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菊菱工廠のブログ一覧

2025年07月05日 イイね!

元祖・国産工業デザイン 東芝 ヒマワリR-1 昭和29年頃

扇風機も時計も気分がひと段落してしまい、何となくやる気が起きないこの頃。
特に扇風機は数年来の修理待ちがいくつかある状態…

車が来たら気分も全く変わるのでしょうけど、そしたらそっちに付きっ切りになりそう。
だから今こそストック消化…とは中々行かないもので。


そんな今回のお題はこちらです。



東芝の「ヒマワリR-1」、C-4752。
またの名をADF-30R-1。
CとADFで2種類の型式が表記されていますが、C-4752がカタログナンバー。
ADF-30R-1は型式名となるようです。

本機は以前、原型と思しき機種をレストアした際にチラッと触れたもので…



これの右側、メタリックグレーの個体と同型になります。
しかし色違いではなく、恐らくは前期後期の関係。
今回のが前期、上の写真のが後期だと思われます。

というのは、型式がC-4752とC-4760で、今回のが若い番号となっています。
加えて写真左のSEWマークの方と、エンブレム(モノグラム)自体のサイズが一緒なんです。
そして写真右の個体は1段盛り上がった形になり、上下巾も増しています。
MCの流れとして「豪華になる」のは自然という点もあり、今回の方が前期型ではないかと予想した訳です。
そのため表記もカタカナとなりました(当時の箱に書かれた名前は途中から平仮名になっています)。

年式としては、手持ちの1955年カタログでは既に幅広エンブレムなので、それ以前でしょう。
遅くとも54年でしょうか。

私はどうもこのシリーズが好きで、もう4台も集まってしまいました。
確か以前はもう1台、今回のと同じ前期を持っていた気がしますが…
「ほぼ一緒だし資金が欲しいし」で手放した記憶があります。


さて、この個体の状態はと言いますと、オリジナル度はOKでそれなりに傷みありとなります。
大きな損傷は無いながら、モートルの袋ナットやギアボックスの蓋にガリ・P剥げがあります。
過去のメンテ跡です。
まぁそれ位は仕方ないですし、趣旨がバリ展コンプ要員(失礼)なのであまり気にしない事としましょう。




ひとまず分解を進めます。
この時点で、モートルの前後を留める袋ナットに入れ替わりが判明。
微妙に長短がありまして、恐らく長い方が前に来る筈なのですが…2か所逆になってました。
全ネジから外れなかったものと思われます。



配線外しの為底面へ。
ゴム脚は残っています…が、カチカチなので交換しましょう。



中には絶縁の紙。
…なんかヘロヘロと言うかシナシナというか。



碍盤です。戦後製とあって奇麗。
とはいえこちらも一度はメンテされているようで、電源線の締め付けがかなり強力でした。
本来はカレンダーも入るんじゃなかろうか。




これ、水没してない?
初の経験ですが、この泥の付き方って水没車そのものですよね?
改めて点検するとちゃんと動くので、コイルの腐食やショートは免れているようですが…
シナシナ絶縁紙はこれのせいだったか。

そして痛恨のアフター撮り忘れ。ほぼ取り除けました。
汚れはブラシで削って行くとやはり泥のようで、細かいホコリが舞いました。
水洗いはできないのでパーツクリーナで濯ぎ。

もしこれが洪水か何かでの泥だったとすると、粉塵やら細菌(のリスクは今回は低いでしょうけれど)やらで碌な事はありません…



モートルへ戻ります。
こちらはよくあるコンディションなので悪くはありません。



ギアボックスを外してグリスを清掃します。
いい感じに固まっていたため、大まかには楽に取れました。
しかし問題は塗装面へのこびり付きでして…

カラー化が始まった辺りの機種では、往々にして油が強力にこびり付いていたりします。
黒い戦前型も似たようなものですが、色的に目立たないんです。
黒が多かった理由の一つが正しくそれ。

こうなった油はスプレーのパーツクリーナでは落にくく、粉末なら落ちるものの塗装まで傷めがちという悩ましい奴です。

とあらば磨いてしまうしか手は無し。
先日試して中々良かった方法。粗過ぎて使っていなかったコンパウンドが役に立ちました。
しかし磨きすぎには注意です。



同様に順次清掃と磨きへ進みます。
こちらはエンドベル。
ギアボックスが付くだけあって油汚れも中々のもの。



モートルです。
写真だと分かりにくいものの、全体的に汚れていて色味も変わっています。
アフターは組んだところで。
今回は悉く写真を忘れてますね…



基台には謎の斑点も。



完全とは行かないながら、良い艶が出てくれました。
戦後製の良い所の一つは、銘板の塗装が強くて削れにくい事。



モートルの引き出し線も奇麗にします。
上半分が済んだ状態。
ここも汚いと「あと一歩」感が出てしまいます。
水拭きやらでは落としにくいため、他との違いを出すポイントでもあり。



ロータは清掃済みの写真を。
珍しくシムは外せない状態(仕様?)でした。



ギアボックスも完了。
この時代の芝浦はカムを外せないので、内部の清掃には限界があります。
グリス循環用の穴からパーツクリーナをしつこく吹き込んで「まぁ良いか」と思ったところまで。
給油も同じ穴からグリススプレーを吹き込みます。



組んでいる途中の今更な発見。
ギアボックスを固定するビスが1本交換されていました。
素材と長さが違う以外はごく自然で、ただ色が落ちただけかと思っていました。



電源コードも再生します。
最中合わせになる手前の時期にあった、ビニール一体成型の組み立て型プラグです。
50年代の家電によく見られる印象で、こうして現存しているのは貴重。
却って戦前のポニーキャップの方が現存率が高いです。
まぁアレは今でも売ってますしね…本当に当時のポニーキャップは多くありません。
単に補修用として同じ形を選べる状況が今も続いている、という事です。





