
私だ。
“プロの素人” RedXIII だ。
約10ヶ月振りの任務報告になるが、私がその間何もしていなかったとは思って欲しくない。
(どういう事かわからない者は、ブログカテゴリを確認したまえ)
“プロの素人” として、日々隠密諜報活動に従事していたのは言うまでもなく、隠密諜報活動であるから公表できないのだ。
よって、私の近況について今ここでこれ以上語れる事は無い。
早速本題に入るとしよう。
今回の任務はかなり特殊な依頼だ。
…いや、やっている事自体は「代行運転」なのだが、
何処でそれを実行したかが問題なのだ。
この依頼は、ある意味 “タブー” ともされる内容を含んでいるが、
“プロの素人” である私は、あくまでプロとしてクライアントの希望に応えた。
希望
夢
叶わぬ想い
クライアントのそういった
“emotion” を、
僅かな一時、私が預かり、代わりにステアを握らせて頂いた。
その地は、
岡山国際サーキット
通称、
OKA-KOKU
“他人の愛機でサーキットを走る” という行為に違和感を覚える者もおろう。
「責任の所在が…」やら「道義に反する…」やら、そういう声があることは理解している。
しかし、一方で(これは私の屁理屈かもしれぬが)、
プロのチューンドカーの世界では、チューナー(或いはビルダー)はあくまで車両制作のみで、
アタックはプロのドライバーに頼むケースも少なくない。
また、例えば競馬の世界では。
オーナー(馬主)と、チューナー(調教師)と、メカニック(厩務員)と、ドライバー(騎手)は全て違う。
それぞれが役割り分担し、その領域に於いての
professionalとして最善を尽くす。
我々、素人のクルマ遊戯(私はプロとは言え、所詮は素人なのだ。
Soco'n'Toco YOLOshic!!)に於いても、そういった事は有りではないのか?と。
つまるところ。
今回のクライアントは、
長年、自身でサーキット走行を楽しんできたものの、
最近ある種の “壁” に直面し、自らの在り方を思い悩み、
今後の可能性を模索する手段の一つとして、私に “テストドライバー” を依頼したのだ。
「愛機の実力を知りたい」と。
…勿論、背景にあるのはそれだけではない。
それだけの理由では、私も「プロの素人として、仕事の道義に反する」と思ったであろう。
しかし、クライアントの抱える様々な胸の内に耳を傾け、
何より「“プロの素人 RedXIII” にだから託したい」という言葉が私の心を打ったのである。
プロの素人、冥利につきる。
いわば、今回の任務は
“emotion” に関わるモノであり、
「明確な達成目標・成功基準が無い」という点が過去の任務と大きく異なる。
「想いを乗せて走る」というのは些か気取りすぎかもしれないが、
つまりは、そういう事なのだ。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
当日朝、クライアントと某所にて落ち合う。
実は、ここで合流するまでに早くも一波乱あったのだが、
作戦遂行に支障の出る程の事態にはならなかったので割愛する。
同じ昴型ということでカムフラージュになると思ったのか、さりげなく並んできたSVX。
騙された振りをしておいてやったが…私の目を欺く事はできんぞ、どこのスパイだ?
真横に並んでくるというその大胆不敵さは褒めてやるが、
トイレに行く演技などは、私を監視するつもりならば逆に命取りだと知れ。
貴様が戻ってきた頃にはもう私の影も踏めぬだろう。ぬぁーっはっはっは。
道中の報告は割愛する。
現場の話をしよう。
OKA-KOKUには過去何度か潜入作戦を行っているが、
正面ゲートから突入したのは今回が初めてだ。
我が愛機をOKA-KOKUのパドックに、=衆人環視の下に晒すというのは
機密保持の観点からは懸念が多いが、任務の為には仕方あるまい…
今回、我が愛機は、あくまで此処へ来るまでの移動手段に過ぎず、
此処に着いてしまえばもはや "脇役" である。
今日、この場に於いて、私の愛機はコイツなのだ。
クライアントがわざわざこの日の為に用意したというタイヤ。
申し分無しである。
事前に下調べし、空気圧は迷いなく冷間1.8。
(ZII☆は空気圧高めがセオリーだったが、このZIIIは他銘柄と同等の特性となった)
いよいよ1本目の走行である。
まずは様子見。この機体の性格やご機嫌を伺うのも勿論、
周りの車両達の動向も充分に観察して、 "譲るべき相手" と "パイロン" を覚えておく事も重要である。
結果から言えば、1本目は終始 "安全BNY" でクルマに無理をさせずに
走行枠30分丸々を慣熟に使ったようなものであった。
丁寧に、忠実に、探りながら。
"本番" の2本目へ向けての長い助走のようなもの。
ドライバー自身の
