2025年04月01日
【長文】哀しき怪人【微閲覧注意】
尾張名古屋の片隅に、とある男がひっそりと暮らしておったとさ。
その男は、家族を愛し、わんこ&にゃんこを可愛がり、メタルギター、本、アニメ、映画、ゲームを嗜み、ちょっといい話、ちょっと怖い話、ちょっとエッチな話のほか、墓まで持っていくほどエッチな話を好んでおったそうな。
元来、気が弱く人見知り、基本的に出不精で、外に出ることよりも家の中に籠ることが多く、珍しく外に出ても、人目を避け、ぼっちで行動していることがほとんどじゃった。
なにより、この男がそのようになったのは、くぼんだ頬、尖った顎先、青白く面長な頭蓋、ぼさぼさの髪の毛、乏しい表情筋がもたらす引きつった笑いと、まるでアンデッドのような風貌に加え、極めつけは、生まれついての目つきの悪さを、痛いほど自認していたからに他ならなかったのじゃ。
切れ長と言えば聞こえはいいが、常に、上瞼が瞳孔の半分を覆い、平行四辺形をした奥二重の三白眼は、眠そうというよりも、常に不機嫌な表情となって現れ、例え気分がいい時でも、この目つきにより、周囲に不穏な空気を撒き散らすこと数え切れず。
幼少期は、キツネ顔と気味悪がられ、中学性になると、視力が落ちたことも手伝って更に眼光鋭く、
入学早々、「お前、何ガンつけとんじゃ、こらぁ。」と怖い先輩達に絡まれ、校舎裏にベタに呼び出されたりして大乱闘スマッシュブラザーズなどしている内に、いつの間にか同学年のヤンキー達から一目置かれ、勝手に仲間認定されてしまい、そして高校入学とともに、奴らとも縁が切れたと思ったのもつかの間、今度は、通学電車や、一人穏やかに楽しむはずだったゲームセンターで、他校のヤンキー達から「何ガンつけ飛んじゃ、オンドりゃー!!」と胸倉掴まれるなどしている内に、散り散りになったはずの中学時代のヤンキー達が、再び、その男のもとに集まり始め、某K駅での駅員総出で鎮圧しに来た大乱闘マッシュブラザーズ2をはじめ、デンジャラスなイベントが頻発し、それにほとほと嫌気を覚えた男は、電車を替え、少し遠いゲーセンに自転車通学を併用するなどして、難を避けていたのだったとさ。
それでも、全ての雨粒を防ぐことができないのと同じく、予備校に向かう途中の名古屋駅裏地下街や近鉄百貨店など、行く先々で、望まないトラブルに遭遇していたのじゃ。
進学後、上京した時は、本気でバンドに取り組んだおかげで、長い金髪をたなびかせ、いかにもバンドやってます雰囲気を醸し出すことに成功し、その手のデンジャラスイベントはめっきり減ったものの、その代わり、体脂肪率一桁に落ちた体は、長髪とほっそい体系から、時々、夜の繁華街で酔っ払いからガチ目のナンパをされたり、男子トイレに入った途端、「うわぁぁぁ」と驚かれたりしたのだとさ。
当時、西荻窪のRHJと呼ばれていたのは、随分前に話したっけなぁ。
成人になると、好印象を与える表情の作り方を学んだり、眼鏡を掛けたり、なるべく人と目を合わさない術を身に着けるなどして、色々な奇跡が重なって理解ある伴侶を得て、家族を持つことができたものの、自身の目つきの悪さは依然、その男の中では大きな引け目となっていたのは仕方がないことじゃったそうな。
そんな人目を避け、隠遁とした生活を送っていた男じゃったが、ある暖かな春の日、麗らかな日差しと桜の開花の気配に誘われ、自宅前ガレージに愛車G80を移動させ、久方ぶりの洗車をしておった時のこと。
ピカールのコンパウンドを使って小傷を浚い、ピカピカに仕立てた愛車の拭き上げをしていると、近所の森から、隣家の横を沿って、男の内の玄関近くに続く、人一人が通れるほどの狭い小道が出来ていることに気が付いたんじゃ。
10年以上、雑草と茂みに覆われており、小道になっていること自体知ることなく、最近、綺麗に伐採されたことで、埋没していたそれが出現していた。
男が小道の横に立って、その奥を眺めていると、童たちの声が聞こえ、こちらに向かって元気に走ってくる姿が見えたそうな。
男は邪魔にならないよう、愛車の後ろに移動し、その様子を眺めておったそうな。
小学生と思しき、7~8人の童達が、その小道から、歓声とともに、次々元気よく飛び出し、男の家の前を横切っていったのじゃった。
森から駆けてきたのじゃろう。
少し汗をにじませ、エネルギーにあふれた小さな体が飛び跳ねているのを、男は、コーティングの仕上げをするのも忘れ、微笑ましく目で追っておったのじゃ。
最後の1人がひと際大きくジャンプして、小道から飛び出し、駆けていったところで、男は、ようやくウェスを動かし、愛車の仕上げに掛かった。
男は子供たちから、元気をもらった気がしておった。
自らの幼き頃の記憶、小さかった子供たちと過ごした思い出、、、、
春の空気とともにそんな温かい気持ちで一杯じゃった。
すると、男の家から5,6メートルほど先の道端で、先ほどの童達が集まって、なにやら話している声が聞こえてきたんじゃ。
男の姿は塀に阻まれ、童達には見えてない。
その死角からでも、はっきりと聞こえてくる無邪気な声は。
「やばいやばい、、、、」とオノコ童。
「あのおじさんに、すっげええ目で睨まれた汗」と別の童。
「俺も俺も!!」とまた別の童。
「あの目はやべえ、、、絶対殺すマンの目してるわ。」とまたまた別の童。
「怖いよね。どうする?」と混じっていたオナゴ童の声には恐怖が滲んでいる。
「やばい人だってことは間違いないから、あっち行こ。」とリーダーと思しき童の一声で、わらわらと去っていったそうな。
男は茫然と立ち尽くしておった。
ガレージから出て、「怪しんもんじゃないよ。」と言いに行ったところで、かの妖怪人間同様、余計に怖がらせてしまうに違いない。

胸が潰れるほどの失意に見舞われた男は、洗車を終え、鏡で自分の顔を確かめ、愕然となった。
そこには、花粉症で真っ赤に血走り、瞼が瞳孔の半分にまで掛かった、見たことがないほどの凶悪な目付の、幽鬼と見まがう怪人が写っていたのだった。

男は胸の中で、『怖がらせて、ごめん。』とつぶやくと、三島由紀夫の自身の顔について書かれたエッセイを思い出し、イケメンに転生するにはどの程度徳を積めばよいか逡巡し続けたのじゃった。
ここまでが、ワシが見聞きした、哀しき怪人の一幕じゃ。
この哀れな怪人が、これから挽回するのはどうしたらいいのか、親切などなたかが、こっそりと教えてやってっくれたらと、老婆心ながら思ったり、はたまた、しばらくは、そっとしておいてやるのが時薬として一番の処方なのじゃないかと考えたりしたのじゃが、
ちなみに、この男の嫁と息子&娘は、これが起きた日の夕食時に、この話を聞いて、腹を抱えてヒーヒー笑い転げておったそうな。
おしまい。
※いつものことながら、名作エンジェル伝説から拝借した画像と本文は一切関係ございません。
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悲しいとき | 日記
Posted at
2025/04/01 12:31:53
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