
新年になってからは初で、乗ってみたいクルマをカーシェアで借りてみました。
今回乗ってみたのは、フォルクスワーゲンのゴルフ8になります。
ゴルフ自体は、1974年に自社設計メカ+ジウジアーロのスタイリング・パッケージングで発売された当時の小型乗用車で、先代モデルは皆様ご存知のビートルにあたります。(ちなみに、ゴルフよりも小型・廉価なポロは1975年発売開始です。)
今回乗ったモデルは、通称「ゴルフ8」と呼ばれる8世代目のモデルで、先日マイナーチェンジを受けた通称「ゴルフ8.5」のちょっと前の世代になります。
借りたモデルは1.0eTSI Active プラチナムラインと呼ばれる特別仕様車に相当するモデルになります。搭載エンジンは1.0L直列3気筒ターボエンジンで、最大出力は81kW(110ps)/5500rpm、最大トルクは200Nm/2000-3000rpmとなります。
これに48V駆動のモーターがスターターを兼用して動力を伝える、いわゆる「マイルドハイブリッドシステム」が搭載されています。変速機は7速DCTになります。
タイヤは225/45R17で銘柄はグッドイヤーのイーグル、空気圧は指定250kPa(2名乗車+軽積載時、前後輪とも)ですが230kPaでの試乗となりました。

乗る前に携帯電話のアプリを通じて車両の解錠を行うのですが、今やゴルフも立派な高級車になったのか、ドアハンドル周りにライトが付くようになりました。
運転席に乗り込み、走り出してみます。
一般道をしばらく走らせてみると、エンジン制御がかなり独特であることが気になりました。
一つ目はアイドリングストップがアクセルを離して2秒後くらいには作動し、その時点でクラッチまで切ってエンジンブレーキが利かないことです。
二つ目はブレーキの踏力を弱く、じんわり踏んでいくときに制動力がコロコロと変わることです。なのでコツンコツンと乗員が揺さぶられてしまう点です。
三つ目はDCTのマナーで、上り坂でブレーキを離したとき、僅かですが半クラッチのようなガクガク感を伝えてくることです。そのまま発進すると、エンジン自体もビーンと細かな振動を伝えてきます。
よって普通のガソリン車と思って乗ると「なんだコレ?」と今までの馴染んだ感覚とは異なるマナーであったり、操作が要求されます。
そのまま都市高速へ乗って走らせてみます。
まずイイと思ったのは操縦感覚で、ちょっとポルシェに近い感覚を覚えます。
ステアリングを切った時の旋回初めが自然で素直、スッとクルマの向きが変わっていきます。戻していったときも同様で、ハンドルさばきが上手くなったかのような錯覚に陥るほどです。
次に高速巡行時の音が小さいことで、ラジオを切って運転してもかなり静かな巡行です。路面からのロードノイズも静かで、巡行状態での音は全体的にかなり静かな環境です。
さらには乗り心地も、街中でも不満は覚えないですが高速になるほどビシッと揺れが少なく快適になっていく印象を覚えました。
ただし良くないのはエンジンで、例えば90km/hで巡行中に80km/hの前走車両に追いついてアクセルを離すと、アイドリングストップとニュートラルが作動します。よって減速しないのでブレーキを踏むかパドルシフト・ギヤレバーでの減速が必要になりますが、ブレーキを踏むとエンジン回転がタイヤに伝わってエンジンブレーキがかかります。つまりブレーキペダルを踏まないとエンジンとタイヤの駆動を切ってしまうのです。エンジンブレーキを使って速度制御がしづらい点は運転感覚として「???」と混乱を覚えました。
二つ目はアクセルの反応が悪い、正確には踏み足しについてはあえて反応が悪いので、まず2000rpmまでエンジン回転を上げて動力を伝えようとしません。よって低いギアのまま粘って速度を上げようとするので、アクセルを相当踏まないと上り坂での巡行速度を維持することも難しいです。さらには、2000rpmを超えると高周波音の「ヒーン」という音がどこからともなく聞こえます。この音を聞かせたくないため?か、とにかくエンジン回転を抑えたまま走らせようとするクセがあるために乗りづらいです。
三つ目は上記のため、アクセルをドーンと踏めばそれなりに加速しますが、200Nmのエンジンとは思えないくらいの加速力しかありません。体感的にはプロボックス(1.5L自然吸気)よりちょっと良いかな?くらいです。ターボ車としてのパンチ力は期待できません。
さらにもうひとつ、これはゴルフ8シリーズ全般として機械とドライバーの操作系がメチャクチャです。