お次はファン。
センターにペン跡がある他、全体的に油の跡が。
センターキャップはハブと一体なので、バラして洗います。





この個体のように東芝ロゴの時期になると、センターキャップがハブと一体成型になります。
表からファンを貫通させるのですが、SEWロゴの辺りだとキャップとハブが別。
ハブは裏からビス固定して、キャップは表から爪曲げでの固定となっています。
ビス隠しの意味もあったんです。



右半分だけ磨いた状態です。
色が一段階明るくなりました。



裏面の汚れ近影…ファンの遠心力で油が伝った跡ですね。
これも同様に落としました(写真は忘れました)。



磨きが終わったら組み立て再開。
裏蓋には壁掛け用ブラケットが収納されています。
折角なので油を注して引き出せるように。

戦前製は基台にフランジが出ていて、そこにビス穴がありました。
フランジを無くしてスッキリ&丸みを出した代わりにこれが付いたのです。



ゴム足交換。ちょっと小さい。



グリースカップも清掃完了。



という事で完成です。
予想よりも綺麗に仕上がりました。



ファンの艶が特に素晴らしい。
この時代特有の、クリアプラの裏から塗装したモノグラムも素敵。
支えが両端なので失われているものも多いです。



スイッチノブとコード・プラグも綺麗になりました。
この辺も手入れしてあると気分が良いですし、パッと見の明度も一段上がります。



最後はマイナー別のひまわり系4台。
左から古い順に並べてます。
Posted at 2025/07/05 23:39:48 | コメント(0) | トラックバック(0) | アンティーク家電 | 趣味
2025年05月05日 イイね!

キメラに見えて実は… 三菱電機 400mm(16吋)扇風機 昭和22年?

やって参りました扇風機ネタ。
車のSNSのはずが、すっかり当ブログの持ちネタと化しております。

今回入手しましたのはこちらです。



三菱電機の緑の奴。
戦前型ベースの戦後製造16吋です。
ファンがエトラ扇ではなく、戦前型と同タイプとなっています。

このスタイルは時たま目にするのですが、大抵は「戦後の本体+戦前のファンでオールペンorファン塗装」というものか、「戦前機のガードを戦後製に交換してオールペン」といったキメラ個体。
なので真偽はともかく「疑わしきは敬遠」で買い手が付きづらく、こちらも珍しく入札1件で終了…見た目のコンディションに対して少々値が張ったのもあるでしょうか。

オリジナルでこのスタイルが無かったのかと言えば、それは嘘であります。あれは嘘だ。
芝浦(東芝)であれば睡蓮を戦後も作っていたのでよく見かけますし、ナショナル・KDKでもたまに見かけます。
しかし三菱となると、戦前の時点からエトラ扇があったためか、戦後の個体はほぼエトラ扇の印象があります。
実際、この個体も初めて見たと思います。
一見すると上に書いた通り、ファンだけ戦前から移植したキメラのようですが…



ファンとガードその他が全く同じ色のオリジナル塗装で、しかもファンの素材はアルミ。
P剥げ部分の腐食からもわかります。
戦前型であれば真鍮か鉄、そうでなければベークライト(三菱ではマイカルタと呼称)なので、これが証拠と言えましょう。





更に言えば、戦後製造でありながら電線が布巻きというのが特徴です。
同社製で有名な12吋細目扇(エトラ扇)でもたまに現れますが、これまた他社にも例がありまして…



東芝のC-4706、後の「ひまわり」の原型ではないかと考えている個体です。
ひまわり(ADF-30R-1、ひまわりR-1)より戦前型睡蓮に近い設計で、より終戦直後に近い時期の製品と思われます。

これも今回の三菱と同様、カラー化・ガードのデザイン研究が行われた戦後の製造でありながら、ビニール電線が登場する以前のもの。
袋打ち電線とポニーキャッププラグが使われています。

では、それらの特徴から一体何が分かるのかと言うと…今回の三菱機も戦後直後の製造ではないか、という予想。

度々年代特定の裏付けとしております論文、「我が国における扇風機の機能,形態及び色彩の変遷」を見てみると…
1948年(昭和23年)のアサヒグラフに、同じガード・エンブレムのエトラ扇が広告として載っています。
その上の本文には、1982年発行の三菱電機社史からの引用として、「扇風機では昭和22年に業界にさきがけて若葉色を採用し、涼しさ、軽快さに加えて家電品としての親しみを出すなどその後の躍進への始動となった」という記述もあります。

エトラ扇の広告は「業界にさきがけて若葉色を採用」した翌年ですから、カラー化した際の機種はエトラ扇じゃなかったかもしれません。
知る限り、戦前のエトラ扇は12吋しかありませんでしたから、戦後復興の時期と言う点からも、16吋のエトラ扇はもう少し後の登場だったとも予想できます。
となると、今回入手した個体が正にそれかも…と考えらえれないでしょうか。

もしこの予想が合っているとすれば、三菱電機初のカラー仕上げ扇風機と言う事になります。
戦前にもパールホワイトやブラウンの展開はありましたが、インダストリアルデザインの意味を含むものとしては、各社とも戦後がスタートです。

…ならば、三菱系初の扇風機(三菱造船MKW)・三菱電機初の扇風機(初号扇12吋)に加わる「第三の三菱初」がやってきた事になりますね。

では分解整備していきましょう。
状態は然して悪くないようですので、どこまで奇麗になるかでしょう。



いつものようにファンガードとファンから。
ですが一体型のガードなので、ファンとの分離は知恵の輪状態。
どうせファンの端は塗装が浮いているので、結構ガリガリに擦りながら外しましたが…
本来はどうしていたんだろうか。
先にファンを軸から外すのが正解なのか…

なお、今回の欠品はガード固定金具とビス1セットのみ。
鉄板から適当に作る予定。



配線を外すため裏面へ。
裏蓋は大変奇麗で、フェルト脚も完全に残っています。



碍盤です。
戦後製造らしく、白磁器の無垢にビス類は鉄製。
電線は端末仕上げとカレンダー処理から、オリジナルと見て間違いないでしょう。



取り出しました。
しかしこの個体は細かい塵が多い。



ここは収縮チューブで補修でしょうか。



マイクスタンドになりました。
基台に一本入っている縦線はP剥げ。
結構派手なのでタッチアップしたい所ですが、背面(モートル周辺)もそんな感じなので、いっそ味として受け入れるか悩みどころ。
黒だったら目立たないし、適当に塗ってもあまり間違いないのですが…



