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マリアローザのブログ一覧

2026年10月14日 イイね!

第9話「約束の山」

第9話「約束の山」altaltaltaltaltaltaltaltaltaltaltaltaltalt













Posted at 2026/10/14 12:00:55 | コメント(1) | トラックバック(0) | 思いに耽(ふけ)ること | 日記
2026年10月13日 イイね!

第8話「古い赤い首輪」

第8話「古い赤い首輪」


雨上がりの午後。


誠がクロの首元を見ると、赤い首輪から糸が飛び出していた。色も薄くなり、裏側の布が少し擦り切れている。



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誠:
「だいぶ古くなったな。新しいの、買おうか」


クロ:
「いらん」

いつもより、短い返事だった。


誠:
「じゃあ、ここだけ縫ってもいいか?」


クロはしばらく黙り、それから誠の膝へ乗った。


外した首輪を裏返すと、不ぞろいな縫い目が並んでいた。


誠:
「前にも、直したんだな」


クロ:
「……あいつがな」


誠は針を持ったまま、クロを見る。


クロ:
「縫うの、へたくそだった」




——昔の、小さな家。


まだ体の小さかったクロが、玄関のタオルの上に座っている。


雨に濡れていたクロを拾った老人が、赤い布を切って首輪を作っていた。指には、小さな絆創膏が貼られている。



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老人:
「黒いから、クロでいいか」


幼いクロ:
「もう少し考えろよ」


老人には、「ニャー」としか聞こえない。


老人:
「そうか。気に入ったか」


クロ:
「聞いてないな、この人」


老人は笑って、首輪をそっと着ける。


老人:
「これなら、暗いところでも見つけられる。

お前、すぐ隅っこに入るからな」


不ぞろいな首輪は、少しだけ曲がっていた。


けれどクロは、その夜から、老人の椅子の隣で眠るようになった。



——現在。


クロ:
「文句を言ったつもりだったんだがな」


誠:
「うれしそうに聞こえたんだろうな」


クロは窓の方を向く。


「……悪い気は、しなかった」




——老人とクロの暮らし。


朝、老人が椅子から立つと、クロが先に玄関へ走る。


老人:
「まだ早い。今日は病院から帰ってからだ」


クロ:
「昨日も、そう言ったぞ」


老人:
「はいはい。留守番、頼むな」


帰宅すると、老人は必ず玄関で呼んだ。


「クロ。ただいま」


クロはわざと、すぐには出ていかない。


けれど老人が靴を脱ぐころには、足元にいた。


老人:
「おや。待っててくれたのか」


クロ:
「腹が減っただけだ」


老人は、首輪の赤い布を指で整える。


ある日、老人は山の写真をクロに見せた。


老人:
「元気になったら、ここへ行こう。

車で近くまで行けるんだ」


クロが写真の上へ座る。


老人:
「景色が見えないよ」


クロ:
「俺も連れていくなら、許す」


老人は笑った。

「一緒に行こうな、クロ」




——雨の朝。


老人は、いつもよりゆっくり支度をしていた。


クロが玄関で待っていると、老人はしゃがみ、首元をなでる。


老人:
「少し、病院に泊まってくる。

いい子で待っててな」

老人が立とうとしたとき、クロの爪が袖に引っかかった。


老人はもう一度しゃがみ、丁寧に外した。


「帰ってきたら、散歩に行こう」


玄関の戸が閉まる。


その晩、クロは足音がするたび、戸の前へ行った。



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次の朝も、その次の朝も。


近所の人がごはんを置いてくれた。けれど、ごはんを食べ終えると、クロはまた玄関へ戻った。


やがて老人の娘が来た。


椅子の前に座り、声を押し殺して泣いていた。


クロはその膝へ乗る。


赤い首輪を見た娘が、クロを抱きしめた。


「これ、お父さんが縫ったんだね……」




——現在。


誠の手が止まっている。


クロ:
「その人が泣いてるのを見て、分かった。
……でも、戸が開くと、まだ見に行ってた」

クロは、誠の手元にある首輪を見つめる。


「最後の日、袖に爪が引っかかったんだ。
あのとき、離さなければ……って」

誠は針を布へ置く。


誠:
「離したから帰ってこなかったんじゃないよ」


クロはうつむく。


誠:
「最後まで、爪を外してくれたんだな。

お前が痛くないように」

しばらく、二人とも黙っていた。


クロの前足が、赤い首輪に触れた。


誠が縫い終えた首輪を、クロの前へ置く。


古い縫い目は、そのまま残してある。


ほつれたところにだけ、新しい糸が加わっていた。


クロ:
「……あいつの糸、取らなかったんだな」


誠:
「まだ、ちゃんとつながってるから」


クロは首を伸ばし、誠に着けてもらう。


少し曲がった赤い首輪が、黒い長毛の間へ戻った。


誠:
「山の写真、どんな景色だった?」


クロ:
「遠くまで、山が重なってた。
……あいつ、ずっと見てた」


誠:
「探してみようか。その場所」


クロが顔を上げる。


誠:
「すぐに見つからなくても、何度か行けばいい。
お前となら、途中も楽しいし」

クロは返事をせず、誠の手へ額を押しつけた。


そのまま、少し長く動かなかった。


やがて誠が買い物に出かけ、帰ってくる。


玄関の戸を開けると、クロが足元にいた。


誠:
「クロ。ただいま」


クロ:
「……遅い」


誠:
「待っててくれたのか?」


クロ:
「腹が減っただけだ」


誠は笑い、靴を脱ぐ。


クロも一緒に、部屋へ歩いていった。


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古い縫い目は、残したまま。
その先を、新しい糸でつないでいく。


Posted at 2026/10/13 13:46:54 | コメント(0) | トラックバック(0) | 思いに耽(ふけ)ること | 日記
2026年10月12日 イイね!

第7話「クロが震えた夜」

第7話「クロが震えた夜」
夕方のキャンプ場。

誠がテントの中に寝袋を広げると、クロが先に真ん中へ座った。黒い長毛と大きなしっぽが、寝袋の半分を占領している。

誠:
「それ、俺の寝袋なんだけど」

クロ:
「知ってる。寝心地を確認してる」

誠:
「で、どう?」

クロ:
「合格。お前は端で寝ていいぞ」

誠が笑う。

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そのとき、遠くで雷が鳴った。

クロの耳が伏せる。しっぽが、ぴたりと止まった。

誠:
「雨が来そうだな。管理棟へ移ろうか」

クロ:
「このくらい、平気だ」

そう言いながら、クロは寝袋から動かなかった。

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雨が強くなる前に荷物をまとめようとした誠の背後で、もう一度、雷が鳴る。

