YanadaSのブログ一覧

僕は超能力者だ。
超能力といっても僕のはテレパシーでも瞬間移動でもスプーン曲げでもない。
そんな超能力はありふれているけど僕のはもっとレアだ。
僕の超能力は「巻き戻し」だ。

この力を使えば10秒だけ過去に戻れるのだ。
例えば道を歩いていて走ってきた自動車が水たまりの水を跳ね上げて泥水をかけられたとしよう。
そこで「巻き戻し」を使って10秒前の過去に戻れば水をよけることができるのだ。

例えば野球をやっていてピッチャーが投げたのがストレートだと思ってバットを振ったらフォークボールで空振りをしたとしよう。
そこで「巻き戻し」を使って10秒前の過去に戻ればボールを打ち返すことができるのだ。

すごいだろう？
大したことない？
いやいや拳銃で撃たれても巻き戻せば命が助かるのだからすごい能力なのだ。


今朝も駅前で男にぶつかられて転倒した女の人を巻き戻しで救った。
突き飛ばされる直前に手を引いてあげてぶつからないようにしてあげたのだ。もっとも手を引かれた女の人は僕のことを痴漢のような目で見たけど、よいことをすると気持ちがいいので気にしない。
僕は陰のスーパーヒーローなのだ。

お昼休みには自転車とぶつかった老人を助けてあげた。
今日はもう2回も人助けをしたのだ。

仕事が終わりさて家に帰ろうと横断歩道を渡っていると目の前の小さな女の子が転んで泣き出した。
親は近くにいないのかな？
信号がもうすでに点滅していて危ないので今日の最後の仕事として女の子を転ぶ前に助けて歩道へ置いてあげた。ほっとしているとすでに信号が変わり、僕はまだ車道にいた。
そこへすごいスピードで大型ワゴンが突っ込んできたのだ。
まずい、ぶつかってしまう。

説明するのを忘れていたけど「巻き戻し」が使えるのは1日３回までなのだ。

だめじゃん。

#ショートショート
#澤登 正朗

俺たちは野菜戦隊ベジレンジャーだ。
地球の平和を守るために変身していつも悪い怪人たちと戦っている。

メンバーは5人だ。
力が強いポテレンジャー
足が速いカブレンジャー
匂い攻撃が得意なパクチレンジャー
紅一点はキャロレンジャー
そして俺がキャプテンだ。

今回の敵はカマキリ怪人だった。
腕に三徳包丁のようなデカい刃物がついている。
危険な怪人だ。
でも放送が終了する30分以内に倒さなければならない。
CMを除けば24分しかないのだ。

例によってまずは「イー！」と言いながら雑魚キャラが襲ってきた。
コイツらは簡単だ。
ベジパンチとベジキックであっという間に倒してしまった。

問題はカマキリ怪人だ。
足の速いカブレンジャーが最初に攻撃したが、鋭い刃物で簡単にヘタを切り飛ばされてしまった。
奴の武器は危険だ！

次にポテレンジャーが戦ったが、顔をボコボコに殴られてしまった。ただでさえデコボコの顔がさらに不細工になった。

パクチレンジャーの匂い攻撃も効かない。
この怪人は東南アジア出身か？

キャロレンジャーの三つ編みおさげを切り飛ばされるわけにはいかないので、ここはキャプテンの俺の出番だ。

何度も攻撃を仕掛けるが、奴の鋭い刃物でそのたびに斬られて満身創痍になった。
もうダメか、と思った瞬間に怪人は目を押さえながら棒立ちになった。

チャンスだ。
五人全員でベジキーック！
お約束通り怪人は吹っ飛ばされて爆発した。
良かった、放送時間内に収まった。
ディレクターに叱られずに済んでなによりだ。

しかし馬鹿な怪人だ。
目が痛くなったのは俺の皮を剥いだバチだ。
硫化アリルを舐めてはいけない。

#ショートショート

僕は一人でハンドルを握っている。
愛車は黒いハッチバックだ。
小さいけどターボが付いていて馬力が200以上あるので軽快に走る。
ふと思い立って都心から100kmほど離れた海辺に向かっている。

高速道路が珍しく空いていたので二時間ほどで到着した。
リゾートになっていて大きなプールがあるのだ。
プールサイドで寝そべってのんびりと日光浴を楽しんだ。

しばらくして喉が渇いたので身体を起こし、ふと見たら向こうの方に知った顔の女性がいた。
「うん？」
Mだった。

Mを遠目で見ながら、近寄って声をかけることも出来ずにいたら彼女はどこかへ居なくなってしまった。
本当にMだったのだろうか？
他人のそら似かもしれない。

しばらく泳いだあとプールから上がってタオルで身体を拭いていると、目の前にMが立っていた。
「あ！」
「お久しぶり」とMは笑って言うと少し悲しそうな顔をした。
「本当に久しぶり。一人で来たの？」
「ううん、お友達と一緒なの。じゃあね」
と言ってMが行ってしまうのを僕は黙って見送るしかなかった。


夕暮れになりさあ帰ろうと身支度をして出口に向かった。
すると出口にMが一人で立っていて僕の方を見ていた。
僕は近づいて
「友達は？」と聞くと
「帰ったわ」と言う。
「そうか、じゃあ一緒に帰ろう」
「一緒に帰れないの」
「なにを言っているんだ。クルマで来ているんだ。一緒に帰ろう」

そう言って僕はMの手を引いて駐車場に連れて行った。
「あら、かわいいクルマに乗っているのね」
助手席に乗り込むと彼女はそう言った。


二人で無言でクルマを走らせていると、突然雷雨になった。
前が見えないほどの豪雨に変わり、危ないので一旦高速のパーキングエリアに退避することにした。
パーキングエリアの駐車場にクルマを停めてエンジンを切った。
そして助手席を見ると・・・彼女は消えていた！



僕はようやく理解した。
Mは僕の最愛の恋人だった。
そしてこの黒いハッチバックは、彼女が亡くなった後に買ったクルマだった。

雨が弱まると僕はハンドルを握ってまたクルマを走らせた。
来た時と同じように僕はまた一人になった。

#ショートショート

俺の上司は人づかいが荒い。
休日でも夜間でも呼びつけられると駆けつけなければならない。
俺は上司に絶対服従しなければならないのだ。
彼の命令は絶対だ。

俺は寝ているところを呼び出されて仕事を命ぜられた。
最初の大きな仕事だった。
俺は一生懸命働いて彼の期待に応えた。
しかし感謝の言葉もなかった。

１ヶ月ほどして休日にまた呼び出された。
本当に嫌になる。
今度もかなり難易度の高い要求だった。
俺は熱心に業務に取り組んで、今回も彼の要求に応えた。
自分でも優秀な部下だと思う。
上首尾だったが勿論彼はお礼は言わない。
全部俺のおかげなのに。

随分立ってまた呼び出された。
最後の大仕事だ。
俺は綿密に準備をして、見事に彼の望みをかなえた。
彼も満足したようだ。
彼の望みは社長になることだった。
俺のおかげで彼は社長になることができた。

これで俺はもう嫌な上司の言うことを聞かなくて済むのだ。
だっておさらばするからだ。
俺は人づかいの荒かった上司に「あばよ」と言ってランプの中に戻った。
今度はもっとまともな上司に出会いたいと望んでいる。

#ショートショート