検索してもあまり紹介されていないようなので、1年ほど前に公開されたマツダの特許をご紹介します。
特開2019-138203
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2019-138203/D7341AB319854B6CF9916CD2B344DCCE878E3EC400A034ED4EF0338D6AECFEB2/11/ja
【課題】過給ディーゼルエンジンの低負荷域で安定した予混合圧縮着火燃焼を行う。
【解決手段】過給ディーゼルエンジンは、電気エネルギーにより駆動されて吸気を過給する電動過給機(61)と、触媒(55a)よりも下流側の排気通路(50)と電動過給機(61)よりも上流側の吸気通路(30)とを連通するEGR通路(81)と、EGR通路(81)に設けられた開閉可能なEGR弁(83)とを備える。エンジンが低負荷域で運転されているときは、電動過給機(61)が駆動されて吸気が過給されるとともに、EGR弁(83)が開かれてEGR通路(81)を通じた排気ガスの還流が行われ、さらに、燃料の噴射終了から遅れて着火するような所定のタイミングで燃料噴射弁(15)から燃料が噴射される。
このような構造の現行エンジンはありませんから、これは新型直列6気筒エンジンに関する特許と見て間違いないでしょう。
それではこの特許から、新型直列6気筒ディーゼルエンジンに採用されるであろう技術を3つほど抜き出してみます。
■電動ターボ採用
【0001】
本発明は、電気エネルギーにより駆動される電動過給機が吸気通路に設けられた過給ディーゼルエンジンに関する。
ターボの問題の1つは、排気圧力が稼げない時は加給できない、加給できないから排気圧力が大きくならないという状況、つまりターボラグがあります。
そのため、SKYACTIV-D 2.2 は皆さんご存知の通り、大小2つのツインターボを採用しています。これは排気圧力が大きい時は大きなターボで加給し、排気圧力が稼げない、発進時や低速一定走行時などでは小さなターボで加給するというもの。
それでもターボラグは防げないので、新型 SKYACTIV-D 2.2 では小さいターボに VGR を採用し、より少ない排気圧力でも加給ができる様に改良しました。
(ちなみに SKYACTIV-D 1.5 は登場時から VGR ターボを採用しています)
しかし、大排気量になればなるほど、ターボでカバーしなければいけない領域は広くなります。
そこで排気圧力に頼らず加給ができる、電動ターボチャージャーを採用する模様です。
この流れは欧州他社でも同様です。
メルセデスAMG、電動ターボを次世代モデルに搭載…開発は最終段階に
https://response.jp/article/2020/06/22/335810.html
これにより、発進時からターボラグが少ない、反応の良いエンジンが期待できます。
更に言えば、電動ターボチャージャーで十分な加給を確保するために、現行の24V系のマイルドハイブリッドではなく 48V系が採用されることになるかと思います。
■低圧EGR(LP-EGR)採用
【0010】
また、前記のような電動過給機による過給に加えて、触媒を通過した後の排気ガスを吸気通路に還流する操作(以下、これを低圧EGRという)が実行されるので、この低圧EGRにより導入される比較的低温で不活性な排気ガス(低圧EGRガス)の作用により、燃料の噴射終了から着火までの時間(着火遅れ時間)を十分に確保することができ、この着火遅れ時間の間に燃料と吸気との混合を促進することができる。これにより、噴射された燃料を吸気と十分に混合した後に自着火、燃焼させる(言い換えると過早着火を回避する)ことができ、適正な予混合圧縮着火燃焼を実現することができる。
SKYACTIV-D 2.2 の EGR は、単純に燃焼した直後の排気ガスをそのまま吸気側に戻していました。
これはレスポンス良く排気ガスを吸気側に戻せるものの、
・高温な排気ガスを還流させるために、排気ガスを冷却する必要がある(クールドEGR)
・排気ガスが触媒を通過していないので、HC や PM(煤)などの不純物もそのまま含まれ、そのため比較的比重が重く空気(新気)と混じりにくい
・排気ガスを冷却した際に排気ガスに含まれる前述の不純物が凝縮してしまう
・排気ガスを還流させると、その下流にあるターボチャージャーの排気圧が少なくなってしまう
などの問題があります。
そのため、新型エンジンでは、低圧EGR(LP-EGR)が採用されるようです。
(ちなみに SKYACTIV-D 1.5 は登場時から低圧EGRを採用しています)
低圧EGRは、前述の高圧EGRと併用され、レスポンスが必要でない一定走行時などは、ターボより下流にある触媒を通した、綺麗で低温の排気ガスを吸気側に戻しています。
■水冷式インタークーラー採用
【0041】
インタークーラ38は、図外のウォーターポンプから導入される冷却水との熱交換により吸気を冷却する水冷式の熱交換器である。過給装置60により圧縮されて昇温した吸気は、このインタークーラ38内を流通する冷却水との熱交換により冷却される。なお、インタークーラ38に導入される冷却水は、エンジンの冷却水が循環する冷却水回路とは独立した回路を介して導入される。また、インタークーラ用の冷却水回路にはラジエータが設けられており、このラジエータからの放熱により冷却水の温度が外気温と同等に維持されるようになっている。
SKYACTIV-D 2.2 でもインタークーラーが採用されていますが、こちらは空冷式インタークーラーでした。新型エンジンでは水冷式のインタークーラーが採用されるようです。
(ちなみに SKYACTIV-D 1.5 は登場時から水冷式インタークーラーを採用しています)
別体型の水冷式インタークーラーを採用するということは、過給ターボチャージャーによって昇温された熱量が大きいということを示します。
ということは、現行エンジンよりも大排気量であったり、出力が高かったり、そういった性能面も推測できます。
■そもそもどんな特許なの?
