■コスト的に素晴らしいSKYACTIV-G
東京や大阪での Mazda3 のお披露目も終わり、セールスマニュアルもディーラーに配布されている様で、SKYACTIV-X の情報がだいぶ出回ってきました。
しかし、Mazda3 に搭載されるであろう SKYACTIV-X 2.0 は、電動化+スーパーチャージャーが搭載され、明らかに通常の 2L エンジンよりもコストが高くなるであろうことは目に見えてわかります。
Cセグメントの上級車としてなら、それでもまだ許容されるかもしれませんが、デミオなどの Bセグメントに搭載される場合、電動化やスーパーチャージャーなどコストは市場に許容されるのでしょうか。
SKYACTIV-G が素晴らしいのはこの点でした。
従来のエンジンと比べてコストがかかるのは電動VCTと4-2-1排気管だけ。
これに対してダウンサイジングターボでは、ターボチャージャーにインタークーラーやその配管、そして排気量よりも強化されたエンジンブロック、ピストン、コンロッドなどが必要になります。
それでもデミオの一般グレードに SKYACTIV-G 1.5 が搭載された時は、4-2-1排気管を搭載せず、それにともない圧縮比も12に抑えられています。
■SKYACTIV-X はコスト高
さて、SKYACTIV-X が他社の同クラスのエンジンよりも技術的にアドバンテージがあるうちは、上級車専用エンジンとしてコストを販売価格に反映できますが、将来的に SKYACTIV-X が陳腐化してた時に、その余分なコストはどうするのでしょうか。
まず、大前提ですが、SKYACTIV-X という技術そのものに電動化が必須とは思えません。
コストをかけたくないのであれば、電動化を廃して安くすればよく、逆に他社も電動化を進めるのであれば、同様に電動化を進めればいいだけで、この部分については市場動向に従えば良いだけだと思います。
簡単に言えば、デミオに安く載せるなら電動化を省けば良いだろうということです。
問題はスーパーチャージャーのコストです。
SKYACTIV-X に搭載されるスーパーチャージャーを、マツダは高応答エアー供給機と呼んでいます。単純に馬力やトルクを得る従来の使い方ではなく、SPCCI 燃焼を実現するために、排気量よりも多めに空気を押し込んでやるためのものだとマツダは説明しています。
となると、素早い応答速度と指示通りの加給が必要ですから、排気まかせのターボチャージャーではなく、スーパーチャージャーを採用したのでしょう。大きな過給圧も必要ないと思いますが、それでもコストは無視できません。
■排気量はコストフリーの過給器
排気量よりも多めに空気を押し込んでやるためにスーパーチャージャーを採用したと書きましたが、もっと簡単な方法があります。
そうです、排気量を大きくすることです。

(
SKYACTIV 開発と今後の展望より抜粋)
これは2015年の資料で、NOx がほぼゼロの領域である A/F λ=2.2 より上の領域を使うには、ターボチャージャーによる大排気量化よりも、エンジンの排気量そのものを増やすべきだと話なのですが、これは同様のことが SPCCI 燃焼でも言えます。
重要なのは「排気量はコストフリーの過給器」という文言です。
SKYACTIV-X もそうですが、SKYACTIV-G でも、これらの技術の真骨頂は、中負荷域での燃費の向上です。

(
SKYACTIVエンジン開発より抜粋)
2014年のちょっと古い資料ですが、SKYACTIV-G の前の世代のエンジンである Mazda 2L PFI、SKYACTIV-G、そして当時開発中であった SKYACTIV-G2、つまり SKYACTIV-X の燃料消費率(BSFC)の図です。
3つのエンジン(よく見れば競合他社も)が掲載されているので紹介しますが、見てわかる通り、どのエンジンも燃料消費率が低い、つまり美味しい領域は中負荷であることがわかります。高負荷になると燃費が悪くなるのです。
端的に言えば、2.0L エンジンを 2.0L エンジンとして高負荷まで使うのではなく、2.5L エンジンを 2.0L エンジンとして中負荷まで限定して使うと、より効率(燃費)が良くなるのです。
(重い車に小さな排気量のエンジンを載せると燃費が悪くなる理由はここにあります。)

