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マリアローザのブログ一覧

2026年10月27日 イイね!

腹パン!!✊

腹パン!!✊不良&子分「ジャーンケンポンッ!」


不良「俺の勝ちだッ!」ドスッ


子分「ぐえっ……!」


不良「さあ、もう一回だ!」


女「ねえ、不良君たち……」


不良「あん?」



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女「ジャンケンしてお腹をパンチし合う遊びなんて……危ないからやめた方がいいよ……」


不良「ンだとォ!?」


不良「クラス一大人しい女が、生意気なクチ叩くじゃねえか」


不良「そうだ! お前のことを腹パンしてやるぜぇ! ほら立て!」


女「やめてっ……! 絶対ダメ!」


子分「アニキ、さすがに女の子に腹パンはマズイっすよ!」


不良「もちろん軽くやるだけだよ。左でやるし」


不良「ほれっ!」シュッ


ガキンッ!


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不良「……!?」


子分「え、なんすか、今の音……」


女「……」


不良(なんだ今の硬さは……!)


不良「おい……今度は右でいく。しかも全力でな」


女「ダメだったら! 危ないから!」


不良「オラァッ!」



ガキィンッ!


不良「……ぐ」


不良「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


不良「俺の拳がぁぁぁぁぁっ!!!」


子分「アニキ!?」


女「だ、大丈夫……?」


不良(折れては……ないみたいだな……)



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不良「お前の腹……どうなってんだ? ちょっとめくってみろ!」


女「う、うん……」ペロン



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不良「!?」


!?


不良「なんだこりゃ……!?」


子分「バッキバキじゃないっすか……」


女「……」


不良「八つ……いやもっと割れてるように見える……」


不良「お前のその腹筋、どうなってんだよ!?」


女「私、子供の頃から腹筋が大好きで毎日やってたら……こうなっちゃって……」


不良「回数は? どのぐらい?」


女「一万……」


不良「一万!?」


不良(1秒1回としても、166分もかかるじゃねえか! どうやってそんなに……)


女「……を朝夕2セット……」


不良「二万!?」


女「あ、寝る前にもやるかな……」


不良「三万!?」


子分「ひえええ……!」


不良「……」


女(やっぱり……引かれてる……。そりゃそうだよね……)


不良「凄いじゃねえか!」ニコッ


女「え」


不良「こんなに腹筋鍛えてる奴、初めて見たぜ!」


女「あ、ありがとう……」


不良「なぁ、いつかまた腹パンしてもいいか?」


女「う、うん、いいよ」


不良「今は無理だけど、いつかお前の腹をパンチで腫れ上がらせてやるよ!」


女「うん……頑張って!」


子分(なんなんすか、このやり取りは……)




不良「シッ!」


ボスッ!


不良「シッ! シッ!」


ボスボスッ!



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子分(サンドバッグで本格的なトレーニングを……!)


子分(本気だ……アニキは本気だ!)


不良「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」グッグッグッ…


子分「拳で腕立てっすか!?」


不良「ああ……これぐらいやんなきゃあいつの腹筋はブチ抜けねえからな」


子分「でもアニキ!首から上しか動いてないっす」


不良「高速過ぎて首から下が止まって見えるんだよ」


子分「スゲェ~さすがアニキっす」


子分「それにしても、信じられねえっすよ」


子分「かつて、あのDQNさえブッ飛ばしたこともあるアニキの拳が通じない女がいるなんて……」


不良「俺もだ……」


不良「だが……目標ができて嬉しいぜ!」グッグッ…


不良「鍛え直して、だいぶ自信がついた……」


不良「もう一度、俺の腹パンを受けてくれ!」


女「うん……いいよ」


不良「よっしゃ! いくぜぇ!」ビュオッ


ガキィンッ!


不良(手応えはあったが……)


不良「どうだァ!?」


女「全然痛くない……」


不良「……ッ!」


不良(まさに……鉄壁!)


女「あ、ごめんなさい!」


不良「いや、これでいいんだ。壁は高い方が乗り越えがいがあるッ!」


不良「また来るぜぇ!」


…翌日


不良「シッ! シッシッシッ!」


ドスッ! ドドドッ!


不良「だりゃあっ!」ガキンッ


女「前よりは……ちょっと痛かった、かも」


不良「そうか!」


子分(アニキは来る日も来る日もトレーニングと腹パンを続けた……)


子分(だけど、彼女の腹筋を超えるパンチは打てなかったっす……)





…その頃DQNアジトでは

DQN「……なんだと?」


手下「はい、不良の奴、ある女の腹筋に手こずってるみたいです」


DQN「カハハッ! 女の腹筋に手こずるなんてあいつも落ちぶれたもんだな!」


手下「どうします?」


DQN「決まってる」


DQN「俺が先にその女を腹パンで泣かせて、不良を悔しがらせてやる!」




…元の場所に戻って


ガァンッ!