クロはテントの隅へ身を縮めた。長い毛の下で、体が小刻みに震えている。

誠:
「クロ。こっち、おいで」

返事がない。

誠はしゃがみ、少し離れたところへ手を置いた。

誠:
「抱っこしてもいいか?」

クロ:
「……勝手にしろ」

誠はタオルでクロを包み、胸に抱く。

いつもなら文句を言うクロが、誠の服を前足でつかんだ。

管理棟へ移り、乾いた椅子に腰を下ろしても、その爪は離れなかった。

誠:
「もう、ここで待とう。今夜は山の話もしなくていい」

クロ:
「……帰るのか?」

誠:
「一緒に帰るよ。雨が落ち着いてからな」


窓の向こうで雷が光る。

クロが誠の胸に顔を押しつけた。

誠:
「音が怖い?」

長い沈黙。

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クロ:
「……昔も、こんな雨だった」

誠は、なでていた手を止めずに待った。

クロ:
「一緒にいた人が、俺を寝かせてから出かけた。
すぐ戻るって言ったんだ」

雨音が続く。

クロ:
「目を開けたら、いなかった。
夜になっても、次の朝になっても」

誠は、赤い首輪に目を落とす。

クロ:
「だから、こういう音がすると……。
また、目を閉じた間にいなくなる気がする」

クロの声が小さくなる。

「猫のくせに、おかしいだろ」

誠:
「おかしくないよ」

誠はタオルの端を、クロの肩へかけ直した。

「待ってたんだな。ずっと」

クロは何も答えない。
ただ、誠の服をつかむ前足に、少しだけ力が入った。

誠:
「俺もな、怖かったよ」

クロが顔を上げる。

誠:
「会社を辞めたら、誰からも呼ばれなくなって。
このまま誰にも気づかれず、毎日が過ぎるのかなって」

誠は、少し照れたように笑う。

「公園でお前が話しかけたとき、びっくりしたけどさ。
……うれしかったんだ」

クロ:
「パンが欲しかっただけだ」

誠:
「そうだったな」

誠は笑い、クロの背中をゆっくりなでる。

「でも、あの日から、明日どこへ行こうかって考えるようになった」

クロは誠の手を見つめる。

誠:
「だから今夜は、俺に付き合わせてくれ。
ひとりで雨の音を聞くの、寂しいから」

クロ:
「……眠くなっても、知らんぞ」

誠:
「寝ていいよ」

クロ:
「お前は?」

誠:
「ここにいる」

誠は、クロの前足を握らず、その下に手のひらを添えた。

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クロ:
「……離すなよ」

誠:
「うん」

夜が更ける。

クロが少し動くたび、誠の手が背中をなでる。

窓の外で雷が鳴っても、クロはもうテントの隅を探さなかった。誠の手の上に前足を置いたまま、少しずつ目を閉じた。

やがて、静かな寝息が聞こえる。

誠も椅子にもたれ、眠った。

翌朝。

鳥の声でクロが目を開ける。

一瞬、体を起こしかける。
けれど、目の前には、寝癖のついた誠がいた。

誠の手は、まだそこにあった。

クロが動くと、誠も目を覚ます。

誠:
「おはよう。よく眠れたか?」

クロ:
「……まあな」

誠は立ち上がろうとして、顔をしかめる。

「いてて。腕、しびれた」

クロ:
「抱き方が下手なんだよ」

誠:
「一晩、付き合ったんだけどな」

クロは膝から下りかけ、もう一度だけ振り返った。

そして、誠の手に額をそっと押しつける。

クロ:
「……いたな」

誠:
「うん?」

クロ:
「目を開けても、ちゃんといた」

誠は、その場にしゃがんだ。

誠:
「おはよう、クロ」

今度はクロも、誠を見上げて答えた。

「……おはよう」

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「ここにいる」は、
朝になっても、そこにいた。






