
“ドライバビリティ” という言葉があります。
“乗りやすさ” というような意味で使われますね。
「乗りやすさも性能である」「踏めないパワーは無い方がマシ」っていうアレですね。
「乗りにくいクルマと乗りこなしにくいクルマは全然違う」なんて、昔のエラい人も言っていました(笑)。
それと同じ事が、本にも言えると思います。
“読みやすさ” も著者の腕前のうち。
文章力そのものであったり、全体の構成力であったり。
ちょっと言い方を変えれば “読ませる” “引き込む” 力。
どれだけ労力を掛けて書き上げた大作でも、読みにくくて読んでもらえなければ意味がない。
伝えたい事があるなら、伝わりやすく表現する努力は必要ですね。
(文章に限らず、喋りでも同じ)
今回のラインナップでそれを強く思った…というか、
“絶対的な数字” でソレをハッキリと客観的に示せます。
50と3と4。
ということで、
前回から間が1ヶ月空いての、今年最初の読書感想文。
ハーマン・メルヴィル 『白鯨』 (1851)
原題『MOBY-DICK』
某レジェンドポルシェの愛称の元ネタはコレです。
「海洋冒険小説」「神学的見地の哲学書」「巧みな集団心理表現」「捕鯨の文化的学術的資料」
…といった、様々な角度からの評価を受けている著名作?
なので、さぞ読み応えのある大作だと思って意気込んで読んでみました。
が。
まー、読みにくい読みにくい (´Д`)
全然オモロない (´Д`)
めちゃくちゃテンポ悪い。
全然読み進まない。
つーか、コレは “小説” じゃねーだろ…
「19世紀アメリカ捕鯨のドキュメント記録」(著者自身が捕鯨航海の経験がある)にちょっとだけストーリー性を後付けしただけの文献、だと思う。
全体の2/3くらいが捕鯨に関する解説。
残り1/3のストーリー部分も特にそんなに面白いとも思えず(爆)。
書き手がプロ(小説家)じゃないからねー…
物語のキーマンとなるのは
『かつて白鯨に片足を奪われ、その復讐に燃える船長・エイハブ』。
世界中の海で白鯨を探し、自身の復讐を遂げる為に航海に出る。
乗組員達も、船長のその目的は承知しているが、あくまで「無事に還る」のが大前提であり、
刺し違えてでも、という覚悟のエイハブに同調する者は居ない。
幾つかの批評を見ると、
エイハブ=正義 白鯨=悪 とする捉え方が当初は多かった様だが、
逆に エイハブ=悪 白鯨=正義 と見る解釈もある。
また、航海が進むにつれて、船員達がエイハブの “狂気” に煽動されていくのだが、
実はエイハブは “狂人を演じている” とも言え、本人はそれをちゃんと自覚している。
その航海の目的は “復讐を遂げる” 事ではなく、どちらかと言えば “死に場所を求めている” 。
作中では約3年の歳月が流れるのだが、それは全て一航海の間である。
現代のマグロ漁船もそうだが、遠洋漁業の常か、当時の捕鯨航海も年単位の長期航海らしい。
で。
先に触れた
「延々と続くテンポの悪い説明文の数々」をチマチマと読み進める “苦行” が、
読者にとっての “3年の航海” なのかと思える(笑)。
興味無いなりに一応全部読んだお陰で、
当時の「アメリカ捕鯨のなんたるか」の無駄知識は得られましたw
西洋の捕鯨は、ほぼ「鯨油」を絞る事のみを目的としている。
日本の捕鯨が、骨肉まで全て使い切るのに対し、
西洋の捕鯨は、油を採取した後の骸はそのまま海上で放棄してくる。
(この小説を読んだだけでの素人の認識なので、あくまで大別の傾向として、とお思いください)
(作中で狩っているマッコウクジラは特に鯨油に重きを置かれる種であり、食用にされるのはナガスクジラが主らしい)
物語終盤で “エイハブの狂気” に巻き込まれていく船員達の集団洗脳とも言える描写は、一つの見所ではあるけども、
かといって、物語全体を通して特に魅力的な部分があるわけでもなく(爆)、
最後は結局白鯨の返り討ちに遭い、船は沈没、エイハブ含む乗員ほぼ全て死亡、という
あっけないというか、ある意味期待通りの結末。
とはいえ、エイハブの発言が結構独特の節で面白い。
面白いというか、哲学的に読み取れる表現が多く、“神” に対して嘲笑的でもある。
(序盤では神話からの引用が非常に多い。エイハブという人名も神話からの捩り)
『エイハブは人類の住むこの地球の幾百万人の間に一人で立ち、神も人間も儂の隣人ではない』
内面は人間臭い孤独な老人が、狂気を演じて船員達を煽動し、同調を得、一方で(誠実な)反発も受け、
それでも自身の目的(死に場所)に向かって強硬に振る舞う事で、更に孤立していく様を客観的に捉えた独白である。
野生の防衛本能でエイハブの片足を奪った凶暴な白鯨が悪魔なのか?
銛を受けても衰えない不死身とも思える強さの老鯨は神の化身なのか?
白鯨を人類の敵と見なし、討伐に赴く船長が正義なのか?
個人の私闘に乗員を巻き込み死地へ盲進するエイハブは、誰にとっての悪魔なのか?
……そういう、多元解釈を投げかけるという意味では “深い” 作品かな?