不良「……どうだ?」


女「うん、なかなかよかったよ! ほんのちょっぴり内臓まで響いたもん!」


女「拳を通じて、私の中に不良君の熱意が伝わってきた!」


不良「ホ、ホントか!」


不良「よぉし、またチャレンジするぜ!」


女「うん!」


女(不良君のパンチが強くなるたび、私との距離が近づいてるみたいで嬉しいなぁ……)




…その翌日


DQN「おい、姉ちゃん」


女「はい?」


DQN「腹筋に自信あるんだってな? ちょいとハラ貸せや」


女「え……」


ゾロゾロ… ハハハハ… ヒヒヒヒ…


女(やだ……! 怖そうな人がいっぱい……!)


alt


   ・

   ・

   ・

   ・

   ・



子分「大変っす、アニキ!」


不良「どうした?」


子分「女ちゃんが、DQNのグループに連れてかれたらしいんす!」


子分「きっとアニキがあの子の腹筋に挑んでることを知って……」


不良「ちっ、あのバカの考えそうなことだ……」


子分「どうしやす!?」


不良「放っておけよ」


不良「あんな奴に、あの子の腹筋をブチ抜けるわけねえからな」


子分「だけど、問題はその後っすよ」


不良「その後?」


子分「アニキは素直に負けを認めて、その後あの子と友達みたいになったっすけど……」


子分「あいつがそんなことすると思います? まして、あの子は腹以外はフツーの女の子なんすよ?」


不良「……!」


不良「DQNの溜まり場はどこだァ!」


   ・

   ・

   ・

   ・

   ・



DQN「どんな腹筋だか知らねーが、俺のパンチですぐ泣かしてやるぜ!」


DQN「泣かしたら写真撮って、不良に見せつけてやる!」


手下「あいつ、絶対悔しがりますよ!」


女「うう……」



DQN「オラァッ!」シュッ


ガキィンッ!


alt




DQN「……」


DQN「ぐああああああっ……! いでえええええっ……!」



alt



手下「DQNさん!?」


女「だ、大丈夫ですか……」


DQN「くうう……このアマァ!」ギロッ


女「ひっ!」


DQN「よくも俺の拳をォ!」


バキィッ!


女「きゃっ……!」


DQN「その女、捕まえろォ!」


手下「はい!」ガシッ


女「な、なにを……!」


「こいつ、力は強くないぜ!」 「ホントに腹筋だけなのか!」 「どうなってんだ……」


DQN「このアマァ……俺の拳を傷つけた罪は重いぜ。地味女のくせによ」


手下「ボディはやめといた方がいいですよ。顔面にしましょう」


DQN「分かってる」


DQN「お返しに、てめえの顔面グシャグシャにしてやるぜ!」


女「あ、あああ……!」


不良「なにやってんだァ!!!」


DQN「ああん?」


女「不良君……!」


不良「そのアザ……お前顔殴られたのか!」


女「……」


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DQN「その通りだよ!」


DQN「この女の腹が予想以上に硬いもんでよ。つい殴っちまったよ。ヒャッハッハ!」


不良「てめえ……!」


DQN「まぁいいや。元々てめえもいずれボコにしてやる予定だったんだ」


DQN「せっかく来てくれたんだ。大歓迎してやるぜ。飛んで火に入るクソの虫ってかァ!?」


ヘヘヘ… ヒヒヒ…


不良「ぐ……!」


不良(20人近くいやがる……)


不良(子分は置いてきちまったし……この人数はさすがにキツイ)


不良「おい、俺が戦ってる間にお前は逃げろ」


女「でも……!」


不良「いいから!」


DQN「二人まとめてブッ殺せ! ぜってえ逃がすなよ!」


ワァッ!!!


手下「一人で勝てると思ってんのかよォ!」


不良(一人でも多く倒してやる……!)


不良「おりゃあッ!」


ドゴォンッ!!!


手下「ぐ、は……ッ」ピクピク


DQN「……え?」


女「すごい……」


「なんだ今のパンチ……」 「すげえ音したぞ」 「どうなってんだ……」


不良「……」ポカーン


不良(そうか……あいつの腹筋をブチ抜くために鍛えてたから、俺も強くなってたんだ!)