戦後製造の証拠の一つ。
戦前型ベースでありながら、脱着式のグリースカップがありません。

前後とも給油口の鉄球が無いのは…ただそうなっただけか。
或いは仕様なのかわかりません。



エンドベルとギアボックス。
油汚れが結構ですね。



モートルの中は意外と奇麗でした。
引き出し線の根元が解れているのはどう補修したものか。
素直に絶縁テープを巻くか、それとも工夫するか。



ネックの軸にはスナップリングが入ってました。
三菱の戦前型には無い特徴です。
その代わりとして、仰角の軸にビスが入れ子になる構造ではありません。
ここだけメッキなのも含めて戦後型によくある設計かと。
見た目をスッキリさせたという事かな。



ギアボックスを開けました。
グリスは少なく、周辺の汚れ具合からしても出て行ってしまった模様。

素材は鋳鉄からアルミダイキャストに代わっています。
基台はバランス保持のためか、引き続き鋳鉄のようです。
エンドベル共々、持つと思いの他軽くて変な感じ。



清掃しました。首振りカムはハンドプレスでピンを抜いて分解。



角度を変えて。



こちらは首振りアームとネックピース。
モートルを受けるベアリングの下には圧縮紙のシムが3枚。
これも戦前機には無いもので、改良点の一つでしょう。



碍盤にも塵が積もっています。
簡単に清掃すると…



驚きの白さ。
次は基台へ。



主に塵の除去でしょうか。
剥げを除けば塗装面自体は良好なようです。



軽く磨くとかなり奇麗になりました。
派手にガリ傷があるのはどうしましょうか…
この個体の塗装、銘板の凹部を含めて弱めのようです。
ちょっと引っ掛けたり圧を掛けるとパリッと行ってしまいます。
この1台が弱くなっているだけなのか、時期やメーカの特徴なのかは何とも言えません。



また、この個体で珍しいのがブッシュ。
色付きゴムブッシュは当時各社よく使っていましたが、今日まで無事なものは極めて稀。
驚く事に弾性が残っています。
電源コードの部分だけは溶けていたので交換しました。



モートル配線を戻します。
電源線は悩みましたが、外装が爪で引っ掻くと破けるレベルだったので交換。
せめてもと思い、東芝用の同色綿打ち(こちらは袋打ち)にしました。







という事で完成です。

P剥げが残念なのと、何となく納得行かない仕上がりになった点が複数あり、どうもやり切った感がありません。
金具も結局作る気が起きず放置。
いつか手を付ける日が来るかなぁ…
珍しい機種である事は確かだと思うので、ゆっくり過ごしてもらいましょうか。
ある日突然やる気が出て、色合わせしてタッチアップしたり…するかもしれません。
Posted at 2025/05/05 23:07:42 | コメント(0) | トラックバック(0) | アンティーク家電 | 趣味
2025年02月23日 イイね!

スタンド型電子コンパックの初代 三菱電機 R35-SN 昭和44年

今回のレストア対象は、2台連続となる電子コンパックでございます。
前回のR30-SSの前年となる、昭和44年デビューのR35-SN。



ニコイチ修理のため2台用意。
ファンガードの無い方が部品取りですが、実は当初は逆のつもりでした。
部品取り機を買ってみたら、そちらの方が状態が良かったためガードを移植。

ファン径35cmで、首を伸ばすと140cm弱になるスタンドファンです。
仰角調整ネジの付くネックピースより上は、30cmファンの機種と共通部品が多数。
故に30cmファンも取り付け可能で…部品取りにした方は当初そうなっていました。
買ってから気づいて、後年の機種を買って移植した挙句の部品取り化。
可哀想な事をしたなぁ…一部は糧となりますので、有難く使わせていただきましょう。


本機は電子コンパックシリーズとしては初の大型機となります。
この後二代続くR35-SN系の初代です。

今の所確認できているスタンドタイプの電子コンパックは、このR35-SN~SN3の3種に限るようです。
SN3はSN2をベースにしたマイナーチェンジ版のため、電子コンパックの初代にして30cmお座敷扇であるR30-SXと同様、「初代だけ別設計」です。

その後は通常のプッシュスイッチなりに纏まったようですが、人間が立った状態でスイッチが手~目線の位置に来るスタンドファンの方が、何となく電子スイッチに向いている気がします。
重心が高くなるため、プッシュよりもタッチの方が軽く操作できるという点からも。
それでもあまり流行らず終息したという事は、やはりメリットが大きくなかったのでしょうか。

こう考えてみると、生物の進化を辿るかのようですね。



当時のカタログも手元にあります。
以前レストアしたR30-SX2にてご紹介したものです。
その中のシリーズ一覧に本機が載っています。
というか、このカタログで存在を知りました。

「豪華な洋間・応接間にふさわしい電子スイッチがついた洋間扇の超高級タイプです」

との事。
分類は「35cm高級洋間扇」。
ファン色はブルーのみです。
電子スイッチは「風速順送式」となっており、結果的に風速選択式はこのカタログでメインを飾っているSX2だけ。
更にその初期型に限られるようです。

何故そうなったのかは不明ながら、一つの仮説として考えているのは、誤動作を取り切れなかったという事。
以前レストアした個体が正にこのカタログの外見のスイッチ(数種バリエーションがあります)でしたが、風速を選んだ後に電子スイッチを無効化(固定モード)としないと、暫くの後、勝手にレンジが切り替わってしまうのです。
それはもうランダムにガチャガチャと。事情を知らなければ完全なオカルト状態。

てっきりプリント基板上のキャパシタ劣化かと思いきや、交換しても収まらず。
コールドスタートからは少々時間を置いて起きる事から、電子部品の温度特性に思えます。

そして同じSX2にも風速順送式があったり、選択式でもスイッチ形状が数種あったりするため、当時の三菱電機が「諸々努力した結果、選択式はダメでした」と結論付けたストーリーが見えてくるのです。
まぁ完全な妄想ですけれども…


