2013年06月01日
恐怖体験シリーズ 【赤いシルビアのI先輩】 前編
先日の深夜、喉の渇きを感じたため、一旦仕事を中断し、書斎から台所へと向かうその廊下の途中で、薄暗い浴室の扉の向こう側から、間接照明に照らされて突如浮かび上がる、頬がこけ落ち、眼だけが異様にギラギラした不気味な男の青白い顔。
乱れた髪が額に垂れ下がり、血走った目の奥に宿る狂気に、「ひゃっ」と思わず声が上がり、『殺される!! 』と腰が抜け掛った途端、実は、鏡に映り込んだ、久しぶりに見る自分の顔だということに気がついたハンニバル・メタラーことFlyingVでございます。
とまあ、3月からのトラブルに絶賛ドハマリ中の、ここ最近の私の憔悴振りは半端ではなく、子供達も怖がるほどでして、寝室も私一人が独占している状態だったりしますが、まだ気が確かなうちにと思い立ち、ペンを取った次第です。
私自身、基本的にはリアリストでございますが、『怪力乱神の類は信じないが、霊や魂の存在は認める。』と言う全く困った客観的実存主義に軸足を置いておりまして、大好きなホラー映画やオカルトの類には、それを非現実的な娯楽として楽しむための、「そんなことあるわけないだろ」的な確固たる隔壁が心底にある一方、紅顔の美少年と評判だった幼少のみぎりから隠れメタルとして日陰を歩んできた20代の頃まで、本人が全く望んでないにかかわらず、摩訶不思議な体験をいくつか体験してしまったがために、証明も否定できない立場にあるからなのです。
ま、物理学者で私のファイバリットでもあり、拙ブログにも勝手にご登場賜っております随筆家 寺田寅彦先生も、著作『怪異考』などで「超常現象は、科学的に解明しようとするととたんに味気がなくなり探究心が希釈化されるので、楽しめば宜しい。」と、なんでもプラズマで解明しようとしていたどこかの教授とは正反対の鷹揚なスタンスですので、あるがままを受けとめようと努めております。
ちなみに、信仰とは全く別の観念であり、唯物論vs観念論を蒸し返そうとするものではありませんので、あしからず。
長々と前フリをいたしましたが、本題に移らせていただきます。
私が実際に体験し、または知人から聞き及んだ数多の恐怖体験から、そこそこヒンヤリする中堅どころを一つご紹介。
色っぽいブログの後の箸休めとしての、あなたの知らない世界トリビュート企画、季節先取り恐怖体験ブログでございます。
長文につき、二分割させていただおりますが、注意事項として、この前編は導入部につき大したことないものの、後編は割とガチですから、【閲覧注意】にてお進みください。
それでは、どうぞ。
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これは私が学生時代、先輩が車で女の子にオイタしようと悪巧みしていた時に遭遇したお話。
硬派なメタラーを気取り、デーモン閣下も所属していた音楽サークルに身を置くも、周りの友人たちがリア充を満喫しているのに堪え切れず、メタラーであることをひた隠し、DCブランドで身を包み、むさ苦しい長髪をサーファーっぽく縛り上げて、メタル仲間達の目を盗んでは、軟派サークルに顔を出していた大学2年当時。
人が集まれば、サークルにもヒエラルキーは存在するわけでして、私のような貧乏バンド野郎がいくらお洒落をしたところで、決定的に違うのは、高校からエスカレーターで入学し、実家通学をしているほとんどの奴らが自分の車を持っているということ。
そのモテ具合ときたら、フルーツ青汁とオリジナル青汁、いや、ちょっと分かりにくいな、、、北斗の拳で言うと、シンとハート様、う~ん、シンは男前だろうけどハート様もとあるマニアに人気だし、、、そうだ、ミッキーマ○スとミッキー吉野って、こんなことしていたら、話が全然進まん(汗)
とにかく、女子大との合同イベントなどで、車に乗せて行って貰う時には、大変気を遣うのでした。
さて、今回の主人公は、そのいけ好かない連中の一人、I先輩。
夏でもポロシャツの背中にカーディガンを回してかけ、ブランド物のセカンドバッグ片手にパー券を売りさばき、女の子の電話番号を集めることを生き甲斐とする、ヘリウムガスよりも軽薄な人物。
当時、そのI先輩が乗っていた車は、S14シルビアのQ’s。