まぁ、「読んでみて」とオススメはしませんがw それなりに読後感は色々と残ります。
知識の肥やしにはなると思います←
しかし上下巻2冊を読むのに50日を費やした。
敢えて言おう。めちゃくちゃ読みにくい!と。
ちなみに、作中に スターバック という人物が出て来ますが、
これが スタバ の元ネタだそうです。
でも、作中のスターバックはコーヒーのコの字も口にしませんwww
イーデン・フィルポッツ 『誰がコマドリを殺したのか?』 (1924)
原題 米版『WHO KILLED COCK ROBIN?』 本国英版『WHO KILLED DIANA?』
コレは3日で読みましたw
眉目秀麗の若き開業医ノートン・ペラムは、踏み出しかけていた成功への道を外れる事を厭わず(叔父の定めた婚約を袖にして)、
運命的に出会った美女・ダイアナと、一気に燃え上がった恋の炎に身を任せて結婚する。
叔父は激怒し、将来継がせるつもりであった遺産相続の権利をノートンに与えないと宣告した。
だが、ノートンはダイアナには「ゆくゆくは叔父の遺産を手に入れられる」と嘘をついた。
この嘘が、ノートンの人生を恐怖の渦へ転落させていく事になる。
(「コマドリ」というのは「ダイアナ」の愛称だという設定だが、
おそらく米で出版する際に言葉遊びとして取り入れただけで、特に深い意味は無いと思われる)
3組の男女を中心に繰り広げられる
昼ドラ的愛憎劇。
執念深い女が本気でキレたらマジで怖い、というお話(笑)。
どっかの古典海洋小説とは正反対に、グイグイ引き込まれて一気に読んでしまいます。
“徹底した悪意”。
それも、衝動的な激情ではなく、静かに冷たく研ぎ澄まされた氷の刃のような、周到に計算された罠。
愛情の深さ故に、その方向が反転した時の恐ろしさ。
しかも、仕掛人が死んだ後に、生きている人間が死者の罠に追い詰められるという。
恥ずかしながら、ワタクシ自身もちょーっと似た様な事に身に覚えがあったものでw
読んでてめっっちゃ怖かった!!(爆)((((;=Д=))))
トリック自体は割と古典的ですが、
戦慄する “悪意” の描写が素晴らしい(爆)。
そして、全体に横たわる “イギリスの貴族社会の優雅な空気感” 。
文章もひじょーに読みやすく、物語やトリックの細部にも破綻が無いので、読後感も納得度高し。
ディーン・R・クーンツ 『ライトニング』 (1988)
不幸な生い立ちの女流作家・ローラには幼い頃、
危機に陥るたびに、雷鳴と共に現れローラを救う謎の男「守護の使い」が居た。
ナニこのゾクゾクするベタな厨二病設定!!o(・∀・*)o www
んでまたこの「守護の使い」が金髪碧眼の完璧なハンサム星人なんですよw
ソイツが幼い美少女を守る為に現れて、暴漢を容赦無く撃ち殺す。
もう
ハァハァ(*´Д`)ですよw
「守護の使い」はローラの人生に何度か現れたが、
不思議な事に何年経っても歳をとっていない様に見え、いつも同じ服装だった。
…というワケでチョイバレすると、いわゆる “タイムトラベルもの” です。
「守護の使い」はローラの人生を監視していて、彼女に重大な危機が降り掛かるとその時点に介入して彼女を救う。
しかし、もう何年も「守護の使い」は現れず、ローラがその存在を忘れかけた頃、
またも「守護の使い」が現れ、彼女を交通事故から救う。
が、その直後、更に別の男が現れ、ローラと「守護の使い」を殺そうと襲撃してきた。
なぜ? ローラの人生にどんな秘密があるというのか。
タイムトラベルものの常として、その作者ごと(あるいは、その作品ごと)に “ルール 或いは 縛り” を設定している事が多いです。
(この読書ブログで過去に紹介したホーガンの2冊、『プロテウスオペレーション』『未来からのホットライン』は顕著な例ですね)
この『ライトニング』の設定もなかなか独特の面白いタイムトラベルルールが二つ設定されています。
その内の片方は、ここで言ってしまうと結構大きなネタバレになってしまうので伏せますが、
もう片方の
「運命は執拗に構想の復元を企てる」というのは共感しました。
「運命」という言葉で表現するのはなんだか “思考を放棄” しているようで嫌ですが、
「その人の人生のおおよその出来事は予め決まっていて、介入して未来を変えようとしても結局は当初の方向へ向かおうとする」という解釈。
“○○の星の下に生まれた” とかいうのがソレですね。
でも別にコレって、悪い事だけじゃなくて良い事でもそうだよな、と
現実の身の回りの交友を見ても、この考え方で結構納得のいく部分があるな、と思いました。
ストーリーは、前半部は緻密に描かれているな、という感じでしたが、終盤は少し大味。
…おそらく前半部は著者自身の実体験も混ぜ込んであるんじゃないかな?と感じました。
そして後半部はSF要素が濃くなるのもあって、ちょっと説得力不足な場面もチラホラ、展開がやや強引な印象も(笑)。
でも、結果的にスカッとハッピーエンドなのでそれで良し(笑)。
4日で読了。
今まで読んだ “タイムトラベルもの” の作り込みの出来の良さ(説得力の高さ)だと、
『プロテウスオペレーション』が一番かなぁ。