さて、この個体…大型機ですのでどう進めましょうか。
コンパックの利点として操作部から上下が簡単に分離できますので、先にどちらに手を付けるかが迷いどころです。
何となく普段と違う所から手を付けたいので、やはり基台部分でしょうか。
その後、合体させて上部を手入れすればスマートかしら。
ではそうしましょう。

…誰と話してんだ。



という事で分離。
裏面を開けていきます。
スタンドファンの特徴の一つとしてキャスタを装備しており、三菱電機ではローラベースと呼びます。
似た機構として、東芝のロータリーベースがありますね。

キャスタはゴム製のため、経年劣化で罅割れと歪みが出ています。要交換。
しかし、ハンマーキャスタ製とあって規格品かと思いきや、ビス穴ピッチの長い方が33㎜という変なサイズ。
短い方は24㎜なので、今なら30×24が売っているのですが…いきなり壁です。
仕方ないので、近い寸法の車輪に打ち換えるか?

…と思ったところで閃く。
「取付穴を片方切ってしまえば良いじゃない」と。
それでワッシャを挟んで締めてしまえば問題無いのでは?
という事で、打ち換え用の車輪も一応用意しつつ、30×24mmピッチの物を用意する方向。
その車輪は7mm大きいですが…半径で3.5mmなら、恐らく底板に干渉はしないでしょう。
したらその時に対策を考えれば。



裏蓋を開けました。
コード巻き機構が無いので実にシンプル。
…そして汚ねぇ。

普段と違う異臭(油臭いというより刺激臭に近い)がしていましたが、錆が混じったせいでしょうか。
或いは裏面に砂が少々付いていた事から、一時屋外か半屋外(納屋的な)にあり、雨や湿気が入った可能性。
そこはかとない雑巾臭。

とはいえこの汚れ、冷静に見れば唯のグリスです。
見た目は焦げ付いた鍋のようですが、首の伸縮機構で配線を滑らせるためのグリス。
このまま置いておくのも嫌なので…



早々に清掃。
臭いも消えて、触っても汚れないので一安心です。



そして首も分離します。
主目的は首の交換。付け根のガーニッシュ取り外しと清掃はいわばオマケ。
今回はニコイチ修理ですので良いとこ取りする訳ですが、全体的に良い感じのこの個体、どういう訳か首の下半分(塗装部分)はもう1台の方が奇麗。
特に痛いのが正面にガリ傷がある事。

なので交換しますが…大型機故にベースと分離できる構造で助かりました。
普通の30cmクラスでは基台として一体成型されているため、基台そのものを換えるしかありません。

そうなると加飾パーツの移植になりますから、難易度と手間が一気に爆上がりします。
特にヘアライン仕上げの飾りパネル等、広い面積を両面テープ止めしてある奴。
奇麗に剥がすのが至難の業なので、安易にやると却って見た目を損ねてしまいます。
その辺の状態の良し悪しと、購入時の引きの良さが大事になってきます。



向かって右が外したもの、左が着けるもの。
共に正面を上に向けています。
汚れは同等ながら傷の有無が歴然。

なお着ける方…当初はロックビスを外しても首が上がって来ず一瞬困惑。
一端操作部から上を戻して引っ張り出したところ、何とパイプが曲がっていました。
バタンと倒したとか、横倒し状態で荷重をかけた(売りに出る前の回収時とか)かしら。
ファンガードやモートルカバーが無傷だった点からすると後者かも。

で、それは素直にパワーで解決。
山なりになる向きに倒して体重をかけたら直りました。



首の付け替え前にベースは洗剤で洗いましたが、結構な砂が出てきました。
乾燥中に「縁に巻いてあるガーニッシュの隙間が乾かないな」と思い直し、結局外してもう一度洗う事に。

すると隙間にまたまた砂が。
そしてやはり雑巾のような臭いが…外して良かった。
そりゃいつまでも床がザラザラする訳だ。



買ってきましたキャスタ。
少々大きいですが仮合わせしたら問題無し。
これを…



こうしてビスが通るように。
穴からずれる分はワッシャで押さえてしまいます。



普通にM4ワッシャでOKでした。
ビスもオリジナルのまま。





ネックの伸縮部ガーニッシュもこの通り。
メッキの錆び落としは何度やっても気持ちいい。
なおこの部分、メーカ次第では内部のスプリングの押えも兼ねているので、取外しは慎重に。

三菱では、30cm系は無関係、本機はビス2本が兼用(内部にもう2本、固定専用のビスがあり)。
完全にガーニッシュだけで押さえている例としては、富士電機OEM時代のゼネラル ハイクール等。



これで基台は完了。
ようやく折り返しにしてメイン作業に入ります。
首を縮めれば分解に丁度良い高さ。



ファンには取り付け方法の指示ラベルが残っていました。
貴重品です。
剥がしますが保管しておきます。





後は前回のR30-SSや昨年のR30-SX2と同じ。
劣化のほぼ見られないモートルカバーが嬉しいですね。

時代時代で各社の長短が出るものですが、この年代の三菱はモートルカバーがガサガサになります。
三洋は黄ばむけど粉吹きはしない印象。
ちょっとした素材の違いなんでしょうけれども…



開けました。
全く同じかと思いきや、早速違いに遭遇。
35㎝ファンとそのファンガードで重くなる分、カウンターウェイトが載っています。
キャパシタも4μFではなく5.2μF。線も太い。



モートル配線も4本です。極数が違うものと思われます。
ファン径5cmの差とはいえ、しっかり設計も変えてあるのですね。
フロアファンの部類という事で回転数(風量)のチューニングが違うのかも。



