私だ。
“プロの素人” RedXIII だ。
俗世間では、年が変わったとかどうだかで騒いでいるようだが、プロの世界はそのような浮わついた話とは無縁なものだ。
もっとも、世間が浮わついていればそれだけ警戒の目が緩み、我々の隠密行動が容易になるというメリットはあるが。
いや、こんなことをあまり喋っては今後の仕事に影響が出かねん。
誰が何処で何を見聞きしているかわかったものではない。この回線は通常回線であるしな。
壁に耳あり庄司とメアリー だ。
…庄司とメアリーとは誰の事だ? 日本語のイディオムは難しい…
本題だ。
<<1月某日 夜>>
我が阪神防空圏へ向けて、隠密行動中の友軍機が高速接近中との情報。
当該機が補給の為に我が防空圏内に留まる間、対空警戒の要請が入った。
友軍とはいえ隠密行動中なので通常無線は使えない。
接近ルートから位置を予測し、高速航路周辺を警戒。
事前に設定されたランデヴーポイントの補給施設前で駐機している所を発見し、後方をカバー。
友軍識別信号確認、
EG6型 機動戦闘機。
身元誰何
(すいか) 、箱根防空圏所属
J'sTrace 一等空曹。
彼方、西の出雲防空圏からの帰還任務中である。
隠密行動中という事を考慮し、速やかにレーダーから潜るべく山間部へ移動する。
VIDEO
我が訓練空域で束の間の休息をとって貰う。
この任務、対空警戒というのは名目であって、他部隊との交流が暗黙の主旨である。
流行り言葉風に言えば「忖度」というヤツだな。
どうでもいいが、この「忖度」という言葉、未だに三國志か何かの人物名に思えてならない。
なにはともあれ、EG6型である。
J'sTrace 一等空曹がジャンクヤードから拾ってきて、
自分でコツコツ仕上げたというこの個体。
扉を開けばギィギィ音が鳴り、アクリルの窓はパタパタする。
リアハッチの固定は
その都度、安定のタイラップ式 だ。
当然の如く、内装は剥ぎ取られ配線も剥き出し。
マットの無いフロアはオイルで滑る。
ロールケージに巻き付けられた三点ベルト。
暗すぎて役目を果たしていない前照灯。
B18C換装の快音はダイレクトに車内に響き、
20kg超え激硬サスペンションのハーシュネスが身体を貫く。
機械式LSDにハイグリップラジアル、そして
“勘” ライメント 。
スパルタンである。
我が訓練空域を訪れるのが初めての一等空曹の為に、
先ず私の機に同乗してパトロール飛行を行う。
曰く
「こんなに良くできた機体に乗った後だと、自分の機体は…少し危ないかもしれません」
その若さに似合わず、既に私のそれに迫る程の生涯飛行時間を数え、高い技量と鋭い状況判断力を持つ一等空曹。
じゃじゃ馬乗りとして名を馳せる彼の率直な言。私自身も同じ感触はあった。
先ずは一等空曹の操縦でEG6の動きを見極める。
薄氷を滑るが如し。
確かに、私の愛機とは全く方向性の違う機体である。
これはもう駆動方式がどうとかいう領域では無い。
初見の訓練空域で戸惑いながらも数回往復すれば大体の感覚は掴んだ様で、
偶々居合わせ、こちらが余所者と見て模擬戦を仕掛けてきた訓練機を逆に手玉に取る辺り、
流石は箱根防空圏の
Ace である。
そして、最後に私がEG6の操縦悍を握って飛ばしてみる事に。
正直、ここまで乗り手に専用特化して(しかも極めて粗削りに)カスタマイズされた機体、上手く操れる自信は無い。
しかし同時に、非常に興味深く好奇心をそそる。
これも一つ、良い経験、良い訓練になるであろうとスロットルを開ける。
先ず驚いたのが、
我が愛機と同じ銘柄を履いているとは思えない、接地感の稀薄さ。
激硬サスペンションのお陰で荷重移動が難しく、ヨーイングだけで曲がっているような、滑るような感覚。
かと思えばスロットルONでリアがブレイクし、同時にトルクステアと格闘する。
なんだこれは。
慣れたら楽しめそうだが、なかなか慣れない。
それに、どちらにせよ乗り手にも体力の要る機体だ。
よくこんな機体で豪雨の筑波を飛んだものだ…
それはその時起こった。
或る右ターンの直後、右フロントから
ガリガリガリガリ
と金属が擦過する轟音と共に、視界の隅に火花が散る。
只事ではない。
機体を真っ直ぐに安定させ緩やかに停止させる。
同時に一等空曹が飛び出し、機体右前部を確認する。
「車輪(ギア) が無いです」
そうか、車輪が無いか。
無いということは取れたということだ。
取れたということは存在しないということだ。
ということはつまり、この場から動けないということだ。
うむ。
………はい?( ゚д゚)
まさか
敵の闇討ちか!!?
