
昨日のブログ「
MINI原人の笑う門には」において、ブータン国民がお茶の中のハエの命を心配するお話をしたが、本日はこの面白い国にまつわるお話をしましょう。
ブータン王国はヒマラヤ山脈の東側、南はインド、北は中国に接してある九州ほどの面積の小国である。ブータンの宗教は大乗仏教すなわち、自身の成仏を求めるにあたって、まず苦の中にある全ての生き物たち(一切衆生)を救いたいという心=菩提心を持つことを是とする宗教だ。だからハエとても救いの対象である。
昆虫の本題に入る前にまず車ネタから。ブータンの交通事情については
京都大学の「幸せの国・ブータンの交通事情とその展望」に詳しいのでそちらも参照されたい。

上記よりおかりしました。
○ 国土の大部分が山岳であり、72.5%が森林であるブータンには道路網が少ない。図の赤い線のみが道路である。国道・県道・市道・あぜみち・林道が張り巡らされている日本とは大違いだ。また、鉄道もない。
だから通常はこういう交通手段である(ブータン政府観光局ページよりおかりしました)。
○ 特筆すべきは、
国のどこにも信号がないということ。以前は首都の一部にあったそうだが、国王からの、品がないという、鶴の一声で、撤去。ラウンドアバウト(円形交差点)となっているか、警察官が手で交通整理をしている。
○ シートベルトの着用を法で強制していないこともユニーク。自動車の運転では衝突事故よりも崖下への転落が多く、転落では、シートベルトをしていないほうが救命率が高くなる、という考えから、着用を勧めていないとのこと(
ウィキペディアより)。
○ そして、すごいことに環境保護を目的に
ブータン国内全ての車を電気自動車にする計画が進行中だ。ブータンでは化石燃料(ガソリン・ディーゼル)エンジンの車は輸入禁止となっている。 2004年12月より、世界初の禁煙国家となり、煙草の販売が禁止された。
ブータンのこと好きになってきたでしょう(゚ー゚)。 では本題。

おかりしました。
ブータンには「
ブータンの栄光(Bhutan Glory)」と英名がついた蝶が2種いる。ブータンの栄光というのはブータン国王ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク陛下(上図)のことではない。チョウである。
Bhutan Glory Ludlow's Bhutan Glory
Bhutanitis lidderdalii Atkinson, 1873 Bhutanitis ludlowi Gabriel, 1942
シボリアゲハ ブータンシボリアゲハ
(いずれも最初に発見され、種の記載がされた標本=タイプ標本を図示している)
これらは日本のギフチョウ、ヒメギフチョウと遠い親戚関係にあたる: アゲハチョウ科(Papilionidae)、ウスバアゲハ亜科(Parnassiinae)、タイスアゲハ族(Zerynthiini)に属するシボリアゲハ属(Bhutanitis)とギフチョウ属(Luehdorfia)。
昆虫館よりおかりしました。
シマシマ、赤い裾、そして尾となんとなく紋様・形が似ているでしょ。
左のBhutan Glory シボリアゲハは1868年5月、リッデルデール博士がブータンにて発見したので、Bhutanitis lidderdaliiと呼ばれる。当時はこのチョウを採集するのは命懸けであった。しかしその後、北インド、北ビルマ、中国南西部、タイ北部に産地が発見され、採集も容易となり、最近では死者は出ていない。
右のLudlow's Bhutan Glory ブータンシボリアゲハは1933年と1934年に英国人探検家(プラントハンター)のF. LudlowとG. Sheriff によってブータン東部のタシヤンツェ渓谷で採集され、1942年にA. G. Gabrielにより新種として記載された。この時のわずか5頭の標本が大英自然史博物館に所蔵されているが、その後に多くの採集家の努力にもかかわらず、再発見には至っていなかった。このチョウの謎めいた美しさから、「聖杯」や「ヒマラヤの貴婦人」と呼ばれ、チョウ愛好家のあこがれとなっていた。

おかりしました。
「ヒマラヤの貴婦人」とは、シェツン・ペマ・ワンチュク王妃ではなく、チョウである。しかしメンコイな。
このチョウが以前に発見された場所はブータンとインド・中国の3国が接する国境地帯である。

おかりしました。
東シナ海と同様、中国はひとのよい国ブータンの土地をかすめとろうと、人民解放軍の侵入を上図のように行っており、緊張が高い場所であったため外国人の立ち入りは厳しく制限されていた。
日本蝶類学会メンバーらが長い交渉を重ねた結果、発見から78年の歳月がたった2011年ついに調査の特別許可が下され、メンバーの調査隊6名とNHKのスタッフ3名の日本側計9名、ブータン政府農林省のメンバー5名からなる「ブータンシボリアゲハ共同学術調査隊」が結成された。

おかりしました。
そして、調査隊は見事ブータンシボリアゲハの生息地を発見、その様子はNHKスペシャルでも報道された。 採集した標本はしかし、希少動物を守るワシントン条約のため日本に持ち帰ることはできなかった。しかし、11月15日、国賓で日本を訪れたワンチュク国王夫妻が、来日に合わせて2頭のブータンシボリアゲハの標本を日本に持ってきてくれたのだ!

おかりしました。
その標本の額には
A GIFT FROM THE PEOPLE OF BHUTAN, 2011(ブータン国民からの贈り物)と書いてあった。 どうです、ブータンのことがとっても好きになったでしょう。
しかしである、関係者の落胆が翌年に生じる。 なんとこのブータンの至宝が
インドでも発見されてしまったのだ。
①がブータンでの産地、②がインドでの産地である。 おそらくこれらの間をつなぐ場所を精査すれば、新たな産地がみつかるだろう。
日本のチョウ関係者はおどろき、がっかりしたが、ブータン国王やその国民は上述のとおり寛大なので、チョウのためよかったねと考えるだろうことは言うまでもない。
「MINI原人昆虫記」関連ページ
Posted at 2016/11/16 18:51:10 | |
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