以前記事に少し書きましたが、インジェクターの燃料噴射量補正は、ディーラーで行われる燃料噴射量補正のほか、走行中には自動学習もされています。
エンジンも十分に温まっていて、エアコンもつけておらず、もちろんDPF再生中でもないのに、なぜか i-stop が効かないことがありますが、その時にも噴射量の補正をしているようです。
SKYACTIV-D 2.2 のインジェクターはデンソーの第3世代 G3P(ピエゾインジェクター)が採用されています。
これらの第3世代のインジェクターは、第2世代からどの様に進化しているか、自動車技術会の資料から抜粋します。

(注:SKYACTIV-D 2.2 用の G3P は 0.1msec です)
この中で、燃料噴射量補正に関する記述もありました。

(公益社団法人自動車技術会
ディーゼルコモンレールシステム より抜粋)
なぜこんなに複雑なことをしているかというと、インジェクターが高圧になればなるほど、インジェクターの個体差や経年変化による、ほんの少しのタイミングのズレが燃料噴射量に大きく影響することになり、理想の燃焼が得られなくなるからです。
第2世代インジェクターと比較して、第3世代インジェクターは、燃費、出力、排ガス性能が向上していることが前述の資料にも記載されていますが、その中から、低中速時におけるNOx排出量を示すグラフを抜粋します。
第2世代インジェクターに対し,第3世代インジェクターは NOx を約30%低減することを確認したとのこと。(グラフだけではわかりませんが)
ですが、このグラフをよく見ると、第3世代インジェクター自体は、Euro5 をターゲットに開発されているのがわかります。
このインジェクターを使って、燃焼の改善だけで Euro6 をクリアした SKYACTIV-D は、マツダの技術力の賜物と言っていいでしょう。(もし興味があれば「
SKYACTIV-D はどうやって煤(スス)を減らしたのか」もどうぞ)
そして現在、デンソーからは第4世代のインジェクターが出荷されています。デンソーはこれが Euro6 をターゲットにしたインジェクターだとしています。

(デンソー:
ディーゼルエンジン制御システム より抜粋)
この第4世代インジェクターは、次世代の SKYACTIV-D にも採用されるのではないかと思っていますが、第3世代から何が進化したのでしょうか。
こちらには 2012年にデンソーが第4世代インジェクターを発表した際の記事があります。
人とくるまのテクノロジー展2012:「世界最高圧」のコモンレール、デンソーが2013年発売のディーゼル車に納入へ
これらによると、第4世代インジェクターの大きな特徴は、
◯燃料噴射圧を 200MPa(2000気圧)から 250MPa(2500気圧)に高圧化
◯圧力センサをインジェクタに内蔵し、 高精度に噴射量を制御
となります。
燃料噴射圧は高ければ高いほど、燃料の粒子が細かくなり、酸素と燃料がよく混ぜ合わさるために、NOx や煤の発生が低減され、燃費もよくなります。そのため、第1世代から、世代を重ねるごとに高圧化され、第4世代では 250MPa にもなりました。
しかし、デンソーとして高圧化競争にも限界があると考えている様で、燃料噴射量の高精度化にも踏み込んだ様です。
残念ながら、上記の資料では「従来は1つだった圧力センサーを、それぞれのインジェクタに内蔵することで何がどう良くなったか」がわかりません。
その点が少し詳しく説明されているのが「
愛知発明対象:株式会社デンソー 高精度燃料噴射フィードバック制御装置」です。
これによると、従来の第3世代インジェクターでは
◯補償できる精度は最も良い条件で±0.5mm3 程度
◯マルチ噴射時に各段の噴射量を補償することは困難
であったとのこと。
最も良い条件というのがよくわかりませんが、仮に燃料噴射量 1mm3 (0.001cc)を指示しても 0.00075cc 〜 0.00125cc 以上にばらつく可能性があるということですね。(誤差25%)
しかも燃料噴射量補正も、エンジン回転数の変動や、O2センサーという「おおざっぱな」補正のため、1回の燃焼で複数回噴射した時の、1回あたりの噴射量までは補正できないということ。
これに対して、第4世代では、
①インジェクタの内部に圧力センサを搭載し、燃料噴射中の燃料圧力変化を高速検出する
②上記圧力波形から実際の噴射量、噴射開始時期等を常時検出する
③上記結果から、実際の噴射量、タイミングが、所望の値となるよう、噴射指令を修正する
とすることによって、
◯本噴射装置の噴射精度は大幅に向上し、±0.2 mm 3(32MPa、単段時)という従来にない高精度噴射装置が実現
◯マルチ噴射時も各段の噴射量を補正することが可能
という点が大きな改善点になります。
つまり、燃料噴射量 1mm3 (0.001cc)を指示してた場合でも 0.00096cc 〜 0.00104cc 程度しかばらつかないということです。(誤差4%)
上の図は、1mm3(0.001cc)の噴射量をターゲットにしても、第3世代インジェクターでは、水色の領域(Conventional)の噴射量のばらつきが生じることで騒音や煤の発生が増加するのに対して、第4世代インジェクターでは赤色の領域(i-ART)程度のばらつきに抑えられるというものです。
その結果、
◯ NOx、スモークの排出ばらつきを半減
◯ 燃費 2%〜5% 向上
◯ エンジンの騒音を 4dB 低減
とのこと。
HCCI を採用するといわれる次世代の SKYACTIV-G も楽しみですが、これらの最新技術を採用するであろう、次世代の SKYACTIV-D も楽しみですね。
Posted at 2017/03/24 20:36:04 | |
トラックバック(0) |
車 | クルマ