2013年12月28日
帆場映一はなぜ投身したのか?HOSとはなんだったのか?
・パトレイバーの劇場版に登場する帆場は物語の最大の黒幕でありながら、その犯罪動機が明確になっていない事から、今でもちょくちょくその存在理由を問う声が聞かれるキーマンである。いや、劇場版の神話が薄れ、現実が空想を陵駕しつつある今、その理由について改めて考える人が増えているように思う。ぶっちゃけ30台後半のおっさんがついてけるアニメが減ってMMD見てる。ま、その前に映画版と漫画版の帆場像はHOSについての違いをちょっと述べておこう。両者は一応同一設定だが、パラレルワールドなので、どこまで一緒かは分からない。
・漫画版では16巻で帆場がHOSの開発をやっている話が出てくる。最終的にはHOSがAVR-0に積まれたり、宇宙産業用レイバーにも搭載されたりしてくる。当初はハードウェアの性能をソフトウェアで向上させるという触れ込みであったが、シバシゲオの解説によるとHOSは環境統合用ソフトであり、異種レイバーの操作環境を同じに出来る事、その技術フィードバックを共有する事で大規模なノウハウの蓄積が出来る事がメリットである事が明かされる。当時は劇場版のイメージが先行していたので思わなかったが、これはWin3.1を強く意識しているのは明らかだ。AV98イングラムがPC98を、グリフォンがX6800を意識しているという指摘はあったが、HOSはMSのWinなのである。それまではPC98、PC88,FMタウンズ、X6800,MSXなどなど、各メーカーが好き勝手にPCを作って売っていてソフトの互換性もなかった。だからWindowsが出た事は一つの快挙だった訳だが、今見るとその前段階としてMS-DOSって物があり、実際はPC98シリーズがビジネス市場は独占しており、Windowも所詮MSーDOS上で動く仮想UIにすぎなかった。まあ、創作で「究極のソフトとは?」を考えた場合の現実からのフィードバックと言うべきだろうか。
・ま、そんな汎用OSだったHOSだが、多くの機体に積めると同時にアプリの共有も出来る訳で、AVR-0では衛星による操縦支援という追加アプリが出てきている。今でもGPSによるその手の支援はある訳で、アイデアはかなり良かったと思うが、GPSの精度はそこまで高くなかったので、ちょっと空想的すぎる気もしていた。しかし、よく考えたらGPS支援アプリを入れると自立操縦に勝手に介入するってHOSのプラットフォームとしての大きさはもっと注目すべきだったかも知れない。言ってみれば帆場が開発したのは個別のアプリではなく、本当の意味での受容性能が高いOSだったのだから。
・まあ、とは言え、これは一つの逃げではある。帆場は古柳研究室で「ハードの性能をソフトで引き上げる」という研究をしていたはずで、HOSのベースにはその研究成果が入っているとされていて、実際効率が2~3%上がるとはされている。もっと超常的な物を期待していた向きには肩すかし感があって、HOSの真価が読者に理解されなかったのは否めまい。また、この世界の帆場は自殺もしなければ事件も起こさないし、マッドサイエンティスト風な事は何もしない。ドラマティックな事を何もしないから平凡なのでは決してない、むしろ押井へのアンチテーゼの急先鋒であった事に気がつくには20年がかかった。あ、ちなみに、帆場の対極なのがASURAの開発グループの二人、磯口と森川である。これ、出淵と河森のオマージュ。古柳研究室の同門で、純粋なプログラムによる制御を目指す帆場と、ASURAというハードウェア込みのソフトというシャフトの二人が対立軸にはなっている。
・ASURAは結局なんであったのか明確にはされておらず、搭載機がグリフォンだけなので、グリフォンの専用装備なのかASURAがそうなのか分からない部分も多いのだが、CPUハードそのものに物理的な回路を積むというのは、決して今のパソコンを見ても間違いではない。MMXアーキテクチャーとかその手の内部コマンド的な専用のプロセッサーを内包したCPUは普通であり、OSやアプリがそれに対応して効率化するのは仕様上普通だから、現実は表面的なUIは一つだけどASURA的な要素も詰め込んである。その軸足がどっちか?ってだけの違いかも知れない。ASURAも「貴重な実戦経験者」と言ったりするから、HOS同様学習プログラムは積んでいるし、その基礎データーをブロッケンから引き付いているのだから汎用PC的な要素もあるだろう。でも、バックアップがない事を見ると、学習内容を逐一取り出せるような物でもないのかも知れない。ま、これ以上は帆場と関係ないのでとりあえずカット。
