さて前回は軽く触りで、課題を投げかけましたが、今日はとても長文です。
お暇な方、あるいはどうしても見てみたい方限定です。
殆ど自己満足の世界なので、その辺はご愛嬌。
以下長文(ミセガワ商店開店以来 最長間違いなし)
先日、真夏と真冬でのサーキットラップタイムの顕著な差について事実を述べましたが、確かにTC2000のような高々2,000mほどのサーキットで2秒、全長4,500mの富士スピードウエイに於いては4秒もの差が出る。この差を単純に気温変化によるエンジン出力の差であると片付けるのは早計ではなかろうか?
仮にエンジンパワーの差でこのタイム差が総て生じたとしよう。直線距離の少ない筑波で、RX-8より2秒速いとなると、大よそRX-7程度のタイムとなる。エボやインプレッサは駆動方式や車両ディメンションが大きく異なるため、旋回速度などに差異が生じ、比較がより複雑になるため、対比としては妥当とは言えない。
RX-7の出力は概ね260~280馬力程度だろう。一方、RX-8は計測方法にもよるが多くても220馬力が実力である。つまり40~60馬力は違わないと、あるいはトルクで言えばターボエンジンはサーキット走行では概ねトルクバンドを維持しているので、100Nm程度の差が無ければ、エンジン出力で2秒の差を補う事は不可能である。
もし夏場に気温が高く、空気の密度が下がって出力(空燃比が同じとして、⊿t/K+Tの密度変化がある為、発生熱量もそれに比例する。)が低下したり、水温上昇が激しくて補正制御により出力低下したとしよう。それでもさすがに40馬力も落ちるだろうか?
40馬力というと、カタログ上はRX-8 type-SとRX-8 STDの差であったりする。両者は格好の比較例かもしれない。特にシャシやタイヤを交換した仕様同士の比較では、まさにエンジン出力そのものの差を表しているに近い。
11/16のマツダスピードカップ、Lightクラスに良いサンプルが有る。STDトップタイムだった車と、type-Sトップだった車は共にLSDや調整式サスは装着しておらず、タイヤはどちらも同じ銘柄であった。双方クラストップであるので、ドライバーの腕もそれなりに拮抗していると考えて良いと思われる。
この二者でのタイム差はまさに1.88秒⇒約2秒なので有る。実はパワーの差で夏冬の差が生じるのではない。との議論に持ち込もうと思っていたのだが、ここで想定外のデータが出てしまった。
40馬力は大げさにしても、(30-6)/273+30=7.9%(気温30℃と6℃のときの空気密度差)程度出力(発生熱量)は変動するわけで、乱暴な計算では⊿24℃で18馬力ほど増減する。更にこれに水温等の壊さない為の補正が加わると、平気で10や15馬力は変わるだろう。これらを合計すると30馬力前後は変わることになり、2秒差の大半がこのパワー差によるものである事が説明しやすい。
例えば、夏のイベントでも、一発信じられないタイムを出す人が居る。気温の影響による18馬力は仕方ないにしても、補正による出力低下発生前にタイムを刻む事で、恐らくベストの1.2秒落ち程度で走れる可能性があるわけです。
即ち、自分もあーだこーだ言っていないで、一発でスパッと決めれば、夏でも8秒6位は出せないとおかしいのです。これが決まらずウダウダやっていると、更に1秒程度加算されて9秒台後半のいつもの自分になってしまう。なんとなく方程式が出来た。
もし、パワーアップして今の冬のタイムを夏に出そうと思ったら、最低でも30馬力、出来れば40馬力のパワーアップが必要です。NAのエイトではちょっと難しいですね。かなり手を入れなければ達成し得ない向上代です。エアクリ・マフラー・エキマニ・CPUetc.まあ色々やって20馬力上がれば御の字ではないでしょうか!?あと、水温が上がり難くなるように、ラジエーター容量やファンの作動温度、ウォータースプレーなんかも効果的かもしれません。これらを併せると、結構明確に差が出てくるかもしれません。
クーリングと言う意味では、ラジエーターの前に鎮座しているエアコンのコンデンサーは邪魔です。重量がある上に、冷えも阻害している。
私はノーマルラジエーターで走っているのですが、貧乏で有る以外にも理由があります。ラジエーターはノーマルが最も軽いのです。レースをするならともかく、タイムアタックで僅か数周に総てをかけるので、冷却性能よりも軽さを取りました。コアの軽さのみならず、水量も少ないので、安易にコア増しのアルミラジエーターにしても、重量の面でのディスアドバンテージは払拭できないのです。
エアコンを外せば、ノーマルラジエーターでも冷却能力も上がり、重量は減り、運動性能上いい事尽くめですが、そんな事をしたら夏の「エイト祭り」は参加できなくなります。アフターのコア増しラジエーターを導入すべきか、非常に悩ましいところですね。
さて、しかし
YU2さんのレポートでは、若干ではあるけれど冬の方が発生横Gが高い旨の報告があり、冬にタイムが出る理由は、何もパワーだけではないとの意見も出ていますので、こちらについても検証を進めてみましょう。
Gを発生させる為には、簡単に言えばグリップが高くなればいけません。ものの本によればグリップの源は
1. 凝着摩擦力(ものの表面にペタペタ張り付く力)
2. ヒステリシスロス(加えられた力を熱エネルギーに置換して吸収する)