とりあえずカウンターウェイトを取りました。
…と、交換用キャパシタに5μFが無く、仕方なしに3+2にする事となりました。
さて、どうマウントしたら宜しいか。



これでどうだ。4μFと同じギアボックス上と順正位置の併用。

仮にウェイトを置いてみれば、見事なまでに神がかったクリアランスでした。
なおこれ、純正の取り付け位置は、30cm系の4μFだと大きくてカバーがつっかえるため無理な場所。
2μFのサイズでギリギリ収まりそうな感じでした。
このまま進みましょう。



首振り機構などはR-30系と全く同じなので割愛。
モートルを外してネックピースまで至れば、カバーが一部内側に入っているのを発見。
製造時からなのか、後から何かあったのか。



スプリングのハジケに気を付けつつ分解。
今回はグリスの変質が少々変わった方面に行ってまして、透き通ったままロウの如く硬くなっていました。
それでも戦前機よりはずっと楽に落ちましたので、サッとクリーニング完了。
次はプレスでネックピースのピン抜きをします。



抜けましたのでテンションスプリングの位置確認。



ところ変わって伸縮する首との接点へ。
鉄球と窪みによるラッチがある通り、本当はここで左右に向きを調整できます。
しかしここもまたグリスがロウか飴のようになっており、ほぼ固着しておりました。



続いて操作部です。
全体は大型ながら、首の一部に位置するため操作部はコンパクト。
この中にタイマとステッピングリレー、制御基板が収まっています。



電子スイッチとインジケータ。
この型のインジケータは、どうも経年でクラックが入るのが癖のようです。
実際に見てみればゲート(成型の際、樹脂を流し込む湯口の部分)から放射状になるようで、樹脂の流れに沿っての事のようですね。

例に漏れず本機も出てはいながら、良い感じに軽度な様子。
よく見ると背景にレザー調のシートが入っているのも、余計そう見せるのかもしれません。



内部の下側。ステッピングリレー付近。
この後で電子スイッチの錆び取り等々やるのですが…
これ、スイッチは溶着で固定してありますね。
タッチスイッチと言えどプラパーツに銅箔+クロームメッキなので。
最後までは外さずにやりますか。



ここまでで外したメッキパーツ達。
錆び落としを行います。



ギアボックス内は普通。



清掃完了。30cm系と全く同じ。



ちょっと眺めを変えてみたり。



電子スイッチの錆び取り中。
ふき取りで済ませるため、垂れないよう薄く塗ってます。



完了。



インジケータのレンズとレザー調遮光シート。
横並びだと余計に信号機っぽいですね。



クラックは現状この位。



作業も大詰め。モートルカバー清掃へ。
仕上りは撮り忘れ…



組みあがってきました。
本当にちょうど良い高さ。



キャパシタとカウンターウェイトの取り付け完了。
ウェイトの存在を忘れて配線したため、少々スマートさに欠ける取り回しとなりました。





ファンを磨いて取り付けたら完成です。
なかなかボリュームのある作業でした。



1速運転中。
インジケータのクラックは、組んでみると気にならない程度。

普段戦前型に慣れていると、この頃既に当たり前だった「1速が最低速」に一瞬だけ戸惑います。
風量は35cmファンだけあって、強力と言う程ではありません。

しかしそれが相応と言うもので、然程離れない距離で風呂上りに涼むには良さそうです。
今は寒さの盛りのため最も縁遠い季節ですが、あと5ヶ月ほど先…今年の夏の夜はこれですね。
せっかくスタンドファンなので、毎年にしても良いかも。
Posted at 2025/02/23 22:55:59 | コメント(0) | トラックバック(0) | アンティーク家電 | 趣味
2025年02月01日 イイね!

完璧で究極の電子コンパック? 三菱電機 R30-SS 昭和45年

相変わらず大正~昭和40年代くらいを行き来する扇風機レストア。
今年2台目のお題はこちら。



三菱電機のR30-SS。昭和45年デビューの機種です。
只今絶賛コンプリートを目指している、電子コンパックシリーズの一つです。

元々リストに載っていながらノーマークだった機種で、偶然にもオクのおすすめに出てきて知り得ました。
しかし改めて型式で検索をかけても、過去の出品履歴や投稿写真が出てきません。
もしかすると貴重な1台かも…?

そしてこの個体に目を向ければ、イエローのファンが目を引きます。
同じファンを使う他機種でも、出てくる個体は多くがブルー。
あってもパープルやグリーンのため、三菱のイエローは激レア。
そもそも扇風機と言えばブルーのイメージが強いですし。

この時期の三菱機は「お好み羽根」と銘打って7色のファン(30cmのみ)を展開しており、その名の通り好きな色を選べました。
それでこの機種も各色選べたのであれば、敢えてイエローを選んだのは通な方だったのかと。

R30-SX2のカタログ説明を見る限りでは、ファンのみ追加購入して、部屋に合わせて付け替える想定もされていたようです。
分解組立の簡単なコンパックの特徴を上手く生かした展開と思います。





基台と操作部は、以前「接点有一郎&無一郎」と呼んだR30-SFと同じ。
デビュー年も同じなので、R30-S系の共通デザインという事でよろしいのでしょうか。
或いはSFの上位機種とか。

そしてタイマー・首振り切り替えノブの蓋には「Wireless Control」の文字が。
これ、買ってから詳細を知ったのですが…



まさかの無線リモコン仕様。
SFは他と同様有線リモコンで、電子スイッチの奥側にジャックが付きます。
ロッドアンテナを伸ばした姿は、どこぞの28号でも飛んできそうな見た目。



中には9V角型電池(006P)。懐かしのナショナルブラック。
回路にクリスタルもある事から、とある周波数で電波を飛ばしているのでしょう。
…この電池が生きているのが更なる驚きであります。

よって本機は「タッチスイッチ&無線リモコン採用」という変態度の高いの機種(誉め言葉)であると分かります。
正に電子制御の面目躍如。
なので勝手ながら、「完璧で究極の電子コンパック」と呼ばせていただきます。

検索しても一切他の個体が出てこない事からすると、当時かなり高かったとか、オーバスペックで売れなかったんだろうなぁ…
初代オーナーもイエローのファン選んじゃうくらいだもん(しつこいようですが誉め言葉です)。
…というか、有線でも欠品の多いリモコンがよくぞ残っていたもんだ。


