割に交差点を曲がったり、カーブを曲がるときには手ごたえが伝わってきません。パワーステアリング系のセッティングとしては考えも理解できますが、ステアリング系の取付剛性が足らない、またはマウントのセッティングが下手な印象を受けます。
また大型車がよく通る、舗装の古い道で轍にとられやすいです。路面がきれいで新しい舗装ならばLSらしいハンドリングも味わえますが、ちょっと違うとまっすぐ走っていかない、路面の凹凸にとられやすい印象を受けます。
サスペンションも同様で、エアサスペンションが全車標準で装着されていますがダンピングの作法が理解できません。
例えば信号で停止するとき、ブレーキを緩めて行ってふんわり止まるとリアの車軸を中心としてフロントサスペンションが「ブワンブワン」と揺り戻しが来ます。
かといって、60km/h~70km/hくらいで段差を乗り越えると「ガツン」と、今度はリアからやや強い衝撃が来ます。
感覚としてはフロントのダンパーがやや甘く、リアのダンパーがややきつ過ぎる印象です。
加えて片輪だけマンホールを乗り越えるようなときには、リアサスから「クシャッ」とか「ゴシャッ」という音がします。遮音そのものが徹底されているので気づきにくいのですが、その音とともに進路がわずかに乱される感覚があります。
このクルマそのものが、どちらかと言えば「ボディのサスペンション系取付剛性が低い」か「取付ゴムマウントの設計が甘い」か「セッティングが突き詰められていない」か、あるいはそれらの掛け合わせで「注意深く乗っていると全然良く感じられない」仕上げになってしまっています。

細かいところですが、後席に座ってウィンドウの写真を撮ったところです。
このクルマの場合、プライバシーガラスがもともとやや濃いめ+室内色がブラック系(クリムゾン&ブラックという赤インパネ黒シート内装)のため、ルーフトリムまで真っ黒けで「やや狭苦しい」印象を受けます。
ウィンドウそのものはわざわざ大きめに取ったにもかかわらず、こういった色の組み合わせで損しているのも惜しい問題です。

インパネの上面に一部布が張っている箇所がありますが、こういう西日のところではインパネの反射を抑えられて「高級感」と「実用性」を両立していると思います。

また、ボディサイズの割に少しドアミラーが小さく見えることにも不満を覚えました。
まとめます。

初代セルシオ開発当時、設計思想は「YETの思想」と「源流対策」というものでした。
設計をするとき、何かを良くしようとすれば何かが犠牲になります。それを両方良くするには、技術的に(コストの話を抜きにして)何かしらかの「問題点」が発生します。
例えば空力ボディにすれば室内空間は狭くなる、リアシートの乗員は頭をぶつけやすくなる、などです。
そこでボディに取り付ける部品、例えばドアガラスなどをボディ面とできる限り同じ面に設置し、段差を減らす。空気の流れを良くするために、シャシー側の空気の流れを研究する。その結果、整流板やカバーを取り付けた。また、流れを研究してトランクの上面端をわずかに持ち上げて少しだけダックテールにする、などをすべての部品で突き詰めて行ったのが「初代セルシオ」です。
このLSには、とりあえず最新技術で作ってみて、良くないところには普通のトヨタ車、普通のレクサス車と同じ「後付けの改良」で旧型を超えたクルマにし感じられません。
数値で比較する分には旧型以上でしょう。それを目標にしているわけですから。
しかし人間というのは「ダマシ」や「ウソ」や「ニセモノ」を見抜く能力がある人がいます。
私がそうだと言うだけの経験も見識もありませんが、そんな「シロート」相手に「これはニセモノ」と思われるほど「底の浅いレクサス」とは思っていませんでした。
もっとも辛口すぎやしないかって?
確かに辛口です。私の期待が高すぎたのかもしれません。しかしこれはレクサスを、セルシオを、LSを信じて買うお客さん相手に「あまりにも…」と思うほど印象が芳しくないクルマでした。