
昨日のブログ
MINI原人昆虫記 13 において、昆虫のすさまじい高速飛翔能力について述べた。もし昆虫がポルシェ911サイズまではいかなくとも、もう少し巨大なら現在の地球上の哺乳類、鳥類・魚類など脊椎動物には昆虫にかなうものはなく、あっという間に餌食となり絶滅するだろう。ではなぜ、そのような(巨大昆虫が原人をむさぼり喰うような)悪夢が実現しないのか。本日は昆虫のエア・インテーク・システムにおけるダウンサイズ・ターボ化へ至る進化の歴史についてお話しよう。

おかりしました。
2016年ポルシェボクスターは大排気量6気筒エンジンを捨て、4気筒ターボエンジンに変更された。この軽量化と高効率化が、昆虫におけると同様にオープンスポーツカーとしてのボクスターにとって正しい進化だったのかは今後の評価を待たねばならない。
(1) 初期の昆虫の誕生と進化 - 毒としての酸素とNAエンジン
Evolution of Air Breathing. Compr Physiol., 2013よりおかりしました。
最近の遺伝子解析により昆虫は4億8千万年年前に出現したと判明した(
Science, 2014)。最古の昆虫化石はデボン紀前半(今から4億1千2百年以上前)のものが見つかっている。
4億7千万年前のオルドビス紀中期から、陸上植物のものと比定される最古の記録である四分子胞子が見つかっている。すなわち昆虫の出現は陸上植物の出現からすぐ後に起こったと推定される。
その後、光合成を行う植物の繁茂により、デボン紀から石炭紀にかけ、大気中の酸素濃度はどんどん高くなっていった。

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この頃の昆虫の呼吸システム(エアインテーク)は気門という身体の横にあいた穴から気管という管を通じて筋肉に受動拡散で酸素を届けるという極めて単純なものであった。現在でも昆虫の幼虫はそのようなシステムしか持っていない。酸素濃度が30%を超えるような状態では、この単純なシステムでも十分であり、酸素による毒性を避けるためにも昆虫はどんどん巨大化していった(
PLoS ONE, 2011)。

かもめほどもあるトンボや50cmもあるゴキブリが登場したのはこの頃である。ガソリンが安かったころ車のエンジンが7000ccなど大排気量化していった時代と同じであろうか。
(2) 地球寒冷化と低酸素による試練 - 完全変態システムの獲得
約3億年前、植物たちの繁茂がピークを迎え、大気中の二酸化炭素が減少し、温室効果がなくなり地球が冷えはじめる。それとともに光合成を行う植物も減り、熱帯・高酸素環境から一転し、寒冷・低酸素の時代、ペルム紀・三畳紀がやってくる。
JATAFFホームページ(昆虫科学館)よりおかりしました。
この時期に昆虫は完全変態を行うようになった。気候の悪化へ対応するため、蛹(さなぎ)の段階を経ることによって寒冷期を乗り切るように進化したためであった。この完全変態は昆虫の身体のつくりを蛹を経ることによってガラリと変えることができる故、魔法のような進化を可能としたのである。
オイルショック後、自動車の進化が加速したのと同じ、逆境が進化を生むのである。
(3) 再温暖化と被子植物の誕生 - 空を制するものが花を制する
寒かった地球にも温暖化が訪れる。三畳紀・ジュラ紀という恐竜の時代に植物が回復し、再び酸素がゆっくりと増え始める。 1億3千万年前、白亜紀のはじめ、ついに花(被子植物)が地上に現れる。もちろん昆虫に蜜や花粉を提供し、受粉によって遺伝子を拡散するための機構が花であり、ロマンチストのために花はあるのではない。このため昆虫には花から花へ飛び回る必要が生じた。エネルギー効率よく飛翔できる新生昆虫、ハチ(膜翅目)、ハエ(双翅目)、チョウ・ガ(鱗翅目)がこのころから5千万年位前までに隆盛を極めることになる。
(4) 高効率システムへの進化 - ダウンサイジング・ターボ化
昆虫の飛翔には歩行の約30倍のエネルギーが必要とされる。昆虫の筋肉は地球上のいかなる動物よりも高効率のシステムと呼ばれる。糖と酸素からエネルギーのみなもとであるATPを産生するミトコンドリアがぎっしりとつまっており、効率よく運動に変換できる。一方、大量の酸素を消費する筋肉がある昆虫では大量の酸素を飛翔のために筋肉まで届けるシステムが必要になる。

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完全変態は外観だけではなく、そうした体内のエア・インテイクシステムの進化にも役立った。気嚢の発達である。胸部の筋肉の動きに加え、腹部から律動的に送られる体液が気嚢を収縮・拡張させ、空気の出し入れがより効率的になった。ターボシステムの導入が起こったのだ。

おかりしました。
その上、高等な飛翔昆虫では血液中の酸素運搬蛋白として銅を結合するヘモシアニンから鉄を結合するヘモグロビンに変更されることになった。
そして昆虫は酸素の効率的利用を最適化するため、巨大化の道を捨て、最も効率的な大きさ、すなわち、酸素が筋肉に到達しやすく、エネルギーをより多く産生し、運動効率を最大化する現在の大きさになっていったのである。
これが昆虫におけるダウンサイジング・ターボ化である。こうして地球は昆虫の惑星となった。
そこに原人や人類がお邪魔しはじめたのはつい最近のことである。

タイタンオオウスバカミキリ(おかりしました)
現在では、このように大きな昆虫は例外的である。
(今回はちょっとむずかしかったかも。 すみません。)
「MINI原人昆虫記」関連ページ
Posted at 2016/11/22 22:38:11 | |
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