将を射んと欲すれば 先ず脛をかじれ と言うからな…
私を恐れるのはわかるが、借り物の機体の脚回りを狙ってくるとは卑怯な奴め。
いや、そんな事よりまず訓練空域のド真ん中に不時着しているこの状況に対処するのが先だ。
とにもかくにも。
私の機体を取りに駐機場へ戻らねばならない。無論、徒歩でだ。
まだ敵が潜んでいる可能性の高い暗闇の中を身を低くして移動する。
しかし、夜間の狙撃では消音器を付けていようが発砲炎で居場所が知れるので一発必中が
theory だ。敵が
professional なら二射目は無いだろう。
一発で私を仕留められなかった未熟を悔いるがいい。
途中、訓練機が1機通過し、状況を把握してくれたようだった。
これで敵も迂闊な手出しはできまい。私が狙撃手であれば速やかに撤収する。
程なく駐機場に辿り着き、置いてあった一等空曹の装備を私の機体に詰め込み、すぐに引き返す。
不時着現場に戻って、先ずは三角板を設置。後続機に回避を促す。
幸い、この夜は他に訓練機は見当たらず、数機の民間機が物珍しそうに遠巻きに通過していっただけだった。
すぐにジャッキアップして被害状況を確認する。
流石は箱根の
Ace 、焦ること無く淡々と手際よくこなす。
このような緊急時にこそパイロットの器が見えるというものだ。
結局、機体のダメージは
“ワイドトレッドのボルトが折れた” だけであった。
ハブボルトそのものは無傷だったので積んでいた予備の車輪を装着。
自力巡航可能になった。
ただ、
飛んでいった元の車輪は影も形も見当たらない 。
この暗闇の中では捜索も事実上不可能だ。
明るくなれば或いは…とは思うが、一等空曹はこの夜が明けるまでに箱根防空圏に帰投しなければならない。
彼は潔く「回収は諦めます」と言う。
この辺りの判断の早さも軍人として非常に重要だ。
感情で動いては作戦が崩壊し身を滅ぼす。
駐機場まで戻り緊急メンテナンスを行う。
機体外装に軽度の損傷は認められるが、巡航速度であれば支障無しと判断。
既に予定の出立時刻を過ぎている。
速やかに高速航路に乗らなければならない。
不時着直後から警戒支援を行ってくれた訓練機が見送ってくれた。
名も無きパイロットよ、君の機体は覚えておこう。
箱根防空圏まで無補給で飛ぶ為に最終給油を行う。
僅かな時間ではあったが、
そして思わぬ
accident に見舞われたが、
この J'sTrace 一等空曹とのランデヴーは今後のとある作戦の為にも非常に大きな意味を持つであろう。
Semper Fi!
