お付き合いのあるディーラーから連絡があり、CX-3 1.8D の試乗車が用意されたとのことで、早速行ってきました。
(CX-8 なんか新型 2.2D だったのに、試乗したのは大分経ってからでしたから、自分の興味の対象がどこかよくわかります)
SKYACTIV-D 1.8 について、今のところ一番詳しい記事はこれでしょう。
マツダ「CX-3」大幅改良のすべて クラスを超える大排気量化の意味とは
https://autoprove.net/mazda/cx-3/168432/3/
これが集大成
http://www.webcg.net/articles/-/38791
■ 高応答インジェクタの採用
2.2D と同じ第4世代ピエゾインジェクタ G4P が採用されました。
私はてっきり第4.5世代ソレノイドインジェクタ G4.5S が採用されると確信していましたが、どうも採用が見送られたようです。
急速多段燃焼を実現する上では、第4世代ソレノイドインジェクタ G4S では最小噴射インターバル 0.2ms のため性能不足ですが、G4.5S インジェクタでは 0.1ms が実現できる様ですので、急速多段燃焼に必要なインターバル 0.1ms は一応満足しています。
とは言え、エンジンに使われる部品は量産の数年前にはある程度決められますから、G4.5S は間に合わなかったのかもしれません。
また、G3P を採用した旧型 2.2D では、スペック 0.1ms に対して、実使用上の最小噴射インターバルは 0.2ms と余裕をもって使っていますから、スペックギリギリの G4.5S インジェクタは採用されなかったとも考えられます。
新型 2.2D と共通化することのメリットもありますから、G4P が採用されたのは、コスト面でも不利だとは限りません。
■ 適正な排気量の確保
確かにマツダは以前からダウンサイジングを否定し、排気量は少し大きめの方が良いと主張していました。ダウンサイジングを推し進めていた欧州メーカー各社も、WLTP や RDE などの試験ではダウンサイジングが不利だということで、排気量を大きくするにあたって、ライトサイジング(適切な排気量)という言葉を使い始めました。
そもそも、本質的にディーゼルは排気量が大きい方が色々な面で有利ですから、SKYACTIV-D の前身である MRZ-CD も 2.0L から 2.2L に排気量が拡大されています。
私は以前から SKYACTIV-D 1.5 はダウンサイジングターボを否定するマツダが(意図せずに)作ったダウンサイジングターボだ、と言ってきました。
というのも、排気量 1.5L は、デミオクラスならともかく、アクセラクラスには明らかに小さい訳です。
ガソリンエンジンの 15S であれば、まだ車重 1280kg ですが、15XD は 1360kg と 80kg も重いですからね。
排気量小さめ、それをターボで補うというコンセプトは、まさにダウンサイジングターボです。
日本では税金が 1.5L で区切りがあります。欧米なら 1.6L や 1.8L ですから、この SKYACTIV-D 1.5 は明らかに日本を意識して作られています。
日本を強く意識して作られたダウンサイジングターボエンジンを載せたアクセラに興味が強く湧いたということです。
こう書くと 1.5L は「不適切な排気量だったのか」
という馬鹿が現れますが、という人が現れますが、これは明らかに間違いです。
SKYACTIV-D 2.2 よりも小さなディーゼルエンジンを作らなければ、デミオや CX-3 にディーゼルエンジンは乗らなかったでしょう。また、日本の税制からいうと、2.2L は 2.5L枠ですから、一般家庭にとっては少し大きめです。
それでは、当時の技術で 1.8L や 2.0L のディーゼルエンジンを作ったら、今の SKYACTIV-D 1.8 よりも明らかに重くなったでしょう。1.8L は 1.5L よりも大きなターボを載せなければなりません。大口径の可変ジオメトリーターボのハウジング軽量化は新型 2.2D で実現した技術ですから、1.5D を開発した当時にはありません。
1.8L で設計したピストンやコンロッドやクランクは、1.5L で設計したものよりも、もっと重く大きくなっていたのも間違いありません。
結局、SKYACTIV-D 2.2 と重量がほとんど変わらない SKYACTIV-D 1.8 だったとしたら、何の意味もありません。
デミオや CX-3 に搭載できる、軽量小型のディーゼルエンジンを、当時の技術で実現するための最大公約数が、1.2L でもなく 1.8L でもなく、1.5L だったということです。
その SKYACTIV-D 1.5 があったから、それをベースに
「エンジン内部の部品、例えばピストン、コンロッド、クランクシャフトなど回転系のものを徹底的に軽量化して、重量増はほとんどありません」(CX-3 冨山道雄主査)という SKYACTIV-D 1.8 が実現したのです。
当時の技術では 1.5L が適切だった、しかし技術の進化とともに 1.5L エンジンのメリットを生かしたまま 1.8L エンジンを開発することができた、という流れは MRZ-CD 2.0 から 2.2 への排気量拡大と全く同じ流れです。
