誰にも邪魔されない自分一人だけの「秘密の楽園」
澄んだ小川のせせらぎには沢蟹が戯れ、見上げた木々の木漏れ日の間にはオオムラサキが舞う…
人気のない山奥の谷間で日が暮れるまで夢中で遊んでいた俺はもうその時には山に魅入られていたのかも知れない。
51歳のおっさんになった今、一人であの場所に行けと言われたら金をもらっても行きたくないわ〜(汗)っつーかムリ… (未だに夢に見るよ…;´Д`)
まぁ そういう場所である。
時期は小4の夏休みが始まる前、七月の半ばくらいだったと思う。
小学校指定の白地に青い線が入った体操服上下(半袖半ズボン)に白い靴下そして履き古して茶色くなった白のスニーカー。
当時の俺はいつも同じカッコをしていた(^^)
家の外を走り抜けいつものように山へ向かう。
何故かガキの頃はいつも走ってた。
「タッちゃん!えらい勢いやなぁ~ どこ行くんや~~?笑」
コロちゃんのおっちゃんが開けっ放しの玄関ドアから顔を出し走り去る俺に声をかけた(コロちゃんは散歩と間違えてグルグル回ってたヾ(≧▽≦)ノ)
「水源地に虫取りーーーーーー!!」(タッタッタッタッ)
(行き先は水源地ではないのだが、正直に言うと怒られるので俺は嘘をついた)
「気ぃつけてな~~!! あ、タッちゃん!虫かごは~~~?」
「いらんねんーーー!」(タッタッタッ)
俺くらいの玄人(笑)になると虫取り用の網や虫かご、お腹が空いた時のお菓子や飲み物などは一切要らなかった(日曜日とか友達が一緒の時は持って行った)
そのわけは...
〈捕虫網〉 蝶やセミなどには必要だがこの頃になると目的はクワガタ類や甲虫となるので基本的に網は持たない。クワガタ取りは主に木を蹴ると落ちてくるのを拾うか木に登り採る。
〈虫かご〉 くつ下が虫かご(クワガタ類はくつ下に入れると土の中にいるのと勘違いして大人しくなる。窒息死もしない。履いているくつ下を脱いで使用 笑)
〈お菓子類〉 当時の俺は山に生るアケビやザクロ、野イチゴやコクワ落ちているしいの実などがある場所を把握し、自分だけのおやつとして食べていた(食べて苦い時はだいたい虫が入ってる(´;ω;`)ウッ…)
〈飲料〉 湧水あるよ~~~!夏でも冷たい(^_^) 友達はビビって飲まんかったけどね^^;
川沿いの狭い舗装路を登っていくと川を渡る古びた大きな橋があり、その下をくぐると世界が変わるような気がした。空気が変わるような…
谷間に続く道の頭上には木々が生い茂り昼間でも暗い木漏れ日のトンネルを一人小走りで登っていく。
「あっ!」
暗い木漏れ日のトンネルを抜けて少し開けた右手の山の斜面には太くて立派なクヌギの木があった。
そこに黒いものが張り付いてるのが走っていた俺の目に入り、瞬間的に急ブレーキをかけた。
「おっとっとっと… … ‼」
止まってよく見るとそれは大型で立派なアゴを持つ「通称 水牛(ノコギリクワガタ)」だった。
(ラッキー‼ツイてる‼めっちゃデカいやん)
地上約2mくらいの高さにまるで昆虫標本のように木にくっついていた。
ヤツはどうやら木から出る樹液を夢中で吸っているようである。
俺は静かに近づきその木を見上げた…
(手が届かんなぁ… けど…  ̄ー ̄)ニヤリ
その木の下にあるのは高さ1mくらいの立派な三角屋根の祠だった…
いつも見慣れてる古びた祠…
そう、そこには登ってくださいと言わんばかりの大きな祠が祀られていたのである(扉は閉まっている)
(よっしゃー‼めっちゃラッキー!足場『祠』もあるでーー≧◇≦)
みなさんお気づきのようにこれでもうフラグが立ってますわな~見事に 笑
俺はその祠によじ登り無事に屋根の部分に到達し、しゃがんだ状態から立ち上がりクワガタに手を伸ばした...
「ガシッ」(採ったど~~~)ヽ(^o^)丿
右手でクワガタを掴み木の幹から引きはがした瞬間俺はバランスを崩した。
「うわっ」Σ(゚Д゚)
「バキッ‼ズボッ‼」
右足が祠の屋根を突き破り膝下まで内部に貫通した。
「痛ったぁーーーーーーー」(;O;)
と、声を上げたと同時に
「ゴットン❕」
大きくて黒いものが祠から飛び出て山道に転がった。
それはよく見ると「お地蔵さん」だった。
俺は右足を祠の屋根に貫通させたまましばらく振り返り見下ろしていた…
(なんや、地蔵か、 びっくりさせんなや… ー_ー)
やけに黒くて不気味なお地蔵さんを俺は祠から蹴り出してしまったのである。
「痛たた…」
擦り傷だらけの右足を屋根に空いた穴から引き出した。どうやら出血は無いようである。右足には幾筋もの白いひっかき傷がついていた。
気にせず俺は態勢を整え慎重に祠から下に降りた。
(お地蔵さん割れてたらどないしょう^^;)
周りを見渡し誰もいないのを確認して道路に倒れているお地蔵さんを起こしてみた…
お地蔵さんは7~80㎝程で赤い前掛けをしていて頭にも赤い帽子を被っていたようだが祠から落ちた衝撃で取れて道で裏返っていた。
古くて元々あちこち欠けていたようで俺が蹴り落した衝撃での大きな損傷は無いように見えホッと胸をなでおろした(;'∀')ホッ
お地蔵さんの顔は優しく微笑んでいて俺は小さく「ごめんなさい(..)」と呟いた。
「よいしょ」
俺は力を振り絞りお地蔵さんを持ち上げ元の祠に納めてブランブランになった祠の扉を優しく閉めた。
屋根を蹴破ったからか分からないが祠は少し内側に傾いてるようだった。
(あ、お地蔵さんの帽子も入れんと)
と思い傍らに落ちていた赤い帽子を拾い上げ土をはらい祠の扉を開けようとした瞬間…
「ギーーーー」
と勝手に片側の扉が開き中のお地蔵さんが見えた。
「うわっ」
思わず後ずさった。
真っ黒い顔が怒ってた… ように見えた…
何故だかムカッときた俺は乱暴に赤い帽子をお地蔵さんに被せ
「ごめんて言うたやろ!」(゚Д゚;)←逆ギレ
一言浴びせた。
そして気がつけば捕まえたクワガタの姿はどこにも無かったことが俺の怒りを増幅させた(# ゚Д゚)ムキー
「おまえのせいで水牛逃げたやんけ‼」(゚Д゚;)←言いがかり
「こうしてやるわ‼」
俺はお地蔵さんにかぶせた帽子をはぎ取り、薄く平らに整えてやや斜めに傾けてお地蔵さんの片目が隠れるようにしてかぶせなおした…
「プ・プ…ワッハッハーーー!! ジュリーやんけーーーーーヾ(≧▽≦)ノ」(沢田研二のことね)
俺は一人爆笑した。
「ジュリ蔵さんやーーー 笑笑」
俺の笑い声が山にこだました… ヾ(≧▽≦)ノ
「はぁ~ おもろかったから許したるわ~~~(^◇^)」
(今度友達にも見せたろ~)
そう思いながらセミの大合唱が響き渡る山の谷間を俺は再び走り始めた…
これが事件の発端(きっかけ)となることをつゆ知らずに…
小悪魔外伝 〜異変〜に続く