不良「よーし……だったら……」


不良「うりゃあっ! おりゃあっ!」



ドゴォッ! バキィッ! ドゴンッ!


alt



「ぐはぁっ!」 「ぎゃああっ!」 「がはっ!」


不良「さあ、どんどん来いよ」


「ひええっ!」 「あんなのと戦えるかよ!」 「逃げろ!」


タタタタタッ…


DQN「あっ……逃げんなお前ら!」


不良「おい……覚悟はできてんだろうなァ?」


DQN「う、ぐ……!」


DQN「くそォォォォォ!!!」


不良「お前にゃ、腹パンをくれてやる」



ドズゥッ!!!


alt



DQN「!?」


DQN「ぐええええっ! おごぉぉぉぉぉっ!」


DQN「うげぇぇぇぇぇ……」ビチャビチャ…


不良「……ふん。全然いいもんじゃねえな、腹パンなんて」


不良「さ、帰ろう」


女「ありがとう……不良君……」


不良「今回、お前が危ない目にあって、よく分かった」


女「?」


不良「俺がお前を腹パンしてたのは……殴るのが好きなわけでも、ましてお前にダメージを与えたかったわけでもない」


不良「俺は……お前に相応しい男になりたかっただけだったんだ」


不良「だが、俺はバカだから……その方法が腹パンしか思いつかなかった……」


女「……」


不良「俺……お前のことが好きだ!」


女「不良君……!」


不良「ど、どうだ……?」


女「嬉しい……!」


女「私も不良君のこと、好きだったの……」


女「私の秘密を、初めて受け入れてくれた人だから……」


不良「俺……これからはもっと真面目になるよ」


不良「んで、お前に相応しい男になってみせる!」


女「うん……!」


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…………



……



…



子分「お久しぶりっす、アニキ!」


不良「おう」


子分「いやー、俺もアニキもすっかり社会人っすね」


不良「ああ、この俺が営業マンだなんてな」


子分「会社はどうっすか?」


不良「“この不良社員が!”なんて怒られることもあるけど、何とかやってるよ」


子分「相変わらずで安心したっすよ」


子分「だけど、アニキのパンチ力がありゃ、格闘技やってても成功したと思うんすけどね~」


不良「そう甘くねえって。それに、俺の女房は殴る蹴るが好きじゃねえしよ」


子分「あっ、女房ってもしかして……」



「あなた~!」


妻「あら、子分さん。お久しぶり」


子分「ちわっす!」


子分「……ん」


子分「あれ!? そのお腹、もしかして……」


妻「ええ、もうすぐ産まれるの……」


子分「うひゃ~! アニキも一児の父っすか! めでたいっす!」


不良「腹を腫れ上がらすことはできなかったが……腹を膨れ上がらせることはできたな」



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【END】

Posted at 2026/10/27 13:47:27 | コメント(2) | トラックバック(0) | 楽しいこと | 日記
2026年10月14日 イイね!

第9話「約束の山」

第9話「約束の山」altaltaltaltaltaltaltaltaltaltaltaltaltalt













Posted at 2026/10/14 12:00:55 | コメント(1) | トラックバック(0) | 思いに耽(ふけ)ること | 日記
2026年10月13日 イイね!