という事でレストアに入りますが、全体のコンディションは上々。
イエローのファンと相まって、他のメッキパーツがゴールドに見える…
気になる点は、ファンガードのクリア塗装が変色して剥がれてきており、ガード全体に点錆が出ている事。
大きくはその程度で、後はこの時期の三菱あるあるのプラグ交換済み個体という所。
ちゃんと収納できるサイズで違和感の無い色を探さないと。



とりあえずファンとファンガードを外し、それからモートルカバーへ。
この世代周辺の三菱機は、電源プラグ付け根に緩衝が無く断線しやすい事の他、モートルカバー(恐らくPP)が劣化して粉吹き&異臭発生してしまう弱点があります。
前者は一体成型プラグ黎明期故で、後者は経年劣化が主な原因。

で、この写真はモートルカバーですが…中々良好な状態を保っています。
全体的に細かいクラックがあるものの、爪で引っ掻いて粉が落ちるレベルではありません。
ネックピースから上が同じR30-SX2の際にはこの補修から始まりましたが、今回はスキップできます。



外しました。
酷いとは言えないもののそれなりの埃。



キャパシタは4μF。
今のところ無事ですが固体タイプに交換します。



軸の油を保持するスポンジが崩壊中…触らずにしておきましょう。
油を保ってくれれば良いので。
でも崩れたら何かしら詰めます。



モートル分離とエンドベル取り外しのため、配線を外します。
同色の3本線+キャパシタ配線なので…



番号を振っておきます。



コンパックシリーズの特徴の一つである、複雑で見事な首振り機構。
モートル分離には、まずカムを外します。





そして取り外し。
からの分解。
蓋はそのまま外すとスプリングが飛んでいきますので、慎重に押えつつ。



続いてネックピースの分解に入ります。
ここはスプラインシャフトを圧入してあるので、プレスで抜きます。
本来はプレスベンダですが応用という事で。



こんな風に。スプラインは片側のみなので、それの無い方から押しましょう。
コマはドライバセットの六角用。
この下はベンダの雄型を固定するM12ナットを敷いて、シャフトの逃げを作っています。



はい取れました。
この機構、もう3台くらいやっているので慣れたものです。



外れたモートルAssy。
更にバラシは続く。



ギアボックス開封。
グリスの色合い(変色)はこの頃の扇風機によくある感じ。
割合ひと塊で取れてくれて楽でした。



バラシ完了。
続いて清掃へ。



首振りカムのピン抜き方向確認。



清掃完了です。
こうして奇麗になった部品を並べるのも一つの楽しみと、最近気づきました。



お次はネックピース。
首振り角度調整の機構です。



完了。
と、ここで新事実が。



SUS製のカバーにはSX2で無かったクリアがかけてあり、若干黄色を帯びています。
写真では写り切れない位に薄くです。
改めて他のメッキパーツを見ても、錆が出ているのはクリア剥げのあるファンガードくらい。
他は汚れがあるだけで、酸化はしていませんでした。

と言う事で、最初に書いた「ゴールドメッキに見える」は本当にゴールド仕上げでした。
そうすると、カラーコーディネート的にファン色もイエロー固定だったのかも…?

ガードのクリアも変色ではなく、初めから黄色っぽかった可能性。
であれば…剥がして再生するのは良いとして、仕上げはそのままにするかクリアイエローを塗るか…
まぁそのままかな。
後から色味など判明すれば、その時に施工しましょう。
錆もありますし、全てを一時に仕上げる必要は無いのです。



続いて本体、基台に入ります。

ところで、後で存在感を放つのはサバーバンのリアゲート内張り。
アメリカンフルサイズピックアップの雄・C/Kシリーズのリアゲートが元なので、内張りでも巾150cm位あります。
今は後付けスピーカの穴を埋めるべく、まずは純正カーペットのノリ剥がし中。
スクレーパ作業が地味に疲れる…



ビフォーです。
前端のメッキにもクリアイエローをかけてあり、うっすらとゴールドになっています。
電子スイッチは動作に影響があるからか、普通にクロームメッキのままの様子。
なので酸化もしています。



裏面を開けました。
無線リモコン仕様とあって、回路がしっかり入っているだろう…と期待すれば、立派なプリント基板がお出迎え。
「電子」コンパックだもの。こうでなくちゃ。





アンテナは途中にコイルを挟んで効率を上げつつ、基台の周囲をグルリと一周していました。



そして破損発見。
ステッピングリレーの取り付けビスですが、それが入るボスが割れていました。
プラが劣化して、タッピングビスの圧に負けたようです。





リレーを外したところと破片。







更にはリレーのカバーまで。
これは完全にバキバキでして、カバー自体の中央にも1本亀裂あり。
ビス穴のタブは完全分離&粉砕状態。
タブの残った部分にも亀裂があり、触れたら更に細かくなりました。

プラの経年劣化の他、リレーの熱の影響でこうなったように思います。
夏物家電という事で、そもそもの雰囲気の温度も影響大でしょう。

とりあえず破片を集めてシルエットが見えたので、プラリペアで固めて直しましょう。
アルミ端材か何かで金具を作っても良いですが、折角なのでオリジナルに近くします。
見えない箇所ですけれどね…拘りって奴さ。





固まりました。
カバー全体も若干歪んでいるようです。
劣化と熱変形かな。やっぱり。



リレーの取り付けボスも無事直り、元の形で固定できました。
周囲も清掃しましたので、表側の清掃へ行きましょうか。



メッキパーツを取り去った表側。
隙間には過去55年の埃が。



ネック付け根のベゼルも、外せば下には埃。
ここのベゼルもSUS製ですが、よく見ればイエローの痕跡がありました。
やはり、タッチスイッチ以外のメッキ・SUSパーツはゴールド仕上げだったと見て良さそうです。
イエローはソリッドでも褪色しやすいので、クリアが黄変というよりクリアイエローが薄くなったのでしょう。



