
18歳の夏の日
「ストリーキング」をご存知だろうか。
ストリーキングとは、公衆の面前を全裸で駆け抜ける行為である。
語源のstreakには「素早く真っ直ぐに閃光のように動く」という意味がある。
つまりスピードが重要で、全力で駆け抜けなければならない。多少行為者の羞恥心もあるのかもしれない。
突然現れて見た者を驚かせ、気づいた時には煙のように消えている。それがストリーキングである。
Wikipediaによると、ストリーキングは、「注目を集めるため、あるいは強い非難の意思を表わすために公共の場を全裸で走り抜ける行為で、露出狂とは区別される」とある。
1973年ごろから流行の兆しを見せ始め、1974年に入るとアメリカの大学生の間で広まりを見せた。
高校三年の夏、突然友人の竜ニ(仮名、現在IT関係の営業部長)が、「俺ストリーキングをやりたい」と言い出した。
気持ちはよくわかる。
彼は自宅を離れて青春時代を過ごしたこの地に、確かな生きた痕跡を残したかったのである。
当初は安直な計画であった。
ホテルのトイレで全裸になり、コートを羽織って外に出て脱いで走る。走り終わったら、手に持った紙袋に入れたコートを着て立ち去る、というものだった。
しかし竜ニは怖くなった。
友人に警告されたからである。
「お前、万一警察にでも捕まったら、卒業を目前にして退学になるぞ」
そこでプロジェクトチームを編成し、一から計画を見直すことになった。
するとどこから聞きつけたのか、自分と同じ下宿だった卓男(仮名、現在医師)が「俺もやりたい」と言い出した。
自分は思った。
「こいつら、よっぽど一物に自信があるんだな」
計画は精緻を極めた。
当日の集合場所、配置と役割、時間とコース。
脱いだ服を預かる係、コースを監視する係、特に警官が居ないか確認することが重要だ。
スタートの合図をする係、コースの終わりでコートを着せる係、タクシーを止めて逃走を助ける係、記録係などなど。
決行は日曜日の昼下がり、場所はもちろん県で最大の繁華街にあるメインのアーケード通りだ。
ストリーキングは見る者が居て初めて成立する。できれば女子高生が嬌声でもあげてくれれば完璧である。
全て終われば、落ち延びて集合場所のジャズ喫茶にそれぞれ向かうことになった。
決行当日になった。
配置につく前に全員で時計を合わせた。
自分はゴール地点で待ち受けて、コートを渡す係だった。
始まった。
自分は見た。
二人がジョギングよりずっと遅い速度で蛇行しながら、こちらへゆっくり走って来る。
卓男などは手を揺らしながら「ハイ、ハイ、ハイ」と奇声を上げていた。
ソーセージが揺れている。
「コ、コレは!?」
自分は思った。
「これはストリーキングじゃない!」
「これじゃまるで単なる◯出狂か◯質者だ」
「う〜ん、羞恥心が無いんだな」
ゴール地点でコートを渡して、二人を逃走係に引き継ぐと、後ろから見知らぬ通行人に声をかけられた。
「ご苦労さん」
後日、記録係の写真部のノリ男(仮名、現在歯科医)が、自慢のペンタックスの一眼レフで撮影し、写真部の暗室で現像した写真を見た。
それは、わざとシャッタースピードを遅くして流れるような動きをとらえた見事な写真だった。
さらに自分が一番感銘を受けた写真は、アーケード街を遠景から写した写真だった。
手前から奥までアーケードが続いており、よく見ると通行人が何人も振り返って後ろの奥を見ている。
更に目を凝らして見ると、アーケードの一番奥に豆粒くらいの大きさで、走る二人の白いお尻が写っていた。
なかなか良い写真だった。
この行為は警察はもちろん、学校にもバレずに仲間だけの秘密になり、穏便に終わった。
でも後で事前に地元TV局か新聞社に匿名で犯行予告しておけばよかったかな、とちらっと思った。
果たして記事になっただろうか?
(実話です🤣)
Posted at 2023/10/04 14:21:26 | |
トラックバック(0)