・問題は劇場版の帆場だ。彼は一人でHOSを作り上げ、そこにウィルスを隠し込み、それらを配布した後に、何故か箱舟に左遷されて投身自殺している。意味不明である。単純にドラマ的に見るなら「黒幕が実は死んでいた」ってのが新しいし、「犯罪者の実行犯がプログラムそのもの」というのも先取的だし、犯罪者のマッドサイエンティストっぷりも強調されるし、そういう意味ではいいんだけど、シナリオの整合性というかキャラの出来から言うと帆場がいささか浮いているのは否めないと思うの。Y2K問題のように、全世界のコンピューターにウィルス的な何かが仕掛けられている訳じゃないし、結局物理的に止められてしまっているし、篠原重工のOS部門がザルすぎるだろうとか、OS部門が何故箱舟に?とか。一応松井さん(刑事ね)が帆場の後を歩いて心象的な風景を見せてくれる。それは取り壊される公衆浴場であったり、古い町並みであったりして、無理矢理なら帆場が失われる物に対する何かを持っていたかのようにも見せているが、私にはむしろあのシーンは攻殻機動隊のセルフオマージュ的な何かに見えた。海外展開した時に日本の風景をエキゾチックに見せているだけみたいな(音楽もそんな感じだしね)。他にも指摘されているが、レイバーの暴走は古い町並みの喪失をむしろ加速させるのではないかと。むしろ帆場が黒幕である事は状況証拠だけで、それを後藤さんという切れ者隊長が肯定した事で物語的に正当化されているだけで、本当に犯人か分からないんじゃないか!って意見もある。もちろん監督的には明確に帆場が犯人なんだろうけど、敢えてそんな脚本にダメだしして帆場他殺説を唱える事も一応可能だ。
・ただ、HOSのウィルスがすごい恐ろしいのは事実。アニメ的な誇張があるにせよ、篠原のラインのコンピューターに感染して全システムをダウンさせてしまった上、作業用レイバーやAVR-0を自動操縦させ有人レイバーを圧倒、しかもブートキーを切り離して再起動かけても学習用のRAMに潜入して勝手に動くとか、どんだけーである。もうウィルス的な事が問題ではなくて、そんな高度なシステムが成立している事自体がなんかおかしい。逆にその事で帆場の意図があいまいになってしまってもいる。レイバーの大規模暴走というテロ程度の話じゃないはずで、篠原のラインのサーバー経由で大抵のネットワークにHOSの自立的なウィルスが拡散してしまい、全世界的なネットワークダウンになっているはずなのだが、そういう描写もない。もちろんだが、HOSのアップデートの件で分かるように篠原重工自身すらバッチを当てられてない訳で、もうオカルトの領域だ。オーバーテクノロジーをあの世界で認めるとしたら、もう帆場は完全にネットワークに自己の意志を持つ生命体を誕生させていて、言ってみればそっちで永遠の命を得ているので、現世の肉体さようなら程度の話なんかも知れない。ネットワーク、あるいは電子の海での生命体は攻殻機動隊の方のテーマで、コミック版の2で完全になっているのだが、強いAIによる技術の地平性のあっち側のお話である。
・そうすると、劇場版パトレイバーは非常に皮肉な作品という事が出来る。ほぼ100%の視聴者は監督の意図を理解せず、感動的な音楽と演出で「操縦者の技術と勇気、仲間との絆による冒険活劇の末に悪いレイバーをOSは負けた」って構図で満足してるってね。あるいは劇場版の最後にHOSの潜伏を示すような物ってあったっけ?(SFのエイリアン的な物だとそういうのはよくある)押井監督は人間が嫌いというのが割と仲間内での監督への定見なのだが、これは最悪に近い意味での人間嫌いだろう。もちろん、もっと普通に見てもあの作品の中の帆場は人間が嫌いな監督のコピーみたいな感想は見るけど。
・まあ考察がやや飛躍して散漫になってきたので、とりあえず帆場が投身した原因を分類してみると
1 自殺説
1,1 :完全犯罪を確信したから(もっとも表層的な解釈)
1,2 :強いAIを作ってネットワークにばらまいたから(人形遣いED)
1.3 :強いAIを作る技術の転用を恐れたから?
1.4 :変化する社会に追随するのが嫌になって暴走レイバーと心中
2 他殺説
2.1 :黒幕が別に居て帆場は完全に白(古柳とかシャフトとか?)
2.2 :帆場がウィルスは作っていたけど、他殺されたケース
(クソOSにぶちきれた榊さんが東京湾に投げ込みました的なwww)
2.2.1 :ウィルスを仕込んだ帆場が誰か(篠原とか)を脅迫して返り討ち
2.2.2 :誰かが帆場にウィルスを作らせていて用済みで消した
3 事故死説
3.1 :薬のやりすぎで飛べる気がしてきました、グリフォンが飛ぶなら俺も!
3.2 :ゴーストダビングするとオリジナルが死亡するとか
他殺ケースだと、黒幕を別に想定する必要があり、篠原との利害関係から言うとシャフトなりヒシイインダストリー、トヨハタオートらへんが買収なり脅迫してんだろーけど・・・あとはあの世界ではまだ共産圏が健在でドシュカみたいな社会主義国のレイバーが出てくるから、そっち側からのスパイ的な要素もないわけではないだろう。実際、攻殻機動隊の前の方では第三次世界大戦以降の非核大戦において、電脳のフォーマットの違いを利用して資本主義陣営の電脳にのみ作用するウィルスというのが出てくる。焦土的なウィルスの汚染でも平気となると、もう完全に別のシステム体系がある組織じゃないと、デメリットが大きすぎるだろう。物語前半で暴走していたのはタイラント2000だったと思うので、ヒシイは篠原に近いしなぁ。
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Posted at
2013/12/28 23:28:35
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