第8話「古い赤い首輪」

第8話「古い赤い首輪」


雨上がりの午後。


誠がクロの首元を見ると、赤い首輪から糸が飛び出していた。色も薄くなり、裏側の布が少し擦り切れている。



alt



誠:
「だいぶ古くなったな。新しいの、買おうか」


クロ:
「いらん」

いつもより、短い返事だった。


誠:
「じゃあ、ここだけ縫ってもいいか?」


クロはしばらく黙り、それから誠の膝へ乗った。


外した首輪を裏返すと、不ぞろいな縫い目が並んでいた。


誠:
「前にも、直したんだな」


クロ:
「……あいつがな」


誠は針を持ったまま、クロを見る。


クロ:
「縫うの、へたくそだった」




——昔の、小さな家。


まだ体の小さかったクロが、玄関のタオルの上に座っている。


雨に濡れていたクロを拾った老人が、赤い布を切って首輪を作っていた。指には、小さな絆創膏が貼られている。



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老人:
「黒いから、クロでいいか」


幼いクロ:
「もう少し考えろよ」


老人には、「ニャー」としか聞こえない。


老人:
「そうか。気に入ったか」


クロ:
「聞いてないな、この人」


老人は笑って、首輪をそっと着ける。


老人:
「これなら、暗いところでも見つけられる。

お前、すぐ隅っこに入るからな」


不ぞろいな首輪は、少しだけ曲がっていた。


けれどクロは、その夜から、老人の椅子の隣で眠るようになった。



——現在。


クロ:
「文句を言ったつもりだったんだがな」


誠:
「うれしそうに聞こえたんだろうな」


クロは窓の方を向く。


「……悪い気は、しなかった」




——老人とクロの暮らし。


朝、老人が椅子から立つと、クロが先に玄関へ走る。


老人:
「まだ早い。今日は病院から帰ってからだ」


クロ:
「昨日も、そう言ったぞ」


老人:
「はいはい。留守番、頼むな」


帰宅すると、老人は必ず玄関で呼んだ。


「クロ。ただいま」


クロはわざと、すぐには出ていかない。


けれど老人が靴を脱ぐころには、足元にいた。


老人:
「おや。待っててくれたのか」


クロ:
「腹が減っただけだ」


老人は、首輪の赤い布を指で整える。


ある日、老人は山の写真をクロに見せた。


老人:
「元気になったら、ここへ行こう。

車で近くまで行けるんだ」


クロが写真の上へ座る。


老人:
「景色が見えないよ」


クロ:
「俺も連れていくなら、許す」


老人は笑った。

「一緒に行こうな、クロ」




——雨の朝。


老人は、いつもよりゆっくり支度をしていた。


クロが玄関で待っていると、老人はしゃがみ、首元をなでる。


老人:
「少し、病院に泊まってくる。

いい子で待っててな」

老人が立とうとしたとき、クロの爪が袖に引っかかった。


老人はもう一度しゃがみ、丁寧に外した。


「帰ってきたら、散歩に行こう」


玄関の戸が閉まる。


その晩、クロは足音がするたび、戸の前へ行った。



alt



次の朝も、その次の朝も。


近所の人がごはんを置いてくれた。けれど、ごはんを食べ終えると、クロはまた玄関へ戻った。


やがて老人の娘が来た。


椅子の前に座り、声を押し殺して泣いていた。


クロはその膝へ乗る。


赤い首輪を見た娘が、クロを抱きしめた。


「これ、お父さんが縫ったんだね……」




——現在。


誠の手が止まっている。


クロ:
「その人が泣いてるのを見て、分かった。
……でも、戸が開くと、まだ見に行ってた」

クロは、誠の手元にある首輪を見つめる。


「最後の日、袖に爪が引っかかったんだ。
あのとき、離さなければ……って」

誠は針を布へ置く。


誠:
「離したから帰ってこなかったんじゃないよ」


クロはうつむく。


誠:
「最後まで、爪を外してくれたんだな。

お前が痛くないように」

しばらく、二人とも黙っていた。


クロの前足が、赤い首輪に触れた。


誠が縫い終えた首輪を、クロの前へ置く。


古い縫い目は、そのまま残してある。


ほつれたところにだけ、新しい糸が加わっていた。


クロ:
「……あいつの糸、取らなかったんだな」


誠:
「まだ、ちゃんとつながってるから」


クロは首を伸ばし、誠に着けてもらう。


少し曲がった赤い首輪が、黒い長毛の間へ戻った。


誠:
「山の写真、どんな景色だった?」


クロ:
「遠くまで、山が重なってた。
……あいつ、ずっと見てた」


誠:
「探してみようか。その場所」


クロが顔を上げる。


誠:
「すぐに見つからなくても、何度か行けばいい。
お前となら、途中も楽しいし」

クロは返事をせず、誠の手へ額を押しつけた。


そのまま、少し長く動かなかった。


やがて誠が買い物に出かけ、帰ってくる。


玄関の戸を開けると、クロが足元にいた。


誠:
「クロ。ただいま」


クロ:
「……遅い」


誠:
「待っててくれたのか?」


クロ:
「腹が減っただけだ」


誠は笑い、靴を脱ぐ。


クロも一緒に、部屋へ歩いていった。


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古い縫い目は、残したまま。
その先を、新しい糸でつないでいく。


Posted at 2026/10/13 13:46:54 | コメント(0) | トラックバック(0) | 思いに耽(ふけ)ること | 日記
2026年10月12日 イイね!