ボディカラーは赤でATの、完全なるのデート仕様。
そのS14に女の子を乗せて走っているのを毎日のごとく学校近くで目撃され、その上、ケバイのが日替わり状態ときたら、雑誌の取材が来るほどの目立ちっぷり。
実は、足代わりにされていたらしいのですが、それでも、私を含むしがないメタラー連中からすれば、十分、爆発に値するリア充でした。
その先輩、新歓コンパで田舎から出てきた右も左も分からない1年生女子が大好物のゲス野郎につき人望は皆無。
泣かした女の子のケアを後輩に押し付けたりと、チャラい仲間からも毛嫌いされ、先輩がいないところでは、常に悪口の中心なのでした。
4月に入り、3年生に進級したI先輩は、新歓コンパで意中の1年生を酔い潰し、いつものように、誰も気がつかないうちに、その子を連れ出すことに成功。
「送っていくよ。」との口実でご自慢のS14(Q’sのAT)に押し込み、一路、先輩が得意とするステージへとシルビアを走らせたのでした。
気がついたときには、既に先輩とその1年生女子の姿はなく、「くそ、やられた!!」と地団駄分でも後の祭り。
その1年生、仮にKちゃんとしておいましょうか。最寄の女子大に入学したてのお嬢様で、ハーフのようにはっきりとした顔立ち、色素の薄く大きな瞳にモデルのように細くて長い脚はダントツに可愛く、4月初旬のサークルの勧誘週間、構内が発情した男連中ひしめき合う中、一番沢山のビラを抱え、どこに行っても他のサークル連中に取り囲まる始末。
そんな子が友達に誘われて、このサークルの最初のオリエンテーションに顔を出したとき、先輩全員が色めき立ち、ガッツポーズをする輩までも出たとか。と同時に、先輩後輩問わず、早くも水面下で激しいつばぜり合いが勃発。
そんな私もメタラーであることをひた隠し、好きなミュージシャンはB’Zと即答できるぐらいまで訓練して臨んだ新歓コンパは、人間ポンプをやれだの、潜望鏡やれだのと、まるでシロクマ広告社ばりの一発芸を無茶振りしてくる先輩を華麗に流しながら、酔いつぶれた後輩を介抱しつつ、密かに女子のポイント稼ぐ作戦を遂行しておりましたが、もちろん、I先輩がKちゃんに近づくのを阻止するのも目的の一つ。
他にも可愛い女子は居たものの、かのジョン・ナッシュがノーベル賞を受賞したナッシュ均衡を導き出すきっかけとなったのも男女の恋愛観察ながら、ここではそのような高度な利益バランスはなく、Kちゃんを中心に出来上がる男達のマムシ臭いカルマン渦。
Kちゃんがかなり飲んでいることは分かっていました。
そして、酔いつぶれた彼女を介抱するのもこの自分だと、虎視眈々とそのときを伺っていた時、羽目を外しすぎて気持ち悪くなった後輩をトイレに連れて行った隙に、I先輩にかっさらわれてしまったのです。
あまりの悔しさに、円形脱毛症と痔にいっぺんになるかと思いました。
他の先輩たちも、I先輩とKちゃんがいないことに気がつき、場がザワザワし始めたものの、酔っ払って思考が止まり、前後不覚に陥った大学生達は、あっという間に、ただれた宴会へと溶けていったのでした。
しかし、次の日から、I先輩はラウンジにも顔を見せないばかりか、授業にも来ていないらしく、赤いシルビアも全く見かけなくなってしまったのです。
Kちゃんの友達から聞いた話では、Kちゃんはどうやらこのサークルには入らないとのこと。
サークル内で恋仲になった二人のどちらかが抜けるのは、よくある話。
I先輩も、抜け駆けしたことで、他の先輩にシメられただの、気まずくなって来れなくなっただのとの噂が大勢を占めておりました。
そして、新歓コンパから1週間ほどが経ったある日、地下のラウンジにたむろって、トレンド雑誌を見ながら薄っぺらい会話をしていると、入り口付近にぼんやりとした人影が浮かび、その人影は、ふらふらとまるでゆるい下り坂を惰性で歩いているかのな緩慢な足取りで近づいてきたかと思うと、ベンチの端のほうに、力なく腰を下ろしたのでした。
そして、その姿に、全員、我が目を疑いました。
なんと、そこに居たのは、別人のようにやつれたI先輩その人だったのです。
目は落ち窪みやたらとギラギラとしていて、頬は病人のように青白くこけ落ち、さらさらだった髪の毛は乱れて額に張り付いていて、トレンディドラマの主人公みたいだった面影は、すっかり消え失せてしまっているではありませんか。