過給ディーゼルエンジンの低負荷域で安定した予混合圧縮着火燃焼を行う、という特許です。
予混合圧縮着火燃焼(PCCI)とは、燃料と空気をよく混合したうえで低温燃焼させ、PMもNOxも排出させない燃焼のことを言います。
予混合圧縮着火燃焼について、こちらに良い記事があったので、紹介します。
内燃機関超基礎講座 | ディーゼルエンジンからNOx/PMが排出される仕組み
https://motor-fan.jp/tech/10015526
もう少し詳しい記事はこちら
SKYACTIV-D はどうやって煤(スス)を減らしたのか
https://minkara.carview.co.jp/userid/2738704/blog/39276240/
どんな状況でも理想的な予混合圧縮着火燃焼ができればいいのですが、発進時や軽負荷時からの加速時などは、排気圧力が少ないので、ターボが勢いよく回ってくれません(発進時は排気がアイドリング程度しかないのですから当たり前ですね)。
そうなると、加速のために燃料をどんどん燃やそうとしても、ターボが空気(新気)を入れてくれないので、燃料を増やせません。
これがターボラグです。
燃料と空気を十分に混合できないので、加速時に煤が多く発生したり、NOxが多く出たり、という状況になるのです。
電動ターボチャージャーを使うとターボラグを低減するだけではなく、幅広い領域で予混合圧縮着火燃焼ができ、PM(煤)や NOx の発生を、より低減することができます。
運転状況に合わせてどのように電動ターボチャージャーを使うと良いのか、そういったことがこの特許には書かれています。
■そのほかの特許
前述の電動ターボチャージャーについては、もう少し具体的な形状まで特許登録されています。
特開2019-138245
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2019-138245/1081A5E555A13E01947D80034696198DBBEEB03089D06071C7D7214C1E8F5425/11/ja
【課題】電動過給機及びインタークーラが配設される吸気系を備えたエンジンにおいて、前記吸気系のコンパクト化を図る。
また、水冷インタークーラーの構造や機能についても特許登録されています。
特開2019-138155
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2019-138155/19BA273EA84CACABA3DE63D77BF7C4A54F3E62229FED4038FD6427A0D09250C4/11/ja
【課題】吸気構造をコンパクト化しつつ電動過給機およびインタークーラへの通過/非通過が異なる多様な吸気流れを形成する。
更に、冷却性能の高いインタークーラーで問題となる凝縮水の対処についても特許登録されています。
特開2019-138244
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2019-138244/936B75A1B3BDD9F6E6CA3F490970C446C61D0B40BB0E3A4F999B012A68B2DFE7/11/ja
【課題】ターボ過給機及び電動過給機と、吸気を冷却するインタークーラとを備えた過給機付きエンジンにおいて、インタークーラにて発生する凝縮水を適切に処理する。
このほかにもディーゼルエンジンの燃焼など、多くの特許登録が行われています。
特開2020-002861
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2020-002861/13E3594280217BEAE92BCDBE89B46F9E9E9448A7868C3552D558C611B7D03308/11/ja
【課題】キャビティを有する冠面で一部が区画される燃焼室内の空気を有効活用し、均質で薄い混合気を形成し、煤などの発生を可及的に抑制する。
■新型直列6気筒ディーゼルエンジンの設計はかなり具体的に進んでいる
以上の特許情報から、直列6気筒(と言われる)新型エンジンの設計は、かなり具体的に進んでいるのではないかと思われます。
これがいつリリースされるか、またこれらの特許がそのまま採用されるかはわかりませんが、どんなエンジンになるか楽しみです。