もちろん、このエンジンの軽量化は、最大トルクを小型車用 SKYACTIV-DRIVE の制限である 270Nm に抑えたことも大きいのは間違いありません。この制限は SKYACTIV-D 1.5 と同じで、最もトルクの出る領域ではターボを限界まで回さず、270Nm に抑えています。
もし SKYACTIV-D 1.8 にもっと出力(馬力)を与えるとしたら、270Nm の制限のある小型車用 SKYACTIV-DRIVE ではなく、SKYACTIV-D 2.2 と組み合わせて使われる 中型車用(medium) SKYACTIV-DRIVE を使わざる得なくなります。
新型デミオ用 小型SKYACTIV-DRIVEの開発
http://www.mazda.com/contentassets/12ad273b47684070bf6fd776ab3fbe22/files/2015_no005.pdf
小型車用 SKYACTIV-DRIVE は、より広いロックアップ領域を実現していますので、実用燃費の向上には有利ですし、エンジンの方もピストンやコンロッドやクランクなどの内部部品も出力に合わせて強化する、つまり重くする必要が生まれます。
そんな SKYACTIV-D 1.8 に意味があるのでしょうか。
■ 排気量拡大のメリット
この通り、1.8L への排気量拡大のメリットは、出力アップではありません。
SKYACTIV-D 1.8 は、あくまで D1.5 の後継と見るべきです。馬力が欲しければ SKYACTIV-D 2.2 を選ぶべきでしょう。
排気量拡大のメリットについて、記事では、
1) 排ガス規制
2) 実用燃費
の2つが挙げられています。
まず一つ目の排ガス規制。
例の VW ディーゼルゲート事件により、欧州の排ガス規制は、今までの台上試験だけではなく、路上走行テストを行なって計測する RDE (Real Drive Emission) 規制が始まっています。
2017 年 9 月から公道路上排ガス試験 RDE(Real Driving Emissions)の第 1 段階を開始
http://www.fourin.jp/pdf/info/multi/2030GlobalAutomotiveIndustry/sample01.pdf
「NOx(窒素酸化物)の排出量は、排気量の小さいエンジンほど早く立ち上がってきます(=より低負荷の状態からNOxの排出量が増える)。マツダではこのモデルから燃費表示をJC08からWLTCモードに変更しています。さらにRDEまで見たときに、NOxの立ち上がりを遅らせて高負荷まで使える状態でモードテストを走りきるためには、このくらいの排気量が必要でした。もちろん1.5リッターでも後処理装置を付ければクリアできると思いますが、マツダとしてはそれは“なし”でやりたかった。」(冨山主査)
SKYACTIV-D 1.5 では Euro 6 に後処理なしで対応できたが、その先の RDE 規制への対応を考えると、1.8L が必要ということですね。
次に2つ目の実用燃費です。
記事では、DPF の再生間隔の 50% 改善、再生時間半減で実用燃費が低減されていることが書かれています。
また記事では触れられていませんが、縦軸が燃料消費率、横軸がアクセル開度の比較グラフでは、ほぼ全域で SKYACTIV-D 1.5 よりも SKYACTIV-D 1.8 の方が低くなっています。(ディーラー営業資料参照)
つまり、DPF 再生間隔が長くなり、再生時間が半減したことで実用燃費が向上しているが、それだけが燃費改善の理由ではなく、同じ出力なら SKYACTIV-D 1.5 よりも D1.8 の方が燃料消費率が低いということです。
SKYACTIV-D 1.5 と同等の出力に抑えたことで、従来の 1.5D よりも部品が軽くなり、摺動抵抗も小さくなり、その重量減を排気量の拡大に使うことができ、さらには排気量の拡大で「燃費の美味しい部分」を使えるようになったということでしょう。
また、DPF再生間隔が 50% 改善しているということは、間違いなく PMの発生量も相応に改善されているということです。
SKYACTIV-D 1.5 のリコールであった排気バルブへの煤の堆積は、単純に PM の発生量だけの問題ではないですが、そういった問題が起こりにくくなった、つまり10分以下の走行の繰り返しなどに強くなったのは間違いありません。
では煤の発生量の低下は、排気量増加によって実現したのでしょうか。
1.8L への排気量拡大が主要因なら、旧型 1.5D に比べて旧型 2.2D がずっと再生間隔が長くなければなりませんし、新型 1.8D よりも 旧型 2.2D の方がずっと長くなければなりません。
しかし、マツダはそのようには示唆していませんし、そういった情報もありません。
また、新型 2.2D は旧型 2.2D に比べて、DPF再生間隔が長くなったという声も聞きます。
つまり、 SKYACTIV-D 1.8 での PM 発生量の低減は、「排気量拡大も有利に働いているはずだが、主要因は新世代インジェクターや低負荷時の噴射圧の向上などによる燃焼の改善にあるのだろう」と言えます。
ということで試乗の話に行き着く前に、こんなに長い記事になってしまいました。
新型 CX-3 に乗ってみてどうだったか、長くなったので明日以降の記事で書こうと思います。