本体は組み立てに入った一方、残りのパーツの再生へ。
大物はファンガード…密着性が落ちてパリパリ剥がれるクリアイエローを除去します。
下に錆も出ているので。



こんな風に近づくとわかります。
ファンガードについては、確かSX2でもクリアはかけてあった筈。



エンブレムは塗装剥がしと錆び落としに影響されぬよう取り外し。
この塗装剥がしを塗るのが大変でした。
下手に樹脂毛のブラシを使えない分、筆しか無くてスポークを1本ずつ塗っていったので…
小さめの豚毛ブラシでも買っておこうか。



その間に、本体はここまで組みあがりました。
2本のアームで制御される首振り機構。



フロント側のオイルを保持するスポンジは、やはりポロポロと崩壊してしまいました。
おもひでぽろぽろ。

この手のスポンジが手持ちに無かったので、代わりに紙ウエスを詰めました。
うえすぽろぽろ。いやそうなっちゃ困る。





モートルカバーも清掃。
表面の劣化がまだマシなのが救いです。



ファンも軽く磨きます。
手入れ前は軽く埃が積もった感じ。
ブレードの先にも綿埃ができつつありました。





別件で作業台を使いたく、やや駆け足で完成。
早くも占有中のため床での撮影です。
希少な機種ながら、状態はそこそこなので…達成感という意味では戦前機の方がどうしても上ですね。

電源プラグ交換を撮り忘れましたが、この後レストアするR35-SNの部品取りから取りました。
途中の継ぎ目が若干引っ掛かるようで、巻取りが少々キツイ。仕方なしか。
予告させていただくと、R35-SNはニコイチ修理します。
部品取り機のつもりで買った方が状態が良く、本来のベース機が部品取りとなる予定。

しかし次回更新はサバーバンの方になりそうです。
上に書いたリアゲート内張のスピーカ穴埋め中。
Posted at 2025/02/01 23:29:41 | コメント(0) | トラックバック(0) | アンティーク家電 | 趣味
2025年01月13日 イイね!

地味に凝ってる奴 日立製作所 30糎標準型電氣扇 TO A3-30型 昭和13年頃

昨年は年男でしたが、更に前年末のディーラ倒産を切っ掛けとした車の乗り換えを急遽決めたり、最後には初のコロナに罹ったりと、色々あった1年でした。
とはいえ、結果無事に過ごせて何より。
今年も扇風機ネタは変わらずにやって行きますので、引き続きお付き合いいただければ嬉しく思います。



さて、今年最初の1台は、偶然にも本体と資料が短期間に集まった戦前の機種となります。
何となく「状態良いな」で本体を購入し、後で買った資料に偶然同型が掲載されていました。
詳しい年式特定が出来るとやる気も俄然出るものです。



こちら。
うちではあまり扱いの無い日立の扇風機で、型式はTO A3-30。







資料がこれ。
昭和13年発行と思われる、日立の製品一覧です。
古本のネット販売にて購入でしたが、内容紹介に「扇風機」の一言があったのが決め手。
写真は無い中「何か載ってないかな」が見事的中した形でした。

重電も手掛ける日立の製品一覧ですから、水力発電タービンから電気機関車、エレベータ、プラントの制御盤といった大規模なモノも載っています。
そして最後の数ページとなったところで扇風機が登場。
丁度よく同じ機種だったという訳でございます。





沿革が昭和12年までとなっているのが発行年推測の手懸り。
そして大陸の支店一覧も、この時代の特徴的な地名ですね。

本機で面白いのは、まずは命名規則。
戦後までファン径はインチ呼びが各社通例となっていたところ、こちらはセンチで書いています。
なので12吋ではなく30糎標準型電氣扇。
型式末尾の30もそうでしょう。

とすると、日立の初代モデルと目される雷光ガードのTO A-12は、12吋を指すのでしょうね。
日立は当初から独自開発、つまりは他社との違いに拘っていたようなので、早々にセンチ表記としたのもその一環でしょうか。

続いて本体を見てみましょう。





外観上は後に靡く形のファンが目を惹きます。
昔から時々出品されるタイプ、というのは知っており、いつか欲しいが決め手に欠ける…が続いていました。
エトラ扇のように特に決まった名前は無いようで、「効率の良い流線形の羽根」と書かれていました。

そんなファンばかり見てしまいますが、ファンガードの外周が単なる円じゃないのも凝っています。
この形を何と呼べば良いのか…フリル、とは違うだろうな。
横方向へ走る部材も、外周付近の2本だけ太くなっている凝りよう。
基台もポッテリした定番の水滴形ではない、富士電機のようなワンモーションカーブのスタイル。

なおこのガードのデザインは、基台が水滴形でファンも直線状の頃に出た物らしく、昭和9年版カタログではその組み合わせです。


モートル周辺は普通な感じながら、ギアボックス脇にも2穴の蓋があるのが特徴でしょうか。
スクリューギアが横向きに入っているタイプかな。
今年手がけたTO A-30が定番の縦型遊星ギア(内部は諸々工夫が見られました)だったので、そこからマイナーチェンジされた模様です。
更にこの後のモデルでは、砲弾型のカバーが付くデザインになるようです。

モートルへの配線は、日立特有のスプリング状チューブで保護されています。
これが非常に効果アリと見え、大体の戦前日立製では、この部分はオリジナル状態を保っていると感じます。

という事で分解整備に入ります。
今回もA-30の逆ネジみたいなトラップがあるかもしれないので…慎重に参ります。



まずはいつも通りのマイクスタンドから。
ガードを留める袋ナット…この機種の場合は丸いすり割りナットでしたが、数も揃って塗装痛みもありませんでした。
かなり良い状態。



埃と犬猫系の毛? が付いています。塗装は綺麗そう。



続いて底面。モートル配線を外します。
蓋はA-30と同じ作りですが、あちらにあったシリアル銘板がありません。
扇型の小窓は電源線の取り付け用。
しかしフェルト脚も完全に残っているとは…





