
2090年人類はついに宇宙に知的生命体を発見した。
地球以外に高度な知性を持つ生命体が存在する星を見つけたのだ。いや正確に言うと向こうから人類にコンタクトしてきたのだ。
地球は環境破壊が進み大気が汚染され、200年後には生物が住めなくなるという危機にあった。
しかし知的生命体は汚染された地球の大気をきれいにする装置を持っていて、取りに行ったらくれるというのだ。
まるでどこかで観たアニメのような話だ。
優秀な宇宙飛行士である僕はこのミッションに志願した。
目的の星は非常に遠い。
最新型のロケットでも片道100年近くかかる距離だ。
地球が滅亡する前になんとか帰れるかどうかギリギリのタイミングだった。
僕は現在28歳。
普通なら到着する前に寿命が尽きて死んでしまうほどの年月だが、現在は「コールドスリープ」という技術が開発されている。
ロケットが飛行中に乗組員はカプセルに入って低温下でいわば冬眠する。
コールドスリープ中は代謝がぎりぎりまで低下して寝ている間は老化しないという技術だ。
計算では往復しても二、三歳しか歳をとらないことになっている。
しかし待っている地球はそうではない。
僕が帰還する200年後には知り合いは全員死んでいるだろう。
つまり一緒にミッションに参加する仲間以外は全く知らない人たちのところへ帰ることになる。映画では知らない人どころか地球は猿の星になっていた。
でも誰かがいかないと人類は滅亡するのだ。
僕は恋人のMに別れを告げた。
ミッションが成功しても失敗してももう二度と会えないのだ。
Mは泣きながらも気丈に見送ってくれた。
目覚めた時にはロケットはすでに着陸態勢に入っていた。
僕は初めて未知の知的生命体とコンタクトした人類の一人になった。
地球が救われればきっと歴史の教科書に載るだろう。
この星と生命体は人類より遥かに科学が進歩していた。
いろいろ教えてもらったが全然理解できず、浄化装置の使用方法を覚えるのが精いっぱいだった。
さあ帰還というときになって問題が発生した。
往路で長期間酷使してきたコールドスリープ装置が故障したのだ。
このままでは帰れない。
この星ではもう数千年前にこのような装置は使われなくなり不要になったので修理できないと言われた。どうも彼らには原始的すぎるようだ。
困っていると彼らは僕らに宇宙船を貸してくれると申し出てくれた。
操縦は自動で可能だという。
しかも光速の何倍ものスピードが出るので時間を逆進することができるらしい。
つまり僕らが地球を出発した2090年あたりに戻ることができるというのだ。
当然コールドスリープの装置は要らない。
僕らは大喜びした。僕もMにまた会えるのだ。
宇宙船を「ドラゴン・パレス」と名付けてかっこいい龍の絵を描いた。
そして喜び勇んで僕らは出発した。
どのくらいの時間旅をしたのかは全くわからない、
なんせ時間を飛び越えているのだ。
地球が見えてきた。
僕らが運んできた浄化装置のおかげで人類は滅亡を免れたのだ。
基地に着陸したのは僕らが出発した時間の丁度1時間後の時間だった。
僕らを見送った人たちがまた集まってきてかたずを飲んでいる。
きっと彼らには僕らがあっという間に戻って来たように見えるだろう。
窓からMの姿が見えた。若くてきれいなままだ。
ついに宇宙船の扉が開いた。
なぜか白い煙に包まれ一瞬周りが見えなくなった。
外に出るとみんなから歓声があがった。
万歳をしている者もいる。ついに僕らはやったのだ。
僕らは宇宙服のヘルメットを取ろうとした。
しかしなぜか力が入らない。
立っているのもやっとだ。
スタッフの助けを借りて僕らがヘルメットを取ると、皆の歓声は沈黙に変わった。
Mも驚いた顔で僕の方を見ている。
どうしたのだろうと思ったら、もう立っていられなかった。
手袋を取った僕の手は皺だらけだった。
人類の体は時間を切り裂く宇宙船の航行に耐えられなかったのだ。僕はまだ30歳前なのに肉体は100歳くらいに老化していた。
この宇宙船で最初から浄化装置を向こうが届けてくれればよかったのに、と僕は思った。
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#浦島太郎
Posted at 2020/10/28 09:26:01 | |
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