
前回ブログからの続きです。
トヨタのWRC開発車両 Ideal Successor (IS)。
カローラFXをベースにした、IS2。
その誕生は1992年でした。
この年はトヨタにとって、記念すべき出来事もありました。
カルロス サインツ ドライバーズチャンピオン獲得
サインツにとっては、1990年に次いで2度目の快挙です。
そして次なる目標は、マニュファクチャラータイトルとのダブルタイトル獲得!
そうなるはずなのですが、実はトヨタのWRC活動を担うTTE(現 トヨタ ガズー レーシング ヨーロッパ TGR-E)には、一抹の不安があったのです。
それは主に2つ。
グループA ホモロゲ台数の削減
それまでホモロゲ取得には、連続する12ヵ月間に5,000台以上の生産台数が必要でした。
しかしタイトルを獲得した翌年の1993年から、その数は半分の2,500台に引き下げられます。
これは何を意味するのか?
4WD+ターボのクルマを年間5,000台以上生産する為には、高い生産技術力が必要です。
生産能力もさることながら、それをあまり高価にならない様に抑える技術も必要なのです。
いくらホモロゲの為とは言え、大量な売れ残りを出す訳にはいきませんから。
高い生産技術力でクルマは開発、生産が出来て、それを完売出来るマーケットを有する国。
それは、日本くらいしかなかったのです。
90年代初め、日本車がWRCを席巻出来たのは、これが理由の1つです。
しかしホモロゲ台数が半分になると、参戦へのハードルは下がり、ヨーロッパの強豪勢が新型車の投入も可能になります。
こうなると混戦が予想され、勝利することが難しくなることでしょう。
現行市販車パッケージの限界
タイトルを獲得した1992年には、レギュレーションの変更がありました。
それは、エアリストリクターの小径化。
グループAでは、トップスピードに依存しないクルマ作りが求められて来ます。
その為、ライバルに打ち勝つには、コーナリングスピードの向上が必須です。
ですがセリカには、歴代モデルが抱え続けている弱点があったのです。
それは、
アンダーステア
元々セリカは、FFから派生した4WD。
つまり横置きエンジン、横置きミッションが基本パッケージです。
2つの重量物がフロント側に寄っているので、ST185の前後重量配分は、60:40とフロントヘビー。
これがアンダーステアの要因だと、考えられていました。
もはやセッティングで対処するのではなく、根本的なパッケージの見直しが必要ではないか、TTEではそう考えていたのです。
そして1993年には、TTEの不安を具現化した様なクルマが参戦してします。
フォード エスコート RS コスワース
本来は横置きエンジンのFF車だった、エスコート。
そこにシエラRS コスワースの4WDユニットを移植しています。
これは縦置きエンジンの4WDシステムです。
その前後重量配分は、セリカ以上にバランスの良いものと予想されます。
これだけの大幅パフォーマンスアップは、ホモロゲ数が引き下げられた事によって、可能となったのでしょう。
この先、フォード以外でも新型車を投入してくる懸念が出て来ました。
対してその頃TTEでも、次期ラリーカーの開発もスタートしていました。
セリカ GT-FOUR (ST205)
基本パッケージは、ST185からの踏襲。
3S-GTEを横置きした4WDです。
参戦は1994年を目標としていました。
エンジンは小径エアリストリクター適用により、ST185よりパワーダウン。
ボディは大型化され、重量も増えています。
果たして、このST205で勝てるのだろうか?
TTEには不安がよぎっていました。
もうST205での参戦は決定事項なので、変更出来ません。
そこでST205の次を、TTE主体で提案をしていこう。
そういうプロジェクトが動き出します。
それは、まだ誕生していないラリーカー、ST205に対しての理想的な後継車 「Ideal Successor」
つまり、2世代先のラリーカーを見据えて動き出したのが、このISだったのです。
まず確認した事は、前後重量配分の改善。
その為に、こういうクルマを製作しています。
見た目は、普通の白いST185。
ですが、中身は大幅に変更されています。
搭載された3S-GTEは、縦置きに変更されています。
しかし、ただ縦置きにしただけではフォード エスコートと同じで、アドバンテージがありません。
そこで、このクルマは更に重量配分を改善すべく、ミッションは後方に搭載しています。
つまり、トランスアクスルなのです。
これにより前後重量配分は、50:50となりました。
効果の見込めるトランスアクスルによる4WDですが、デメリットもあります。
それは、複雑なパワー伝達経路による重量増です。
R35 GT-Rの写真から、パワー伝達経路を見てみましょう。
左のエンジンが発生させた動力は、プロペラシャフトを介して右のトランスミッションに伝達されます。
そこで減速された動力は、2つに分かれます。
1つはリアデフを通って後輪へ。
もう1つは、別のプロペラシャフトを介してフロントデフへ伝達され、前輪を駆動します。
つまり、プロペラシャフトが、2本必要となってしまうのです。
「軽量こそ正義」のラリーカー。
ですが、このクルマは重量増よりも重量配分を優先させ、トランスアクスル方式の4WDを採用したのです。
この縦置きエンジンセリカ、後に「IS1」と名付けられました。
このIS1とST185のラリーカーとで、走行比較テストを実施します。
ほぼ全てのテストで、IS1の方がST185を凌駕する結果となりました。
また縦置きエンジンになった事で、エンジンルームにもスペースの余裕が出来て、熱的にもメリットがあったそうです。
これで縦置きエンジン化による重量配分の改善は、大いに効果あり、と判定されました。
次は、その大きなボディ対策です。
それを対策した「IS2」については、長くなりましたので、また次回へ。