第7話「クロが震えた夜」

第7話「クロが震えた夜」
夕方のキャンプ場。

誠がテントの中に寝袋を広げると、クロが先に真ん中へ座った。黒い長毛と大きなしっぽが、寝袋の半分を占領している。

誠:
「それ、俺の寝袋なんだけど」

クロ:
「知ってる。寝心地を確認してる」

誠:
「で、どう?」

クロ:
「合格。お前は端で寝ていいぞ」

誠が笑う。

alt


そのとき、遠くで雷が鳴った。

クロの耳が伏せる。しっぽが、ぴたりと止まった。

誠:
「雨が来そうだな。管理棟へ移ろうか」

クロ:
「このくらい、平気だ」

そう言いながら、クロは寝袋から動かなかった。

alt


雨が強くなる前に荷物をまとめようとした誠の背後で、もう一度、雷が鳴る。

クロはテントの隅へ身を縮めた。長い毛の下で、体が小刻みに震えている。

誠:
「クロ。こっち、おいで」

返事がない。

誠はしゃがみ、少し離れたところへ手を置いた。

誠:
「抱っこしてもいいか?」

クロ:
「……勝手にしろ」

誠はタオルでクロを包み、胸に抱く。

いつもなら文句を言うクロが、誠の服を前足でつかんだ。

管理棟へ移り、乾いた椅子に腰を下ろしても、その爪は離れなかった。

誠:
「もう、ここで待とう。今夜は山の話もしなくていい」

クロ:
「……帰るのか?」

誠:
「一緒に帰るよ。雨が落ち着いてからな」


窓の向こうで雷が光る。

クロが誠の胸に顔を押しつけた。

誠:
「音が怖い?」

長い沈黙。

alt


クロ:
「……昔も、こんな雨だった」

誠は、なでていた手を止めずに待った。

クロ:
「一緒にいた人が、俺を寝かせてから出かけた。
すぐ戻るって言ったんだ」

雨音が続く。

クロ:
「目を開けたら、いなかった。
夜になっても、次の朝になっても」

誠は、赤い首輪に目を落とす。

クロ:
「だから、こういう音がすると……。
また、目を閉じた間にいなくなる気がする」

クロの声が小さくなる。

「猫のくせに、おかしいだろ」

誠:
「おかしくないよ」

誠はタオルの端を、クロの肩へかけ直した。

「待ってたんだな。ずっと」

クロは何も答えない。
ただ、誠の服をつかむ前足に、少しだけ力が入った。

誠:
「俺もな、怖かったよ」

クロが顔を上げる。

誠:
「会社を辞めたら、誰からも呼ばれなくなって。
このまま誰にも気づかれず、毎日が過ぎるのかなって」

誠は、少し照れたように笑う。

「公園でお前が話しかけたとき、びっくりしたけどさ。
……うれしかったんだ」

クロ:
「パンが欲しかっただけだ」

誠:
「そうだったな」

誠は笑い、クロの背中をゆっくりなでる。

「でも、あの日から、明日どこへ行こうかって考えるようになった」

クロは誠の手を見つめる。

誠:
「だから今夜は、俺に付き合わせてくれ。
ひとりで雨の音を聞くの、寂しいから」

クロ:
「……眠くなっても、知らんぞ」

誠:
「寝ていいよ」

クロ:
「お前は?」

誠:
「ここにいる」

誠は、クロの前足を握らず、その下に手のひらを添えた。

alt


クロ:
「……離すなよ」

誠:
「うん」

夜が更ける。

クロが少し動くたび、誠の手が背中をなでる。

窓の外で雷が鳴っても、クロはもうテントの隅を探さなかった。誠の手の上に前足を置いたまま、少しずつ目を閉じた。

やがて、静かな寝息が聞こえる。

誠も椅子にもたれ、眠った。

翌朝。

鳥の声でクロが目を開ける。

一瞬、体を起こしかける。
けれど、目の前には、寝癖のついた誠がいた。

誠の手は、まだそこにあった。

クロが動くと、誠も目を覚ます。

誠:
「おはよう。よく眠れたか?」

クロ:
「……まあな」

誠は立ち上がろうとして、顔をしかめる。

「いてて。腕、しびれた」

クロ:
「抱き方が下手なんだよ」

誠:
「一晩、付き合ったんだけどな」

クロは膝から下りかけ、もう一度だけ振り返った。

そして、誠の手に額をそっと押しつける。

クロ:
「……いたな」

誠:
「うん?」

クロ:
「目を開けても、ちゃんといた」

誠は、その場にしゃがんだ。

誠:
「おはよう、クロ」

今度はクロも、誠を見上げて答えた。

「……おはよう」

alt






「ここにいる」は、
朝になっても、そこにいた。






Posted at 2026/10/12 17:32:03 | コメント(0) | トラックバック(0) | 思いに耽(ふけ)ること | 日記

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