Posted at 2026/10/12 17:32:03 | コメント(0) | トラックバック(0) | 思いに耽(ふけ)ること | 日記
2026年10月12日 イイね!

第6話 娘が帰ってきた日

第6話 娘が帰ってきた日

誠は家族を居間に集め、クロの前にテレビのリモコンを置く。まるで記者会見のマイクだ。


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誠:
「今日は、重大な発表があります」


妻:
「先に言っとくけど、もうテントは買わないよ」


誠:
「買い物の話じゃない。この猫……しゃべるんだ」


娘:
「はいはい。クロちゃん、こんにちは」


クロ:
「司会が長い。おやつ、まだか?」


誠:
「今、大事な話をしてるだろ!」

妻と娘が顔を見合わせる。


娘:
「……猫に怒らないでよ」


誠:
「証明する。クロ、好きな食べ物は?」

〈誠に聞こえる声〉

クロ:
「おやつ。あと、お前が隠した予備のおやつ」

〈家族に聞こえる声〉

クロ:
「ニャー」


娘:
「かわいい〜!」


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誠:
「いや、今、隠した場所まで知ってるって……」


妻:
「あなたも冷蔵庫の前で、それくらい鳴いてるよ。
『なんかない?』って」


クロ:
「似た者同士だな」


誠:
「お前までそっちにつくな!」


娘:
「そっちって、クロ何も言ってないけど?」


娘がクロをなでる。


娘:
「クロちゃん、うちのお父さん、どう?」


クロ:
「話は長い。写真は下手。パンは焦がす」


誠:
「……優しい飼い主だって」


クロ:
「一文字も合ってないぞ」


娘:
「じゃあ、私のことは?」


クロ:
「おやつをくれる人。大変、信頼している」


誠:
「もう少し実家に帰ってきてほしいって」


クロ:
「それ、お前の感想だろ」


妻:
「その通訳、お父さんに都合よくない?」


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誠:
「じゃあ、俺しか知らない秘密を言ってみろ」


クロ:
「昨日、冷蔵庫のプリンを食った」


誠:
「それは言うな!」


妻:
「……私のプリン?」


誠が固まる。


クロ:
「猫のせいにしようとしてたな」


誠:
「してない!」


娘:
「お父さん、誰と取り調べしてるの?」


妻は静かに立ち上がる。


妻:
「しゃべるかどうかは後でいい。
まず、プリンを買ってきて」


クロ:
「会見、終了だな」


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娘が笑いながら、クロの顔をのぞき込む。


娘:
「でも、お父さんと暮らすの、楽しい?」


クロは誠をちらりと見る。


クロ:
「……まあな。退屈はしない。
こいつ、最近よく笑うし」


誠は少し照れる。


誠:
「……楽しいって」


クロ:
「そこは、ちゃんと訳すんだな」


娘:
「そっか。よかった」


クロは立ち上がり、誠の膝へ乗る。


クロ:
「で、会見のギャラは?」


誠:
「おやつな。分かったよ」


妻:
「あなた、その猫の言葉しか聞いてないでしょ」


妻が誠を見つめる。

「プリンは?」


誠:
「……今、買ってきます」


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猫の言葉は聞こえる。
妻の話は、たまに聞こえない。



Posted at 2026/10/12 16:41:38 | コメント(0) | トラックバック(0) | 思いに耽(ふけ)ること | 日記

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