3. 更にブリヂストンはゴムの凝集力(簡単に言えば縮もうとする力)
と言われています。実は恥ずかしながらごく最近まで2番のイメージがどうも釈然とせず悶々としていたのですが、転職してから色々広く勉強してやっとイメージできたと言う、笑い話もあります。
難しいのはグリップというのは殆どゴムの話であって、良く耳にするコーナリングフォースやコーナリングパワーと言うのは、ゴムは勿論の事、タイヤのゴム以外の構造が深く関与しているのです。
つまりグリップは単純な摩擦係数であるのに対して、コーナリング性能は力の伝達特性であると言う違いがあり、両者を深く理解するのはとても難しい事です。
で、今回取上げている最大Gや旋回速度ですが、車両に発生した遠心力に対して釣合う抗力を発生させる事で成立する為、単純にゴム部の摩擦だけで議論できず、タイヤトータルとしての伝達現象として捉えるべきと思う。
ではまず力の伝達経路とその釣合う過程について考えて見たいと思います。シャシーのところは一気に飛ばして、ホイールまで遠心力が伝わったとします。ホイールの材質も厳密に言えばヤング率の温度依存性を持つと思いますが、ゴムのそれに比較して、全く無視できるくらいのオーダーだと思うので、考慮しません。
力は次にリムとタイヤの接触面、即ちビード部に伝えられます。ここで嵌合性やビードの剛性、リムとの摩擦係数に問題があると、力が上手く伝わらず、悪い場合にはリム外れしたりリムズレしたりするわけです。ビードを無事に通過した遠心力は次にサイドウォールに伝わります。扁平タイヤなどの硬いタイヤはここでも力を上手く伝えますが、ハイトの高いタイヤやサイド部の補強が十分でないタイヤは過剰に変形し、変形が発熱を誘引します。発熱するとタイヤ内に使われているコード類の剛性も低下しますが、何よりもゴム自身の剛性が落ちてしまいますます伝達が出来ない悪循環に陥ります。冬は空気圧を一定にしたとしても、スタートした時のタイヤ自身の温度は異なりますので、1つにはこのサイドウォールの剛性低下が夏よりも小さいと言えます。つまり力の伝達能力としては優れていると考えられます。
さて、サイドウールを過ぎた力は次にスチールベルト層に伝わります。しかしここはスチールコードであり、先ほども言いましたがゴムの温度依存性に比較すれば、無視できるほど小さな変化しかないので、差異は生じないとします。まあ、スチールコードの周りを覆っているのはゴムですから、実はこの部分はやはり冬の方が伝達効率が良いといえます。もっともこの話は最後のトレッドゴムも同じで、ミクロ的に見ればスチールコードに付随しているのはコートゴムですが、マクロ的に見ればトレッドゴムがスチールベルトと連結されています。
結局最終段階のトレッドゴムに至っても、冬の方がゴムの剛性が高くて、伝達効率は良いということになります。しかし一方で、冬でゴムが硬いと、グリップ発生要素の①である、凝着摩擦力が低下します。凝着摩擦力について実は私も真実は良く知らないのですが、例えば見かけの接触面積ではなく、もっとミクロ的な接触面積を観察した場合、硬いものは路面の微細な凹凸に入り込む事が出来ずに、真実接触面積が小さくなります。よく冬場に暖めが不十分なタイヤでいきなり走り出すと、驚くほどグリップせずにスピン・コースアウトしてしまうのは、こんな事が原因だと思います。
従って、ごく表面だけが十分に暖まり、力を伝達するゴム層はまだ熱くなっていない瞬間を確実に捉える事が、冬場のグリップピークを引き出す為の乗り方ということになると思います。ここを上手く引き出せば、夏場よりも上手く力を伝達できるでしょう。ゴムは幸いにも熱伝導が非常に悪い物質なので、経験的には冬場2~3周はイケるかなと思いますが、そこはゴムの配合やパターンの細かさ、あるいは残溝の深さで発熱度合いが変わるので、実は結構一定ではないと思います。R1Rは高発熱なゴムでパターンが比較的細かい為、新品に近いうちはすぐに温まりますが、タレれも早く、AD07はパターン剛性が高く均整がとれているため、摩耗してきて溝深さが減ってしまうとブロックが動かず、なかなか温まらない上、しなやかさが無くなり、摩耗後の性能劣化が大きいなどと、勝手な推定が出来ます。
そして最後に残ったヒステリシスの話です。タイヤのトレッドに使われているようなゴムはどれも氷点下以上の温度であれば、基本的に低温なほど粘性項が多いです。粘性項が多いと言う事は、伝わってきた遠心力を熱エネルギーに置換して吸収してしまい、その先に伝えないわけです。熱エネルギーに置換してもゴム自身は非常に熱伝導が悪いですから、あまり外部に放熱して冷却できませんから、自分自身に蓄熱して行くはずです。蓄熱するとゴム温度が上がり、徐々に粘性項が減少し、遠心力を熱エネルギーに変換する効率も落ちてくるわけです。
そこから考えて、やはりデフォルトの温度が低い方が、ヒステリシス摩擦のポテンシャルも大きいので、冬の方がグリップが高く、旋回速度も速いと考えて良いのかもしれません。
一方で、温度-周波数換算則と言うのが有って、ドライグリップはまずまず常温程度に換算できる周波数と相関するという話もあり、その場合はそれほど温度によって粘性項が急激に変化する領域とは思えないので、ここを整理する為にはもう少し勉強が必要そうです。
以上長々と、ジジィの絵空事にお付き合いいただき、ありがとうございました。