<<翌日>>
私が其処に向かったのは全くの気紛れだった。
“世を忍ぶ仮の職務” の貴重な空き時間、
そもそも最初は、私が敬愛する作家ミチハル・クスノキの新刊を購入しに書店へ向かうつもりだった。
しかし、ふと前夜の事を思い出したのだ。
若き一等空曹は「回収は諦めます」と言い切ったが、
私は、彼があの装備に想い入れが有ることを知っていた。
出来ることなら回収してやりたい。
気付けば私は、12時間前に居たあの不時着地点へ向かっていた。
幸い、昨夜、あの暗闇の中でボルトを一本だけ発見していたのだ。
それに因って車輪が飛んでいったおおよその方向は推測できた。
恐らく、
崖下だ。
発見だけでも出来れば、後々改めて回収作戦を立案する事も出来るだろう。
そして私は鬱蒼とした人外魔境のジャングルへと踏み込んだ。
想定される捜索エリアまでひたすら谷を降りていく。
ぬかるんだ土の上に濡れた落ち葉が降り積もり、非常に滑りやすい。
谷底に落ちていれば良いのだが、崖の途中に引っ掛かっていたりしたらお手上げだ。
ふと後ろを振り返ると、もうかなりの距離を降りてきている。
そろそろ辺りを捜索しながら進まねば。
…あっさり見つかった。
もう少しドラマ性を考えて空気を読んで欲しかった。
…いや。
ここからでは裏側しか見えない。
近寄って確認してみなければ。
ゴクリと生唾を飲み込みながら引っくり返してみる。
これぞ、選ばれし勇者にしか引き抜けない伝説の聖剣、
スプリントハート・コンペティション!
…いかん。
どうやら疲れているようだ…
頭の中で厨二病的な囁きが響いている。
思ったよりも簡単に見つかったものだが、
これは模擬戦で勝利した時よりも込み上げる達成感があるな。
一等空曹の喜ぶ顔が目に浮かぶ。
谷川から引きずり上げて崖の上に停めている愛機まで運ぶ。
そう、
ここまで降りてきた道のりを戻らねばならない。
この重量15kg以上 の聖剣を持って。
見たくなかったのだが見てしまった。
上を。私の前に立ちはだかる現実を。
絶望感しか無かった。
現実に打ちのめされそうだった。
やはりこの聖剣、見なかったことにして置いていこうか…
だが、私がやらねばならんのだ。
他には誰も居ないのだ。
それに、これは軍の任務ではない。
私個人の行為だ。
私が彼の為にやろうとした事なのだ。
“プロの素人” である私にしか出来ない事なのだ。
その時私を突き動かしていたものは意地だけだったのかもしれない。
何度も立ち止まり荒い呼吸を整え、言うことを聞かない脚を必死に前に出す。
泥まみれの手で車輪を掴み、転がし、持ち上げる。
砕けそうな痛みを訴える腰を自分のものと思いたくなかった。
だが私はやり遂げた。
私は勝ったのだ。
奇跡的に、
損傷は皆無と言って良い状態だった。
エアバルブキャップの損失など些細な事だ。
後日、無事、箱根防空基地 J'sTrace 一等空曹 宛に送り返される事になるだろう。
~ Director's cut ~
FF車で、機械式LSD・ハイグリップラジアル・20kg超えのスプリング・高負荷BAXOWを繰り返す、という環境で
20mm級のワイトレを咬ましていると…
これも当然の結果でしょうかね。( ̄  ̄;)
完全に金属疲労ですな。
「走るクルマにワイトレやスペーサーはご法度」とよく耳にはしますが、実際に身を以て “勉強” した今回。
Jr.君も「もう二度とワイトレは着けないっす」と。
このワイトレ、決して安物ではないです。それでもこうなった。
それに、たまたまワタクシが運転しているときに発生したとは言え、
筑波アタックからこっち、ずっとこの状態で走り続けてきた蓄積な訳ですから、遅かれ早かれ同じ結果になってたって事ダヨネ…
数日前に父上がBNYしてる時になっていたかもしれないし、一人で高速走ってる時になっていたかもしれない。
そう考えると、(交通量が極めて少なく、高速に比べて速度域も低い)夜のお山で、且つ二人で居る時でむしろ良かったかもしれない。
高速でタイヤ飛んでったらエライ事になりますよな。(´Д`)
結果的にこうして、二次被害も無く、うまいことホイールも回収できたから笑い話で終われますけど、
ほんまに、走りのクルマにワイトレはやめましょう。
良い勉強させてもらいましたww
シビック、ちゃんと乗れなくて残念やった。( ̄▽ ̄;)
てーか…
今年始まってまだ一週間なのに
既に三角板の出動回数 2回www
あ。
父上ことインディさん、お土産アザーッした!┏○
大風呂敷を広げる、の図…シランガナw