
本日はMINI原人色彩論第3回目。人間の目で見たものは、大脳で処理され修飾されて最終的に認識されます。その処理過程は人により異なっているので、同じものが同じように見えないことがあります。
Voici mon secret. Il est très simple: on ne voit bien qu'avec le coeur. L'essentiel est invisible pour les yeux. (Le Petit Prince)
さあ、ぼくの秘密。とっても簡単なんだ――心で見ないと、ものはよく見えない。そのものが何なのかってことは、目で見ても分からない。 (星の王子さま)
 | | 人間の眼の網膜で受容された光の信号は複雑な経路を伝わり、まず大脳の最後部にある後頭葉一次視覚野に入り、そこで処理が開始されます。
そして、並列処理された視覚信号はさらに複雑な認知を行うために、2つに分かれて上方の頭頂葉後部、下方の側頭葉下部にて処理されます。
上方:後頭頂皮質では空間認知つまり動きと空間的位置関係の認知を行うための処理を行います。
下方:下側頭皮質では物体認知すなわち形態と色の解析・認知が行われます。 |
 | | 左のドレスを見てください。このドレスはインターネット上で話題になったので、もう既にみたことがある人も多いと思います。このドレスは
① 青と黒の縞模様に見えるひと(下図中央)、
② 白と金の縞模様に見えるひと(下図右)、
の2種のひとびとがいることがわかっています。約半々のようです。
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あなたは青黒派でしょうか、それとも白金派でしょうか。
それを説明する前にまず、右の立体図形を見てください。AとBのマス目がありますが、どちらの色が濃いでしょうか?よっぽどひねくれ者でない限り、Aのほうが濃く、Bのほうが明るい色であると答えるでしょう。
でも本当はAもBも同じ濃さの灰色なのです。
どうしてこんなことになるのでしょうか? その鍵は「人間は立体視ができる動物である」ということと、「光と影の世界に住む動物である」ということです。そしてもう一つの鍵は、「人間は文明の発達により紙の上やディスプレイ上に描かれた二次元の”立体物”の光と影を見るようになった」ということです。 | |  |
いちばん最初に述べたように「立体」に関する認知処理は脳の上のほうで、「光と影・色彩」に関する認知処理は脳の下のほうで行われ、その処理は離れています。役所の縦割り行政と同じでちぐはぐが生じやすいのです。そして、2次元の「立体」・「光と影」は本当はないはずのものを無理やりつじつまをあわせてあるように認知しています。これがマチガイの素です。
立体の影の中にあるものは、明るい太陽に照らされたものより実際より暗く見えるはずであるから、それを脳が補正して、影の中のものは「明るいもの」、光の中のものは「暗いもの」として認識します。 これがAのマスが暗く、Bのマスが明るく見える理由です。
ドレスの場合も同じです。とても明るい逆光の中で、ドレスが影になるような状況の写真ですね。影の中のドレスの色はもっと明るいはずだからと無意識に脳が明るく見える様に処理します。そのときその補正が大きいひとは、ドレスが白と金色だが、影になっているので青みがかって見えるのだと脳が誤解します。補正が小さいひとは、ドレスは青と黒であるけど、すこし明るい光の中で実際より明るく見えていると脳が誤解するのです。
fMRI(機能的核磁気共鳴イメージング)を使った研究では白金(WG)のひとの方が、青黒(BB)のひとよりドレスを見たときの脳の関連領域での活性化が強く起こっていることが示されています。
Schlaffke, L et al: The Brain's Dress Code: How the dress allows to decode the neuronal pathway of an optical illusion. Cortex 2015;73:271-5 より。
このような人間の視覚の特性を理解すると、みなさんがクルマの色を選ぶときに重要なことは、
カタログやディスプレイの二次元画像でクルマの色を決めない。
ということです。カタログ写真をとるプロ・カメラマンは「光と影・色彩の魔術師」であり、美しく見えるライティングで何枚も写真をとり、その中から最も魅力的なものを選びます。白金と青黒ほどは違わなくても、思ってたイメージとちがったという悲劇を避けるためには、実際にディーラーに行き、その色のクルマをみること。できればショールームではなく、外の光の中でみることが重要です。もし、その色のクルマがなければ、あるところまで出かけて行ってみるくらいの努力が必要です。長年付き合っていくクルマですから、本当に満足できる色を買ってください。もっとも白や黒を買うなら、目をつぶって買ってもOKです(笑)。

もう一つ、ミニチュアを見て決めてもいけません。
同一塗料でもミニチュアでは実車より濃く見えます。
以上、原人色彩論3でした。
「MINI原人色彩論」関連ページ:
色彩論1 (車の塗装色) (2016.12.18)
色彩論2 (特殊な視覚能力) (2016.12.21)
Posted at 2016/12/22 18:55:53 | |
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