前回の記事「
SKYACTIV の将来」の続きです。
前回は、マツダの人見光夫常務取締役のプレゼンテーション資料から資料を抜粋して、
①3気筒1L や 4気筒1.4L 過給ダウンサイジングは、軽負荷のみ 2L SKYACTIV に勝る
②4気筒1.4L でも採用されている気筒休止を採用すれば、軽負荷も中高負荷も SKYACTIV が勝てる
というマツダの意気込みを紹介しました。
しかし現実に 4気筒1.4L過給ダウンサイジング、はっきり言えば VW(フォルクスワーゲン) Golf 1.4 TSI BMT DSG と Mazda 3 (日本名アクセラ) SKYACTIV-G 2.0 の燃費はどの程度違うのか、比較してみたいと思います。
VW Golf 1.4 TSM BMT DSG (7AT) の欧州NEDC での燃費は 19.2km/L〜20.0km/L(欧州複合モード)となっています。
対する
Mazda 3 SKYACTIV-G 2.0 6AT は 17.9km/L ですから、VW Golf 1.4 の方がカタログ燃費がいいというのはわかります。
では、日本の JC08モードではどうでしょうか。
VW Golf 1.4 TSM Highline(Connect)(7AT DSG) の JC08 は 19.9km/L ですから、欧州NEDC とほぼ同等です。
対して アクセラスポーツ SKYACTIV-G 2.0 6AT の JC08 は 19.0km/L ですから、欧州NEDC と比較すると 1.1km/L も良くなっています。
日本の JC08モードでは、1.4L 過給ダウンサイジングと SKYACTIV-G 2.0 に大きな違いはなく、少しVW Golf 1.4 の方が良い程度というのがわかります。
それでは実燃費はどうなのか、人見氏のプレゼンテーション資料では ドイツの ACAD eco test の結果を実燃費としていましたが、日本なので e燃費で比較してみましょう。
まずは VW Golf 1.4L TSI BMT DSG (7AT)ですが、
実燃費は 13.99km/L です。
対して アクセラスポーツ SKYACTIV-G 2.0 AT ですが、
実燃費は 13.59km/L ですから、JC08 よりも更に差は詰まって、1.4L 過給ダウンサイジングとほぼ同等の実燃費が、2.0L NA エンジンで得られているということになります。
結論としては、欧州NEDCでは過給ダウンサイジングの方が燃費がいいが、実燃費は同等ということ。
このように燃費が同等ならば、
○ ターボの過給圧に合わせた強化ピストン、コンロッド、クランクシャフト、ブロック、ヘッド
○ ターボチャージャー本体
○ インタークーラーおよび配管
が必要な過給ダウンサイジングよりも、
○ 電動VCT
○ 4-2-1 排気管
しか必要としない(=コストが安い) SKYACTIV-G の方が有利だという人見氏の主張もある程度、理解できます。
フォルクスワーゲンは「Volkswagen Eco Drive Handbook」という小雑誌で
『 JC08モードと比較すると、NEDCの走行パターンは速度が高く、市街地モードでの停止回数も多いなどより現実に近い内容で、測定はエンジンが冷えた状態から行います。 ドイツ生まれのフォルクスワーゲン車は、このNEDCを念頭に置いて設計されているため、実際の走行でもすぐれた燃費性能が発揮できるのです。』
としています。
しかし、この通り、欧州NEDCでは燃費のいい VW Golf 1.4 TSI BMT DSG も、実燃費となると SKYACTIV-G 2.0 と同等です。
欧州NEDC の走行モードは最高速約 50km/h の市街地走行を4回繰り返し、最高速約120km/h(低出力車は約90km/h) の高速走行を1回行うものです。
対して JC08 は単なる返し走行ではなく、最初は最高速度 60km で信号に止まりながら走り、その後スムースに流れた郊外路、次に最高速度 30km/h の渋滞があり、最後に最高速度約80km/h で高速を走るというものです。
欧州NEDC は平均速度は高いですが、渋滞も想定していませんし、速度も低いJC08 の方が、燃費には厳しいとも言えます。(実際に日本の道路事情は平均速度は低い)
そもそも不正を行ったフォルクスワーゲンが何を言うかというのもありますが、現実に JC08 や実燃費では同等であるという現状を見る限り、必ずしも過給ダウンサイジングが SKYACTIV-G よりも燃費に良い技術とは言えませんし、SKYACTIV-G に気筒停止(=低負荷時の燃費対策)が装備されれば、SKYACTIV-G が実燃費で勝てる、とする人見氏の主張にも説得力があります。
人見氏に言わせれば、「排気量はコストフリーの過給器」であり、(ガソリンエンジンに)過給器を付けるなら、NA で排気量を増やすべき、それが合理的な解決策なのに、旧態依然の税制がそれを妨げている、ということになります。
知っている方もいると思いますが、欧州では車の出力(馬力)によって年間の保険料が変わります。
Mazda3 も、120馬力のグレードと、165馬力のグレードの2グレードが用意されていますが、聞くところによると、120馬力のグレードに比べて、165馬力のグレードは、4倍以上の保険料の開きがあるそうです。
VW Golf 1.4TSI BMT も同様に、110馬力、125馬力、150馬力の3つのグレードが用意されています。
その上、税金も 200cc ごとに細かく区分されているので、2.0L NA(自然吸気)よりも 1.4L ターボの方が年間維持費が安くなります。
欧州で馬力は無いが低速トルクがある、ディーゼル(ターボ)車や小排気量ガソリンターボ車が好まれるのは、単に環境意識が高いからではなく、長距離の走りやすさ(トルク)を確保した上で、年間維持費(保険料+税金+燃費)も低く抑えたいという経済的要求も大きいためだと思います。
日本は排気量も 500cc という荒い区分で、馬力による保険料の違いはありませんが、いっそのこと、排気量別の税金徴収は廃止し、重量+燃費+出力の組み合わせで区分するというのもいいのではないかと思ったりしますが、どうでしょうか。
もしそうなったら、アクセラも SKYACTIV-G 2.5 と SKYACTIV-D 2.2 の2本立てのみ、あとは電子的に出力が制限されたいくつかのグレードが用意される感じになるかもしれませんね。(重量増が気になりますが)
さて、以前に「
アクセラ15XDを選ぶ理由(1)」で書いたのですが、アクセラ 15XD に関しては、この過給ダウンサイジングをディーゼルエンジンで実現した感があります。
人見氏の発表は、排気量の大きなガソリンエンジンを気筒休止によって低負荷時の燃料消費率を改善するというアイディアでしたが、小排気量ディーゼルエンジンは、
◎低負荷時は小排気量エンジンのメリットを生かせる
◎コスト以前にディーゼルエンジンには過給器(ターボ)は必須
◎ディーゼルエンジンは過給器(ターボ)付きでも圧縮比を高くできる
つまり、意図したものかどうかは分かりませんが、ガソリンエンジン車における過給ダウンサイジングのデメリットを、ディーゼルエンジン(SKYACTIV-D)の採用によって解消したものに見えるところがとても面白いですね。
Posted at 2017/04/01 01:15:32 | |
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