デイヴィッド・ピース 『1974 ジョーカー』 (2001)
帯や解説に「ノワールの最高傑作」と書かれている。
ノワール。直訳すれば「黒」。
ノワール小説というジャンルも曖昧なものですが、=犯罪小説と一括りにするのは違うような。
悪人が主人公なのがクライムノヴェル?
犯罪小説と警察小説の違いは?
じゃあノワールの定義ってなんだ?
もっと精神的な部分が絡んで来そう?
というような事をこれを読んで思った。
本作は、プロットがかなり複雑で2、3回読まなきゃ理解できないタイプ。
だけど、シナリオを読み込んで謎解きのカタルシスを得る小説でもないような気がする。
犯罪・汚職まみれの救いのない世界で翻弄されのたうち回る胸の悪さを味わう事こそが本質?
混沌とした空気に読者を引きずり込む作風、スリリングな文体、謎が理解できないもどかしい混乱、
それこそがノワールなのか?
とりあえず、読んでる途中も読み終わった後も
楽しくも気持ちよくもないw
フランク・シェッツィング 『黒のトイフェル』 (1995)
写実的な小説。
13世紀のドイツ・ケルンを舞台に、史実や歴史背景を忠実に拾いながら、その隙間に
if を練り込む。
コソ泥のヤコプは偶然、大聖堂の建築監督ゲーアハルトが足場の上から何者かに突き落とされて死亡する瞬間を目撃する。
ゲーアハルトの最後の言葉を聞いたヤコプはゲーアハルト殺しの犯人に追われる。
一方、他に目撃者は居ないはずなのに、街ではゲーアハルトは一人で転落したと証言するものが現れる。
事件の背後にある陰謀は? ゲーアハルトはなぜ殺されたのか?
普通ではあり得ない携帯サイズの弩を使う殺し屋はどこから来たのか。
序盤から大体の粗筋は予想がつくものの、当時の空気感を感じさせる巧みな描写で引き込まれていく。
ケルンの歴史、キリスト教社会の政治、キリスト教社会の庶民の感覚、十字軍遠征の実際面等、世界史好きには堪らん要素がゴロゴロ。
物語の始まりとクライマックスの舞台は、建設に600年を要したケルン大聖堂のその建築初期段階。
最後に明かされる殺し屋の正体も意外な所だが、時代背景を踏まえると「なるほど!そうきたか!」と膝を打つ。
派手さは無いが丁寧な王道的内容。
小説家にも色々なタイプがいるが、
この著者はノンフィクションをベースにフィクション要素を足すタイプか。
後の代表作『深海のYrr』も読んでみようかな。
ハリー・クレッシング 『料理人』 (1965)
再読。
ノワールって何だ?と考えていたらこれが浮かんだので。
料理で人を操る悪魔のおとぎ話。
今回はネタバレでいきます。( ̄▽ ̄;)
初回時は、曖昧な表現のエピローグに若干( ゚д゚)ポカーンしたけど、
結局コンラッドが何をしたかったのか、=彼の目的が何なのかを考えると
別にヒル家ヴェイル家の乗っ取りはあくまで手段であって目的では無いだろう。
じゃあ彼の目的は何だというと、
完璧な環境での完璧な料理という事ではなかろうか。
完璧な厨房、完璧な料理人(コンラッド本人は完璧だが、補助する者)、完璧な食器、完璧な食卓、完璧な客。
ある意味非常に純粋にそれを求めていただけとも思える。
暫定的に “完璧な厨房” のあるプロミネンス城を手に入れる為に両家の婚姻を裏で手引きする。
プロミネンス城さえ解放されれば不要な人材は全て排除して入れ替えれば良い。
肥らせる、痩せさせる、生気を与える、衰弱させる、これらは彼の “悪魔の能力” であろうし、本人が太っていったというのは周囲へのカムフラージュ?
ただ一人ドクター・ロウだけがコンラッドの狙いに何となく勘づくが、それも結局表面的な浅い範囲に止まる。
そのドクター・ロウもクライマックスの披露宴では結局何も思わずコントロールされているようだし。
最後、エピローグでコンラッド自身がブクブク肥っていっているという “噂” の描写があり、「そこまでしといて自爆してんのかよ」と思うが、
その前に “跡取りの男子が産まれた” とある。
これがコンラッドの転生だと考えれば話は綺麗に纏まる。
Posted at 2018/09/30 14:00:09 | |
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