最近YouTubeで1982年のF1を視聴している。
このシーズンは’79年に一度は引退したラウダが復帰したこともあり、自分にとっては非常に興味深いものだった。
さらにUPされている動画は30分ほどのダイジェスト版。15分程度のモノはよくあるけれど、それだと今ひとつレースの見どころがカバーし切れていない。かと言ってフルで観るには長過ぎる。
レースにもよるが、30分ほどのダイジェスト版は「イイトコ取り」な編集となる。
まだ82年すべてのレースを観たわけではないが、ふと気が付いたことがある。
このシーズンがもっとも2022年のF1に近いのではないか?
もちろん40年前のF1と今を比較するのはナンセンスなのだが、
グランドエフェクトカーが復活する今年、
過去を参考にするならこのシーズンが最適ではないか。
前置きをすると本格的なグランドエフェクトカーがGPに登場したのは、
1977年のロータス78が最初だと言われている。
(70年代前半にマーチがウイング形状のシャーシを導入したことはあった)
そのロータス78は、翌年79でさらに進化を遂げ、
全16戦中8勝(2勝は78)を上げ、うち3回の1-2フィニッシュを記録した。
リアウイングに貼られた優勝を表すマークも誇らしげなロータス79。
この年、グリーンシグナル直後にロータスの1-2体制が常だった。
この圧倒的な強さに各チームは即座に反応した。
そして迎えた1979年、グリッドに並ぶほとんどのマシンがウイングカーとなる。
ここでちょっとややこしい話になるけれど、
グランドエフェクトカーとウイングカーは似て非なるものではないかということ。
グランドエフェクトカーというのは、
シャーシ下面と地面の間に流れる空気を積極的に利用するものだ。
それはシャーシ下面の形状に関わらず、である。
そういう意味ではフラットボトム規定のマシンでも
F1に限らず近代のレーシングカーすべてがグランドエフェクトカーということになる。
しかし、一方でウイングカーはシャーシ下面の形状がカーブドボトムとなり、
フラットボトムとは明らかに違う。
そう考えると、今シーズンからのF1はウイングカーと呼ぶことができる。
では、なぜ私が今シーズンから始まる新しいウイングカーと
1982年が似ているかというと、それは空力の重要な部分が根拠となる。
まずはこちらの画像をご覧いただきたい。
ウイングカー時代の幕開けとなった1979年、
開幕2連勝で周囲を驚かせたリジェJS11。
フロントからシャーシ下面に入った空気が逃げないように、
可動式スカートでシールしているのがお分かりいただけると思う。
このカーブドボトムとサイドスカートにより、
強烈なダウンフォースを発生させることが可能になった。
しかし、ドライブフィールは大きく変わったという。
コーナーリング中は固定されたかのようにステアリングは重くなり、
シャーシ下面を流れる空気は極力乱れないほうがいいので、
前後左右のロールを抑えるためにサスペンションは石のように硬くなった。
ドライバーは皆、これまで以上の重労働を強いられるようになる。
ラウダの著書によると
「ウイングカーにはドライビングテクニックというものは存在しない。」
「速く走れたかどうかはまったく分からず、時計を見るしかない。」等、
我々が想像できないような世界で当時のドライバー達は走っていた。
「物理の法則がひっくり返った」とも。
その状況を危惧したF1(現FIA)は81年からスカートを禁止にした。
ところが抜け道を見つけたチームが出てきたため、
本当の意味でスカート無しのウイングカーでレースをするのは、
この’82年まで待たなければならなかった。
そして’83年からカーブドボトムは禁止となり、
ウイングカーはGPから姿を消した。
ということは、スカート無しのウイングカーというのは、
1982年のGPだけということになる。
40年前のレースは実に興味深い。
チームによってマシンの造り、考え方が微妙に違っている。
上の画像のマクラーレンもリジェも、フロントウイングを外している。
シャーシ下面で充分なダウンフォースを発生するウイングカーには
フロントウイングさえ必要がなくなり、むしろ空気を乱す邪魔者となったという。
一方でフロントウイングを滅多に外さないマシンもあった。
同じチームでも一台はフロントウイングありで、
もう一台は無しということもあった。
今も話題になることがある、1982年サンマリノGP。
ヴィルヌーヴとピローニの関係は修復できないほどのものになってしまった。
2台のマシンに注目していただきたい。
前を走るヴィルヌーヴはフロントウイングが無く、
ピローニのマシンにはシルバーのフロントウイングが装着されている。
しかしどのチームも手探りの部分があり、
結局もっとも正解に近い最適解を見つけたのが、
タイトルを獲得したウイリアムズであり、
最後まで競り合ったマクラーレンだった。
ブラバムもシャーシの性能はよかったが、
BMWターボの信頼性はまだ充分とは言えなかった。
今のF1では40年前ほど各チームで考え方が異なるということはないだろう。
フロントウイングを外すようなマシンが登場するとも思えない。
ただ、事前の情報を見ると各チーム、
微妙にサイドポッドの形状等が異なるらしい。
テストと本番では違うフォルムのマシンも現れるかもしれない。
私の予想では、やはりレッドブルとAMGメルセデスが
頭一つ抜け出ると思うけれど、蓋を開ければ・・・なんてこともある。
ちなみに今回取り上げた1982年は波乱のシーズンだった。
悲しいことにジル ヴィルヌーヴとリカルド パレッティ、
2人のドライバーが命を落とした。
さらにランキングトップだったディディエ ピローニはドイツで負傷。
この事故が原因で、二度とGPを走ることはできなかった。
ただ、不幸な事故はあったものの、
チャンピオン争いは最終戦までもつれ込み、全16戦中ウイナーは11人を数えた。
ケケ ロズベルグは1勝でタイトルを獲得したが、
シーズンを通して安定して上位に入賞した。
波乱の’82シーズンを制したロズベルグ&ウイリアムズFW08。
マクラーレン同様、シャーシの熟成が進んでいたウイリアムズは
フロントウイングを外していることが多かったが、
モナコのような低速コースではウイングを付けていた。
これは一発の速さはずば抜けているが、
信頼性の乏しいターボ勢とは対照的に見えた。
パトリックヘッドの手による質実剛健なウイリアムズらしい、
オールラウンドな強さが光った。
どのチームも空力とエンジン(ターボ)に躍起になっている中、
既に時代遅れと言われた3リッターV8のコスワースDFVを搭載する
ウイリアムズとマクラーレンが活躍したというのも興味深い。
間もなくF1が開幕する。
最終的には誰が勝ってもいいから、優勝者が10人くらい出るような
最後まで接戦になるシーズンが見たいものだ。