
私だ。
“プロの素人” RedXIII だ。
諸君、久しぶりだな。
そうだ。
私がこうして報告書を提出しているということは、
また駆り出されたわけだよ。
雇われ素人の辛い所だ。
今回の任務も
敵地潜入・機体回収・脱出生還
といういつもの内容だ。
だが。
今回は
新兵の練達訓練を兼ねるという点が、この任務に特殊性を与えている。
要は私に
ヒヨッコのお守りをしろという事だ。
しかもこの新兵… 仮に M と呼ぶが…
本来の所属としては、私ではなく J の指揮下にあるのだが、
J がアレコレ理由をつけて度々私に押し付けてきて、既に何度か私の愛機を使って機体操作の慣熟訓練をしている。
…まぁ私は構わんのだが、J の監督責任というのはどうなっているのだか…
「別の任務が…」とか言いながら、どうせ畳の上でゴロゴロしながら昼のワイドショーを最初から最後まで眺めて欠伸しているのだろう。
私が知らないとでも思っているのか。
まぁいい。
任務だ。
今回の作戦は一言で言えば、新兵
M 用の機体を入手することである。
“初陣” というわけだ。
作戦指示書は私宛だが、主役は新兵の
M であって、
私は複座で搭乗しての補助(まぁ、場合に依っては私が主導する必要も出てくるだろうが)という立場である。
本来このような作戦は、新兵一名での単独任務になることが多いのだが、
今回の新兵は、まぁ… その… 不確定要素が多いとでも言うか…
手動操縦の練度に不安があると言うか…
兎に角、単独での作戦達成が困難な状況に陥る可能性が少なからず見込まれるということで、
M が “使い物にならなくなった” 時の為に私が指揮を執る事になった。
勿論、
J は例によって
「別の任務が…」といういつもの言い分だ。
作戦決行当日の朝、
M と合流し
コードネーム 《マルーンの疾風(かぜ)》 で作戦領域へ向かう。
車内で息を潜めること小一時間。
降り立ったその地は…
魑魅魍魎が跳梁跋扈する
魔都 - 兇斗 -
かつて数多の任務を受けて、我が愛機や大型母艦でこの空域を泳いだ事は数知れないが、
こうして地上からこの街の空を見上げる事は、おそらく幼少以来である。
敵の目を欺く為、目標地点へ直接向かうわけにはいかない。
かといって、無計画に動く事も危険だ。
そういう状況での行動指針を新兵に手ほどきする事も今回の作戦の一部である。
そこで、まず
M に近隣の補給可能ポイントを調べさせ、それを元に私が会敵確率の低いルートを算出した。
「木を隠すなら森の中」とも言うように、
敢えて人の多い所を通るという事も一つの戦術である。
決してミーハーではない。
敵の目を欺く為、
一般観光客に溶け込むという手法で、
このような潜伏施設をchoiceした
M の着眼点は、
初陣としては上出来ではないか。
言うまでも無い事だが。
これは全て作戦行動に必要な事であり、
決して
「バニラ 小豆 きな粉の溶け合ったこの甘美なハーモニーうまーーー♪」などとは思っていない。
決して
「うーわ何この抹茶わらび餅、めっちゃ濃厚でぷるるんヒンヤリ最高ーーー♪」などとは思っていない。
言うまでも無い事だが。
後ろ髪引かれる思いで補給ポイントを足早に離脱し、大通りを避けて北上する。
次の中継地点は、新兵達がゲン担ぎに訪れるという或る施設だ。
だが、其処へも真っ直ぐ向かっては敵に察知される恐れがある為、
camouflageの経由地を設定する。
くどいようだが、
決してミーハーではない。
「木を隠すなら森の中」である。
言うまでも無い事だが。
決して
「うーわ何この御朱印!めっっさ達筆!超カッコエエやん!うっわーーーーーー!!」などとは思っていない。
私は常に
coolな “プロの素人” だからな。
そして辿り着いた第二中継地点。
ゲン担ぎとは…実に新兵らしくて初々しいではないか。
私のように薄汚れたハードボイルドともなると…
「突っ込んでくれた方が保険金ウハウハやんけ!!」
…などという下衆い思考に走るものだから始末が悪い。
口調まで俗っぽくなってしまうのだから困ったものだ。
さて。
ここで、これもまた敵の目を欺く為に、公共交通を利用して高速移動を行う。
決して
「歩き疲れたから楽がしたい」というわけではない。
全て作戦達成の為に必要な事であり、仕方なくなのだ。
Soco'n'Toco YOLOshic!
200番台は正規公務員が乗務する路線である。
それ以外は基本的に私鉄への外注路線である。
即ちコレは、
関西のバス乗務員としては間違いなく最高水準の報酬を受け取っている運転手が乗務するバスである。
納得であった。
運転操作、接遇、全てに
持てる者の余裕 が感じられる。
格差社会万歳。
合掌。
朝は小雨が降り注いでいたが、それは逆に
人目を簡単に遮る 傘 という装備を怪しまれずに使用する事ができて好都合だったのだが…
いつの間にやらこの有様である。
いよいよ目標地点に到達する。
これだけ地上を這いつくばって活動したのはとてつもなく久しい気がする…
戦闘機乗りの身分の有り難さを実感した。
…なんだこの凄まじく
surréalisme な光景は…
奥の邸宅と手前の菜園とが完全に別の世界ではないか。
そこに次元の狭間が横たわっている。
このstructure… 何かとてつもない陰謀を秘めている予感がする。
と、その異様な建造物に気を取られていた私に
M が背後から声を掛けた。
「着いたよ〜♪」
………もうちょっと空気を読んで欲しいモノだ…
人がせっかく
無理してハードボイルド
を演出しているというのに。
女が読めないのは地図じゃなかったのか?
まぁいい。
こうして目標に辿り着いた事は事実だ。
作戦の第一段階は達成された。
私は束の間、ささやかな安堵を覚えた。
しかし、本当の戦いはむしろここからだった!
《後編》へ続く!
Posted at 2016/06/07 14:14:48 | |
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