コロナの感染は警戒しつつ、6月に入ってようやく試乗再開。その第一弾は、昨年のモーターショーでのコンセプトカー発表から楽しみにしていたタフトです。
結論としては個人的にはかなり好印象。特に乗り味がかなり好みでした!! が、ハスラーの牙城を崩せるかというと微妙かなぁ。特に内外装デザインには、ダイハツ開発陣の苦悩が滲み出ていると感じました。
■良かったところ
・懐深い足回り
今回最も印象的だったのがこれ。嵩上げした最低地上高の分をすべて足回りのセッティングにあてたんじゃないかと思ってしまう、凹凸をいなししなやかによく動く足回り。タントで感じたバタつきが収まっていました。前述の最低地上高とともに車重も(タントより)余裕が生まれているのが功を奏しているのかも知れません。後述のたっぷりしたクッション圧のシートと相まって上質感にうっとり、でした。
・ハンドリング
電動ぽさがない自然なパワステフィール。普通に舵をきった分だけほどよいタイムラグで素直に反応し曲がってくれる印象。この「普通」のレスポンスは貴重です。ハスラーの若干人工的でダイレクト感に欠けるムニュっとした感覚が生理的に気になった自分にとっては好印象でした。
・クッション圧の高いシート
軽自動車として「おお!」と感激したシートでした。前席はもちろん、後席も座面については非スライドとした面目躍如、クッション圧が十分、また形状も長時間座って疲れないことを重視した形状です。
・ダイレクト感の高いCVT
D-CVT3作目のタフトですが、こちらも過去2作よりもさらに好印象でした。踏んだら踏んだだけ、タイムラグがなくダイレクト感をもって駆動されている印象があり、日常使いではCVT独特の「ラバーバンドフィール」とは縁遠いフィールと思います。
・グラスルーフの解放感
全グレード標準装備(!)のグラスルーフはやはり開放感が素晴らしかったです。
・高い静粛性
これぞDNGAの威力? 軽自動車としてはもちろん、一昔前のコンパクトカーもかくや、の静粛性です。コンパクトカークラスと比べても十分と感じる人も多いのではないでしょうか。
・見切りのよい視界
前後左右、視界の良さが印象的。唯一右斜め後方も、cピラーが太さがどんなものだろう、と心配でしたが試乗した限りは取り立てて気にはなりませんでした。
自動ブレーキ系はACCも装備されましたが、そんなことより
6エアバッグが標準装備され、リアハッチにはミラトコットなどに続き、今回も
左右2ヶ所にノブが装備されました。この流れはダイハツとしても定着したとみていいでしょう。素晴らしいです!
■残念なところ
・グラスルーフで圧迫感ある室内高
予想はしていましたがありていに言って
天井が低い感じです。ハスラーやハイトワゴンのそれを思いつつ、先入観をもって乗り込むと
圧迫感は予想より大きく感じました。
このクルマのコンセプトとしてややアップライト気味に座りたいのですが、そうするとかなり天井に近くなってしまいます。
また試乗日は曇りでしたのでグラスルーフを楽しめましたが、
真夏の炎天下ではいかにルーフガラスが熱線まで対策されていても、シェードを締めておくだろうな、と。そうなると
今度は真っ黒なルーフライニングが前述の低めの天井と相まって非常に鬱陶しい気がしました。
・「板」な後席シートバックリアシートは座面は良いのですが、シートバックは、フラットな荷室を造るべく、事実上の「板」状態。もちろんクッションはありますが、座面と同様、もう少し座ることに配慮されているとより良かったと思います。
あとは根本的なところではないですが、
・リアシートの非スライド,狭い荷室(4人乗車時)
ハスラーとの差別化か、リアシートがスライドしないため、4人乗車では正直荷室が狭い気がします。
・安っぽいドア閉音
剛性感、ドッシリした走行フィールの満足感と裏腹の、バシャン!という安っぽいドア締め音。「道具」然なら音はこんなものでしょうかねぇ。ただ、100万円前後の価格帯のクルマではないのですから、もう少し配慮も欲しかったですね。
■混迷の滲み出る商品
個人的にはタフトの内外装の殆どや走り味はかなり好みです。「ハスラーかタフトか、二者択一」を迫られれば、タフトを選択するとさえ思いました。
ただ、落ち着いてみるとデザインの品質は突貫工事の域を出ていないですし、そこからくる完成度がイマイチ低い印象は、クルマに興味のないユーザーの方がむしろ敏感に感じ取るでしょう。結果、今回もハスラーに大きく水をあけられる可能性が高いと感じました。
そうなってしまった理由はいくつか推測されます。
ダイハツ首脳陣からタフト開発陣に要求された設計要件(推測)は、
・ハスラーと違う個性をもたせろ!
これは誰の目にも明らか。「打倒ハスラー」のため、真っ向勝負ではなく「ハスラーがやってないことをやる」という戦法に出たのですね。
ただ問題は、ダイハツ首脳陣(おそらく)が要求したのが、これだけではなかったのでは、ということ。
・ついでに(ダイハツラインアップにない)ジムニーのマーケットも取り込め!
本格的に林道に突っ込んでいく、ジムニー本来の性能が必要なユーザー以外にも振り向いてもらうことを要求されたと思います。「二兎追うものは・・・」というコトワザもあるのですが・・・
そして内外装デザインにはさらに、
・キャスト(アクティバ)は全否定しろ!
要は「ハスラーのようにヒットしなかったキャスト(アクティバ)のデザインを否定すれば売れるはずだ!」という安直な発想ですね。さらにいえば、ネイキットのデザインの全否定も要件に含まれているかもしれません。
そんな「デザインの良し悪しを売上だけで判断する人々」の圧力で、デザインはどんどん混迷の度を増してしまったのでは、と思います。なのでタフトのデザインは一見シンプルですが、小技に逃げた場所が多々散見されるにつけ、紆余曲折が過ぎて詰め不足と思います。惜しい。もっと開発陣に自由にハスラー打倒を目指してプリプロダクトをやらせた方が、ハスラーと双璧をなすダイハツの屋台骨を支える商品が誕生した可能性もあったのに、「あれもこれも」と詰め込んでワケが分からないシロモノを造ってしまう、ダイハツの悪い面がチラホラ顔をだしてしまった、惜しいプロダクト例になってしまった気がしました。
・・・なのですが、走る・止まる・曲がるの基本性能の高さで、繰り返しますが個人的にはハスラーよりタフトを選ぶと思います。
今後のマイナーチェンジで、望むべくはグラスルーフはレスオプションが欲しい。
そのときはルーフライニングはぜひ白にしてほしい。そしてリアシートをスライド・・・は構造的に不可能かな。
走行フィールは素晴らしいだけに今後の熟成に期待しています!!