(マツダ SKYACTIV-X 技術発表資料)
上記資料の通り、SKYACTIV-X ではエアサプライ、つまりスーパーチャージャーによる余剰空気の供給は、燃やす燃料が多くなる(=リーン燃焼させようとすると空気がもっと必要になる)高負荷領域で必要になります。
であれば、そもそも高負荷領域を使わないエンジン、つまり 2.5L の排気量で 2.0L の出力しか得られない代わりに、軽量でフリクションの少ないエンジンを作ればいいのです。
しかし、営業面(商品性)を考えた場合に、家庭で絶対的な権限を持つ財務省の奥様は、2.5L エンジンを過剰と考えて 1.5L +10000円の税金を気にするでしょうし、技術に詳しくない旦那様は、「なんだよ、2.5L エンジンのくせに非力じゃないか」と言い出すのは目に見えています。
2.5L の排気量で 2.0L の出力しか得られないエンジンを一発目に出したら、世間からは「SKYACTIV-X は2.5L も排気量があるのに 2.0L 程度の性能しかないダメエンジン」と誤解されるのは目に見えています。
■もっと排気量を増やしたかった。
SKYACTIV エンジンの生みの親、マツダの人見光夫常務執行役員・シニア技術開発フェロー(長い!)は、日経オートモーティブ誌(2019年1月号)のインタビューで下記の様に答えています。
ーSKYACTIV-X の排気量は 2.0L にとどめており、アップサイジングしませんでした。
いやあ、2.0L のカベというものがありまして。排気量を大きくしたいんですけど……。
(中略)
開発部門としては、営業部門がクルマを売るのに邪魔になることはできません。
(中略)
心情的というか、不文律というか、もう技術最適や理屈じゃないんです。2.2L じゃダメなんです。2.0L を区切りに税額も増えますし。
ーもっと排気量を増やしたかった。
排気量を増やすと、リーンバーン領域を簡単に広げられるわけですよ。
排気量を増やすだけならタダみたいなもの。タダで燃費を良くできるわけで、もうちょっと大きくしたいという思いはありますね。
■SKYACTIV-X 1.5 は本当に 1500cc になるのか?
では SKYACTIV-X 1.5 はどうなるのか、コストを下げるために 2.0L クラスのエンジンブロックを排気量を落とさずに徹底的に軽量化し、ターボチャージャーを排するのもあり得るのではないかと想像しています。
家庭で絶対的な権限を持つ財務省の奥様も、2.0L クラスの排気量で 1.5L +5000円の税金なら少しの贅沢と見逃してくれるかもしれませんし、現実的な奥様にも「税金の5000円分はガソリン代で取り戻せます」と説得できます。また、技術に詳しくない旦那様も、馬力やトルクを気にする人は 2.0X や 2.2D 搭載車に流れ、1.5X ではさほど気にしないのではないかと思います。
高性能で 2.0L 本来のトルクや出力を上回る SKYACTIV-X 2.0 と、トルクや出力は 1.5L 程度しか得られない代わりに軽量で小型で低コストな SKYACTIV-X 2.0 が生まれたら面白いですよね。
実は、これと似ているのが SKYACTIV-D 2.2 と SKYACTIV-D 1.8 の関係です。
SKYACTIV-D 1.5 では JC08 や NEDC よりも負荷の高い RDE 試験を行うと基準を超えてしまうために、D1.5 と同じ重さ、ほぼ同じ出力のまま 1.8L に大排気量化されました。
つまり、SKYACTIV-D 1.8 は、1.8L の排気量で 1.5L の出力しか得られない代わりに、本来の 1.8L よりも軽量でフリクションの少ないエンジンなのです。
SKYACTIV-D 1.5 は、なぜ 1.8 になったのか
https://minkara.carview.co.jp/userid/2738704/blog/41676325/
CX-3担当主査 冨山道雄さんも、SKYACTIV-D 1.8 について「税金の5000円分はガソリン代で取り戻せます」としています。
もしかしたら SKYACTIV-X 2.0 と SKYACTIV-X 1.5 の関係は、高い性能を目指してコストをかけている SKYACTIV-D 2.2 と、実用的に十分な性能と低い燃費と低コストを目指した SKYACTIV-D 1.8 と同じ関係になるかもしれません。
あくまで想像の話ですが、もしかしたらそうなるかもと妄想して、楽しみにしていたいと思います。
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Posted at
2019/02/28 16:56:37