開けました。
ナットが一部入れ替わっており、整備された痕跡が窺えます。
モートル配線がこの向きからの取り出しで、且つナット留めというのは大変親切です。



が、黄色線だけビニル線に変わっています。
どこかで継いである様子。ナットも手締めと六角の場所が入れ替わってます。



碍盤を単体にしました。
コンパウンド製と見え、小さくまとまったスマートな印象。



モートルへ参ります。
こちらのギアボックスは一見普通のタイプに見えますが、先に書いた通り、横に出ているメッキの蓋が個性的。





エンドベルには大阪市と思われる検査証の封印。
これまた綺麗に残っています。





ロータを外しました。
軸が太目なのが特徴ですね。
スクリューギアのピッチもかなり粗い。



一方のステータ。コイル側。
コイル部分は塗装してあり、防湿と保護がされています。
引き出し線のブッシュは差し込みできる構造。これもA-30同様。



ネックピースとの分離には、ロックピンを外す必要があります。
細いポンチ的な何かが無いと難しい寸法。
首を90度回した位置でないと切り欠きと合わず、通常の首振り範囲では抜け防止となる構造です。
よくある作りながら、こういうローテク(良い意味で)な工夫は思わずグッとくる。



取れました。
変な固着も無くスムーズに進みます。



全バラ完了。
続いて清掃と表面の磨きです。



お待ちかね(?)のギアボックス。
どんな構造でしょうか。



こんな構造でした。どんなだ。
一応トレインの通りに並べていますが、カウンターギアと遊星ギアで減速するのが定番なところ、軸を2度方向変換し、スクリューギア2段階で減速する方式です。
流石は日立。他の真似は徹底して避けています。



という事で清掃とエンドベルの塗装研磨完了。
こちらの方が並びが分かりやすいかしら。

なお、ギアボックス横から刺さる2段目(スクリューギア・ヘリカルギアのAssy)は、ヘリカル側のガスケットが砕けていました。
ロータの1枚も同様でしたので、自作して組もうと思います。

そして思ったのは「このギアボックスはどう作ったのだろう」という事。
大きな開口部が無い一体構造ながら、しっかり内部は必要な突起等が作られています。
まぁ考えれば、普通のカウンターギア式でも似た構造ではあり、きっと鋳鉄でしょうから、これもそうなのかなといったところ。
にしても他と比べて開口部が小さいので、殊更に気になった次第でした。







基台の清掃に入ります。
P剥げは下部の縁に少々程度で、汚れを落とせばかなり奇麗になりそうです。
銘板も現時点ではっきり読める。
出荷前検査の合格証までキッチリ残ってます。





ピカールで磨く事暫し、往時の輝きを取り戻しました。
いやホント奇麗。
流石に鋳型の粗い入隅部分は仕方ないものの、ここまで輝いてくれれば満足。



組み立てに向けて、足りないガスケットも作りました。
小さい方はギアボックス内、大きい方はロータ用です。



ギアボックス下面、首振りカムの付け根。
赤くなっているのは下地塗装で、錆止めの定番色。
この時代の扇風機で(目に見える形・別の色で)錆止め塗装がされているのって、結構珍しいのでは。
富士電機では鋳物の巣穴埋めにパテ処理してありましたが、それを兼ねているのかしら。





ギアボックス組み立ての様子。
グリスを入れてしまった後のため、見づらくてすみません。
2枚目の写真では、奥側からモートルのロータ軸が入ります。
それでちょうどXYZ軸の方向で減速・首振り動力取出しが行われます。



こちらはネックピース。
A-30と同じく、スライスしたドーナツ(ベーグル?)のような金具が入っており、仰角調整が固着しない工夫がされています。

この部分は各社とも個体差が大きくなる場所でして、固着していると分解に工夫が要ります。
時には清掃後も渋すぎる事すらあるため、ペーパがけして具合を調整した個体もありました。



ガード中央のエンブレム。
この時点で綺麗なので、軽く磨けばOKでしょう。

ファンは洗浄で済みましたので写真はありません。
…忘れただけです。
取り付けがきつかったためボーリングしました。



プラグはマツダ製が付いていたため交換しました。
マツダは芝浦製の扇風機等に使いたいと。

代わりに用意したのは、以前ジャンクのA-30から外したオリジナルプラグ。
ちょっとゴツい海外風の見た目が特徴で、当時の日立製はこれが付いていたらしい。

しかし配線は碍盤側共々鳩目仕上げになっておりました。
芯線の輪を鳩目でカシメて圧着端子風にしてある工夫です。
恐らくこの仕上げがオリジナルかと思います。同時に電線も。
なのでプラグだけ壊れて交換したか、あるいはこの時期の日立はマツダプラグなのか…
それは不明です。



完成です。
ファンの塗装は劣化で艶消し状態でしたため、例外的に油を塗りました。
今思えば磨いても良かったかも…
しかし目を引く羽根形状です。



リアビュー。
定番の芝浦や三菱とは違ったシルエット。
最初に紹介したガード周囲のデザインなどにも気づくと、意外な程緻密にアールデコなのが分かります。
どこまでも地味に凝っている奴ですね。
良い状態という見立ては当たり、見事に光ってくれました。



よく見ないと分からない位に地味ながら、分かると嬉しい拘り。
ギアボックスは他社より若干コンパクトに見えます。
これまたA-30同様、取り付け面にはガスケットが入ります。



最後は大先輩A-12、ご先代様A-30と共に。
いずれも昭和初期の機種ですから…100歳近くでございます。



日立エンブレムの変遷も分かりますね。



という事で、年末から始まり年を超えたレストアの報告でした。
次回は…なかなか攻めた個体が手に入りましたので、一気に昭和40年代まで飛んでみましょう。
Posted at 2025/01/13 18:45:07 | コメント(1) | トラックバック(0) | アンティーク家電 | 趣味

プロフィール

「仕上げ進行中 vol.2 http://cvw.jp/b/2115746/48592454/
何シテル?   08/10 22:31
菊菱工廠と申します。 「工廠」なんて言いましても、車いじりは飽くまで素人。 電装系なら結構自前でこなします。 ちょっとした金具作りなんかも。 ナ...
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