"emotion" を暖めていく。
とはいえ、今日の私はただ走るだけが仕事では無い。
"クライアントの愛機を私が駆ることで、何かを感じてもらう" のが今日の任務の目的である。
直線だけ見ていたって、得られるモノはさほど無いだろう。
やはり躍動感溢れるシーンを見て欲しい。
1本目の間、ピットウォールからストレートを見ていただけのクライアントに
より
"emotion" に訴えかける光景を焼き付けてもらうべく、
2本目のギャラリーポイントをいくつか提案する。
これは…盟友 Mr.Orange が出入りするアジトの所属機体ではないか。
幸い、2ヶ所ほど納得のいく観測ポイントが見つかったようだ。
いよいよ2本目のスタートが迫る。
その瞳は何を見るのか。
いざ。
RedXIII with “Spirit of MAPLE” Attack on OKA-KOKU
充分なインターバルがあった為に、空気圧はすっかり1.8に戻っている。
先ずはタイヤを温めるべく、7割程度のペースで3周ほど周回する。
先頭から数台目のポジションでコースインしたが、この間に何台かに先を譲り、クリアを取りやすそうなポジションを探る。
自分の気持ちのスロットルを踏み込み、徐々にペースを上げていく。
1本目よりも大胆に
aggressiveに遠慮無く、しかしあくまで丁寧に、マシンの声は聞き漏らさぬよう。
タイヤのたわみを、リアが路面を蹴るのを、車体の沈み込みを、全身で感じ、確め、踏み込む。
クライアントは、この依頼を持ち掛けてきた時から終始、
「ATで申し訳ない」
「バケットシートも入っていないし」
「思い通りにならない機体で走らされて、 “プロの素人 RedXIII” のプライドを傷付ける事にならないか」
と、しきりに気にしていたが…
私はプロだ。
与えられた条件下で最善を尽くすのが任務であり、流儀であり
それこそが私のプライドである。
馴れない機体を操れないというならば、それは所詮私がその程度という事だ。
それにこの機体。
なかなか見事なモノだ。
チョイスされているパーツの多くも、クライアントが拘りを持って吟味したものであり、
私個人の価値観としても信頼の置ける物である。
私とて “見込み” の無い依頼など請けない。
その中でも
P-981 純正モノブロックを収めるブレーキシステムは特筆すべきパフォーマンスを見せる。
これのお陰で、“ブレーキングで詰める” 楽しさを存分に堪能させて頂いた。
「ATだからこそちゃんとしたブレーキを」というクライアントのチューニング方針に拍手を送りたい。
「私ではこの子を活かしてあげられない」と語ったクライアント。
愛機の “駆け抜ける様” を見たいというその
“emotion” 。
それに応えるべく、それを叶えるべく、私自身の
“emotion” をそこに重ねていく。
I have control.
スタンドから見つめる瞳に、
私の走りはどう映っただろう。
完璧、とまではいかずとも
それなりに “納得のいく1周” も組み立てられたので、
この数字が今回の私の仕事と思ってもらって構わない。
(更に言えば、これは私の “OKA-KOKU 初走行” の数字でもある)
まぁ…本音を言えば…
すべての要素がうまくハマれば、まだあと2秒は行けたと思うが、
他人のクルマでそこまでプッシュするほどプロに徹する事も出来ない私は、やはり所詮素人なのだろう。
自分のクルマで走るときよりもかなり多めのマージンを取っているのは走りながらも自覚した。
今回の目的は数字ではないのだ。
私の走りを見て、クライアントが何を感じ、何を思ったのかに意味がある。
後にクライアントは語る。
「自分のクルマなのに “Redの動き” をしているのが遠くから見てもわかって、
あのクルマもこんなに速く走れるんだと感動したし、凄く納得できた。
これでいいんだと納得できた。
気持ちが満たされて満足した。…ありがとう」
誰かの気持ちを乗せて走ること。
何かを託されて走ること。
そんなことをしたのは勿論初めてであった。
期待と責任を感じると同時に、
やはり信頼あってこそだと強く感じた。
ただ速く走ろうと遮二無二突っ走るよりも
難しく、奥深く。
故に走り終えた時の心地よい疲労感、穏やかな達成感、僅かな喪失感は、今までに無いものであった。
自分は主役でもなく、脇役でもなく、不思議な感覚。
全てが別々で、全てが一つ。
何か一つが欠けたら成り立たない。
人生の縮図を見たような気がした。
今回の依頼を終えて、
クライアントは満足を覚え、納得してくれたが、
…私自身も、得たもの、学んだ事が多くあったように思う。
感謝、である。
私は
“プロの素人” RedXIII。
私は走り続ける。
いつまでも、どこまでも。
私が私で居るために。
また次の舞台が私を待っている。