
便利な時代になったもので、昔は観ることができなかった70~80年代のF1がフルレースで視聴できる。
確かにダイジェスト版では何度か観たことはあるけれど、やはりフルで観なければ分からないこともあるというもの。
そこで、まずはラウダのブラバム時代にスポットを当てることに。
ラウダは1977年にフェラーリで自身2度目のチャンピオンになり、翌78年ブラバムに移籍した。
そんなわけで、1978年のF1を開幕戦から観ている。
この1978年というシーズンは、結果を言えばロータスの圧勝だった。
当時、「史上最強」と言われるほどだった。
全16戦中、アンドレッティ6勝、ピーターソン2勝、
そのうち4回は1-2フィニッシュという圧勝ぶり。
第6戦のベルギーGPでは新型のロータス79(アンドレッティ)と
旧型のロータス78(ピーターソン)で1-2フィニッシュをやっている。
まだすべてのレースを観たわけではないけれど、
この常勝ロータス以下はレース序盤で突き放され、
3位以下で抜きつ抜かれつのレースになっているという有様だった。
これはメルセデス1強の、今のF1に似ているとも言える。
ではロータスはなぜそこまで強かったのか?
理由は明確である。
グランドエフェクトという、今のレーシングカーでは常識となった
「シャーシ下面の空気を利用する」という方法をいち早く導入したからだ。
その効果は凄まじく、数年後には禁止されてしまうほどだった。
当然のことながら、今ではシャーシ下面はフラットとレギュレーションで決められており、
その効果は得られないが、考え方としては今のレーシングマシンにも生きている。
そんなロータス1強の78年シーズンではあるけれど、
ロータス以外のバトルは見応えもあり、さらにロータスが脱落したレースは拮抗した優勝争いも見られた。
前置きが長くなってしまったが、私が注目したのは第8戦のスウェーデンGP。
今でも語り継がれるエポックメイキングなマシンが登場した。
ブラバムBT46B、ファンカーである。
シャーシ後端部に巨大なファンを装着し、
そのファンでシャーシ下面の空気を強制的に吐き出すというもの。
これはロータスとは違ったアプローチで
グランドエフェクト効果を狙ったものと言える。
この一見かなり異質なマシンは、パドックに姿を現すと注目の的となった。
そしてレースでは常勝ロータスを破り、見事に優勝を飾った。
このレースではロータスの「勝利の方程式」は成立しなかった。
いつもなら序盤で2台のロータス79が飛び出し、
レース中盤にはもう1-2フォーメーションが出来上がっているというものだった。
しかし序盤でピーターソンが脱落したものの、
それでもアンドレッティ一人でも逃げ切れるはずが、
ブラバムを振り切ることができなかった。
しかしこのレース限りで、ファンカーは禁止となる。
他チームからの抗議、特にロータスのコーリンチャップマンからの
「これが認められるなら、ロータスも次戦からファンを装着する」という
半ば脅迫とも言えるような抗議には、さすがのエクレストンも引き下がらざるを得なかったのだろう。
ラウダの優勝は取り消されることはなかったものの、
ブラバムのファンカーは1戦だけの幻のマシンとなった。
ただ、長い間、疑問に思っていたことがあった。
このファンカー、そもそもレギュレーション違反であったことは、
デザイナーのゴードンマレーは知っていたのではないか。
「空力パーツは可動してはならない」とレギュレーションには明記されていた。
それを無視してBT46Bを作ったとは思えないし、
バーニーエクレストンがゴリ押ししてくれるという見通しがあったとも考えにくい。
その疑問への解答は10年前に入院したとき、
EVO黄色さんが差し入れてくれた本に詳細に書かれていた。
この動画はファンカーの空気の流れを「見える化」している。
マレーの狙いがよく分かる秀逸な動画だと言える。
しかし、これだけだと空力効果を狙った巨大ファンは間違いなく違反である。
そこでマレーはちゃんと違反と指摘された際の反論を用意していた。
レギュレーションには確かに「空力パーツは可動しないこと」と明記されているが、
実は厳密には「空力を主な目的とするパーツ」とある。
つまりマレーの主張はファンがダウンフォースを発生させるのは
あくまで二次的な効果であり、
「本来の目的はエンジンの冷却のため」というものだった。
エンジンの熱をファンを使って車外に排出するのが目的というわけだ。
確かにアルファロメオのフラットエンジンなら、
そのレイアウトからして充分説明がつくし、実際に効果もあっただろう。
しかしその主張は受け入れられることはなかった。
ラウダファンの私としては、あのときファンカーが認められたら
ラウダはタイトルを獲ったかも知れないと思う。
チャップマンは「コレが認められるならロータスにもファンを付けるぞ!」と言ったらしいが、
コスワースDFVを搭載するロータスにブラバムのようなファンを付けるのは困難だろう。
ただ、いくらラウダファンの私でも、
このファンカーというエポックメイキングが禁止になるのはやむを得ないと思う。
巨大ファンは路面の小石なども巻き上げ、
後方のマシンに容赦なく浴びせることになる。
あのまま使用され続ければ、なんらかの事故が発生していただろう。
1戦限りで、しかも無敵を誇っていたロータスを破っての優勝というエピソードを残したからこそ、
その存在が今もって光り輝くのだろう。