最初は皆面食らっていたものの、
「I先輩、久しぶりですね。」
「一体どうしたんですか?病気でもされてたんですか?」
「I、お前、大丈夫か?」
と、口々に声を掛けられ、弱々しく頷くI先輩に、
私の友人が、「あ、そう言えば、Kちゃん、、、、」と言いかけた途端、
体がビクッと痙攣させ、目を見開いた直後、I先輩はガタガタと震え出したのでした。
それを見た他の先輩が、
「おい、誰か救急車呼んでくれよ。」と指示を出すと、
「あの、うちの学校、救急車が入れないんですよ。」別の学部の同級生が答えました。
「何だよそれ。」
「サイレンの音を聞くと、学生が興奮して大変なことになると。」
「それって、学生運動とか全共闘とかの時代の話じゃねえのかよ。ったく、なんちゅう学校だ。」
なんてやり取りをしている内に、I先輩は落ち着きを取り戻し、ペットボトルのお茶を一口流し込み、口を開いたのでした。
「信じてもらいないかもしれないけど、新歓コンパの後、俺が何を見たのか話す。」
「おお、一体どうした?もしかしたら、Kちゃんがニューハーフだったとか?それとも新手の美人局だったとか?」と茶化すT先輩を、I先輩は一瞥すると、
「そっちのほうがよっぽどマシだったか。」と、吐き捨てるように言ったのでした。
「マジ?なんだよ、早く教えろよ。お前、まさか、Hではじまる、あのアルファベット3文字のウイルスもらったとかかよ!?」
ヘラヘラしながら、なにげにI先輩から距離を取ろうとするT先輩に、
「いいから黙って聞け。」血走った目を向け黙らせた後、語り出したのでした。
「あのコ、お酒飲んだの初めてって言うから、甘めできついカクテル進めたら、どんどん飲んで。で、すぐ酔っ払っちゃったからさ、『最後まで居ることないし、家まで送っていこうか?』って聞いたら、『はーい。宜しくお願いします。』って。
いつもの俺の黄金パターンさ。もらったと思ったね。でも問題は、お前らのマークをいかに振り切るかだ。それで、他の後輩もたらふく飲ませて、ヘベレケにさせて、お前らがてんやわんやになっている間に、あのコを連れ出した、でもよ、歩くのもやっとなぐらいアルコールが回っているもんだから、肩を貸しながらボディタッチもした。」
「触ったのか、ほんと最低な奴だな。」
と顔をしかめるT先輩も、I先輩とやっていることは引ったくりとオレオレ詐欺ぐらいの差しかない悪党同士だ。
「大体、これぐらいの大きさだった。」と近くあったコーヒーカップを指差すゲスなI先輩。
「マジかよ、いいなぁ。」
「まあ、役得だと思ってくれ。それで、車乗せて、家がどこにあるか教えてもらうんだけど、行くわけがない。でも、酔っ払っていても、家じゃない方向に向かってるってことは分かるんだ。
『どこ行くんですかぁ』って聞いてくるから、酔い覚ましにドライブでもしようかって答えると、『優しいんですね。』だって。どのみち、後でもっと優しくするんだけどな。
トロンとした瞳と、時々、寝息みたいにふぅって漏らす吐息があんまり可愛いもんだから、いつものところを止めにして、スイートが使えるぐらいポイントが溜まりっぱなしになっていた、峠のとこに行くことにした。それにあの脚だぜ、いやもう、頭の中では、加藤鷹が親指立ててたよ。
でもさ、あのコ、ちょいちょい気持ち悪いって言って、車止めるもんだから、いい加減、オレの下半身も堪えきれなくなって、無理やり、チェックインしようとしたんだ。そうしたら、ついてないことに満室でよ、あの真っ暗な山ん中にあるでっかいホテルがだよ、どんだけ盛ってんだって思ったね。
その頃には彼女も目が覚めてきて、そりゃ大騒ぎさ。
『こんなの嫌だ。』とか『恋愛経験ないもん。』って泣くから、『こういう形で始まる恋愛もある。』って言ってやったら、『お家に帰りたい。』とさ。」
「クズだな。」T先輩の一言に、全員が頷いた。
(続く)
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アンビリーバブル | 日記
Posted at
2013/06/01 16:39:16
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