その一例がこのヘッドライト。例えば、夜間駐車時にヘッドライトを切りたいときには「MODE」と書かれた部分をタッチする必要があります。

するとメーターに「どのモードにするか」が表示されるため、ここで「MODE」部分を何度か押してOFFなり、スモールにする必要があります。

エアコンも同様で、この場合はセンター部分の「CRIME」と書かれた部分を押してディスプレイを表示させ、さらにタッチ操作を要求されます。
ただし、エアコンの温度調整については画面下側に赤色と青色のタッチ部分があるため、そこでも操作可能です。
ここですべて「ボタン」と言っていないのは、つまり本当にボタンではないからです。タッチできているのかその都度、目視で確認しなければいけません。
運転中にエアコンの温度調整・風向調整、さらにはライトのフォグランプ点灯・消灯などは「するな」と言わんばかりの操作系です。
これは色んなユーザーが使う普通の、実用乗用車としてはほとんど「失格」と呼んでもいいくらい操作がしづらいです。

さらには室内イルミネーションの消灯なども基本はナビ、またはメーターディスプレイ操作での切り替えになるため、実は走り出すまで30分ほどトリップメーターのリセット・室内イルミネーションの消灯・アイドリングストップスイッチの位置確認で取扱説明書と格闘しました。
こんな分からない操作系はいくら何でも…と思うほど、ひどい操作系だと判断します。
加えて、アイドリングストップをOFFにしてもさっきの滑走制御はOFFにできないので、例えば…
50km/hでアクセルを踏んで巡行
→ アクセルを離して2秒後にエンジンOFF+ニュートラル状態
→ ブレーキを踏むとギヤが入ってエンジンブレーキ作動
→ 緩いブレーキ踏力では再びエンジンOFF+ニュートラル状態
→ 0km/hで停止するとアイドリングストップOFFのためエンジン始動
…と、エンジンとギヤの関係がコロコロと変わり、そのためにブレーキのガクつき感が発生するという、ちょっととんでもない制御をしているクルマになります。

一応最後に燃費の報告です。112kmの走行で燃費は20km/Lの表示でした。
(20km/L以下であれば19.9km/Lという表示でしたが、20km/L以上は細かい表示を省略してしまうようです。)
まとめますが、走行性能についてはゴルフ、または欧州車として期待値並みのいいところを持つ車ですが、エンジンを含めたパワートレイン系と運転席まわりの操作系はかなり独特な癖を持つ車です。そして、これを一般乗用車として買おうとするのであれば、絶対確認してから購入することをお勧めします。
ハッキリ言えば、輸入車という「趣味で買う」ならアリだと思いますが、乗用車の延長線上(高いものだからイイモノでしょ?という感覚)で買うならばお勧めしません。ただし「趣味で買う」にしては分かりやすい「クセ」が少ないクルマですので、心に引っ掛かるポイントがあまり無いクルマでもあります。
どっち向いて作って売っているのかよく分からないクルマ、というのが正直な感想です。
極めて個人的な意見ですが、ゴルフを「乗用車のメートル原器」とか「乗用車の基準」と捉えるのは、このモデルに関しては特に危険だと思います。
もう少し踏み込めば、ゴルフ7のときも良いモデルとそうでないモデルがあるように感じましたので、「欧州車」「ワーゲン」「ゴルフ」=いいクルマの図式は当てはまらないと思います。
それはどのメーカーやモデルでも同様で、ドライバーまたはオーナーにとって「いいクルマ」かを見極めるには、やっぱり試乗なりこういったカーシェアなりレンタカーなり…で確認した方がいいと思った次第です。
付いているバッジであったりブランドを妄信して「期待に違わぬイイモノ」が手に入る、とは思わない方がイイと思った次第です。