山で一人遊んでいる時に腹が減って無断で拝借したお供え物…
国語の授業で習った「かさじぞう」に感化され家の近くのお地蔵さんの頭に阪神帽を被せたこと…
御神木に巻いてあったしめ縄をほどいて隣りの木に巻きなおしたこと…
神社に祀られていた小さなお稲荷さんをマジックで黒く塗ったこと…
まだまだ数え切れないほどあった。
俺には思い当たる節が多すぎた。
(これが俗に言う「罰当たり」ってやつか…)(;´・ω・)
ボロボロの体で一目散に山を駆け下りながら俺は過去のいたずらを悔いた。
小走りに走りながらなるべく周りは見ないようにしていたがとうとう目線の先にジュリ蔵の祠が見えてきた…
俺は足を止めて息をのんだ…
祠の扉が大きく左右に開いたままになっているのを外灯の光がぼんやりと形どっていた。
静かな漆黒の闇の中に「リー リー」とコオロギの鳴き声だけが聞こえている…
(よ…よし!行くか‼)
真っすぐ前を見据えスタンディングスタートの姿勢になった時にいきなり俺の周りが明るくなった。
「うわっ‼なんや⁉」
思わず声を上げた。
慌てて振り向くといつの間にやら背後にいた小型の青いトラックの二つのライトが俺を照らし出していた。
「ボク⁉どうしたの⁉一人かい?」
トラックの運転席の窓を開けて身を乗り出し声をかけてきた人がいた…中年の男のようだった。離れていたのと逆光で顔は分からなかった。
「上の方でこけて足怪我してん(:_;)今帰りよんねんけど、いきなり夜になってもてん…グスッ(涙)」
俺はトラックに向かって泣きながら言った。
「そうなんか~~かわいそうに~~~~」
トラックはハザードを焚いて左に寄せた。
(助かった~~~~~~‼)(´Д⊂ヽ
俺は全身から力が抜けるようだった…
大人の人が助けてくれる。これほどの安心感は無い。
俺は早くも家に帰った後の言い訳なんかを考えていた。
だがその安心感も運転席から(飛び)降りてきたその男の風貌を見て一瞬で吹き飛んだ。
まず異様に小さかった。(頭はデカかった)
小4の俺とほぼ同じ身長だった。
この蒸し暑さの中銀色に光る上下の宇宙服のような物を着ていた。さらに異様だったのは前髪パッツンのおかっぱ頭と夜なのに真っ黒いサングラスをしていたこと…
スタートレックのスポック船長にどこか似ていた…(宇宙服と合わせて)
「大丈夫かい?どこ怪我したの?」
スポックはちょっとニヤついた顔で訪ねてきた。
「右足の…ここやねん…」
俺は警戒しながらもぱっくりと切れていた右足の膝を見せた。
「ん⁉どこかな?」
「だからこ…こ?」
「あれっ⁉」
傷なんてどこにもなかった…
「あれ⁉あれ⁉ウソやん‼」(;'∀')
間違えたかと思って左足の膝も見てみたが傷などどこにもない…
いつの間にか傷が跡形もなく消えていた。
慌てふためく俺をスポックはニヤつきながら見ていた。
「怪我は無いみたいだけどもう遅いからおじさんが町の方までトラックで送ってあげる~~~でも助手席は人が乗ってるから荷台でもいいかな?おじさんゆっくり走るから~~~(ニッコリ)」
「ちょっと待って!おかしいで。僕さっき怪我して血出とったのに傷も無くなっとうし、昼に来たのにいきなり夜になっとうし、耳はおかしいなるし、なんかおかしいで」
「あと、ヘンな霧みたいなの出とったのしっとう?あ、それと奥の砂防ダムの上に獅子舞いみたいなのおってんで。おっちゃん見たことある?」
俺はスポックに今日ここにきて起きた異様な出来事を一気にまくし立てた。
「お~~お~~お~~お~~」(笑)
スポックはわざとらしく大きくうなずきながら俺の話を聞いていたが、おもむろにトラックの方まで歩いていき、ニコニコしながらおいでおいでと手招きをした。
その時に気が付いたがそのトラックは当時でも珍しい三輪オートだった…
恐る恐る近づいてみるとスポックはトラックの荷台を指さした…
トラックの荷台にはブルーシートがかぶされており何かを覆っているようだった。
スポックは腕捲りをしてブルーシートのロープをほどきそーっとシートをめくった。
「うわっ⁉」Σ(゚Д゚)
ブルーシートの隙間からおおきな目玉が二つ覗いていた!
大きな口、むき出しの金色の牙、真っ黒い顔、真っ白のたてがみ…
そこには間違いなく「ヤツ(獅子舞)」がいた。
「うあああああああ‼」
恐怖でパ二くる俺に
「ははは~大丈夫!大丈夫!これは祭りごとの作り物だよ~~~ほら、良く見てごらん(笑)」
「バサッ」
男はシートを大きくめくってみせた。
トラックの荷台でまるで生きているかのようなそいつは良く見てみると確かに作り物で顔の内側は骨組みに紙を貼り合わせたような張りぼてになっているのも見えた。
体の部分は黒いマントのようなものに覆われてそこからは何本ものパイプが出ていて操作盤のようなものにつながっていた。
またその横には大きなガスボンベのような物が横たわっていた…
「おっちゃん、これ動くん?」
視線はまっすぐソレをとらえたまま俺は尋ねた。
「ボクが見た獅子舞ってこれかい?」
スポックが俺に聞いてきた。
「うん。コイツやで。砂防ダムの上におったヤツ」
そう言った俺にスポックはこう答えた…
「これは戦後のお祭りで使ってからずっと神社のお社に仕舞ってたものだからボクが見たのとは違うよ」
「これは神社を護る神様。神社に悪いことをしたり、いたずらをしたりするとこの神様が怒って罰を与える…」
「罪には罰が与えられるんだよ…」
さっきまでのニヤついた顔と打って変わってやけに神妙な顔つきでスポックは俺に向かって言った。
この時俺は確信した…
このスポックが砂防ダムの上に獅子舞いを置いて動かして俺を脅かしたのだと。
あとスポックが標準語なのも違和感を感じた…(この辺りに標準語の人はいない)
「
怪我も無いみたいだし、トラックの荷台に乗りなさい。タイヤに足をかけたらおじさんが後ろから押してあげるから…第二次大戦中はみんなトラックの荷台に乗ったもんだよ(笑)」
俺は何か嫌な予感がした。
(コイツに関わったらダメだ…)
「大丈夫!僕歩いて帰るから!」
そう言ってトラックの横を通り過ぎた時にいきなり助手席のドアが開いて中から伸びてきた白い手にいきなり肩を「ガシッ」と掴まれた。
真っ白に見えたその手は包帯でぐるぐる巻きにされていた手だった…
「うわあーーーーー‼」(゚д゚)!
びっくりしてトラックの助手席を見たら目玉以外は全身包帯で巻かれた兵隊(日本兵?)が大きく目を見開きながら俺の肩を掴んでいた。
振り払おうとしたが体操服の肩の部分を掴んで離さない。
「あ~~こらこら、ダメだよ~~(笑)」
スポックが言ったらパッと手を離した。
俺は身の危険を感じてその場から一目散に走って逃げた…
同時に後ろからまた「プシュッ」という音が聞こえた…
そして…
「もう逃げられないよ~~~~~~~~~~~~(笑)」
走り去る俺の背中越しにヤツは確かにそう言った……
小悪魔外伝 ~「俺だけのヒーロー」~へ続く