またまた、前回からの続きです。
2世代先のラリーカーを目指していたプロジェクトは、続きます。
ST185が抱える問題点、それは前後重量配分の適正化。
それを検証すべく、縦置きエンジンのIS1は製作されました。
その結果、前後重量配分は50:50に近づけるべき、という結論に至ります。
続いては、もう1つの懸案事項、大型化したボディの対策です。
サーキットを使用するレースとは異なり、一般公道を使用するラリー。
道幅も狭く、ブラインドコーナーも多数あります。
そんな環境の中をハイスピードで駆け抜けるには、道幅を目いっぱい使い切りたいところです。
そこで気になってくるのが、オーバーハング。
ここが長いと、クルマをコースサイドギリギリまで寄せきれなくなってしまうのです。
トヨタのラリーカーは、歴代セリカを使っています。
このクルマは流麗なデザインを売りにしているので、車高は低く前後オーバーハングが長めです。
折角、最適駆動パッケージを投入するのですから、よりオーバーハングの短いものをベースにしたいものです。
その結果、このクルマが選ばれました。
カローラ FX (AE92)
当時、ライバルの動向。
三菱は、ギャラン VR-4からランサー エボリューションへ移行すべく、エボIを限定販売。
スバルも、レガシィを移行させる為、インプレッサを販売。
両メーカーとも共通するのは、ダウンサイジングです。
トヨタも、もちろん追従します。
しかも、より小さなボディへ。
まずは、ベース車のバルクヘッドより前を切断。
そこにパイプフレームを介して、3S-GTEを縦置きにマウントします。
しかもその位置は可能な限り後ろに寄せて、フロントミッド化。
前後重量配分と共に、重量物を重心近くに追い込む、マスの集中化も併せて行なっていきます。
続いて、元々FXはFFなので、4WD化で必要となったプロペラシャフトを通すべく、フロアにセンタートンネルを新設。
ここまでやるのであれば、サスペンションも見直しします。
このクルマ、前輪をよく見ると、本来あるべきスプリングとショックがタイヤ横にありません。
それは、パイプフレーム化に伴い、ストラットからダブルウィッシュボーンへ変更をしていたからなのです。
しかもスプリング、ショックをエンジン前方に配置した、プルロッド式。
フロント周りだけ見れば、往年のGr 5の様です。
当然リアも、ストラットではありません。
ツインショックを採用した、マルチリンクに変更されています。
これこそ正に、TTEが考える「理想的な後継車」
このクルマは、「IS2」と呼ばれることになります。
IS2も、現役ワークスカーST185と比較テストを実施します。
IS2にはワークス仕様よりも60ps低いエンジンが、搭載されていました。
ターマックのテストフィールドで比較をすると、最高速ではエンジンの差が現れ、ST185の方が優っています。
ですが、それ以外の項目では、IS2の方が速く、特にコーナリングに至っては格段の違いを見せていました。
この結果に満足したTTE、次期ST205にはIS2を採用すべきと、トヨタ本体にプレゼンをする事になったのです。
当時のWRCは、Gr A規格。
TTEは、IS2を2500台生産する様に迫ります。
いくらなんでも、このままの仕様で生産するのは、非常に困難。
とても採算が合いません。
多少は生産車に合わせて譲歩したとしても、それでも莫大な投資が必要となりそうです。
流石にこれにはトヨタ本体も難色を示し、結局、ISプロジェクトはIS2完成をもって終了となりました。
その後参戦したST205は、TTEの悪い予感が的中し、重く大きなボディが災いし低迷します。
そして最後は、エアリストリクター問題を引き起こし・・・
そのまま現役から退く事になりました。
2年間の活動休止を経て、あの時TTEが思い描いた「理想的な後継車」が参戦する事になりました。
カローラ WRC
当時はGr Aだった規格は、より改造範囲が広いWRカーへ変更。
ベース車も長年のセリカから、やっとコンパクトなハッチバック、欧州カローラにスイッチしました。
しかしエンジンは縦置きではなく、セリカを踏襲して横置きのまま。
但しマスの集中化を狙い、25度後傾して搭載されていました。
参戦初年度の1998年、開幕戦優勝と幸先の良いスタート。
このままタイトル獲得かと思われましたが・・・
最終戦、最終ステージの残り300m、まさかのエンジンブロー。
誰もが獲得したと思っていたタイトルが、この時、滑り落ちてしまったのです。
カローラ WRC がマニュファクチャラーズタイトルを獲得するには、結局あと1年待たされることとなったのです。
TTEが何度かタイトルを獲りつつも、相当苦労をしていた歴代セリカ。
その経験から生まれたIS2は、残念ながら実戦投入されませんでした。
これが、もう少しカローラ FX寄りのクルマでGr A ホモロゲ取得し、ST205に代わって参戦していたら、トヨタWRCの歴史は、どうなっていたでしょうか。
それに「カローラ FX GT-FOUR」がもしも2500台限定発売されていたら、それは魅力的なクルマだったでしょうね。